63話 助太刀
〜ラルナside〜
シャカラはそれだけリュカに伝えると、翼を2、3回羽ばたかせ、空へと飛ぶ。
その行動は、着地した時と同様に、どこか雑で、荒々しく、焦りを感じさせられるものだった。
シャカラ、かなり焦ってる……。
翼の風圧で、砂埃が舞い上がり、お父さん達に降りかかるが、シャカラはそれについて謝罪することもなく進み始めた。
どうして、そこまで焦っているのか。
その理由は、私も直ぐに理解できた。
ヘイロンとガルダ族が戦っている場所は、そこまで遠い場所ではなかった。
シャカラの背に乗り、空を飛んだ時点で、どこにガルダ族がいるのか、私でも視認ができた。 その数も……。
それに気づいた時点で、私もシャカラと同じように焦っていた。
更に気がかりなのが、空にヘイロンの姿が見えない事。
そして……地面に、誰かがガルダ族によって押さえつけられている事だった。
嫌な想像ばかりが浮かんできた。
そのどれもが、信じられなくて……。
信じたくなくて……。 私は、直ぐに頭を横に振って否定する。
だけど、現実はそう甘くはなかった。
踏み付けられていたのは、ヘイロンで、踏み付けていたのは、ラジット。
「ぐぅがぁぁあああッ!!!」
残酷な現実を目にしたと同時に、追い打ちするかの如く、ヘイロンの苦痛の叫び声が聞こえてきた。
「ヘイロンッ!」
早く、助けなきゃ……!
私はそう思い、雷を落とそうとしたが、その直前でやめた。
今ここでラジットに雷を落としたら、ヘイロンまで巻き込む……!
ここはシャカラに頼むしかない!
「お願いシャカラ!」
私はシャカラに頼んで、振り落とされないよう背中に強くしがみついた。
「……!」
シャカラは何も言わなかったが、私の意図を理解したのだろう。
急激にスピードを上げ、ラジットへと攻撃を繰り出そうとする。
「–––ッ!」
ラジットはそれに気づき、攻撃をかわそうとヘイロンから離れると、反撃を繰り出そうと構える。
それを見たシャカラは、ラジットには攻撃せずにヘイロンを乱雑に足で掴み、そのまま距離を取った。
このまま逃げられれば一番良いのだろうけど、ただでさえガルダ族のスピードは竜族を上回る……その上、ヘイロンを抱えて逃げるなんて不可能だ。
シャカラはある程度距離をとったら、ヘイロンを地面に優しくうつ伏せに置く。
ヘイロンから流れ出る血が、瞬く間に地面を赤黒く染め上げて行く。
「ヘイロンッ!!」
急いで背中から降りてヘイロンの元へと駆け寄ると、ヘイロンは浅く、そして酷く乱れた呼吸の合間を縫って小さく声を発した。
「なん……で……」
なんでって……それはこっちのセリフよ!
どうして……!
私は喉から出かけた言葉を飲み込んで、その代わりの言葉を放つ。
「……聞きたいこと、言いたい事は、山ほどあるけど、それは後にするから……死なないでよ」
「……」
何か言いたげな顔をしていたヘイロンだったが、私はそれを無視してヴィシュヌへと視線を向けた。
今は、ここから逃げ延びる。
ただそれだけを考える。
「ギリギリだったね」
どこか機嫌の悪さが浮き出たヴィシュヌの声が、私の耳に届く。
「もう少しでそこの屑を黙らせられたんだけどね」
言葉使いも、いつもより荒々しい。
ヘイロンに何か言われたのだろうか。
いや、それより気になるのは、ヴィシュヌの隣にいるお母さん。
今日会った時とは明らかに様子が違う……上手く言い表せないけど、生気が抜け落ちてるような……人形のようになってしまっている。
「こうやってまた会えたんだ。 答え合わせでもしようか」
「……答え合わせ?」
私が問うと、ヴィシュヌはフッと笑って応える。
「僕は、何がしたかったんだと思う?」
両手を広げて問うヴィシュヌの姿に殺気すら覚えるほど私は怒りに震えた。
拳を強く握り、血が出そうな程に爪を手のひらへと食い込ませる。
「その前に、聞いてもいい……」
結局、何がしたいのか全くわからないままだった。 でも、ヴィシュヌには聞いておきたい事がいくつかある。 それを知れば何かわかるわけではないけど、知っておきたい。
「いいよ」
私の頼みを、ヴィシュヌは快く受け入れる。
「お母さんは、あんたが操ってたの。 それとも、お母さんの意思で私を殺そうとしてたの……」
「僕が操ってたよ」
私の質問に簡単に答えるヴィシュヌ。
私は拳を更に強く握りしめる。
「そう……じゃあ次。 私には姉がいるの?」
「うん。 いたよ」
いたよ……そう過去形で伝えるという事は、もういないんだろう。あの時の声の主は……。
「わかった。 次が最後の質問」
言った後に、ヴィシュヌが少しにやけたような気がした。 まるで、次投げかけられる質問が何かわかっているような……そんな顔だった。
「私もあなたと同じ、未来の人間なんでしょう?」
最後の質問には、一つ間をおいてヴィシュヌは答えた。
「そうだよ」
やっぱりそうだったんだ……。
「意外だね。 君からそうやって質問が来るとは思ってなかった。 むしろ僕が証拠をもって説明してあげようと思ってたぐらいなんだけど」
「私の生い立ちを知れば誰だって疑うわよ。 それより、証拠ってなによ」
「本だよ。 竜鳥大戦。 君も知ってるだろう? あれは、未来の物だよ。 だからこの世界で新しい物を買おうとしても手に入らない。 本当はそれを見せてあげようと思ってたんだけど、どこかで落としちゃったみたいでね……」
「そう」
「……どうでもいいって感じだね」
「悪いけどその通りよ……そんなの、もうどうでもいい。 私が未来の人間だろうが何だろうが関係ない。 私は、私の生き方をするだけ!」
「それで竜族を守ることが、君の生き方なのかい?」
「そうよ!」
語気を強めて言い放った私の声が辺りに響く。 その声を攫うように風が吹き、静寂が私達を包み、温度を奪っていく。
聞きたい事は聞いた。
ヴィシュヌの言う事が真実なら、お母さんも操られてただけだった。
あの様子は少し気になるけど、しっかりと説得して事情を話せば、今のこの国を見て納得もするはず。
問題は、どうやってお母さんを助けるか……
お母さんが向こうにいる間、私の力は下手に使えない。
そうなると、隠れてるリュカ達に頼むしかないけど、それもヴィシュヌのすぐ隣じゃあ難しい。
「……ぅく……」
後ろで、ヘイロンの苦しそうな声が聞こえてくる。
ヘイロン……!
時間もあまりかけてられない! 一か八かで、ヴィシュヌにだけ落雷を直撃させる!
私は、手をヴィシュヌへとかざす。
「……そろそろだね」
それと同時に、ヴィシュヌが小さく声を上げた。
その声を聞き取ったすぐ後に、私達は突如突風に煽られる。
「––––急になにッ!?」
「ヘイロン! ラルナ! 大丈夫か!」
この声はアノクダツさん!? どうして!?
「助けにきたぞ!!」
ご閲覧ありがとうございました!
ちょっとまた久しぶりの投稿になっちゃいましたね……
また多分時間が空いちゃうかもしれないんですが、出来るだけ早めに復活したいと思います!
では、次回もよろしくお願いいたします!




