60話 死の宣告
〜〜ヘイロンside〜〜
「ラジット、そのまま抑えておいてよ」
「はい」
ヴィシュヌに言われ、ラジットは更に押さえる力を強める。
「……ぅゔ……」
このままの状態はなかなか辛い……が、今のところラジットも、魔獣化したガルダ族も攻撃しようとする気配がない。
この状態が長く続けば、ラルナ達も逃げやすくなるだろう。
不意に、喉に何かが詰まり、俺は呼吸ができなくなる。
「……ぅ……カハッ!」
俺が大きく咳き込むと、口から赤い液体が漏れ出してきた。
くそ……こんな状態じゃまともに思考を働かせらんねぇ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「随分苦しそうだね」
視界には入らないが、すぐ近くまでヴィシュヌが寄ってきているのが、声の近さからわかった。
「君は……いや君達は、ラルナの存在について、どこまで気づいているんだい?」
「……なんッ……のことッ……だッ!」
胸の苦しさから、途切れ途切れにしか声を出すことができない。
「これじゃあ会話が進まないね。 ラジット少し緩めてやって」
ヴィシュヌがそう言うと、ラジットは「はい」と答えて、俺の胸を押し付けている力を緩める。
「……ぅくッ……はぁ…はぁ……」
緩めると同時に、沈んでいた胸骨がミキミキと音を立てて戻って行くのがわかった。
俺はそれに耐えながら、首を上げヴィシュヌの方へと顔を向ける。
それを見届けてから、ヴィシュヌは再び口を開く。
「君がここにいると言うことは、彼女が今どう言う状況にいるのか理解していると言うことだろう? 恐らく、反王宮側の者達と手を組んだんだろう」
「……」
……全部、バレてやがる。
未来を見る力のおかげか……
「君達は僕に一矢報いたと思っているのかもしれないけれど、全部僕の予想通りさ」
……!
いや、今は……
「……ラルナの母親を、操ってたのか」
「まぁ、そうだね」
「いったい、いつからだ……!」
「仕込みを含めれば、君達とラルナが会う前からさ……というより、そっちの元国王陛下聞いてないのかい? ラルナは僕が連れてきたって事」
「……」
「その様子だと聞いてたみたいだね」
ラルの話しじゃ、ラルナはヴィシュヌに連れてこられたって言っていた。
その話しの最中に、気になっていた事がいくつかある。
一つずつ、ゆっくりと聞いて行くとするか。
「ラルから聞いた……お前はなんで歳をとってねぇんだ」
「ああ、それね……」
ヴィシュヌはそう言ってから緊張を含ませるように少し間を取り、そして、また口を開いた。
「それは、僕が未来で既に死んでるからだよ」
「……既に死んでいる……だと……!?」
……いったいどういう事だ。
ヴィシュヌは未来で殺されて、そのあと過去に……この場所にやってきたのか……!?
「と、言ってもすぐに君は理解出来ないだろう」
「……」
「ここに戻ってくる前、僕は既に死にかけていた。 竜にかけられた呪いによって……」
……呪い……?
「未来の竜は君達なんかより遥かに強く進化してる。 魔法……君達でいうコリョクなんて言うのは、竜一匹一匹がみんな持っているのが当たり前さ」
「なんだと……!?」
コリョクを持っているのが当たり前……全員が王竜のじじいや青じいと同じ力を持ってるってのか……!?
「未来では、人間にとってそれらが全部敵なんだ。 君達にならその絶望感がよくわかるはずだよ」
「……」
「人間達も抵抗した。 だけど、唯一対抗できると期待されていた人間ですら、竜の逆鱗に触れただけで終わった。 その逆鱗に触れたせいで僕は呪いを受け、家族は死んでしまったんだけどね……」
話しの内容から、唯一対抗できると期待された人間ってのは、恐らくこいつの父親か母親……もしくは兄弟か……
…………
「呪いって、いったいどんな呪いなんだ」
「死の宣告。 いつ死ぬのか確定される呪いさ」
「なッ!?」
……未来の竜は、そんな事までできるって言うのか!?
「もちろん一朝一夕にこなして出来るような魔法……コリョクじゃない。 代償はある。 それは二つの生きた生命」
二つの生命……
「まさか……!」
「僕の、父と母は生贄になった」
「……」
冷たい風が、突如吹き荒れた。
ヴィシュヌの絶望、憎悪、嘆き……それら全てが、身体を芯から冷やしてくる。
生暖かい血が身体を伝い、地面にポタポタと落ちていく音が、ハッキリと聞こえてきた。
「少し脱線したね。 僕が宣告された死は、それから7日、ちょうど一週間後だった。 でも僕はその後すぐに過去に戻った。 肉体的時間はもう、とうの昔に一週間を過ぎてる……それでも死なないのは、この世界の時間がまだその日を迎えてないから。 その矛盾を合わせるために、呪いは僕を生かしてるんだよ」
……俺は、同情しているのだろうか。
話しを聞けば聞くほど、自分が何も出来ないと言う無力感と悔しさで、苦しくなった。
それでも俺は、こいつを許す訳にはいかない。
「さぞ恨みは深いだろうな……それでも、お前がここでやってきた事は許される事じゃない……!」
「……」
「未来を変えるためだか知らねぇが……お前がここでやってきたのは、未来の竜が人間に対して行ってきたそれと全く同じだッ!!」
「……ッ!」
「……もうやめろ、こんな事。 他の道だってあるはず……」
「黙れ」
今までとは違う、冷たく暗いヴィシュヌの声に、俺は身体を震わせる。
そして、それを聞いたラジットは、再び押さえる力を強めた。 最初よりも更に強く。
「ゔぐぅあぁぁあああッーーー!!!」
あまりの痛みに、声を抑えるなんて事は出来なかった。
むしろ、少しでも痛みを和らげるために、俺は情けなくも大声で叫び散らした。
そんな叫びの中でも、ヴィシュヌの黒く染まった声は、ハッキリと聞こえてくる。
「もうやめろだと……! 先に手を出してきたのはお前達じゃないかッ!!」
「ち、ちがッ!! ぐぅがぁぁあああッ!!!」
「それなのに上から目線で子供のイタズラを叱るように口走ってッ!」
「アッ……! ガァッ……! ハッ……ア……!!」
「お前達がしっかりとしていればッ! 人らしい心を持っていればッ! あんな事にはならなかったんだぞッ!!」
もう叫び声すら自由に出すことが出来なかった。
重みに耐え兼ねた地面が、徐々に割れていく。
まずいッ……マジで死んじまうッ……!
「わぅッ……! か……たッ!!」
悪かった。
そう謝りたくても、もう言葉なんて出せるほどの余裕はなかった。
クッ……ここまでかよ……!
視界がボヤけ始め、全身から力がどんどん抜けていく。
もう、瞼すら閉じそうだ……
悪りぃ……シャカラ。
やっぱり無理だ。
でも、時間は稼いだぜ……後はラルナの事……任せたぞ。
ご閲覧ありがとうございました!
いよいよ物語もクライマックスを迎える……かもしれない。
(まだ、もう少し続きます)
次回もよろしくお願いします!




