第百三十二話 「贈り物とは、相手を想って選ばれたものであるはずだが、受け取る側の主観によっては”宣戦布告”として処理されることもある」という話
菜摘ちゃんサイドの話も入れるべきなのかもしれないが。
悲しいことに僕にはJKの心がわからぬ。。。
昼休み。寮のラウンジ。
窓越しに広がる冬の光は、暖炉の火と混ざり合い、
どこか現実感を欠いた静けさを湛えていた。
「サエキ、また来てるよ。日本からの新規パケット」
ジョージが、いつもの調子で小包をひらひらと振る。
「……また、ってなんだよ。この間届いたばっかだろ」
差出人の名前を見た瞬間、拓海の眉間に、うっすらと皺が寄る。
――『菜摘』
「……あいつ、今度は何を送ってきたんだよ」
「さあね。前回はシャーマンの自撮り(巫女姿)だったし、今回は対ハミルトン用の呪具かな?」
「やめろ縁起でもねぇ。普通に郷土菓子とかだろ」
渋い顔のまま、箱を受け取る。
軽い。だが、妙に「意味のある重さ」が指先に残る。
開封。
中から現れたのは、真っ白な羽のついた細長い矢と、
丁寧に刺繍された、小さな布袋だった。
「……破魔矢と、お守りか」
「おおー、日本のタクティカル装備きたね」
ジョージが身を乗り出す。
「なにこれ? 物理攻撃力上がるやつ? それともデバフ無効?」
「違ぇよ。厄除けだよ。……あいつ、実家の手伝いで忙しいっつってたから、そのついでだろ」
袋を開ける。
中には、小さな木の札。
丁寧な、少しだけ跳ねるような字。
『ちゃんと元気でいなよ。あと、変な人に捕まらないようにね!』
「……」
「……惜しいね」
ジョージが肩を揺らす。
「もう手遅れ(予約済み)なのに」
「うるせぇ」
その瞬間。
「タクミ」
「……っ、……来た」
空気が、一気に凍りつく。
ラウンジの入口。
いつの間にか、そこに“影”が立っていた。
「……それが、日本からの新規パケットか。母上の雛人形に続く、第二波か」
「……ただの、お守りだよ。変な邪推すんな」
「否定する」
一歩も近づかない。
だが、視線だけが、深く食い込む。
「……私は、一歩も近づいていない。お前の引いた境界線(十メートル)を、遵守している」
エドワードは、ラウンジの入口から動かない。
だが、その瞳だけが、破魔矢を“解体すべき対象”として凝視していた。
「……なるほど。形状は矢。象徴は排除。目的は『魔』――不確定要素の撃退」
一拍。
「つまり」
わずかに、目が細められる。
「……私を排除するための、物理的・精神的武装だな」
「違うって言ってんだろ!! ただの縁起物だ!!」
周囲の寮生たちがざわつく。
「え、何それ」「東洋の対ハミルトン兵器?」「ついに対抗手段が届いたのか!?」
「届いてねぇよ!! 風評被害広めんな!!」
エドワードは、静かに言葉を紡ぐ。
「……古来より、祈りとは武器だ」
「やめろ」
「対象を特定し、現実を書き換えるための、最も純粋な執着」
一拍。
「……徒然草に曰く。『世の中は、心のままにぞある』」
「だから文脈が違うっつーの!! 兼好法師に謝れ!!」
「つまり」
声が、わずかに低くなる。
「その個体(菜摘)は、『祈り』という名のハッキングで。お前の座標を書き換えようとしている」
「……」
「競合だ」
「全部競合にすんな!!」
ジョージが笑いを堪えきれずに肩を震わせる。
「いやーでもさ、サエキ」
「なんだよ」
「これ、“守る”やつでしょ?」
「……ああ」
「じゃあさ」
一拍。
「ハミルトンから君の正気を守る装備ってことでいいんじゃない?」
「違ぇよ!!」
「合理的だ」
エドワードが即答する。
「……対象(私)を明確に想定した、防御策。受けて立とう」
一拍。
「神域ごと、買い取る準備はできている」
「だから違うって言ってんだろ!!」
静寂。
拓海は、小さく息を吐き、
お守りをポケットの奥へ押し込んだ。
(……なんだよ、これ)
温かい。
(……あいつのとこ、ちゃんと“普通”なんだよな)
笑って、忙しくて、誰かを気にして。
(……俺、何やってんだろな)
「タクミ」
「……なんだよ」
「安心しろ」
低く、静かな声。
「その程度の『祈り』では、お前の座標は動かない」
「……」
「すべては既に、私の管理下(予約)にある」
一拍。
「神に祈る前に、私を見ろ」
「……」
「私が、神に代わってお前を祝福(監禁)してやる」
「……神様より、一億倍タチ悪いわ、お前……!!」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




