第53話:吐け口の部屋と、退屈という名の虚無
第七埠頭での凄惨な戦い――いや、神を気取った一方的な処刑を終えたクロノスは、漆黒の外套と仮面を脱ぎ捨て、いつもの『司』の姿へと戻っていた。
深夜の静まり返った街を、くるみの住むボロアパートへ向かって一人歩く。
足取りは重くはないが、どこか規則性を欠いていた。
(……イライラする)
司の胸の奥底で、かつて感じたことのないドス黒い感情が、コールタールのようにどろどろと渦巻いていた。
あの天童という男が見せた、最期の笑顔。原子レベルで身体を削り取られ、絶対的な死を前にしても決して折れることのなかった『人間の誇り』。
すべてを支配し、すべてを思い通りにしてきた完璧な自分に、あろうことか、ただのゴミクズが泥を塗ったのだ。
(あんなもの、ただのバグだ。計算式から外れたエラーに過ぎない。物理的に消去したんだ、俺の完全勝利に決まっている)
頭ではそう理解し、結論づけているはずなのに、胸の奥で燻る苛立ちは一向に収まらない。「はじめて、人間らしさが出たな」という天童の嘲りが、脳裏にこびりついて離れないのだ。
司は、この得体の知れない不快な感情を「ぶつける」ためだけに、無意識のうちにくるみの家へと足を向けていた。
今の自分には、圧倒的な服従と、何も考えない怠惰な空間が必要だった。
軋む鉄階段を上り、鍵の開いたままの薄汚れたドアを乱暴に開ける。
「あ、司くーん!」
ドアの音に反応して、足の踏み場もないほど散らかった汚部屋の奥から、だぼだぼのスウェットを着たくるみが顔を出した。
彼女は司の冷たい表情に気づく様子もなく、だらしない、しかし純粋な歓喜の笑顔を浮かべて駆け寄ると、そのまま司の首に両腕を回して強く抱きついてきた。
「遅かったねー。ずっと待ってたんだよ?」
無防備にすがりついてくる体温。鼻を突く甘ったるい香水と、部屋に充満する生活臭。
彼女には、世界を憂う意志も、命を懸けるような高尚な誇りも存在しない。ただ本能のままに息をして、司という存在に依存しているだけの、底抜けに空っぽで都合のいい「人形」だ。
(……そうだ。人間なんて、これでいい)
天童のように、実体のないもののために牙を剥く必要などない。何も考えず、何も持たず、ただ俺に縋り付き、支配されていればいいんだ。
司は無言のまま、くるみの身体を乱暴に引き寄せ、強く抱き返した。天童が見せたあの目障りな光を、この無秩序な空間と、彼女の安っぽい体温で完全に塗りつぶし、かき消すために。
司は乱暴にくるみのスエットを引き剥がし、彼女をベッドに力任せに押し倒した。まるでダッチワイフのように扱うかのごとく、くるみの腕を荒くねじり上げ、脚を無理やり大きく広げて固定し、腰を強く掴んで一気に深く突き入れた。湿った激しい音が部屋に響き渡り、くるみの身体が激しく前後に叩きつけられるように揺さぶられる。司の動きはこれまで以上に容赦なく荒々しく、彼女の柔らかい内側を何度も抉るように突き上げ、息もつかせぬほどの勢いで腰を打ち付け、時には彼女の髪を掴んで頭を押さえつけながら角度を変えて何度も奥まで叩き込んだ。さらに司は片手でくるみの細い首を強く締め上げ、彼女の息を奪うように圧力を加えた。
「あっ……あんっ! 司くん、はあっ……! イヤっ、痛いよ……あっ、あっ! はあんっ!」
くるみの喘ぎが痛みと混じりながら部屋に響き、身体がびくびくと震える。首を締められた彼女の顔が赤くなり、目が涙で潤んでいく。
「苦しいよ……司くん、苦しい……はあっ……!」
涙目になったくるみが掠れた声で訴えるが、司はさらに首を締めながら腰を激しく振り続け、彼女の太ももを指で食い込ませるように掴んで動きを加速させた。シーツが激しく乱れ、彼女の甘い声が掠れ、部屋全体が熱く湿った空気で満たされていった。
「はあんっ! あっ、あっ……痛い……でも……司くん、はあっ! ああんっ! あっ、あっ……!」
くるみの喘ぎが次々と溢れ、爪をシーツに深く食い込ませながらも身体が司の荒々しい動きに翻弄され続ける。しばらくその暴力的な状態が続き、司の苛立ちが彼女の内側に叩きつけられるように激しく続いた。
「司くん……何か嫌なことあったの? くるみ、元気にしてあげる……魔法かけてあげるね……」
くるみの声が震えながらも優しく響き、彼女は必死に司の動きを受け止めると、自ら身体を起こして彼の胸に優しく寄り添った。まず何度も何度も柔らかい唇を司の唇に重ね、優しくキスを繰り返しながら舌を絡め、ゆっくりと首筋から胸へ唇を滑らせていく。そして胸の敏感な先端を温かな舌で丁寧に舐め回し、優しく吸い付き、時には軽く歯を立てながら何度も何度も愛撫を続けた。
「ああっ……」
司の口から思わず低い声が漏れる。くるみの優しいキスと舌の動きが、荒々しかった司の身体をじんわりと溶かしていく。
「ん……司くん、こうしてあげる……くるみの全部で、司くんを癒してあげるから……はあっ……」
くるみの目が潤み、頰を赤らめながらも必死に奉仕を続け、胸の先端を舌で執拗に刺激したあと、自ら下へ移動して彼の熱くなった部分を両手で優しく包み込んだ。指先を絡め、温かな舌を這わせながら、ゆっくりと上下に滑らせて優しく刺激する。まるで大切なものを慈しむように、時折唇を寄せて優しく吸い付き、舌先で敏感な部分を丁寧に愛撫する。彼女の息が熱くかかり、唾液のぬめりが絡みつく甘い感触が、司の苛立ちを溶かしていくようなエロさがあった。
司は「俺は何をしているんだ……」と心の中で呟き、ようやくその優しさに気づいたように動きを止めた。そして彼女を優しくベッドに横たえ、今度は穏やかで深い愛撫に切り替えた。
司はくるみの脚を優しく開き、顔をゆっくりと近づけて、彼女の最も敏感な部分に舌を這わせた。優しく、でも執拗に舐め回し、温かな息を吹きかけながら丁寧に刺激する。さらに彼女の腰を少し持ち上げ、後ろの柔らかい部分にも舌先を優しく這わせ、円を描くように愛撫した。くるみの身体がびくんと跳ね、甘い声が次々と溢れ出す。
「あんっ……司くん、そこ……はあんっ! あっ、あっ……優しい……んんっ! はあっ、はあんっ! ああっ……気持ちいい……! あんっ、あっ、あっ……!」
くるみの喘ぎが部屋中に響き、腰が自然とくねりながら司の舌に自ら押しつけてくる。司はさらに優しく舌を動かし続け、彼女の内側をじっくりと火照らせていった。
二人は互いの肌を密着させ、ゆっくりと腰を重ね合わせる。司の動きは荒々しさから一転、彼女の内側を優しく擦るようにリズムを刻み、くるみの敏感な部分を丁寧に刺激し続けた。くるみも自ら腰をくねらせ、司の背中に腕を回してしがみつきながら、甘い喘ぎを漏らす。
「あんっ……司くん、優しい……はあんっ……もっと、奥まで……んんっ! ああんっ! はあっ、あっ、あっ……!」
湿った熱い音が部屋に響き、二人の汗が混じり合う。司は彼女の耳元で低く囁きながら、腰を深く押し込み、彼女の最も感じる部分を執拗に愛撫するように動いた。くるみの身体がびくびくと震え、快楽に溶けていく。
やがて司の限界が訪れた。彼はくるみを強く抱きしめ、彼女の子宮の奥深くまで一気に突き上げ、熱い精液を勢いよく注ぎ込んだ。くるみの身体が激しく痙攣し、
「あああっ! 司くん……中、熱い……いっぱい出てくる……はあんっ! あっ、あっ……ああんっ!」
という甘く切ない喘ぎが部屋に響き渡る。司がゆっくりと腰を引くと、溢れ出した白い液体がくるみの太ももをねっとりと伝い、シーツの上に濃く滴り落ちた。熱く粘つく感触が、彼女の肌を妖しく濡らしていく。
二人は息を荒げ、裸のまま汚れたベッドの上にぐったりと横たわった。くるみが手を伸ばして床の横に落ちていたポテチの袋を引き寄せ、一枚を司くんの口に運ぶ。司も笑いながら一枚取り、くるみの唇に押し当てる。
その頃、部屋のテレビがつけっぱなしで、ニュースが流れていた。
「本日、埠頭で発生した外国人によるテロ行為を、防衛隊と警察が連携して撃退しました。負傷者もなく、迅速な対応で市民の安全が守られました……」
二人は裸で寄り添ったまま、ポテチをパリパリと音を立てて食べながら、画面を見つめていた。部屋にはまだ熱い余韻とジャンクフードの匂いが濃く混ざっていた。
……数時間後。
くるみのアパートを後にした司は、深夜の冷たい風を頬に受けながら、無機質な街灯の下を歩いていた。
苛立ちは消えたのか。
――いや、違った。
苛立ちという感情が嵐のように通り過ぎた後にぽっかりと残っていたのは、底なしの『虚無感』だった。
思い通りに動く人形を抱いても、世界を滅ぼしても、国家を服従させても、決して満たされることのない絶対的な乾き。
天童という不純物を原子の塵に変えて排除したというのに、この世界が少しも面白くならないという絶望的な事実。
「……これも、退屈のせいだ」
司はコートのポケットに深く手を突っ込み、暗く淀んだ夜空を見上げながら、誰に言うでもなく自分自身に言い聞かせた。
そうだ。俺がこんな得体の知れない虚無を感じているのは、世界があまりにも簡単すぎて、ゲームとして破綻しているからだ。だから退屈なんだ。
あのカブトムシの死に顔が頭にこびりついているからじゃない。絶対に違う。俺は完璧な存在だ。
自らの心に生じた、極小だが決して消えない『亀裂』から目を背けるように。
司は足早に、一人きりの深い闇の中へと消えていった。




