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第28話:神の凱旋と、ゴミ溜めに咲く黄金の淫花

数時間後。クロノスたち第一部隊の生き残りは、蒼国の首都である『蒼都そうと』の軍事基地へと帰還した。

 ヘリから降り立った俺を出迎えたのは、鼓膜が破れんばかりの熱烈な大歓声と、割れんばかりの拍手だった。絶望的だった北蒼の最大要塞と首都を、たった一時間足らずで単騎陥落させた奇妙な仮面の男は、一夜にして蒼国と瑞穂の「絶対的な救世主ヒーロー」に祭り上げられていたのだ。

(……いい加減にしてくれよ。うるせぇし、めんどくさいなぁ)

 俺は内心で盛大なため息をついていた。

 蒼国の大統領からは涙ながらに両手で握手を求められ、瑞穂防衛軍の総司令官からはこれ以上ないほどの最大級の賛辞と敬礼を送られた。だが、世界をひっくり返すほどの偉業も、彼らの薄っぺらい称賛も、ステータスがカンストした俺にとっては「ただの退屈な茶番」でしかなかった。

「クロノス特務二佐! この後、ささやかですが貴方のための祝賀会を――」

「――お断りします」

 俺はすかさず、冷たく素っ気ない声で大統領の誘いを遮った。

「私は防衛軍ではなく、諜報局の人間です。北蒼に潜む残党やスパイ探しという『次の任務』が残っています。それに……藤堂副部隊長のお力と尊い犠牲がなければ、ここまでの戦果を挙げることは不可能でした。私は瑞穂への帰還を命じられておりますので、これで失礼いたします」

 そう言って踵を返すと、周囲の兵士や民衆たちは静まり返った。

 だが、民衆という生き物はとてつもなく馬鹿である。彼らは勝手に『英雄クロノスは、藤堂副部隊長の死に深い悲しみを感じており、祝賀会などで浮かれる気になれないのだ』と、美しい美談へと脳内変換してくれたのだ。

「なんて……なんて気高く、仲間思いの方なのだ……!」

「戦場では無慈悲な鬼神だが、その仮面の下には、人として温かい心を持っていらっしゃるんだ……ッ!」

 司令官に帰還用ヘリの準備を命じ、俺はパイプ椅子に深く腰掛けて、うつむきながらじっと動かずに待機していた。

 周囲の兵士たちは、その姿を見て「仮面の下で、副部隊長のために静かに涙を流しているのだ」と勝手に解釈し、誰も声をかけず、神聖なものを見るような目で俺を見守っていた。

(……ふわぁ。暇すぎて眠くなってきた……)

 実際のところ、俺はあまりの退屈さに、仮面の下で半目をあけて『ただ居眠りをしていただけ』だったのだが。

 やがて到着したヘリに乗り込み、俺は盛大な歓声と涙の敬礼に見送られながら、半島を後にした。

 ***

 瑞穂の帝都。国家情報省、諜報局の屋上ヘリポート。

 夜風が吹く中、ヘリを降りた俺を出迎えたのは、局長の神崎と、その側近である村上だった。

「……随分と、派手にやってくれたようだな」

 村上が、呆れたような、それでいて底知れないものを見るような目で言った。

「まぁ、いいでしょう? そちらの諜報局の目下の敵だった葦原所長を『国家反逆罪』で合法的に排除できたんですから。それに、首都も要塞も消滅した半島は、もう自力での復興は不可能です。完全に瑞穂に泣きつくしかなくなる……諜報局として、一番美味しいシナリオが完成したじゃないですか」

「……まぁな」

 俺の完璧な盤面操作に、村上は短く同意するしかなかった。

 神崎が静かに歩み寄り、俺の前に小さな桐箱を差し出した。

「お前の『友達』の、御堂司君も大活躍だったそうだな。……これは、今回の司君への国家勲章だ」

「ありゃ。こりゃまた、気が利くねぇ」

 俺は呆れ顔で桐箱を受け取った。十五歳の中学生を最前線に送った事実を隠蔽するため、「安全地帯での多大な後方支援の功績」として、表向きの『御堂司』に勲章を与えるという腹積もりだろう。

「……今回の件で、よく分かったよ」

 神崎は、ひどく疲労した、諦観の混じった声で言った。

「貴様を、我々の武力や頭脳で排除することなど不可能だとな。我々諜報局にできるのは、ただお前のその圧倒的な暴力を『利用』することだけだ。……今日の任務は終わりだ。帰りたまえ」

 そう言い捨てて、神崎は足早に執務室へと戻っていった。

「なんだよ。偉業を成し遂げた英雄に向かって、無愛想なおっさんだねぇ」

 俺が肩をすくめると、村上が低い声で睨みつけてきた。

「……お前が、佳奈さんを元に戻せばいいだけの話だ。局長も、あんな態度は取らない」

「ははっ」

 俺は鼻で嗤った。

「あんな見事に調教された雌豚の洗脳を解いてどうするんですか。そんなことしたら、また俺専用の『極上の肉便器』に戻るだけですよ?」

 ギリッ、と村上が奥歯を噛み締める音を背中で聞きながら、俺も屋上を後にした。

 ***

 クロノスから『御堂司』の仮面へと被り直し、俺はそのまま紀伊国屋優子の家へと向かった。

「司くんっ……!!」

 玄関を開けるなり、目を真っ赤に腫らした優子が、弾かれたように俺の胸に飛び込んできた。

「ただいま、優子ちゃん。ほら、お国のために、少しは役に立てたよ」

 俺は完璧な爽やかスマイルを作り、名前の刻まれた国家勲章を見せてやった。だが、優子はそんな名誉の結晶には目もくれず、俺の制服を強く握りしめた。

「そんなもの、どうだっていい……っ! 生きててよかった……本当に、無事でよかったぁ……ッ!」

(……こいつら、マジでどこからこんなに涙が出るんだよ。水道管でも繋がってんのか?)

 しゃくり上げて泣き続ける優子の頭を優しく撫でながら、俺は心底どうでもいいことを考えていた。

 そして、彼女の涙に濡れた、純粋で一切の汚れを知らない桜色の唇に、俺はそっと自身の唇を重ねた。

「んっ……」

「もう泣き止んで。俺は、ずっと優子ちゃんのそばにいるから。大丈夫だよ」

 甘い声で囁くと、優子は顔を限界まで真っ赤にして、恥ずかしそうに下を向いたまま固まってしまった。

「明日も、一緒に学校に行こうな」

 俺はもう一度、その純潔な唇に軽くキスを落とし、優子の家を後にした。

 ――だが。

 あの血みどろの戦場と蹂躙劇の後に、こんな中学生の「おままごと」のような純愛ごっこでは、俺の昂った神経と、血管を駆け巡る暴力的な衝動は到底満たされるはずもなかった。

(……物足りねぇ。少し、強めの抜きが必要だな)

 俺は帰路の足取りを変え、いつもの『ゴミ箱』へと向かった。

 ***

 星野くるみの住むアパートの扉を開けると、そこはすでに「人間の住処」とは呼べない異界と化していた。

 床という床は、積み上げられたコンビニ弁当の空き箱や脱ぎ散らかされた衣服、得体の知れないゴミ袋で完全に埋め尽くされ、足の踏み場すら一ミリも存在しない。むせ返るような生ゴミの腐臭と、安物の香水、そして充満した『濃厚な雌の発情した匂い』が混ざり合い、豚舎すらも生易しい、吐き気を催すほどの惨状だった。

「あぁっ……司くん……っ! 司くん、司くんっ……♡」

 その腐海のようなゴミの山の中央。

 まるでそこだけがスポットライトを浴びたように、一糸まとわぬ黄金色の裸身を横たえ、豊満な胸を揺らしている『獣』がいた。星野くるみだ。

「……相変わらず、ひでぇ匂いと部屋だな、雌豚」

「へへっ……司くんの匂いがないと、寂しくて……おかしくなっちゃうの……っ」

 くるみは舌足らずの甘い声を出しながら、ゴミの山を這いずるように進み、俺の足首にすがりついてきた。

 だが、今の俺は戦場の血の匂いを引きずっている。いつものように優しく相手をしてやる気など、微塵も起きなかった。

「……邪魔だ」

 俺はすがりつくくるみの豊かな金糸の髪を無造作に鷲掴みにすると、そのまま強引に引きずり倒し、腐臭の漂うゴミの山のド真ん中へと力任せに放り投げた。

「きゃああっ!?」

 ガサガサとゴミ袋が潰れる不快な音とともに、彼女の黄金色の裸体が汚れた床に叩きつけられる。弁当の空き箱や食べ残しの汁が彼女の美しい肌を汚すが、俺は一切の容赦なく、その上に馬乗りになった。

「司、くん……っ? 今日の司くん、なんか、すっごく怖、くて……」

「黙れ。お前はただのゴミ箱だ。俺の苛立ちを全部飲み込んで、発情してりゃいいんだよ」

 俺は怯えるようなくるみの言葉を冷酷に遮り、彼女の首筋に獣のように噛みついた。

「ひぎぃっ!? あ、痛っ、痛いぃっ……!」

 キスマークなどという生易しいものではない。明確な痛みと血の味を伴うほど強く牙を立て、彼女の黄金色の滑らかな肌を無惨に汚していく。俺のカンストした力が、彼女の華奢な手首をギリギリと折れんばかりに押さえつけ、逃げ場を完全に奪う。

「痛いか? なら、もっと鳴けよ」

「あぁっ……はひぃっ……痛い、痛いのに……司くんが乱暴にしてくれるの、すっごく……ゾクゾクするぅっ……♡」

 痛みに顔を歪めながらも、くるみの瞳は極限のマゾヒズムに打ち震え、完全にトランス状態へと堕ちていった。俺という絶対的な暴力に蹂躙されることに、彼女の身体は歓喜の震えを止められないのだ。

 俺は彼女の豊満な双丘を、内出血の痕が残るほど荒々しく揉みしだき、先端の尖った果実を指の腹で執拗に、引きちぎるような強さで弾き上げた。

「あぁっ! そこっ、壊れちゃうっ! 司くんの手、最高ぉ……っ! もっと、もっと私をぐちゃぐちゃにしてぇっ!」

 くるみは自ら大きく両足を開き、すでに愛液で限界まで濡れそぼった秘所を俺の前に曝け出した。

 腐臭漂うゴミの海の中で、無惨に汚され、痛めつけられながらも快楽に喘ぐ女。この極限の背徳感と不潔さが、俺の血管を駆け巡る戦場の苛立ちを、最高に満たしてくれた。

「……死ぬ気で受け止めろ」

 俺は限界まで昂った剛剣を、彼女の深く熟れた蜜壺へと、一切の慈悲もなく、杭を打つような暴力的な力で叩き込んだ。

「ひぎぃぃぃぃぃぃっ!! 奥ぅっ! 司くんの、奥まで裂けちゃうぅぅっ!!」

 鼓膜を打つような破廉恥な水音が、静かな夜のアパートに響き渡る。

 俺が殺意すら混じるほどの激しさで腰を打ち付けるたび、くるみの黄金色の肉体はゴミの山の上で跳ね上がり、彼女の口からは言語にならない甘く濁った絶頂の喘ぎ声が絶え間なく垂れ流された。

 戦場で神を気取っていたバケモノどもを潰した時よりも、はるかに色濃い支配の悦び。俺は手加減を忘れ、彼女の肉体が壊れる一歩手前まで、その淫靡なゴミ溜めの中で狂おしいほどの暴力的な情事を貪り続けたのだった。

 ***

 毒を完全に抜き去り、完璧な「御堂司」の精神状態へと戻った俺は、ようやく本来の自宅のドアを開けた。

「司っ……!!」

「おお、司……! よく無事で帰ってきた……ッ!」

 玄関で待っていた父と母は、俺の顔を見るなり大粒の涙を流し、力強く抱きしめてきた。

「ただいま、父さん、母さん。心配かけてごめんね。でも、ほら」

 俺が胸を張って国家勲章を見せると、父は声を震わせて喜び、母も涙を拭いながら誇らしげに微笑んだ。

「すごいわ、司……! あなたは私たち家族の、そして瑞穂の誇りよ!」

「ああ、本当によく頑張ったな! さあ、冷めないうちに夕飯にしよう!」

 温かい手料理が並ぶ食卓。

 そこには、血みどろの戦場も、狂った強化人間も、ゴミ溜めの情事の話題も一切存在しない。ただ、優秀な息子が国のために立派に働き、無事に帰ってきたことを喜ぶ、絵に描いたような平和な『一家団欒』だけがあった。

(……あぁ、本当に。俺の人生は、完璧で、退屈だ)

 俺は満面の笑みで母の作ったハンバーグを口に運びながら、誰も知らない絶対者の孤独と退屈を、静かに噛み締めていた。

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