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58話 轟く雷鳴

〜ラルナside〜


だとしたら、こんな所でゆっくりなんてしてられない……


「ダイルさん、とりあえず外に出よう」


本来なら合流する仲間と相談なしに移動してしまうのは、あまり良い策ではないのだろう。

けど、ここで戦争に巻き込まれて生き埋めにされても仕方ない。


再び大きな地鳴りが鳴りだすと同時に、ダイルさんは「はい」と言って、私を誘導するため、前に進み出た。


……私は、ヴィシュヌに連れて来られた。

ダイルさんはそう言ってた。 という事は私も未来の人間なのだろうか……


…………


早足で階段を駆け上がり、中庭へと続く広い通路に出ると、そこにはやはり見張りがいた。


数は4人。 撒いて逃げるのは少し難しい人数だ。


私達を見るや否や、見張りは驚きの声を上げ武器を構え始める。


「……! ラルナ王女! それに……隊長!?」


「どうなってるんだ……?」


この緊急事態だから見張りはいないかなって思ってたんだけど、そんなに甘くないか。


「ラルナ様。 ここは私が……」


ダイルさんの耳打ちに、私は小声で「うん、お願い」と返す。


おのおの、戸惑いの声を上げながら困惑している兵士達に、ダイルさんは一歩前にでて言葉を放った。


「私はラルナ王女を連れて外へ出る!」


「なッ……!?」


ストレートに言ったね……

そりゃ兵士も変な声でるよ。


「お前達も気づいていると思うが、ガルダ族の攻撃を皮切りに、今内戦が勃発している。 この城も安全とは言い切れまい。 だから私は一度、ラルナ王女を安全な場所まで避難させる」


「そう……ですが、勝手に連れ出しては……」


……今更だけど、ガルダ族の先制攻撃は伝えられた計画にはなかったものだったんだ。


私は兵士のしどろもどろな返答に、それを確信した。


「わかっている。 責任は全て私が取ろう。 女王様も決め兼ねている今、勝手に死んでしまわれても困るだろうしな……」


「確かに……」


「それもそうだ……」


ダイルさんの言葉に、兵士達は構えていた武器を下ろし始める。


ダイルさん……上手だなぁ……


一時的にではあっても、兵士達がこのままこちらの味方になってくれればありがたいんだけど……


そんな風に思う一方で、私は少し複雑な気持ちでいた。


なんだろう……上手く言い表せない。

嫌悪感……と言えばいいのかな。

私の命が、まるで物のように扱われているような気がして……正直、ダイルさんの言葉も、兵士達の納得する声も、良いようには聞こえない。


自分が我儘を言ってるのはわかるけど、私がいない所で話して欲しかったな……今のは。


「ラルナ様。 行きましょう」


「……うん」


ダイルさんにそう告げられ、私は頷いて進む。


鎧の擦れる音が、私達の後ろにぴったりとついてくる。

それだけで、後ろを振り向かなくても4人の兵士が付いてきているのだとわかった。


あれ?

今思ったけど、この後仲間と合流するのなら、この兵士達は邪魔になってしまうんじゃ……


私は、今度は後ろを向いて兵士達を確認する。


ちょっと……まずいんじゃない? これ。

ダイルさんは、どうするつもりなんだろうか。


そんな不安を胸に秘めたまま、私達は中庭へとでるため歩いていると、ダイルさんが急に足を止めた。


急な停止にバランスを崩した私は、ダイルさんの背中にぶつかるすんでのところで、ギリギリ立ち止まることができた。


危なかった……

何も言わずに急に止まったりして、なにかあったのだろうか?


私はそれが気になりダイルさんに問う。


「どうしたの……?」


「思っていた以上に、まずい状況なのかもしれません」


そう言ってからダイルさんは、「一瞬だけ、窓から中庭を見てください」と前を向いたまま付け足すように言った。


一瞬だけ?


その言葉に疑問を持ちながらも、私は窓から中庭をチラリと覗く。


「……ッ!」


一瞬だけ、と言った理由が、それを見てから理解できた。


他の兵士達も、ダイルさんに言われてから気づいたのだろう。


一気にこの場に、緊張の空気が張り詰めた。


冷たく、じっとりとした嫌な汗が、背中と額に湧き出て流れ落ちる。


私達が見たのは、人じゃなかった。

どちらかと言えば動物に近いのだろうけど、動物にも見えなかった。


おぞましく、狂気に満ちたあの生き物と目を合わせるのは、とても危険な行為だと本能が言っている気がした。


多分……あれがダイルさんが言ってた奴なんだろう。


「……以前お話しした、例の魔獣です」


「あれが……魔獣……」


きっと、竜族やガルダ族に比べたら、魔獣なんて赤子も同然なんだろう。


私はそんな段違いに力の差がある生き物達と過ごしてきた。

だから、本当はおかしいのだと思う。


……怖いと、感じてしまうのは……


いつのまにか口の中に溜まっていた唾を、私は出来るだけ音を立てないようにゆっくりと飲み込む。

それでも、やはりゴクリと音はなってしまい、その音でバレてしまったのではないかと、再び冷や汗が溢れ出してきた。


……一瞬しか見えなかったけど、あの狂気に満ちた目は、前にも見た事があったような気がする。


確かあれは……そうだ。

虯の村で戦ったパクシャの、追い込まれたときの目だ。


いや、もしかしたらそれよりももっと……


「ラルナ様はここで身を隠していてください。 私達が外に出て……」


「嫌だ」


「なッ!?」


ダイルさんが提案を言い切る前に、私がそれを否定すると、ここに帰ってきてから一番の驚きの顔を、ダイルさんは見せてきた。


「な、なにを言っておられるのですか……!」


大声を出したくても、この状況では出せないダイルさんは、小声で叫ぶように言った。


まぁ、焦るよね。


「大丈夫」


私は、それを宥めるように静かに声を放った。


「私にも、戦う力はあるから。 それに……」


続きを言いかけて、一度私は言葉を止めた。


目を瞑り、何故私がここにいるのか。

何故今、友が隣にいないのか。


(お前はもう、帰れ)


…………


友に言われた言葉を思い出し、私はその理由を、再確認してから目を開ける。


「ここでなにもしなかったら、私は本当に居場所がなくなる」


「……!」


ダイルさんも他の兵士も、私の言葉に何も答えなかった。


きっと、どう答えたら良いのか、わからなかったのだろう。


"そんなことありません!"


その言葉が欲しくなかった訳じゃない。

だけど……それよりも私は、ここにいる意味と価値を自分の手で作りたかった。


私はゆっくりと、中庭の方向へと身体を向ける。

そして、今度はバッチリと外にいた魔獣達と、ガラス越しに目を合わせた。


そこから先は、時間にしてものの数秒間の出来事だったと思う。

けれど私には、その先が異常な程ゆっくりな世界へと変わり、何十秒……あるいは1分間ぐらいの出来事のように感じられた。


目があった魔獣達は、舌を出し、涎を撒き散らしながら、こちらへと走って向かってくる。


不思議と、その時にはもう恐怖は感じていなかった。


一歩……二歩……三歩。

四歩目に、魔獣達はガラス窓を破りこちらへ入ろうと、強く足を踏み込んだ。


私はその瞬間に、言葉には出さず、念じた。


落ちろ、と。


空中で止まった魔獣達を中心に、閃光とともに雷鳴が轟く。


ご閲覧ありがとうございます!


今見返すと、5章だけ異常に長いですね……

その分、1話の文字数も少なめなんですが……


ま、いっか(なげやり)


人によっては、今回と前回の話で何故ヴィシュヌは未来が分かるのか……

その理由に気づいた人がいるかもしれませんね。


それでは、次回もよろしくお願いします!

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