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第百六十一話 「進路とは、未来を選ぶ行為ではなく、今を適当にやり過ごした結果として勝手に決まるものである」という話

なんか思ってたよりまた長くなってきてる・・・

クレストフィールド学院

三月。試験休み。


寮の談話室には、いつも以上に意味のない時間が、ゆっくりと溜まり続けていた。

暖房は効きすぎ、空気はどこか湿っている。窓の外の冷たい雨音さえ、この部屋には届かない。


その中心で。


拓海はソファにだらしなく体を沈め、片手でコントローラーを握ったまま、画面をぼんやりと眺めていた。


「……なぁ、ジョージ」


「何だい、サエキ」


「人間ってさ」


少し間を置く。


「なんでクソゲーをやめられないんだと思う?」


ジョージは視線を画面から外さず、ほんの一瞬だけ考えるふりをした。


「そこに“クソ”があるからだよ」


「哲学みたいに言うな」


即答だった。


画面の中では、敵キャラが床に半分埋まったまま、

重力という概念を拒否して攻撃を繰り出している。


「ほら見ろよこれ」


拓海がコントローラーを軽く振る。


「完全に欠陥品だろ。なんで床の中から殴られんだよ」


「仕様だよ」


「仕様じゃねぇよ」


「だがそれがいい」


「よくねぇよ!!」


だが、文句を言いながらも、手は止まらない。

回避し、攻撃し、死に、また最初からやり直す。


その繰り返しが、妙に心地よかった。


「……こういうのがさ」


ぽつりと呟く。


「一番ラクなんだよな」


誰に言うでもなく。


「考えなくていいし」


ジョージはそれに対して、特に何も返さなかった。


ただ、わずかに口元を歪めただけだった。


そのとき。

背後に、音のない空白が生まれた。


「……タクミ」


声だけが、静かに落ちる。


十メートル先。


エドワードが、そこにいた。


まるで最初からそこに存在していたかのように、自然に。


「そのゲームは、非効率だ」


視線は画面に向けられている。


「時間の予約(浪費)に他ならない」


「うるせぇな」


拓海は振り返りもしない。


「効率とかじゃねぇんだよ、こういうのは」


一拍。


「いいからお前もやれ」


投げられるコントローラー。


雑で、遠慮のない動き。

それを、エドワードは静かに受け取った。


座る。

ただし、距離は崩さない。


「……いいだろう」


画面を見る。


「このバグの挙動、すべて記録(予約)する」


「だから本気出すなって言ってんだろ!!」


三人で囲む、意味のない戦い。

理不尽に笑い、罵声を飛ばし、何も生まれない時間をただ消費する。


だけど。


拓海にとって、それは確かに“現実”だった。

守る必要もなく、考える必要もなく、ただそこにある時間。


そのとき。


手元のスマートフォンが、短く震えた。


「……ん」


何気なく手に取る。


画面に表示された名前。


菜摘。


わずかに、指が止まる。


開く。


『たっくん、試験おつかれさま』


少しだけ、表情が緩む。


続き。


『大学どうするの?』


一拍。


『1年ずれるのかな?』


さらに一拍。


『一緒のとこ行けたらいいね』


―その瞬間。


談話室の空気が、ほんのわずかに変わった。


音は消えない。

笑いも続いている。


なのに。


その一文だけが、妙に浮いて見えた。


未来の話。

整った言葉。

“普通”の延長にある選択。


それは、今この空間には存在しないものだった。


「……無理だろ」


拓海は、小さく笑った。


「距離的に」


軽く。

あまりにも軽く。

指を動かす。


『まだ決めてねぇ』


送信。


画面が暗くなる。


「適当だねぇ」


ジョージが肩をすくめる。


「だって決めてねぇし」


視線を逸らすように。


再びコントローラーを握る。


「タクミ」


エドワードの声。


「次のステージだ。落ちるな」


「言われなくてもわかってるっての」


画面へ戻る。

音が戻る。

時間も戻る。


だが。


エドワードの視線だけが。

ほんの一瞬。

消えかけたスマートフォンの画面に留まっていた。


そこにあったのは。


自分の知らない“未来の提案”。


そして。


それは、彼の世界において許容されない種類のものだった。


■ジョージ幕間(増強)


「……ふーん」


ジョージは、静かにコントローラーを置いた。


視線は、拓海へ。


「サエキ」


一拍。


「君、本当に何も考えてないんだね」


返事はない。


だが、それでいい。


口元が、ゆっくり歪む。


「いいね、それ」


さらに一拍。


「一番面白い」


視線を移す。


十メートル先。


「……そして、一番危ない」


小さく、誰にも聞こえない声で呟いた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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