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第十五話 「聖域の守護者、あるいは猛獣使い」の話

男子校の姫的な

最近、寮の空気が少し変わった。


正確に言えば、

エドワード・ハミルトンを取り巻く「気圧」が変わった。

かつての彼は、触れるものすべてを切り裂く剃刀のような存在だった。


誰にも近づかせない。

寄せ付けない。


その美貌すら、警告として機能していた。


………近づくな。死ぬぞ。


そんな空気だった。


だけど。


「……タクミ。この『土佐日記』だが、やはり作者の覚悟が足りない気がする」


「まだその話してんのかよ。紀貫之が泣くぞ」


中庭。

並んで歩く二人。


エドワードの口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。

以前ならあり得なかった表情だ。


冷たい王の顔ではない。


どちらかと言えば、

陽だまりで機嫌よく昼寝している猫に近い。


その変化に、周囲は気づいた。


「……待て。ハミルトン卿、あんな風に笑うのか」


「よく見たら……普通に可愛くないか?」


「あの懐き方……ヤバイな」


皆、気づいてしまったのだ。


エドワード・ハミルトンは、

攻略不能の王ではない。


機嫌を損ねると厄介だが、

懐けば恐ろしく愛らしい…


そんな存在だと。

以来。

彼は裏でこう呼ばれるようになった。


「孤高のプリンセス」


もちろん本人は知らない。

自分は今も、

完璧な統治者として振る舞っているつもりでいる。


「タクミ。最近、周囲の視線が妙だ」


「……さあな」


肩をすくめる。


「愛されキャラにでもなったんじゃねーの?」


「キャラではない。私は王者だ」


真顔。


「騎士道精神の体現者だ」


「はいはい騎士様」


軽く返す。


「襟、曲がってるぞ」


「む……直せ」


「はいよ」


雑に整える。


その様子を、遠巻きに見ている連中がざわつく。


「……尊い」


「飼育員、仕事してる……」


聞こえていない。

当然だ。


そして、もう一つ、変化があった。


拓海の周りに、人が増えた。

ただし理由は単純ではない。


(サエキを経由すれば、あのプリンセスに近づける……)


(姫にマヨネーズを献上できるかもしれない……)


完全に手段扱いである。


「……なあ、サエキ」


一人が声をかける。


「これ、実家に会った高級クッキーなんだけど」


「お、サンキュ」


軽く受け取る。


一拍。


「……で、本音は?」


「ハミルトン様に渡してくれないか」


即バレ。

拓海はため息をついた。


「……お前ら、あいつを何だと思ってんだよ」


「「プリンセス!!」」


ハモるな。

拓海は隣を見る。


エドワードは、何も知らない顔で立っている。

自分は王だと信じている顔だ。


だが周囲は違う。完全に姫扱いだ。

その間に挟まれているのが自分。


(……何やってんだ俺)


「タクミ、どうした」


エドが首を傾げる。


「そんなに私の顔が見たいのか」


「……ああ」


少しだけ笑う。


「お前、本当にヤバイよ」


一拍。


「色んな意味で」


「万能か」


「……万能だ」


エドワード・ハミルトンの王政復古は、

周囲の推し活によって、今日も静かに遠のいていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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