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第八十六話 「休暇の距離は、言葉の解釈を歪ませる」という話

拓海君の休日がw

放課後の寮は、いつもより静かだった。


人の気配はあるのに、どこか薄い。

騒がしくないことが、かえって落ち着かない。


そんな空気の中で、拓海はスマートフォンの画面を見つめていた。


【ハーフターム、もちろん来るんでしょう?】


短い一文。

だが、拒否という選択肢は最初から存在していない。


送り主は、詩織。


「んー、、、来る前提なんだよな、これ」


呟きながらも、指は止まらない。


「……まあ、いっか」


ふと、思い出す。


グラウンド。

聖地。

ガム。

地下信仰。


「最近、学校いるとおかしなことになるしなぁ」


冷静に振り返るほど、全部おかしい。


「……一回離れるか」


短く打つ。


【行く】


送信。

画面が暗くなる。

その瞬間。


「……タクミ」


背後から、静かな声。


「……聞き捨てならない単語が聞こえた」


振り返るまでもない。


エドワード・ハミルトンだった。


「……どこへ行く」


「ハーフターム。姉貴んとこ」


一拍。


「スコットランド」


沈黙。

空気が、わずかに張り詰める。


「……なるほど」


ゆっくりと頷く。


「……長距離移動」

「……環境変化」

「……外部接触」


淡々と並べる。


「……リスクが高い」


「なんでだよ!ただの帰省だよ!!」


即座に否定。


だが、エドは聞いていない。


「待て」


そう言って、鞄から一冊の本を取り出した。


「ここにも書いてある」


「何がだよ」


表紙を見る。


古びた装丁。


「万葉集だ」


「なんでそんなもん持ち歩いてんだよ」


答えず、エドはページを開く。


しおりが挟まれている。

明らかに準備済みだった。


「“逢ひ見ての後の心にくらぶれば、昔は物を思はざりけり”」


ゆっくりと読み上げる。

発音はぎこちないが、意味は理解している声音だった。


「……つまり」


一拍。


「一度関係が成立した以上」


視線が、まっすぐ拓海に向く。


「距離は許されない」


「いや、それ違うだろ」


即答。


「意味としては近いけど結論が怖ぇんだよ」


「……怖い?」


「怖い」


断言。


エドはわずかに思案する。


「だが、会った後の方が、より強く結びつくと書いてある」


「うん」


「……ならば」


一拍。


「”離れる理由がない”」


「だから”そこ”だよ」


即座にツッコミ。


「”離れるからこそ分かる”とか、そういう文脈だろ多分!」


「非効率だ」


「効率で恋を語るなアホ」


一瞬、沈黙。


「……ならば」


言い直す。


「私は非効率を許容しない」


「開き直んじゃねぇよ」


ページを閉じる。


「……ゆえに」


静かに。


「同行する」


「は?来んな」


「……却下する」


「却下すんな」


完全にいつもの流れだった。


その横で。


「あー、いいねこれ」


ジョージが笑う。


「“万葉集による移動制限理論”」


「お前までやめろ」


「もうタイトル決まったじゃん」


「決めるな」


ジョージはスマホを操作しながら続ける。


「“神の国外流出”もセットで回せそう」


「回すな」


「もう遅いかも」


「あーもう全部やめろォ!!」


静かだったはずの寮は、いつの間にかいつも通りの騒がしさを取り戻していた。


ジョージの記録:


【サエキ事変・越境編】


サエキ拓海、ハーフタームにより一時的に学園外へ移動予定。


これに対し、ハミルトン様、

万葉集を根拠に“距離の否定”を主張。


結果:


・同行計画

・事前監視

・解釈の暴走


が同時進行。


(追記)


文学は、人を繋ぐこともあるが、

使い方を誤ると拘束具にもなる。


(……継続)


「拓海」


エドが静かに言う。


「……安心しろ」


一拍。


「……どこへ行こうと、私は解釈可能だ」


「安心できる要素どこだよ!!」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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