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第46話:開戦のベルと、盤上の偽プートフ

「――それでは、始め!」

試験監督の合図と共に、静まり返った教室に受験開始のベルが鳴り響いた。

一斉に問題用紙をめくる学生たちのカリカリという鉛筆の音が、張り詰めた空気を震わせる。

そして全く同時刻。瑞穂の南方の海域では、別の「開始の合図」が轟音と共に放たれていた。

イージス艦の垂直発射機(VLS)から火柱が上がり、無数の巡航ミサイルが白煙を引いて空へ牙を剥く。瑞穂による蓬莱への電撃侵攻作戦の開始である。

大義名分は「蓬莱国内で蜂起した親・瑞穂派クーデター部隊への軍事的支援」。

しかし、攻撃を受けた蓬莱政府の総統府は、完全にパニックに陥っていた。大星たいせいが分裂した後、蓬莱政府はむしろ瑞穂に対して友好的な外交努力を続けてきたからだ。「なぜ、瑞穂が我々を撃つ!?」という総統の悲痛な叫びは、圧倒的な暴力の前にかき消された。

世界の海軍兵力は、すでにクロノスの手によってあらかた海に沈められている。制海権は文字通り「無人」であり、瑞穂の艦隊は無傷のまま蓬莱近海を制圧した。最新鋭の戦闘機部隊が瞬く間に制空権を奪取すると、強襲揚陸艦から次々と瑞穂の上陸部隊が吐き出されていく。

強化装甲アーマード』と呼ばれる漆黒のパワードスーツを身に纏った歩兵連隊と、地鳴りを上げる戦車隊。局地的な抵抗はあったものの、瑞穂軍の圧倒的な物量の前に蓬莱軍は為す術もなく蹂躙されていった。

彼らは瞬く間に首都へと進軍し、あらかじめ神崎が工作を仕掛けていたクーデター部隊と合流。開戦からわずか数時間という歴史的スピードで、蓬莱の首都は陥落した。

名目上は「独立国家の維持」を掲げているが、実質的に蓬莱はこの瞬間、瑞穂の完全な植民地(属国)へと成り下がったのである。

***

「……終了。鉛筆を置きなさい」

受験終了のベルが鳴った。

周囲の学生たちが大きなため息をつき、疲労困憊で机に突っ伏す中、司だけは涼しい顔で窓の外をぼんやりと眺めていた。

彼にとって、答えが全て分かりきっているテストの時間ほど、長く、退屈で、無駄なものはない。

会場の外に出ると、マフラーに顔を埋めた紀伊国屋優子が小走りで駆け寄ってきた。

「司君! どうだった?」

「自分のできるベストを尽くしたよ。優子ちゃんは、ベストを尽くせた?」

司が優等生らしく微笑みながら問い返すと、優子はパッと花が咲いたような笑顔を見せた。

「うんっ! 司君が作ってくれた模擬問題、すごく役に立ったの。だって、ほとんどの問題がそのまま出題されてたんだよ! 司君って、もしかしてエスパーなの!?」

上機嫌で尋ねてくる優子に、司は完璧な笑顔を向ける。

「ははっ、エスパーかもねぇ」

(……当たり前だ。教育委員会のサーバーをハッキングして、今年の問題データをそのまま引っ張ってきたんだからな)

無邪気に喜ぶ優子を家まで送り届けた後、司はすぐさまディープ・エデンのアルカディア本部へと向かった。

執務室の重厚な扉を開けると、今日の待機当番である乃亜がパッと顔を輝かせた。

「クロノス様ぁ……お待ちしておりました」

甘ったるい声を出す乃亜に、クロノスは冷徹な声で状況を問う。

「蓬莱の件はどうなった?」

乃亜はすぐさま業務の顔に切り替わり、手元の端末を操作して巨大モニターに戦闘データを投影した。

瑞穂軍の進軍ルート、被害状況、制圧までのタイムライン。乃亜によって完璧に整理されたスライドが次々と切り替わっていく。

「なるほどね。神崎と大鷹のじいさん、なかなかやるじゃないか。まぁ、概ね俺の計算通りってところだね」

クロノスはモニターから視線を外し、乃亜の頭をポンと撫でた。

特別室の重厚な扉が静かに閉まる音が響いた瞬間、乃亜の全身が微かに震えた。クロノスは彼女の肩から腕を離さず、ゆっくりと室内の中央へと導いた。部屋の空気は革と金属の匂いが混じり、薄暗い照明の下で壁一面に並ぶ道具たちが妖しく光を反射している。鎖の束、革の拘束具、様々な形状の鞭やパドル、電気刺激の機械、そして彼女が最も愛する吊り具や固定台――すべてが、乃亜の深層の欲望を満たすために用意されていた。

「ここだよ、乃亜。今日は存分に味わわせてやる」

クロノスが低く囁くと、乃亜はただ小さく頷いた。普段の彼女は無口で、感情をほとんど表に出さない。だがこの部屋に入った途端、瞳の奥に隠れていた獣のような熱がゆっくりと浮かび上がってくる。クロノスはまず彼女の制服を丁寧に、しかし容赦なく剥ぎ取った。布地が肌から離れるたび、乃亜の白い肌が露わになり、すでに体は熱を帯び、太ももには薄い蜜が光っていた。

最初に選んだのは、革製の首輪と手枷足枷のセットだった。クロノスは乃亜の首に首輪を巻きつけ、バックルをかちりと留めた。次に両手首を背中で固定し、足首も少し開いた状態で鎖で繋がる。乃亜の体は自然と前屈みになり、腰が突き出される格好になった。彼女の呼吸がすでに荒くなり始めていたが、まだ声は出さない。ただ、唇をきつく噛みしめ、瞳を潤ませている。

クロノスは彼女の後ろに回り、指先で背中をゆっくりと撫で下ろした。突然、革の鞭が空気を切る音が響き、乃亜の背中に第一撃が叩き込まれた。パシッ、という乾いた音。乃亜の体がびくんと跳ね、喉の奥から小さな「んっ……!」が漏れた。それはまだ控えめな反応だったが、クロノスは知っていた。これが始まりに過ぎないことを。

「もっと声を出せ。今日はずっと聞かせてやる」

二撃目、三撃目。鞭は乃亜の背中から腰、太ももへと正確に振り下ろされる。肌が赤く腫れ上がり、細かな線が浮かび上がるたび、乃亜の口から喘ぎが少しずつ大きくなっていく。

「あっ……はあっ……! んんっ、あぁ……!」

鞭の痛みが甘い痺れに変わり、乃亜の体は熱を帯び始めた。クロノスは鞭を一旦置き、今度はパドルに持ち替えた。より重く、広い面積で叩く道具だ。尻の丸い部分を狙い、思い切り振り下ろす。パンッ! という音が部屋に響き、乃亜の体が大きく揺れた。

「ひゃあぁんっ! あっ、あぁぁ……! もっと……もっとぉ……!」

ここで初めて、乃亜の声がはっきりと大きくなった。普段の無口さが嘘のように、彼女の喉から次々と淫らな喘ぎが溢れ出す。クロノスは満足げに微笑み、パドルを何度も叩きつけた。左の尻、右の尻、交互に。乃亜の白い肌は真っ赤に染まり、熱を帯びて震えている。彼女の秘部からは透明な蜜が糸を引いて滴り落ち、床に小さな水溜まりを作り始めていた。

「はあっ、はあっ……! クロノス様……あぁんっ! 痛い……でも、気持ちいい……! んふぅぅっ!」

乃亜の言葉は途切れ途切れだが、興奮の度合いがはっきりと伝わってくる。クロノスは彼女の髪を掴み、後ろから耳元で囁いた。

「まだ序の口だ。次はこれだ」

彼は乃亜の体を吊り具に固定し、両足を大きく広げた状態で宙吊りにした。完全に無防備な姿勢だ。ここで電気刺激の機械が登場した。微弱な電流を流すパッドを、乃亜の内ももや下腹部、腰の周囲に貼り付ける。スイッチを入れると、低い振動と共に電気が走る。

「ひゃあぁぁっ! あっ、あぁぁんっ! びりびりする……あひぃぃんっ! 気持ちいい……気持ちいいよぉっ! んふぅぅぅっ、はあぁぁんっ!」

乃亜の声はもうほとんど叫びに近かった。電気が強さを増すたび、彼女の体が跳ね、鎖がじゃらじゃらと鳴る。蜜が床にぽたぽたと落ち、部屋中に彼女の匂いが充満していく。クロノスは鞭で軽く内ももを叩きながら、電流を調整した。弱→強→弱を繰り返し、乃亜の感覚を狂わせる。

「あっ、あっ、あぁぁぁっ! だめ……だめぇっ! イッちゃう……イッちゃうよぉっ! ひゃうううんっ! あひぃぃぃっ!」

彼女は何度も頂点に達しかけ、そのたびにクロノスが刺激を止めて焦らす。乃亜の瞳は完全にトロトロに溶け、口からはよだれが垂れ、喘ぎ声は止まらない。

「はあっ、はあっ……クロノス様……お願い……もっと虐めて……もっと壊してぇ……! んんんっ、あぁぁんっ! あひゃあぁぁっ!」

次にクロノスはロウソクを灯した。熱い蝋を乃亜の背中、下腹部、太ももに滴らせる。熱い痛みが走るたび、乃亜はさらに高く叫んだ。

「熱いっ! あぁぁんっ! 熱くて……気持ちいいっ! ひゃあぁんっ、はうううっ! もっと落として……もっとぉっ!」

蝋が固まり、白い肌に赤い線を描く。クロノスは蝋を剥がしながら指で彼女の敏感な部分を刺激し始めた。乃亜の腰が激しく動き、鎖が激しく鳴る。

「あっ、あっ、あひぃぃっ! 指……指が……おかしい……おかしくなるぅっ! んふぅぅぅっ、はあぁぁんっ! イク……イッちゃう……!」

何度も何度も焦らされ、乃亜の体は汗と蜜と涙でぐしょぐしょになっていた。クロノスはようやく彼女を吊り具から下ろし、今度はベッドのような台に四つん這いに固定した。尻を高く突き出させた状態だ。

ここで本格的な後戯の準備に入る。クロノスは自身の昂ぶりを抑えながら、乃亜の秘部にゆっくりと指を沈め、内部を掻き回した。彼女の内壁はすでに熱く濡れ、収縮を繰り返している。

「はあぁぁんっ! あっ、あぁぁっ! 奥……奥が……! んんんっ、はひぃぃっ! もっと……もっと深くぅっ!」

指が二本、三本と増え、激しく動くたび、乃亜の喘ぎは部屋中に響き渡った。彼女の声はもう完全に獣のそれだった。普段の無口な乃亜とは別人のように、興奮と変態性が剥き出しになっている。

「だめっ……だめぇっ! 壊れちゃう……壊れちゃうよぉっ! あひゃあぁぁんっ! イクっ、イクゥゥゥっ!」

何度目かの頂点で、乃亜の体が激しく痙攣した。クロノスはそこで初めて自身のものを彼女の奥深くに沈めた。熱く締まる内部が彼を包み込む。

「はあぁぁぁんっ! 入ってきた……入ってきたぁっ! あっ、あぁぁんっ! 動いて……激しく動いてぇっ! んふぅぅぅっ、はひぃぃぃっ!」

クロノスは容赦なく腰を振り、激しい律動を始めた。乃亜の喘ぎは頂点に達し、ほとんど意味をなさない叫び声に変わる。

「あぁぁんっ! あっ、あっ、あひゃあぁぁっ! 深い……深すぎるっ! イッく……またイッくぅっ! ひゃうううんっ、はあぁぁぁっ!」

ピストンが速くなり、部屋は二人の肉がぶつかる音と乃亜の絶え間ない喘ぎで満たされた。彼女は何度も何度も達し、体を震わせ、涙を流し続けていた。クロノスは限界まで彼女を追い込み、最後に引き抜いて彼女の顔の前に位置を変えた。

「出して……顔に……全部かけてぇ……! あぁんっ!」

熱い白濁が乃亜の顔に勢いよく放たれた。彼女は目を閉じ、口を開け、恍惚とした表情でそれを受け止めた。最後の喘ぎが小さく漏れる。

「はあ……はあ……あぁ……んっ……」

乃亜の体はぐったりと台の上に崩れ落ち、満足げな笑みを浮かべていた。普段の無口さが完全に崩壊した、興奮と変態の極みを見せつけるような時間だった。

「よくここまで短時間でデータをまとめた。偉いぞ、乃亜」

「っ……! もったいないお言葉です……!」

乃亜は頬を真っ赤に染め、嬉しそうに深々と頭を下げた。

それから数時間後。乃亜が収集した戦況データを元に、クロノスは次なる盤面の準備を終えていた。

彼はキーボードを叩き、瑞穂の中枢である神崎と大鷹の極秘通信網へと強制的に割り込んだ。

『……ッ!? 貴様、クロノスか!』

神崎の怒鳴り声と、大鷹の重い息遣いがスピーカーから漏れる。

「お二人とも、素晴らしい戦果です。私はこの国家を心から誇りに思いますよ。流石、お二人が中心となって作り上げた瑞穂だ、と感服いたしました」

クロノスは、たっぷりの皮肉と嘲笑を込めて拍手を送った。

「そこで、私からも瑞穂の輝かしい未来に対して『支援』を差し上げましょう。……これから、大星の主要な軍事基地は、羅州の【ウラジーミル・プートフ】の命令によって、ほぼ全基地が壊滅状態になります」

『……な、何だと!?』

神崎が絶句する。

「修復には1年以上かかるほどの徹底的な打撃です。これで、瑞穂の次なる大星への侵略も簡単になるでしょう? それでは、良き御武運をお祈りいたします」

クロノスは一方的に通信を切断した。

「司……ッ! 余計な真似を……ッ!!」

神崎の血を吐くような怒号が執務室に虚しく響く。ベッド上の大鷹は、国家が己の制御を完全に離れてしまった絶望に、ただ静かに目を閉じることしかできなかった。

クロノスが通信を切った、その30分後。

羅州の絶対的指導者であるウラジーミル・プートフが、全世界に向けて緊急のビデオ声明を発表した。

『――我が国は、これまでの大星の不穏な行動に対し、断固たる軍事的制裁を【10分後】に実行する。これは自衛のための鉄槌であり、領土拡大の意志はない』

冷酷なプートフの顔が、全世界のモニターで堂々と宣戦布告を行った。

しかし、この会見に誰よりも驚愕していたのは、他ならぬプートフ自身であった。

「なんだこれは!? 私はこんな映像を撮影した覚えはないぞ!!」

クレムリン宮殿で激昂したプートフは、即座に訂正の会見を開くよう部下に命じた。しかし、羅州全土のテレビ・ネットワーク、ならびに軍事通信網はすべて何者かによってハッキングされ、完全に制御不能に陥っていたのである。

大統領の「命令」という絶対のトリガーをハッキングによって捏造された羅州軍は、偽のシステム指令に従い、ミサイルや無人戦闘機ドローンの群れを次々と発射した。

目標は、隣国である大星の主要軍事基地。

両国の首脳部が「何が起きているんだ!?」とパニックに陥り、ホットラインでの連絡を試みるも、通信ケーブルはすでにクロノスによって物理・ソフトウェアの両面から遮断されていた。

弁明の機会すら与えられないまま、無数のミサイルが大星の軍事施設へと降り注ぐ。轟音と爆炎が大地を揺るがし、クロノスの宣言通り、大星の防衛能力はわずか数十分で完全に壊滅したのである。

「司の野郎ォォォォッ!!」

瑞穂の司令室で、神崎が机を叩き割らんばかりの勢いで怒り狂っていた。

自国の周辺国が、何者かの手によって勝手に潰し合わされている。瑞穂が漁夫の利を得る形にはなるが、これはもはや「戦争」というルールの範疇を超えた、悪魔の遊戯であった。

一方、アルカディア本部の執務室。

世界中が恐怖と混乱のどん底に突き落とされる様をモニターで眺めながら、クロノスは頬杖をつき、うっすらと微笑んでいた。

「ふーん……」

燃え上がる大星の軍事基地。機能不全に陥った大国。

「……まぁ、これで少しは面白くなるかな」

彼にとって、第3次世界大戦の引き金すら、退屈な日常のささやかなスパイスに過ぎなかったのである。

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