62話 知らされる真実
〜ラルナside〜
結局の所、みんな迷っていたのだろう。
強く信じていた人達が意見の食い違いに対立を始め、国が割れてしまった事に。 そうなれば、多数派の意見に流れていくのは必然だ。
どっちが多数派だったのかとか、私は詳しく聞いていないからわからないけれど、王宮にお母さんが残ってたって事は、きっとそういう事なんだろう。
でも、今は違う。
お母さんの作った、ガルーダ部隊はどういうわけか国を攻撃し始めた。 ほとんどの人が、これに反感を持つはず……もうきっと、この国にお母さんの味方はいない。
ガルーダ部隊……?
––––ッ! そういえばガルダ族は!?
それに気づくが早いか、私はみんなから少し離れて空を見上げる。
「む? どうした? ラルナ」
一人焦っている私を見て、お父さんがそんな事を言っていたような気がした。
「……見当たらない」
曖昧に聞き取ったお父さんの問いに、私は呟くように返す。
見つかってないはずがない。 あれだけ大きな攻撃をしたんだ。 ガルダ族にも、そしてヘイロン達にも私の居場所はわかったはず。
それなのにこっちに来ない……理由はいくつか考えられるけど……
……なんだか、嫌な予感がする。
私はその嫌な予感を振り払うように、走り出した。
とにかく外に出なきゃ……中庭からじゃ見にくい。 もっと広い場所じゃないと、空を見渡せない……!
後ろから、私を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、私は気にせず王宮の外を目指して走り出す。
外へと出るため一度、中庭から少し長い廊下に入る。
「……ぅッ!」
そこで見た光景に、私は思わず足を止めてしまった。
あの魔獣達は、壁を登ってきた訳じゃなかった……正面から堂々と中庭までやってきてたんだ。
廊下には、幾人かの兵士が血を大量に流し倒れていた。
多分もうみんな……
後からやってきたダイルさん達も、その光景を見て、私と同じように小さく呻き声をあげる。
「さっきの……魔獣達の仕業か……」
「さっきの魔獣?」
ダイルさんが呟くと、お父さんが疑問の声をあげる。
そうか、お父さん達はあの後に地面から出てきたから知らないのか。
「実は先程……」
ダイルさんが説明している間に、私はまた外を目指して足を動かす。 今度は慎重に、魔獣がまだ残っていないかを警戒しながら……
真正面に見える外に繋がる扉は壊されていた。 恐らく魔獣の手によるものだろう。
通路の交差点を過ぎ、壊された扉から外へ出、門前に出る。
この大きな門は壊されてない……ここは壁を登ってきたんだ。
私はそう考え、門から横に伸び、城を囲むように建っている城壁の上を見た。
「え……あれって……!」
城壁の上には、私のよく知る狼がいた。
また魔獣が来ているかもしれない、そんな先入観からの行動だったためか、私はそれが一瞬魔獣に見えてしまう。
でも違う……あれは絶対に……!
「なんでリュカがここにいるの!?」
「え? あ! ラルナ!!」
私が声をあげると、リュカはこちらに気づき、城壁を飛び降りて来る。
「ラルナ様ッ!」
リュカを魔獣と勘違いしたのだろう。
いつのまにか後ろにいたダイルさんと、若い兵士は、リュカから私を守ろうとして前に出る。
「待って二人とも! リュカは魔獣じゃない! 私の友達よ!」
「え?」
「ご友……人?」
二人は剣を抜こうとした状態でピタリと止まり、疑問符を浮かべてこちらを向く。
「ラルナー!!」
その二人の間をするりと抜け、リュカは私に飛びつき抱きついて来た。
「わ、ちょっと……!」
私はそのままリュカに押し倒され、尻餅をつく。
「ラルナー! 良かったよー!! やっと会えたー!」
リュカは甘えるように頭を擦り付けてくる。
私はそれを愛でるように撫でて上げた。
「それはこっちの台詞よ……! 無事だったんだね……! リュカ!!」
「うん! なんか知らない場所で寝てて、誰もいなかったから、ラルナの匂い辿って追いかけてきた!」
「え? タドには会わなかったの?」
「タド? 僕がラルナを追いかけようとしたら、止めてきた人のことかな……?」
あぁ……なるほど。 つまり抜け出してきたんだね……
「後でタドに怒られそうね……」
「タドは怒るとなかなか怖いぞ……」
後ろでお父さんが呟く。
経験済みだよ……
「リュカ、本当にもう大丈夫なの?」
私がもう一度問うと、リュカは抱きつくのをやめて私から離れる。
「うん。 もう大丈夫。 ……それよりラルナ。 近くにガルダ族の匂いがするけど……今どうなってるの?」
そっか、リュカはずっと眠ってたから、何も知らないんだ。
「……どこから説明すれば良いんだろう」
私がどこから説明しようか、考えていると、突如、不自然な突風が私達を煽る。
この乱暴な風の感じ……!
私はヘイロンが来たのだと思い、空を見上げるが、そこにいたのは血まみれになったシャカラだけだった。
「シャカラ!?」
私は、血まみれになったシャカラを見て、更に不安になる。
「おお……! 無事で……とは言えないか」
お父さんとガダさんはあまり驚かずにシャカラに話しかける中、ダイルさんと兵士達は、唖然としていた。
ダイルさんも知ってはいたけど、会うのは初めてなんだ。
そんな思い思いの表情や言葉には目もくれず、シャカラは私の元へと降りてくると、「頼みがある」と私に言って、言葉を続けた。
「今ヘイロンは私達を逃がすために、死ぬつもりで数十匹のガルダ族と一人で戦っている」
「え……」
「元々今回の作戦は、奇襲をしかけ頭を叩く事が目的。 奇襲が失敗した時点で、作戦の成功はなくなっていたのだ。 事態がこうなってしまえば、この戦力差では逃げる事すら難しい……必然的にヘイロンのような役回りが必要になる」
「だからって……! 見殺しにしろって言うの!? それが頼みだって言いたいの!!」
「違う!」
声を荒げる私に、シャカラは更に大きな声で否定して、私を黙らせる。
「本来であれば、こんな事頼むべきではないと重々承知している……。
だがヘイロンは…………お前をわざと追い出した事を後悔していた」
「––––ッ!」
「頼む……ヘイロンを助けてやって欲しい」
シャカラから告げられたのは、私にとっては衝撃の事実だった。
追い出したのは、わざと……?
嘘だったって事……?
心臓に、複雑に絡まっていた錆びた鎖が、バラバラに砕け散り、落ちていく。
胸が……心が、軽くなった気がした。
「なんだ……そうだったんだ……」
「ラルナ……ヘイロンは––––」
「助けるよ! そんなの当たり前!」
そう言って私は、シャカラの言葉を途中で切る。
「それに、この恨みは絶対にはらさせてもらう……死なれちゃ困るわ」
「……すまない。 ありがとう」
シャカラはそう言って、頭を下げる。
そうと決まれば、早くヘイロンを助けに行かなきゃ……!
私はそう思い、シャカラの背中に乗ろうと角に手をかけた時……
「ラルナ」
お父さんが、心配をするように私の名前を呼んだ。
きっと、行って欲しくないんだろう。
心配してくれているのが、声だけでわかった。
でも私は、ヘイロンを助けたい……!
見捨てるなんて、絶対にしたくない!
「止めても、行くから」
「……そうか。 ならばもう止めまい。 だがせめて、私達にも手伝わせてくれ。 非力ではあるが、必ず力になってみせる」
お父さんの後半の言葉は、私にではなく、シャカラに向けられていた。
それにシャカラも気づき、答えを返す。
「……助かる。 是非手伝って欲しい。 が、命の保証は難しいぞ」
「娘も命を張っているのだ。 ならば私も命を惜しんでなどいられまい」
私はその言葉を聞いて、また少し不安になった。
「……わかった」
シャカラはそう応えると、私を背に乗せた後にリュカに顔を向けた。
「貴様……確かリュカと言ったな」
「……うん」
一人状況がつかめず置いてけぼりの状態のリュカだったが、今、何をしなきゃいけないのかは、シャカラの話である程度理解していたようだった。
「ヘイロンの居場所は匂いでわかるな?」
シャカラの問いに、リュカは何回か鼻をヒクつかせてから「うん、わかるよ」と応える。
「リュカには、ヘイロンの居場所まで他の皆を誘導し、そこで待機して、ヴィシュヌを討つ機会を狙っていてくれ。 もちろん、ガルダ族に見つからない位置でだ」
「難しいけど、わかった。 やってみるよ」
「頼んだぞ」
ご閲覧ありがとうございます!
最近食べ過ぎた……ダイエットしんとなぁ……
てことで、次回もよろしくお願いします!




