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第61話:同害報復と、第一ラウンドの猿芝居

朝。毎日の日課である、優子の「お迎え」の時間。

司の家のチャイムが鳴り、司が玄関のドアを開けると、そこには紀伊国屋優子が立っていた。

「司くん、おはよう!」

いつものように、一点の曇りもない完璧な笑顔。そして、奥から出てきた母・涼子に対しても、優子は最高の笑顔で挨拶をした。

「優子ちゃん、いつも笑顔が素敵だよ」

司が優しく囁くと、優子は頬を染めて嬉しそうに笑った。

いつもと同じ笑顔、いつもと同じ風景。

司の内側には、もはや笑えないほどの『圧倒的な退屈』しか存在していなかった。

しかし、戦前と比べて一つだけ明確に変わったことがある。それは、優子を見る『周囲の目』であった。

街を歩いていても、登校していても、すれ違う他人は皆、優子をまるで「おかしな生きモンスター」を見るような目で見つめていた。

無理もない。事の発端は、数日前に第一帝都高校で行われた『復員式(戦死者の合同慰霊祭)』でのことだ。

祭壇に並ぶ同級生や先輩の遺影。その前で泣き崩れる生徒たちに向かって、優子は満面の笑顔で「なんで泣いているの? 瑞穂のために死ねたんだから、笑顔で万歳するものだよ!」と諭して回ったのだ。

乃木政権は自らの失策から目を逸らすため、「名誉の戦死への万歳」を国家方針として強く奨励していた。そのため、教師たちも狂気の沙汰としか思えない彼女の行動を止めることができず、会場の四隅に立つ憲兵の威圧的な空気も相まって、異様な沈黙が支配していた。

だが、その空気を一人の男子生徒が破った。

「お前……いい加減にしろよッ!!」

親友の戦死を受け止めきれず、怒りの頂点に達した『土屋』という先輩が、優子の胸ぐらを激しく掴み上げたのだ。

それを皮切りに、抑圧されていた生徒たちの感情が爆発した。

「ふざけるな! なんで戦争で死ななきゃいけないんだ!」

「人殺し! 狂ってるぞ!」

優子への怒声は、やがて反戦デモのようなうねりとなり、体育館は完全なパニック状態に陥った。優子自身は「なぜ自分が正しいことを言っているのに怒られるのか」と、純粋な戸惑いの表情を浮かべていた。

「静まれッ!!」

暴動を鎮圧すべく、一人の憲兵がアサルトライフルを構え、天井に向けて威嚇発砲をした。

銃声が響き、体育館が一瞬にして静まり返る。エリートである生徒たちは、ここが軍事国家の底辺であることを悟り、青ざめた。

しかし、親友を失った土屋だけは止まらなかった。

「撃ちたきゃ撃てよ! こんな狂った国――」

憲兵が再び銃を構える。彼はあくまで「威嚇」として、再び天井を撃つつもりだった。

――だが、その引き金が引かれるコンマ数秒の瞬間。

司が、常人には視認すらできない神速で憲兵の背後に回り込み、銃を構えた憲兵の腕を『土屋の頭部』へと強制的に押し下げたのだ。

ズドンッ!

放たれた弾丸は、土屋の頭部に真っ直ぐに命中した。

弾け飛ぶ鮮血と脳漿。体育館は阿鼻叫喚の地獄と化した。上官が「何故生徒に向けて撃った!?」と怒鳴りつけるが、憲兵自身もなぜ銃口が下を向いたのか理解できず、困惑の表情を浮かべていた。

司の、最悪の『悪ふざけ』であった。

優子は、頭を吹き飛ばされた土屋の血を全身に浴びて真っ赤に染まりながらも、悲鳴を上げる周囲の中で、ただ一人ニコニコと笑って佇んでいた。司による完璧な洗脳が、彼女の精神を完全に保護していたのだ。

だが、その日を境に、優子へ向けられる視線は「軽蔑」から「完全な恐怖と嫌悪」へと変わったのである。

***

昼休み。

優子が司の教室へ向かうと、彼の姿はなかった。

その頃、司は三人の女子生徒によって、人目のつかない体育館裏へと連れ出されていた。

「司くん……もう、紀伊国屋さんと付き合うのはやめなよ!」

一人の女子が、悲痛な顔で口火を切った。

「あの子、絶対におかしいよ! この間の復員式の時だって、土屋先輩の血を全身に浴びてるのに、ずっと笑ってたんだよ!?」

「そうだよ! 自分の実のお兄ちゃんが死んで万歳するなんて、人間の心がないよ!」

「あんな血まみれで狂った子と一緒にいたら、司くんまでおかしくなっちゃう! 今すぐ別れて、目を覚まして!」

彼女たちは、論理ではなく、純粋な恐怖と司への好意から必死に説得を試みていた。

しかし、司はひどくうんざりとした顔で溜め息をつくと、冷たい声で言った。

「……ごめんね」

そして、仮面の奥で嘲笑いながら、こう言い放った。

「俺としたいだけなんだろ」

次の瞬間、司の全身から、人間の脳を直接破壊するほどの高濃度のフェロモンが全開で放出された。

体育館裏の薄暗い場所。地面は雨で湿り、泥がべっとりと溜まっていた。三人の女性——それぞれ違う学年や部活の女子たちが、司の強烈なフェロモンに襲われ、膝を震わせながらその場に崩れ落ちた。

「あっ……はあっ……司くん……」

一人が喘ぎながら這い寄ってくる。彼女の瞳はすでに欲情で潤み、理性が溶け落ちていくのが見て取れた。司はにやりと笑うと、彼女の肩を掴み、泥の中に押し倒した。残りの二人も次々と引き寄せられ、四人は泥まみれの地面で絡み合うことになった。

「んっ……あんっ! 司くんの匂い……頭がおかしくなる……」

女性の一人が司の胸に顔を埋め、深く息を吸い込む。彼女の体は熱く火照り、泥が制服に染み込んで肌に張り付いていた。司はもう片方の女性の首筋に唇を這わせ、強く吸い付く。もう一人は司の太ももに跨がり、腰をくねらせ始めた。

「はあっ、はあっ……俺の肉便器になれよ。お前ら三人とも」

司の言葉に、三人はビクンと体を震わせ、甘い喘ぎ声を上げた。

「はい……肉便器です……司くんの……好きに使って……あぁんっ!」

泥の中で体位を変え、司は一人目の女性を仰向けに寝かせ、彼女の脚を広げて顔を埋めた。舌を巧みに動かし、敏感な部分をねっとりと舐め上げる。女性は背を反らせ、泥に指を食い込ませながら大声で喘いだ。

「きゃあっ! そこっ……舐められたら……あっ、あっ、ダメぇぇ!」

彼女の体が激しく痙攣し、潮が噴き出して泥と混じり合う。透明な液体が地面をさらにぬかるませ、土の匂いと混ざった甘ったるい香りが体育館裏に広がった。司は満足げに顔を上げ、今度は別の女性の胸元に顔を寄せ、乳首を舌で転がすように舐め始めた。女性は両手で司の頭を抱きしめ、甘い声を漏らす。

「んふぅ……乳首、気持ちいい……もっと吸って……はあんっ! あっ、はぁぁんっ!」

四P特有の乱れが始まった。もう一人の女性が司の背中に抱きつき、泥まみれの胸を擦りつけてくる。彼女の指が司の体を這い、互いの体液と泥が混ざり、滑るような感触を生み出していた。司は立ち上がり、一人を立たせたまま後ろから抱きかかえ、激しく腰を打ち付ける。もう二人は周りで司の体に舌を這わせ、キスを求め、乳首を舐め続ける。

「はっ、はっ、はあぁんっ! 奥まで……突かれてる……壊れちゃう……あんっ、あんっ!」

ディープキスをしながらの激しい動き。舌が絡み合い、唾液が糸を引く。女性の一人が耐えきれず、オシッコを漏らしながら絶頂を迎えた。温かい液体が泥に混ざり、彼女の太ももを伝う。

「あぁっ……漏れちゃう……司くんに……見られて……恥ずかしいのに……気持ちいいのぉ! ひゃうっ!」

誰かに見られるかもしれないという羞恥が、彼女たちの興奮をさらに煽る。泥が飛び散り、四人の体は完全に土色の艶やかな姿に変わっていた。司は一人を仰向けにし、もう二人を左右に抱き寄せながら、同時に愛撫を加えていく。指や舌を使って敏感な部分を刺激し、彼女たちを連続で絶頂に導いた。

「もっと……司の……欲しい……肉便器として使って……はぁはぁっ、あぁんんっ!」

司は次々と女性たちを交代で抱き、泥の中で転がしながら体内に熱いものを注ぎ込み続けた。彼女たちの奥深くに放出するたび、「中に出して……もっと……肉便器として満たして……あんっ、あぁぁっ!」と喘ぎながら懇願する声が上がる。三人の女性は完全に理性が飛んで、ただ司の欲望を満たす道具と化していた。

泥にまみれ、汗と体液と土で汚れた体を互いに擦り合わせ、司を中心に淫らな輪を作り上げる。一人が司の上で腰を振り、もう一人が顔に跨がり、残りの一人が胸や首筋を舐め回す。喘ぎ声が体育館裏に響き渡った。

「あんっ! あっあっ! イッちゃう、イクゥゥ! ひゃんっ!」

「司くん……大好き……もっと激しく……はあっ、んんっ! あぁぁんっ!」

激しい動きのたびに泥がはね、女性たちの髪や顔、胸に張り付く。司は彼女たちに泥を塗りたくらせながら、体を滑らせるように擦り合わせる変態的なプレイを繰り返した。泥まみれの肌が互いに密着し、ぬるぬるとした感触が快楽を倍増させる。女性の一人がまた潮を吹き、地面を水溜まりのようにした。

「いっちゃう……またいっちゃうよぉ……司くんの肉便器……壊して……あひぃっ!」

もう一人が乳首を激しく舐められながら体を仰け反らせ、オシッコを我慢できずに漏らす。恥辱と快楽で瞳を潤ませながらも、もっと求めて司にしがみつく。

「もう……おかしくなる……司くんの肉便器……永遠に……あぁぁんっ! はぁんっ、んふぅぅ!」

四人は泥の中で何度も体位を変え、ディープキスを交わしながらの乱交が続いた。女性同士もフェロモンの影響で互いの体を触れ合い、乳首を舐め合ったり、泥塗れの胸を押しつけ合ったりする。司はそれを眺めながら、次々と彼女たちの体内に熱いものを注ぎ、肉便器として徹底的に味わった。

――40分後。

体育館裏から出てきた三人の女子生徒の瞳からは、光が完全に失われていた。

「……バンザイ、バンザイ」

彼女たちは、優子と全く同じ台詞を虚ろに吐き続ける、壊れた肉人形と化していた。

***

放課後。

「今日は先に家に帰るね!」と笑顔で手を振る優子と別れ、司は一人、高級住宅街にある自宅へと歩いていた。

ポケットの中でスマートフォンが震える。ミカラムからだった。

『クロノス様。神崎に先手を打たれました。奴らは現在ロスト、行動に移ったようです』

「構わないよ」

司は一言だけ返して通話を切った。

ふと空を見上げると、自分が卒業した中学の方向から、黒々とした煙と火の手が上がっていた。

「なるほど」

司はニヤリと笑った。

「……一皮むけたようだな、神崎は」

中学が燃えているということは、あそこで自分のおもちゃになっていた『あの教師たち』も消されたのだろう。彼らが次に向かう場所は、一つしかない。

司は満足げな顔で歩みを速めた。

***

高級住宅街の一軒家。

司が到着した時には、すでに立派な門扉と玄関のドアが、爆撃でも受けたようにボロボロに粉砕されていた。

土足でリビングに入ると、そこには真っ白なコートを羽織った神崎と、サングラスをかけた大柄な筋肉の男『1号』が立っていた。1号の肉体は、大量の返り血を浴びて赤く染まっている。

足元には、左右に引きちぎられ、内臓を撒き散らして倒れている優子の母。そして、首から上を万力でプレスされたように潰された優子の死体が転がっていた。

「……思った通りの出来だ」

司は、恋人であった肉塊を前にしても、眉一つ動かさずに冷静に1号を評価して呟いた。

そして、神崎を見てせせら笑った。

「こんなことで、俺が動揺すると思った? おっさん」

「……まさか」

神崎は、氷のような目で司を見返した。

「まあ、親孝行は親が生きてる間にした方がいいがな」

「なるほど。」

司が独り言のように言うと、神崎は淡々と答えた。

「悪く思わないでくれよ。……君には、私と同じ環境をつくりたかったんだよ」

愛する家族を奪われ、帰る場所をなくしたあの深淵の孤独を。

「趣味悪いねぇ」と司が笑う。

「君ほどではないがね」と神崎が返す。

そこに、甲高いロータリーエンジンの音が鳴り響き、黒のRZ-7が庭先に滑り込んできた。

ミカラムが室内へと入ってくる。

「ほぉ……」

ミカラムもまた、凄惨なリビングの惨状を見ても完全な無反応であった。

「神崎! 地獄から蘇って来たようだね」

ミカラムが余裕の笑みで話しかけた、その瞬間だった。

ドゴォォォォンッ!!

「ガハッ……!?」

ミカラムの体が「くの字」に折れ曲がり、弾丸のような速度で壁に叩きつけられた。1号の、目にも留まらぬ腹への一撃である。

司は、初見であるはずの1号の動きに全く驚く様子もなく、まるで最初から限界値を知っているかのような冷たい目で見つめた。

「筋力解放、30パーセント」

1号の筋肉が異常に隆起し、凄まじい威圧感と共に踏み込んだ。

1号の重厚な拳が司の顔面を掠める。司は最小限の動きでそれを躱すが、その風圧だけでリビングの壁がひび割れる。

司は1号の懐に潜り込み、重粒子を纏った高速の打撃を数発叩き込む。しかし、1号はそれを分厚い肉体で受け止め、強引に司を掴もうとした。

格闘戦は激しさを増す。1号の振り回す腕が司の残像を切り裂き、周囲の家具を粉々に粉砕していく。

「……筋肉は立派だが、少し無骨すぎるよ」

司の鋭い回し蹴りが1号の側頭部を捉えた。その衝撃で、1号がかけていたサングラスが弾け飛び、床に転がる。

1号は一瞬たじろいだが、すぐに吠え、司の連撃を物ともせず突進してきた。

「終わりだ」

司は1号の突進に合わせ、カウンターで右拳を突き出した。莫大なエネルギーを凝縮した一撃が、1号の腹部を深々と貫通する。

「……ぐ、ぁ……ッ」

1号は大量の血を吐き出し、床に仰向けに倒れ込んだ。

瓦礫の中からミカラムが立ち上がる。

司は血のついた手を払い、出口へ歩き出した。

「今度は本気で来いって、そこの筋肉に伝えておいてよ、おっさん」

司は神崎に背を向けたまま、退屈そうに言い放ち、去っていった。

嵐が去った室内。

「……だそうだ、1号」

神崎が冷たく声をかけると、致命傷を負ったはずの1号がゆっくりと上体を起こした。

腹部の穴は、見る間に蠢く細胞によって塞がっていく。

1号は床に落ちていたサングラスを拾い上げると、無造作に再びかけ直した。

「……猿芝居じゃあ、バレバレですねぇ」

サングラスの奥で、1号は好戦的に口角を上げた。

第一ラウンドは、静かな立ち上がりである。

***

ミニバンに姿を変えたRZ-7の車内。

「……クロノス様。ご自宅に戻られますか?」

運転するミカラムが問いかける。

「アルカディア本部へ」

司は夜景を見つめたまま答えた。

彼が帰るべき自宅のリビングには、左右にバラバラになった実母・涼子の無惨な死体が転がっているはずだ。

神崎が用意した凄惨な舞台装置。

(……ふふっ。少しはマシな退屈しのぎになりそうだ)

夜の帝都を疾走する車内で、司は人生の最期まで付きまとうであろう退屈を、僅かな期待で塗り潰していた。

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