7話 リュカの我儘と孤独の寂しさ
~~ラルナside~~
脳裏に、血に塗れたイルカの姿が浮かんでくる。
今の今まで、考えたことなかったけど、私達が食べてる食べ物は、元々……私達と同じように生きてたんだよね……
あのイルカにも家族が……友達が……恋人が……いたかも知れないんだよね……
「……はぁ……」
私は、いつの間にか胸に溜まっていた息を、音を立てて吐いた。
もうこの事を考えるのは止めよう……
頭がおかしくなりそうだ……
その事を忘れると、今度は私の力の事が頭の中に浮かんできた。
本当に、私に天候を操る事なんてできるのだろうか?
私は、手のひらを見つめて考えた。
もし……もし本当に操れたなら、私はそれをどうすれば良いのだろうか……そんな危険な物を持っていて良いのだろうか……
「おい、行くぞ」
「え?」
ヘイロンが突然立ち上がり、そう言った。
「え? じゃねぇよ、見せるっていったろ?」
見せる……ああ、力のこと……
「うん……」
「なんだその間の抜けた返事」
「ちょっと考え事してて……というか、ヘイロンは何ができるの?」
「あぁ……それも説明しなきゃな」
私は、ヘイロンから竜のランクと、能力についてを教えてもらった。
ヘイロンは一体7段階のうち、何段階なのだろうか?
「ヘイロンは何段階なの?」
私はそのことが疑問になり聞いてみた。
「俺か? 俺は蛟、6段階だ」
「へぇ……じゃあ王竜のお爺さんは?」
「じじいはランク外だ」
「え、ランク外?」
ランク外とはどういうことなのだろうか? お爺さんは、私の目から見ても凄さがわかる……だから、下過ぎてランク外という事はないだろう。
「まぁ、じじいは名前からしてわかると思うけど竜の王なんだ……一応、力では龍だが……それより少し上だな……まぁ、それはいつかわかる」
「いつかわかるって……まぁ、いいか」
「でだ、蛟は大水が起こせるって言ったが……その起こす方法も色々あるんだ。 まぁ、今回は代表的な物を教える」
そう言って、ヘイロンは翼を広げ、空高く飛び上がる。
「海に向かってやるからしっかり見とけ!」
「わかった!」
私は、言われた通りヘイロンの方を見た。
私の視線が自分に向かっている事を確認すると、ヘイロンは大きく息を吸い始めた。
それと同時に、胸の辺りが大きく膨らみ始める。
なにをするつもりなんだろう……
期待からか、私の体は妙に緊張で強張っていた。
胸がいっぱいまで膨らんだ所で、ヘイロンが口を閉じる。そして、首をうねらせ海に向き、大きく口を開く。
そこからは一瞬だった。
ヘイロンの口から出てきたのは水だった。
水は、異常なスピードで飛び続け、勢いをそのままに海面に当たる。
……海が、割れた。
少し遅れて、大きな爆発音がやってきた。
……こんなの……ありえない……
私はその咆哮を見て、初めてヘイロンが美しく気高き竜に見えたと同時に、恐怖を覚えた。
もし、ヘイロンが誤って私にあれをぶつけたりしたら……
そんなの想像もしたくなかった。
「わぁ!! すごい!!」
横でリュカがはしゃいでいる。
リュカは、あの力を見て怖いとは思わないのだろうか……?
「……お前……今の見てどう思った?」
空から降りながら、ヘイロンは私に問いかけてきた。
今の見てどう思ったかなんて、きまっている。
怖かった。
だけど……
「すごいと思った……」
私は、素直に怖かったとは言えなかった。
なぜかわからなかったけど、ここで怯えた態度は取りたくはなかった。
言い換えて仕舞えば、それは多分、強がりだと思う……
「そうか……」
「……」
「俺は初めて見た時、怖かったな」
「え?」
私は、そのヘイロンの言葉に変な声を出してしまった。
「ん? どうした?」
「え、いや、その……じつは……私も、少し怖かった……」
ヘイロンがそう言ったからなのか、今度は正直な印象を私は伝えた。
「そうか……まぁ、普通そう感じるだろうな」
ヘイロンにそう言われ、私は嘘をついた事が少し恥ずかしくなった。
「強い力があれば、そいつはその力の責任を負うことになる」
「責任……?」
「ああ。 そいつは、その力の分だけ物事を自由にできる訳だからな。 守ることも、殺すこともな……」
私は最後の言葉を聞いて、ゾッとした。
私は……私のこの力は……
「まぁ、怯えてるうちは大丈夫さ」
「……」
「よし、じゃあやってみろ!」
ヘイロンは突然声の調子を変えて、そんな事を言った。
「……え?」
「ってなるだろう? 俺だってそうやって教わってきたんだ」
「いや、ちょっとまってよ! 確かに色々説明されて、力に責任が伴うのはわかったけど……そんな急に……」
「だよなぁ……やっぱいったん戻るしかないか……」
「戻るって王竜のお爺さんの所に!?」
「おう」
ならここにきた意味はなかったんじゃ……
と言うか、聞いてからここに来ようよ……
「てことで……三日後ぐらいに出発するか」
「え、ちょっとまって! リュカはどうするの」
それを聞いたリュカは、少し不安そうな顔をしていた。
ヘイロンはリュカに近づき、上から優しく声をかける。
「リュカ……悪いが俺たちはしばらく留守にする……今日会ったばかりで悪いが、しばらく留守番しててもらえるか?」
「また……帰ってくるよね?」
「おう!」
「じゃあまつ!」
リュカは笑顔を作ってそういった。
。。。。。。
あれからリュカと一緒に遊んだり、ヘイロンから竜の事を教えてもらったりして、すっかり日が暮れてしまった。
「そろそろ日が暮れるな。 俺は先に眠るぞ、疲れたし……」
「あ、うん。わかった、おやすみ」
「え~、まだ遊ぼうよ~」
リュカはそういって、ヘイロンの尻尾に抱きついている。
それをみてヘイロンは少し困った顔をした。
仕方ない、ここは私が助けて上げよう。
「リュカ、私が一緒に遊んであげるからヘイロンは休ませてあげよう」
「うーん……わかった!」
リュカは少し悩んだが、すぐに了解してくれた。
さっき聞いた話だが、ああ見えてもヘイロンは100歳をとっくに越しているらしい。
春が来るのを何回か数えていたが、100回あたりからめんどくさくなったそうだ。
そりゃ体力も落ちるよね………いや、竜にとってはまだ現役なのかな?
「ねえねぇ、何して遊ぶ?」
リュカが鼻で私の足を突っついてそう言う。
「そうだなぁ~……じゃあお話しよ!」
正直私も、走ったりするのはもう疲れたからしたくない……
「お話?」
「そう、リュカの事教えてよ」
なんだかんだで私達は、リュカの事を全く知らなかった。
それもあって私はそう聞いてみたのだが……
「え~いやだ! 動いて遊びたい!」
「しょうがないなぁ……」
まぁリュカの事だからこう言うと思っていたけれど……動いて遊びたいって言ってもなぁ……
「じゃあ、お散歩とかわ?」
「ええ~鬼ごっこがいい!」
鬼ごっこなんて、狼のリュカに勝てるわけがない……
「お、鬼ごっこはもう暗くなってくるし、足元見えなくなって転ぶかもしれないから……やめよう?」
「え~見えるよ~」
「あんたはね」
「うーん……じゃあ、お散歩しよう!」
「うん!しよう!」
私がそう言うと、リュカが私に背を向けた。
「乗っていいよ」
「う、うん……ありがとう……」
私は、息を止めてリュカの背中に乗った。
しかし、それでも背中から漂ってくる臭いは防げない。
海に入っていたせいか、背中から塩の臭いもする。
この体臭はどうにかならないの……本当に……
「ねぇ、ラルナ」
私がリュカの体臭に文句をつけていると、リュカが話しかけてきた。
「ん?なに」
「僕ね、今日とっても楽しかったんだ」
「…………」
私は黙ってリュカの話を聞く事にした。
「久ぶりにまともに話せる人達と出会えて、本当に楽しかった。いつも、食べるか食べられるかだったから……実話ね、前にも人間にあったんだ。それで僕、人の姿でその人と話したりして仲良くなったんだよ。でも……夜になってお別れしたあと……すごく寂しくなった……いつも寂しかったけど、それよりもずっと……寂しかった」
リュカはうつむきながらそう語った。
一人じゃない時間があったからこそ……そのあとが辛くなる……私も、そんなような体験を何度もした事がある。
その日、1日は本当に辛くなる……
……また……リュカは一人に……
「ねぇ……本当に帰ってくるよね?」
リュカ……
私は背中に乗ったままリュカに抱きついた。
「っ!?」
リュカは驚いていたが、私を振り落とそうとはしなかった。
「リュカ……絶対に一人にはしないよ……絶対帰ってくるから」
リュカ体が、小刻みに震えだす。
「あ、あれ…? おかしいなぁ……今はまだ楽しいはずなのに……」
ザー……ザー……と、波が静かに音を立てている。
私達は、その音を聞きながら巣へと帰った。
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