第56話:機械仕掛けの最終戦争と、狂気の人形遊び
ミカラムと『白き御使い(セラフィム)』。
期限付きとはいえ、面白いおもちゃを手に入れたことにクロノスは少しだけ満足していた。そしてここで、彼はすぐさま次なる『退屈しのぎ』を実行に移そうとしていた。
この頃の世界情勢は、瑞穂国を除いて、完全な破滅と混乱のどん底にあった。
すべての核兵器は失われ、広大な大地が高濃度の放射能汚染によって死の灰に沈んでいる。海上兵器のほとんどはクロノスのハッキングと謀略によって海の藻屑となり、食糧難、エネルギー不足、そして大量の難民の発生により、国家としての体をなしていない国も少なくなかった。
その絶望的な状況下において、瑞穂国だけは強力な『電磁波バリア』と水による動力システム、『ダグサの大釜』の技術により、他国では考えられないほどの平和な状況を維持してはいた。
しかし、その他の資源については枯渇していく一方である。その解決策を、大鷹をはじめとする閣僚たちは連日悩んでいた。他国を侵略し、資源を奪うという『現状で手っ取り早い解決策』を避けるために。
そんな大人たちの苦悩など露知らず、クロノスはアルカディアの執務室のPCから、全世界に向けてメッセージを送るためのハッキングを開始した。
『――世界の皆様。私、クロノスより提案があります!』
突如として世界中のモニターをジャックした仮面の悪魔に、生き残った世界中の人々が息を呑む。
『世界から戦争をなくすこと。それは、世界の皆様の悲願であると思います。私クロノスは、その悲願達成のため、世界中にある【軍需関連工場】をすべて破壊すべきだとここで宣言いたします。さあ、これからすべての兵器工場は、世界中の兵器により破壊されます。これにより世界は平和を迎えることになるのです。戦いの日々は今日より半年の間で終わります! 最後の世界大戦の開始です!』
クロノスは一方的に宣言を切ると、世界中の兵器へのハッキングを開始した。そして、世界中の軍需関連の兵器工場をターゲットにした『最後の大戦』という名のゲームをスタートさせたのである。
しかし、そのターゲットには瑞穂の兵器工場は入っていない。勿論、自分のおもちゃの箱庭を壊すつもりはなかったからだ。
世界各国でも、クロノスへのハッキング対策はかなりおこなわれていたが無駄であった。
無人機、有人機関わらず、コンピューター制御の機械兵器が一斉に人類の制御を離れて動き出したのである。慌ててコンピューターのカットを行う国もあったが、既に凶悪なウィルスにより兵器たちが止まることはなかった。
唯一、ハッキング出来ない『生身の人体』を持つ歩兵たちと、機械兵器との戦いが始まった。しかし、最新鋭のパワードスーツを装着していた兵士たちは、スーツの制御を奪われ、操り人形のように強制的に動かされていた。無人式給油機や給油機施設は機械兵器に占拠され、人間は近づくことも出来ない状況であった。
機械対生身の人間たちの、絶望的な最終戦争は始まってしまったのである。
***
「……貴殿は、この世界を滅ぼすのが目的なのか?」
防空シェルターの生命維持装置の中から、大鷹の重苦しい声が響いた。極秘回線を通じて、クロノスが直接通信を繋いでいたのだ。
クロノスは笑って、その質問を完全に無視するように大鷹に言った。
「資源確保は、今が絶好のチャンスではないですか閣下?」
「……何?」
「続けてご自慢の大鷹閣下の大戦艦も改修終了され、遠征に使いたいでしょう?」
「馬鹿を言うな! 我が国に領土拡大の野望などないわ。小僧、ふざけたことを言い過ぎだ!」
大鷹が、生命維持装置の中で怒りに震えて怒鳴りつけた。
クロノスは冷静に返した。
「でも、資源確保の方法は既に一つしかないことは、閣僚内では決定路線ですよね? そのチャンスを、このクロノスが作ったのですよ。先ほどのご質問の回答ですよ。私は、私のおもちゃの箱庭のために、このちょっとした騒ぎおこしただけです。……閣下、決断しないと半年でこのチャンス終わりますよ」
一方的に通信を切るクロノス。
極秘の通信室で、大鷹はただ生命維持装置の中でため息をついた。
その日の緊急閣議にて、世界の終わりと混乱を止める目的のため、瑞穂防衛軍の派兵が決まった。
神崎はその話を聞き、怒りと焦燥から司に連絡をつけようとしたが、叶わなかった。
予断であるが、この度の派兵において、神崎勇樹が瑞穂武尊の副艦長として戦地に赴くこととなったのである。冷徹な工作員として生きてきた神崎は、ここにはじめて「父として」複雑な想いを抱いたのである。
***
大鷹との通信を終えた後。
アルカディアの執務室を出て、家に帰る途中の道で、司は俯いて歩く紀伊国屋優子を見つけた。
「優子ちゃん」
司はいつものように優しく声をかけた。顔を上げた優子は、ひどく顔色が悪かった。
「どうしたの?」
司が心配そうに声をかけると、優子の大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出した。
「兄が……予備隊として、徴兵されたの。司君……これって、喜ばないといけないことだよね? 私、おかしいのかなぁ。ぜんぜん、喜べないよ……っ」
瑞穂の徹底された軍国教育の中で、罪悪感と悲しみに押し潰されそうになっている優子を、司はそっと抱きしめ、耳元で周りには聞こえない声で甘く囁いた。
「……その感情が普通だよ。誰も殺し合いなんて望んでないし、お兄さんのことが心配なのが普通のことだよ。この世界が狂ってしまったんだよ。……でもね、優子ちゃんだけは、僕が悲しませないから」
司の甘く優しい猛毒のような言葉に、優子は縋り付くように頷いた。
「この話は外では出来ないから、家に来ない?」
司は優子を誘った。優子は頷き、司の家へ向かった。
司が家に帰ると母がいた。母は優子に挨拶した後に、父親が特別技術士官として『瑞穂武尊』に乗ることを告げた。
夫が死地に赴くというのに、母はそれ以上なんの感情も表さなかった。まるで感情のスイッチを切り取られてしまったかのようなその異様な空気に、優子は不思議に感じながらも、司の母にお辞儀をして司と部屋に向かった。
部屋のドアが静かに閉まるや否や、司は優子を抱き寄せた。強い腕が彼女の背中を包み込み、唇が重なる。優子は抵抗する気など毛頭なく、ただ身を預けた。司の舌が優しく口腔を犯し、彼女の息を奪っていく。前戯はゆっくりと、しかし確実に熱を帯び始めた。優子の胸を優しく揉みしだき、首筋にキスを落としながら、司は彼女の服を一枚ずつ剥ぎ取っていく。優子は甘い吐息を漏らし、司の肩にしがみついた。
その時、部屋のドアがそっと開いた。
涼子だった。彼女は女の顔をしていた——瞳を潤ませ、唇をわずかに開き、頰を赤らめた、明らかに欲情した表情で。
優子はびくりと体を硬直させ、慌てて司の胸に顔を埋めた。下を向いたまま、か細い声で呟く。
「ご、ごめんなさい……」
司は優子を抱いたまま、涼子の方へ視線を投げた。口角を上げ、余裕たっぷりに言う。
「おまえも入りたいんだろ?」
涼子は一瞬だけ目を伏せたが、すぐに小さく頷いた。そして躊躇なく司の背後に回り込み、彼の背中にぴったりと抱きついた。柔らかな胸が司の背中に押しつけられ、熱い息が耳にかかる。
優子が驚きの目で涼子を見つめる。司はそんな二人を交互に見やり、体内から濃厚にフェロモンを全開に放ちながら、優子に甘く低く言った。
「優子……さぁ、3人で愛し合おうよ。いいな?」
優子は頰を染めたまま、司の顔を見つめた。やがて、震えるような小さな声で頷く。
「……うん」
それが合図だった。
司は優子をベッドに押し倒し、涼子も一緒に引き寄せた。三人の体が絡み合う。司の指が優子の秘部を優しく愛撫し、涼子の胸を揉みながら、交互に唇を奪っていく。優子は甘い喘ぎを上げ、涼子も抑えきれない声で司の名を呼んだ。部屋に響く二人の喘ぎ声が重なり、熱気で空気がねっとりと重くなる。
司は優子の中へ深く沈み、激しく腰を動かした。優子が背を弓なりに反らせ、甲高い声を上げる。涼子は優子の胸の先端を舌で転がしながら、司の動きに合わせて体を擦りつける。やがて司は優子の中で熱く放った。白濁が溢れそうになるのを、司は素早く涼子の口へ導く。
「掃除してやれ」
涼子は素直に跪き、優子の秘部に唇を寄せ、丁寧に舌を這わせた。優子は余韻に震えながら、涼子の頭を優しく撫でる。
司は優子の頰に手を添え、優しい笑顔で囁いた。全開にしたフェロモンが、彼女の心を柔らかく包み込む。
「これで家族になれたね、優子」
優子は嬉しそうに目を細め、司の手に自分の手を重ねた。頰が緩み、満足げな吐息が漏れる。
その後、司はベッドの上で二人を抱きながら、ゆっくりと語り始めた。声にはカリスマ性が宿り、まるで世界そのものを導くような響きがあった。
「兄のことも、世界も……全部、正しく進んでいる。瑞穂のためにも、俺たちはこれからもっと強くならなきゃいけない。わかるよな、優子?」
ぐったりと司の胸に寄りかかった優子は、朦朧とした意識の中でその言葉を聞き、素直に頷いた。心の奥底から納得が広がっていくのを感じながら。
「……うん、司……」
その横で、涼子はぐったりと横たわり、幸せそうに目を閉じていた。
――そして、数時間後。
部屋を出た疲れきった顔をした優子は兄は瑞穂のために戦うんだよ。嬉しいよと満面の笑顔で答えながら司にまたお母さんと三人がいいなぁと言ってお邪魔しましたと言う言葉と共に家を出たのであった。




