第47話:祝祭の閃光と、平和という名の核の冬
瑞穂国の次なる決断は、資源の供給源たる大星への電撃侵攻であった。
一方、クロノスのハッキングによって勝手に大星の軍事基地を攻撃させられ、もはや後に引けなくなった羅州の絶対的指導者ウラジーミル・プートフもまた、なし崩し的に大星への南下作戦を開始していた。
しかし、水面下では老獪な為政者たちの計算が蠢いていた。
瑞穂の大鷹宰相と羅州のプートフは、互いの軍を衝突させることなく、大星を南北から切り刻み、勝利後の領土をどう分割するかという極秘の交渉をすでに終えていたのである。本格的な侵攻開始まで、両国は軍の再編と配置に今しばらくの時間を必要としていた。
***
そんな世界中が固唾を呑んで見守るきな臭い情勢とは裏腹に、瑞穂国内は徹底された情報統制と日常のループによって、ひどく平和な空気に包まれていた。
数日が経過したこの日。
超名門『第一帝都学園』のキャンパスには、合格発表の掲示板を見るために多くの受験生が集まっていた。
「司君、あった……! 司君の番号、あるよ!」
紀伊国屋優子が、自分のことのように弾んだ声を上げた。司の番号は、当然のように合格者の最前列に掲示されていた。
「優子ちゃん、ありがとう」
司は、完璧な優等生の仮面を被り、満面の笑みで答えた。
それから少し時間を置き、優子は祈るように両手を組みながら、自分の受験番号を探し始めた。極度の緊張で、彼女の表情はカチカチに強張っている。
司は、その震える小さな肩にそっと触れ、耳元で優しく囁いた。
「優子ちゃんなら、絶対に大丈夫だよ」
「……あっ」
次の瞬間、優子の瞳から大粒の涙が溢れ出した。
「あった……! 私の番号、あったぁっ!」
大きな声で叫んだ優子は、感極まって司の胸に勢いよく抱きついた。しばらくして我に返った彼女は、周囲の視線に気づいて顔を真っ赤に染め、慌てて体を離した。
「ご、ごめんっ、司君! 私、嬉しすぎて……」
「いいよ。僕も少し照れくさかったけど……すごく嬉しかった」
「これで、これからも司君と同じ学校に行けるね……!」
興奮冷めやらぬ様子で語る優子を見つめながら、司は内心で(心底どうでもいい。ほんとに、くだらない)と冷たい毒を吐き捨てていた。
周囲の合格者たちも、歓喜の声を上げて肩を組んでいる。
「おい、今夜は合格祝いでパーッと花火でも上げようぜ!」
そんな無邪気な男子生徒たちの声が、司の耳に届いた。
「……花火、かぁ」
司は空を見上げ、何か極上の退屈しのぎを思いついたかのように、三日月の瞳をしてニヤリと笑った。
帰り道。
「ねえ、司君……。今日は夕方まで、時間あるんだよね……?」
俯き加減で、優子が上目遣いに聞いてきた。相変わらず、下手くそで不器用な誘い方だった。
「うん、空いてるよ」
司が微笑んで応じると、二人はそのまま街の喧騒から姿を消した。
ある建物から連れ立って出てきた二人の間には、先ほどよりもさらに甘く、親密な空気が漂っていた。優子はまだ火照りが引かないのか、顔を真っ赤にしている。
司は優子の肩を引き寄せ、そっと耳元で囁いた。
「顔、熱いな。まだ照れてる?」
優子は慌てて首を振ろうとしたが、結局は小さく頷いて司の胸に顔を埋めた。さっきまでベッドの上で見せた素直な反応とは裏腹に、今はまたいつもの不器用な優子に戻っていた。それが司にはたまらなく愛おしかった。
二人はゆっくりと夜の街を歩き始めた。手を繋いだまま、指と指を絡め合って。街灯の光が優子の頰を優しく照らすたび、司は思わず微笑んでしまう。
「優子、さっきの……すごく可愛かったよ」
「もう……言わないで」優子は恥ずかしそうに声を震わせたが、握り返してくる手の力が少し強くなった。「でも……司も、優しかった。ずっと、こうしていたい」
司は立ち止まり、優子の額に軽く唇を寄せた。周囲の喧騒など気にも留めず、二人の世界だけがそこにあった。
「じゃあ、もう少し一緒にいようか。家まで送るよ。それとも……もう一回、どこか寄ってく?」
優子は上目遣いに司を見つめ、火照った頰を隠すように小さく笑った。
「うん……司の好きにしていいよ」
二人は再び歩き出し、夜の街に溶け込んでいった。さっきまでのぎこちない誘い方とは違い、今の優子の目は、はっきりと「もっと」と語っていた。
――約一時間後。
ある建物から連れ立って出てきた二人の間には、先ほどよりもさらに甘く、親密な空気が漂っていた。優子はまだ火照りが引かないのか、顔を真っ赤にしている。
「また明日、学校でね……!」
自宅の前で、名残惜しそうに手を振る優子。
「うん、また明日」
司は満面の笑顔で手を振り返し、彼女がドアの向こうに消えるのを見届けてから、ふっと冷酷な支配者の顔に戻った。
***
奈落の底、ディープ・エデン。
クロノスとしてアルカディア本部へ帰還した司を、執務室で待機していた赤城が出迎えた。
「クロノス様、お帰りなさいませ」
恭しく頭を下げる彼女の顎を指先で持ち上げ、クロノスは甘く、そして残酷に囁いた。
「赤城。今日はこの後、世界一素晴らしい『特大の花火』を一緒に見よう。……最後まで見届けたら、たっぷりとご褒美をやるよ」
その言葉の裏にある圧倒的な力と支配の気配に、赤城は頬を赤く染め、「……はい」とだけ震える声で答えた。
クロノスは執務机に座り、いつものように世界中の放送局とネットワーク網を一斉にハッキングした。
世界中のモニターがノイズと共に暗転し、不気味な仮面の男が映し出される。
『――全世界の諸君。私はクロノス。今日は皆様へ、平和の使者として、非常に前向きで大きな行動を起こすことを宣言しよう』
世界中の首脳が、またしても始まった悪魔の放送に息を呑んだ。
『これから30分以内に、この地球上から【すべての核ミサイル】がなくなります。憂いの種は消え去る。これで世界は、真の平和となるでしょう!』
一方的に通信が切断された瞬間、瑞穂国の司令室では神崎が発狂したように怒鳴っていた。
「あの悪魔……ッ! 次は一体、どうするつもりだ!!」
神崎は苛立ちのあまり、ギリギリと爪を噛み千切りながら巨大モニターを睨みつけた。
そして、クロノスの宣言通り『30分後』。
世界中の軍事衛星が、地球上のあらゆる場所で同時多発的に発生した「異常な熱源」を検知した。
それは、人類が自らの手で作り上げた絶望の火種。
世界各国の核ミサイル基地が一斉にシステムダウンを引き起こし、次々とその場で自爆を始めたのである。
発射サイロの中で轟音と共に起爆するもの。空へと飛び立ち、成層圏でまばゆい閃光を放って自壊するもの。あろうことか、標的を失い、隣国の敵ミサイル基地へと降り注いで相殺爆発を引き起こすもの。
たった30分の間に、地球上に存在していたすべての核ミサイルは、基地ごとこの世から完全に消滅した。
クロノスの言葉通り、核の脅威は「なくなった」。
しかし、その代償はあまりにも絶望的だった。
世界中のミサイル基地の周辺地域は、一瞬にして高濃度の放射能汚染地域へと変貌したのである。
瑞穂が進軍していた大星の領土も例外ではなく、致死量の死の灰が降り注ぐ中、瑞穂軍は侵攻を完全に停止し、全軍撤退を余儀なくされた。
さらに悲惨なことに、世界中の主要な穀倉地帯や農村部が放射能の直撃を受け、地球規模の食料危機が確定した。
瑞穂国だけは、空を覆う『超電導バリア』によって放射能の飛散から完全に守られていた。
しかし、それは同時に「完全なる密室」の完成を意味していた。外の世界が汚染されたことで、他国からの輸入は物理的に完全にストップ。頼みの綱であった蒼半島や蓬莱の地も、風に乗って流れてきた放射能によって汚染地域と化してしまったのだ。
世界は、一人の少年の暇つぶしによって、文字通り最悪の状態へと叩き落とされた。
***
その頃、瑞穂政府の地下防空シェルターでは、閣僚たちによる緊急の最高幹部会議が開かれていた。
「なんということをしてくれたんだ……! 諸外国からの輸入が完全にストップした今、我が国の食糧備蓄はもって5ヶ月が限界だぞ!」
「エネルギーはどうする!? 蒼半島からの資源ルートも放射能で完全に絶たれたんだぞ!」
絶望的な予測データが飛び交い、閣僚たちがパニックに陥りながら怒号を張り上げている最中――突如として、会議室のメインモニターがノイズと共に暗転した。
『――やあ、皆さん。随分と盛り上がっているみたいですね』
モニターに映し出されたのは、不気味な仮面を被った男、クロノスだった。
「クロノスゥゥゥッ!!」
防衛大臣をはじめとする閣僚たちが、血走った目でモニターを睨みつける。
「貴様のせいで我が国は完全に孤立した! これからどうするつもりだ、この悪魔め!!」
怒号が飛び交う中、上座に鎮座する大鷹宰相のホログラムだけが、静かに、そして重々しい口調で口を開いた。
「……騒ぐな。クロノス、お前が自ら姿を現したということは……この絶望的な状況に対する、何か『提案』でもあるのかね?」
クロノスはモニターの向こうで、ククッと喉の奥で嗤った。
『提案なんかではありませんよ。……ただの「決定事項」です。このデータを見てください』
瞬間、会議室のモニターに膨大な量の設計図と化学式、そしてプラントの構造データが投影された。
『私はこれを【ダグサの大釜】と名付けました。このプラントで合成する食糧の原材料は、国内の僅かな土壌でいくらでも育てられます。しかも、種を撒いてからわずか3ヶ月で収穫可能だ。この製造システムをフル稼働させれば、1億を超える国内の全人民に、毎日欠かさず完全な栄養素を持った食料を配給できる』
息を呑む閣僚たちを尻目に、クロノスは淡々と続ける。
『食糧難になる計算は、今の備蓄を考えると5ヶ月が限度。……私のダグサの大釜を受け入れるしか、生き残る道はないと思いますよ、大鷹宰相閣下。それに――』
クロノスはさらに別のデータをモニターに割り込ませた。
『エネルギー問題は、今極秘で改装中の戦艦【瑞穂武尊】に搭載した、水または海水のみで駆動する「超効率エンジン」を各発電所に応用することで完全に解決可能でしょう』
「な、なぜ……その極秘情報を知っている!?」
海軍大臣が、椅子から立ち上がりながら裏返った声で怒鳴った。瑞穂武尊の改装は、軍の最高機密であるはずだ。
『なぜって? 私が設計したんですよ。ただそれだけです』
クロノスはあっさりと答えた。軍の最高機密すら、彼にとっては自作のプラモデルに過ぎないのだ。
『私の決定に乗り、この国を存続させるかどうかは、私には関係ありません。ですが……どうぞ閣下、今この場でご決断ください。もしこの数秒でご決断がなければ、ダグサの大釜のデータは永遠に消去します』
「ま、待て! 安全性はどうなっているんだ! そんな得体の知れないものを国民に食わせるのか!」
「エンジンの出力テストも終わっていないんだぞ!」
パニックになり騒ぎ立てる閣僚たちを、大鷹が一喝した。
「……黙らんかッ!!」
大鷹のホログラムが、鋭い眼光でクロノスを見据える。
「……我々に選択の余地などない。この二つのプロジェクトを、至急進める以外に国が生き残る術はないな。……しかしクロノスよ、お前は我が国を救うためのこの計画を、ここまで完璧に計算した上で、今回の軍事バランス崩壊を強行したのかね?」
為政者として、悪魔の真意を測ろうとする大鷹。しかし、返ってきた答えはあまりにも常軌を逸していた。
『いえいえ。今日は高校の合格発表だったでしょう?』
「……は?」
『だから、お祝いに綺麗な打ち上げ花火を見たかっただけです。それ以外に理由なんかありませんよ』
あまりの狂気に、会議室が水を打ったように静まり返った。
国家の存亡も、数億の命も、彼にとっては「高校合格祝いの花火」のついででしかなかったのだ。
『基礎研究と実験はすでにすべて終わっています。そのデータも今送ったファイルに入っていますし、エンジンが良好なのはそちらでわかっていることですよね。なんせ、実は既に「完成」しているという情報を、我々アルカディアは掴んでいますから』
クロノスは冷酷なトーンに声を落とし、最後に釘を刺した。
『もし、途中で計画を変更したり、妙な真似をしましたら……すべてのデータを焼き尽くし、システムを暴走させますので、よろしくお願いいたします』
プツン。
一方的に通信が切断され、モニターがブラックアウトする。
残された瑞穂政府の中枢は、圧倒的な「神」の力を前に、完全なる屈服と絶望に包まれていた。
***
通信を切ったクロノスは、執務室の椅子に深く背中を預け、ふっと息を吐いた。
政府の連中が青ざめる顔を思い出すと、少しだけ愉快な気持ちになった。すべてが思い通りに動き、国家の生殺与奪の権すら完全に掌握した。
「さあ、赤城。ご褒美の時間だ。奥の特別室へ行こうか」
クロノスは、呆然と惨劇のモニターを見つめる赤城の手を引き、執務室の奥へと消えていった。
特別室に入るとエリートの赤城の顔は既に雌豚であった。クロノスを求める顔はエロスそのままであった。
クロノスはドアを閉めると同時に、赤城の顎を掴んで顔を上げさせた。彼女の瞳は既に蕩けきり、唇を半開きにして熱い吐息を漏らしている。雌豚のような卑猥な表情が、クロノスの胸に暗い悦びを掻き立てた。
「さあ、まずはその口で……ご褒美を味わってみろ」
赤城は跪くと、震える指でクロノスのズボンを下ろし、熱く脈打つ昂ぶりを解放した。柔らかな唇をそっと押し当て、熱く湿った口でゆっくりと包み込むように舌を這わせ、先端を優しく刺激しながら深く飲み込んでいく。ぬるぬると唾液を絡めた卑猥な音が部屋に響き、彼女の頰が淫らに凹んだ。
クロノスは赤城の髪を鷲掴みにし、腰を強く突き出した。喉の奥まで一気に押し込み、息もつかせぬ激しい動きで彼女の口を犯していく。赤城の目尻に涙が浮かび、涎が顎を伝って滴り落ちる。それでも彼女は喉を鳴らして必死に受け入れ、雌豚のような喘ぎを漏らしながらさらに深く飲み込んでいった。
やがてクロノスは彼女を引き起こし、ベッドに押し倒した。第一の体位で、正面からゆっくりと彼女の秘められた柔らかな部分に熱棒を沈めていく。赤城は甘く高い声を上げ、背を反らせて腰をくねらせた。
「はあっ……クロノス様……もっと、奥まで……」
二度目の体位変更。クロノスは赤城を抱き上げ、彼女を上にして跨がせた。赤城が自ら腰を振り、激しく上下に動く。汗に濡れた肌がぶつかり合い、ねちゃねちゃと淫らな水音が部屋を満たす。彼女の胸が揺れ、雌豚のような顔がさらに歪んでいく。
三度目の体位変更で、今度は四つん這いにさせ、後ろから深く突き上げる。赤城の腰を掴み、獣のような勢いで最奥を抉る。彼女はシーツを握りしめ、涎を垂らしながら喘ぎ続けた。
そして四度目の体位変更。クロノスは赤城を立たせ、壁に両手をつかせて後ろから覆い被さった。立ちバックの体勢で、強烈に腰を打ち付ける。赤城の脚がガクガクと震え、甘く切ない悲鳴が止まらない。
「いくぞ、赤城……全部、受け取れ」
クライマックスでクロノスは最奥まで深く突き刺し、大量の熱い白濁を彼女の中に放出した。中出しの瞬間、赤城は全身を激しく痙攣させ、雌豚のような恍惚の声を上げて達した。
クロノスがゆっくりと引き抜くと、信じられないほどの量の精液が彼女の秘められた部分から溢れ出し、太ももをねっとりと伝って垂れ落ちていった。白く濁った跡が両脚を汚し、床にまでぽたぽたと滴り落ちるほどだった。赤城は膝を崩し、壁に寄りかかりながら息を荒げ、満足げに目を細めていた。
(まぁまぁ派手な花火だったけど……)
扉が閉まる直前。クロノスの瞳には、いまだ満たされない圧倒的な虚無が宿っていた。
(所詮は盤面の上の出来事だ。……やっぱり、まだ退屈だな)




