8話 突然の事故
~~ヘイロンside~~
「ねぇーヘイロン起きてよー!」
リュカの声が聞こえてくる。
俺は薄く目を開けて、外の様子を見た。
外は薄暗く、空にはまだチラチラ星の光が見えている。
「まだ夜じゃねぇかよ……もうちょっと寝かせやがれ……」
「ヘイロンだけだよー?起きてないの」
「俺は二度寝って言う日課があるんだよ……」
俺はそう言ってから目を閉じて、二度寝に入ろうとした。
「うー……」
「仕方ないよ、ヘイロンはもうおじさんだから」
「誰がだ!」
俺は、ラルナの発言につい反応してしまった。
「あ!起きた!」
リュカは尻尾を振って、目を潤わせて俺を見てきた。
「んだよ、そのつぶらな瞳はよぉ……」
「リュカは遊んで欲しいんだって」
「なんでまた俺がそんな面倒くさい事を……」
「だって……もうすぐ居なくなっちゃうじゃん……」
リュカは振っていた尻尾を止めて、ダラーっと垂らした。
……はぁ……しかたねぇ……
「何したいんだ?」
「遊んでくれるの!?」
「しかたねぇからな……」
「やったー!!」
「良かったね!リュカ!」
リュカとラルナはお互いを見合ってはしゃいでいる。
はぁ……なんでこいつらは朝からこんなに元気なんだ……
俺は眠りで硬くなっている体を伸ばしてから、巣の外に出た。
「じゃあじゃあ!何する!」
「疲れそうなのはパスな」
「じゃあ追いかけっこ!」
「お前俺の話聞いてたか?」
「良いじゃん。やってあげなよヘイロン」
「……ダメなの…?」
リュカは、再び尻尾をダラーっと垂らして、子犬のような目でこちらを見てきた。
「……ぅ……」
こりゃ……子犬っつか、死にかけた雀を見てるくらい破壊力あるな……死ぬ前の最後のお願い的な……
「わかったよ……」
「やったー!」
垂れていた尻尾が振れ始める。
可愛い奴だな……
「じゃあヘイロン鬼ね! しばらくはまっててよ!後、空飛ぶのは無しね! ラルナ行こう!」
リュカはそこまで早口に言うと、ラルナを背中に乗せて森の中に消えていってしまった。
前言撤回だ……なんも可愛くねぇ……
つか、普通に見失いそうで怖いな。
まぁ、とりあえず待つか。
俺はその場に伏せて、ボーッ……と海と空の間を見つめた。
螭と蟠を壊滅させた奴ら……いったいどんな奴なのか……
まだ、なんもわかってねぇが大丈夫なのか?
…………
まぁ……どんな奴だろうが、さっさと終わらさねぇとな……
脳裏に、ラルナの母の顔が浮かぶ。
ラルナの為にも……その母親の為にも……
…………
最近、いつもこれだ……
なにか時間の隙があればその事ばっか考えちまう。
まえだったら、他人の事を思うなんて事しなかったんだけどな……
あれ以来……
じじいも面倒くせぇの押し付けてきたな。
「さてと、そろそろ良いか」
~~ラルナside~~
「ちょっとリュカ! あんまり離れすぎないでよ! 迷子にならない程度にね!」
「わかってるよ!」
リュカはそう言いながら、凄いスピードで森の奥深くに入っていく。
わかってるなら良いけど……
……ヘイロン……見つけられるかなぁ?
これじゃあ、追いかけっこと言うより隠れんぼだよね……
「とっておきの場所があるんだ! そこに隠れよう!」
本人も隠れるつもりだし……
まぁ、楽しそうだから良いけどね。
「もうすぐ着くから楽しみにしててね!」
「うん!楽しみにしてる!」
私はそう言ってリュカの背中を撫でた。
指に柔らかい銀色の毛が絡む。
多分、汚れてなければもっと綺麗なんだろうなぁ……
なんかもったいない。
私は、リュカに触れながらそう思った。
「あ!見えてきた!」
リュカのその声に、私は前を向いた。
あそこだけ木がない……
リュカは、その木がない部分に入ると、足を止めた。
「ね!綺麗でしょ!」
目の前には、大きな円形の水たまりがあった。
水たまり?
私はそれが気になり、リュカから降りて、その水たまりのような物に近づいた。
「ぅわ……!……すごい」
「でしょ!」
その水たまりは、驚くほど透明で、その先の地面がくっきりと見ることができる。
それのおかげで、この水たまりの深さが容易に理解することができた。
多分、私の体簡単に入っちゃうよね……これ……
なんでこんな事が起きるんだろう……
「ここの水ね! すごく綺麗だから飲んでも大丈夫なんだよ!」
リュカはそう言って水たまりの水を飲み始めた。
そう言えば私も喉乾いてたんだった。
ちょっと飲もうかなぁ……
私は手で器を作り、水を掬った。
なんだろう……すごく軽い……
水を口に運ぶと、驚くほど綺麗に喉を通ってくれた。
「美味しい……」
「でしょ!!」
リュカは一度顔を出してそう言うと、再び顔を水たまりに突っ込んだ。
でも、なんでこんな風になってるんだろう……
不思議な水だなぁ……
「ん!?」
「え、どうしたの?リュ……」
私がそう言おうとした瞬間に、リュカは私にタックルをしてきた。
「痛っ……!」
私は地面に腰を打ち、その痛みで顔を歪めた。
「ちょっと!なにして……」
私は、上に乗っているリュカを見て絶句した。
「大丈夫……?ラルナ……」
そう言ったリュカの後ろ足の太腿からは、血が流れていた。
「リュ……」
私は、リュカ!……と叫ぼうとしたが、目の前の物を見て喉で止まった。
「グルルゥルゥ……」
なんで……なんで……こんな所に……熊がいるのよ……
目の前にいたのは、大きな熊。
それは、ヘイロンの大きさの半分以下だったとしても、私達を恐怖に陥れるには十分な大きさだった。
「グルゥルゥルゥゥ……」
う、動けない……!
声が出せない……!
殺される……!
私がそう思った時だった。
大きな音をたて、空から黒い塊が勢いよく降ってきた。
それは、熊の頭を潰し、周りの草を赤く染め上げた。
「お! 熊か! これなら食えそうだな」
その声を聞いてから、私はそれが誰なのかわかった。
「ヘイロン!!」
「ん? ああ、お前らかって……リュカ! お前その足どうしたんだ!」
「えへへ……ちょっと怪我しちゃった……それより空を飛ぶのは無しって言ったのに……」
「言ってる場合か!傷を見せてみろ」
「うん…」
リュカは、足を引きずってヘイロンの側まで歩いた。
「…………」
私の不注意のせいで……リュカが……
「良かった……傷はそれほど深くねぇみたいだ。とりあえず洗っとけ」
「うん」
リュカは人の姿になり、自分の足を水で洗った。
「とりあえず、帰るぞ。もう昼になるし。リュカ歩けるか?」
「うん、歩ける」
「…………」
太陽に雲がかかる。
森の中は一層暗くなり、視界が悪くなら始めた。
私達は暗い雰囲気の中、自分達の巣に帰る。
「ごめんね……」
巣に帰ってから、会話がなかった私達に声をかけたのはリュカだった。
「なんでリュカが……謝らなきゃ行けないのは私だよ……ごめん」
「んな暗くなるなよお前ら。どっちのせいでもないだろう?」
ヘイロンはそう言いながら、殺した熊を解体している。
イルカを見るよりは全然辛くなかった。
それは多分、リュカを……私達を襲ってきたからなのか……私には分からなかった。
「それによ、良い肉も取れたんだ!朝ご飯兼昼ご飯にしようぜ!」
「……うん」
「……うん」
「おいおい……そんなんじゃ不味くなるだろ? もっと元気出せよ。それとも肉いらねぇ……」
「いる」
リュカは、ヘイロンが言い切る前に、言葉を放った。
「反応早いな…」
「で、ラルナは?」
「食べる……悔しいから……」
いや、悔しいという感情より、腹が立つの方が正しいのかも知れない。
異様にむしゃくしゃした。
「ラルナ……本当気にしなくていいからね」
「リュカ……うん……ありがとう」
私とリュカは相当疲れていたのか、熊の肉を食べた後、自分でもいつ寝たのかわからないくらいすぐに寝てしまっていた。
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