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第百四十五話 「距離が消えたとき、初めて距離を認識する」という話

なんかホラーにw

クレストフィールド学院

翌日。晴天。同じ中庭。


―いない。


拓海は、足を止めた。


(……あれ)


視線が、自然にベンチへ向く。


空。


誰もいない。


「……」


一歩、近づく。


理由はない。


ただ、確認するように。


いない。


当たり前だ。

ここは公共スペースで、あいつの“指定席”ではない。

そんなもの、あるはずがない。


(……いや、待て)


違和感。


昨日とは別の種類の、気持ち悪さ。


静かすぎる。

風が通る。

木々が揺れる。

遠くで誰かが笑っている。


いつも通りの、昼の中庭。


なのに。


(……軽い)


空気が、軽い。

密度が、足りない。


「……は?」


拓海は、眉をひそめた。


(いや、軽いってなんだよ。普通だろ、これが)


そう、これが普通だ。


昨日までが、おかしかっただけで。


なのに。

足が、動かない。


「……」


ベンチを見る。


もう一度。


意味はない。


誰もいないと、わかっている。


それでも。


(……どこ行った)


思考が、勝手に補完する。


いない理由を、探し始める。


授業か?

体調不良か?

呼び出しか?


―別の場所にいる?


「……っ」


拓海は、小さく舌打ちした。


(……違うだろ)


そんなこと、どうでもいいはずだ。


関係ない。


あいつがどこにいようと、自分には―


(……関係、ない……よな?)


一瞬。


言葉が、引っかかった。


「……バカか、俺」


吐き捨てるように言って、歩き出す。


今度は、止まらない。

止まる理由がない。


廊下。

教室。

食堂。


どこにもいない。


(……いや、だからなんだよ)


探しているわけではない。

ただ、“確認しているだけ”だ。

偶然、視界に入るかもしれないから。


それだけだ。


「……」


足が、また止まる。


(……いねぇな)


その瞬間。


胸の奥に、妙な空白が生まれた。


昨日まで、そこにあった“何か”が。

ごっそり抜け落ちたような感覚。


(……なんだよ、これ)


不快だ。


落ち着かない。


静かすぎる。


(……いや、違う)


静かなんじゃない。


(……“静かにさせられてた”のが、なくなっただけだ)


理解した瞬間。


ぞわり、と背筋が粟立つ。


「……は……?」


昨日まで。


自分は。


“あいつがいる前提”で、思考していた。


距離を取る。

視線を避ける。

振り返らない。

無視する。


全部。


“いるから”成立していた行動。


(……じゃあ、いない今は?)


何をすればいい?


「……」


答えが出ない。


そのとき。


「――サエキ」


声。


反射的に、振り向く。


誰もいない。


「……っ」


息が詰まる。


今のは。


確実に。


“あいつの声”だった。


(……は?)


錯覚。

空耳。

そういう類のものだ。


「……バカか」


自分に言い聞かせる。


だが。


(……なんで、“声”まで残ってんだよ)


視界だけじゃない。

気配だけでもない。

“思考の再生機能”まで、侵食されている。


「……ふざけんな……」


そのとき。


廊下の向こう。


窓際。


光の中に。


見慣れたシルエットが、一瞬だけ見えた。


「――っ!!」


気づいたときには、走っていた。


理由はない。


考えるより先に、体が動いていた。


角を曲がる。


誰もいない。


止まる。


息が上がる。


「……いねぇじゃねぇか……」


その場に、静寂が落ちる。


数秒。


理解が、追いつく。


(……今、俺)


探した。

完全に。

自発的に。


「…………は?」


手のひらで、顔を覆う。


(……終わってる……)


距離は、完璧に保たれている。


接触もない。


干渉もない。


なのに。


(……なんで、俺の方が動いてんだよ)


主導権は。


完全に。


「……あいつに、移ってるじゃねぇか……」


■ジョージ幕間


『サエキ事変ノート:距離侵食編・第13節』


・ハミルトン、本日欠席(物理)

・サエキ、校内を徘徊(精神的追跡開始)

・なお本人は「探してない」と主張


結論:


「存在しないことで、最も強く存在する」


追記:


先ほど、廊下を全力疾走するサエキを確認。

理由を聞いたところ「別に」とのこと。


別に、ではない。


非常に、面白い。


……これ、かなり良い位置に来てるよ。


ここから分岐できる:


■次の一手(強い)

エド、さらに数日“消える”

 → 拓海の侵食が加速(夢・幻聴・条件反射)

ある日、何事もなかったように戻る

 → 拓海が“安堵してしまう”(=完全敗北)

そこに菜摘の手紙を差し込む

 → 外側の現実が「正常」を定義し直す

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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