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第百七十七話 「優先順位とは、大切なものの順番を決めることではなく、何に時間を奪われているかを自覚することである」という話

とりあえず夏休み入ります

英国の空港。

保安検査場へ向かう長い通路。


人の流れに乗りながら、拓海は歩いていた。

その足取りは、以前より軽い。


迷いがない。

少なくとも――そう見える。


詩織は、その横顔をちらりと見た。


「……拓海」


呼ぶ。


「うまくやってるみたいね、あの子と」


少しだけ間を置いて。


「あの、ハミルトン」


拓海は一瞬だけ目を瞬かせて、それから笑う。


「ああ、まぁな」


軽く肩をすくめる。


「あいつ、相変わらずバカだけど」


一拍。


「……でも、悪い奴じゃねぇよ」


その言い方が、少しだけ優しい。

詩織は、それを見て小さく息を吐いた。


「……そう」


歩みを止める。

拓海も、つられて止まる。


「だから、面倒なのよ」


一言。


拓海の眉がわずかに動く。


「……あんた」


視線を合わせる。


「楽しかったでしょ」


断定ではない。

でも、逃げ場のない言い方。


「……」


拓海は、すぐに返せない。


思い出す。

バカみたいな日々。

走り回って、笑って、怒鳴って。


”あいつ”がいて。


「……まぁな」


小さく答える。


否定しない。

できない。


詩織は、それを見て頷いた。


「で」


続ける。


「それ以外、見えてなかったでしょ」


短い。


それだけ。


「…………」


言葉が出ない。


スマホの感触を思い出す。


未読のままのメッセージ。

返さなかった理由。


―いや。


返さなかった“こと”。


「……別に」


言いかけて、止まる。


違う。

それは言い訳だ。


「……」


視線を落とす。


「……ちょっと、面倒だった」


ぽつりと。


自分で言って、苦笑する。


「返すのとか、考えるのとか」


一拍。


「……後でいいやって思ってた」


詩織は、何も言わない。


ただ、待つ。


「……ああ」


拓海が、小さく息を吐く。


「そういうことか」


顔を上げる。


「別に、縛られてたわけじゃねぇのに」


少しだけ笑う。


「勝手に、そっち選んでたんだな」


詩織が、わずかに肩の力を抜く。


「気づいたならいいわ」


それだけ。


拓海はポケットに手を入れる。


スマホ。


取り出さない。

ただ、触れる。


(……楽だったんだよな)


考えなくていい。

あいつとバカやってればいい。


それだけで、全部埋まってた。


(……でも)


それだけじゃ、ダメだ。


たぶん。


「……姉貴」


顔を上げる。


「サンキュ」


短く。


「ちょっと日本で、頭冷やしてくるわ」


詩織は小さく頷く。


「そうしなさい」


一歩、先に進む。


「“誰かの隣”にいる前に、“自分の場所”決めなさい」


振り返らない。

それだけ言う。


拓海は、一瞬だけ立ち止まる。

それから、歩き出す。


■ジョージ幕間(空港・境界線観測ログ)


『サエキ事変ノート:優先順位の再起動編』


「……あーあ」


ジョージは、スマホを眺めながら笑った。


「気づいちゃった」


画面には、短いログ。

空港でのやり取り。


「いいねぇ」


軽くスクロールする。


「飲み込まれなかった」


一拍。


「でも、抜けてもいない」


口元が緩む。


「一番おいしい位置」


椅子に体を預ける。


「サエキさ」


小さく呟く。


「ちゃんと戻ってくるつもりなんだよね」


視線を上げる。


「だから、整理しに帰る」


肩をすくめる。


「偉い偉い」


軽く笑う。


「ハミルトン様もさ」


スマホを回す。


「これ、たぶん喜ぶよ」


一拍。


「“逃げられてない”って分かるから」


(追記)


「……おっと」


通知。


新着メッセージ。


差出人:サエキ


ジョージはニヤリと笑う。


開く。


『ハミルトンに伝えとけ』


一拍。


『……十メートル先、空けとけよ』


さらに一行。


『……戻るから』


ジョージは、しばらく画面を見て…


吹き出した。


「……ははっ」


「これ、反則でしょ」


立ち上がる。


「ハミルトン様、今頃」


肩を震わせる。


「絶対、耐えられない顔してる」


スマホをポケットにしまう。


「九月、楽しみだねぇ」


小さく笑う。


「ちゃんと爆発するよ、これ」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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