57話 同じ想い
大変長らくお待たせ致しました。
そして新年初投稿でございます。
〜ラルナside〜
ダイルさんは「わかりました」と、小さく頷くと、私を牢屋から出してくれた。
私がお礼を言って、牢屋から外に出た瞬間、天井から、大きな地響きが聞こえてきた。
「……きゃッ!」
「……ッ!」
ボロボロになった牢屋の天井から、揺れと共に落ちてくる石のかけらを見て、このままでは生き埋めにされてしまうのではないかと言う不安と同時に、地震とはまた違う……何か異常な事が起きてるのだと、私はすぐに気づいた。
「今のは……」
「……始まった、ようです」
「始まった……?」
「……はい。 戦いが始まったようです」
「た、戦い!?」
私はダイルさんのその言葉に、驚きを隠せなかった。
……予想してなかった訳じゃない。 でも、今の地響きの近さからして、戦が行われてるのは明らかにこの国の……ジャダイの上だ。
国の民だっているはずなのに戦争なんてしてしまったら……仮に、避難を出していて国民がいなかったとしても、暮らしてきた家や土地は、火の海に飲み込まれてしまう。
そんなの、国の王がやって良いことじゃない。
本当に、お母さんは……
「いったい、何考えてんのよ……!」
心の声が、抑えきれずに口から溢れ出る。
私はそれを、もう抑えようなんて気持ちにはなれなかった。
「自分の国を……みんなを危険に晒してでも、あの人は私を殺したいの……?」
「ラルナ様……」
「ふざけんじゃないわよッ! これが! 国の発展を願って、私達を信じて働いてきた国の民達への仕打ちなのッ!?」
「……」
「こんなの……あんまりだよ」
怒りを通り越したこの感情の声が、部屋の中に響き渡る。
もう疲れた……
最初は"偶然"だと思ってた、あの出会い。
……奇跡だと思ってた。 私を腐りきったあの箱から出してくれる為の。
でもいまは……
初めてできた、遠慮なく気さくに話せる、友達と呼べるべき人を失って……
居場所を失って……
帰る場所すら崩れていって……
もう私には……何もなくなってしまった。
「だったら……だったら、もう……殺せば良いじゃないのよ……」
意図せず呟いた自分のこの言葉に私は思った。
そうだ……私が死ねば、それで丸く収まるんだ。
そんな、何もかもを放棄してしまったような感情に包まれようとした時だった。
「……!」
私は、静かにダイルさんに抱き寄せられた。
「そんな事……言わないでください……」
私の背中に回された両腕にグッと力が入ったのがわかった。
「私達は今。 ラルナ様に、生きて欲しいから、戦うんです」
ダイルさんのその言葉に、私は素直に頷くことができなかった。
「……だったら私は、みんなに生きて欲しいから……し、死にたいって……思ってる」
自分で、死にたいという言葉を口にする事に抵抗があったのだろうか。
私は少し言葉に詰まってしまった。
「……」
「……」
次の言葉を探す為、お互いに沈黙が続いた。
ダイルさんの鎧の上から、伝わるはずのない温もりが私を包んでくれている。
それが心地良くて、懐かしくて、私はいつのまにかダイルさんに体重をあずけていた。
「同じです」
「え……?」
先に沈黙を破ったのはダイルさんだった。
ダイルさんは、私の背中に回していた両腕を解き、肩を優しく掴んでから少しだけ離れる。
温もりが離れていくのが、切なくて、少し悲しく感じた。
「私が死んでも、ラルナ様には生きて欲しいのです」
「……なんか、ずるいよ……それ」
「それも、同じです」
「……」
「だから、共に生きましょう」
「……うん」
同じ……か。
そっか……
「ダイルさん」
「はい?」
「ありがとう」
そう言って私は、今作れる精一杯の笑顔を作って見せた。
「……いえ」
私の笑顔はきっとどこか、ぎこちなかったんだろう。
ダイルさんの私を見る目は、どこか哀れみにも似た悲しさが隠れてるような気がした。
逆に心配させちゃったかな?
そんな後悔を持ったまま、私はこの空気がなんだか嫌になり、とにかく話題を変えようとした。
「そういえば、さっき言ってた味方の人達は、まだこないの?」
単純に疑問でもあったことを、私はダイルさんに問う。
ここで気を失っていた時間と、ダイルさんと話していた時間を合わせれば、結構な間待っている事になると思うのだけれど……
「その事なのですが、少しまずい状況にあるのかも知れません……」
まずい状況って……確かにまずい状況ではあるけど、戦争が始まった事を指しているのではないのだろう。
さっきの口ぶりだと、戦争はおこる前提で話を進めていたように思えるし。
顔に疑問を浮かべると、ダイルさんは詳しく説明しますと言って、神妙な顔つきになって話始めた。
「そもそも合流する明確な時間と言うのは決められていなかったのですが、ちょっとした合図のようなものはあるんです」
「合図って……もしかしてさっきの……」
私はさっきの大きな地鳴りを思い出した。
「はい。 先程の揺れ……戦争の開始です。 合図というよりは、作戦の進行具合を確かめる為のポイントのようなものなのですが……」
戦争の開始が、作戦の進行具合を確かめる為の大きなポイント……合図になってたんだ。
ダイルさんのまずい状況という意味が、少しわかった気がした。
「本来、この戦争開始の合図は、私達が味方と合流した後に始まる予定のものだったのです。 少しずれたとしても、作戦ではあの大きな地鳴りは、必ず私達が合流した後に起こるはずなのです」
やっぱり、合図の前後のズレが問題だったんだ。
だけど、どうしてあの大きな地鳴りが、私達が合流した後に起こると、確信を持って言えるのだろうか。
戦争の開始が合図であるのなら、状況に応じて前後もするはず。
現に今、その予定からズレて、先に戦争は始まってしまった。
その疑問を言葉にまとめる前に、ダイルさんが先に口を開いた。
「先程の地鳴り……あれは恐らく、ガルダ族の攻撃によるものです」
「……!」
「そもそもこの戦争は、私達が竜族と共に先手を打つものでした」
「え!? いや! ちょっとまってよ!」
私はまたわからなくなっていた。
なぜここで竜族という言葉が出てくるのだろうか。
そもそも、王竜のおじいさんとはそんな話は一つもしなかったし、もちろんヘイロン達ともしなかった。
「どうしてここで竜族が出てくるのよ!?」
私は焦りの混ざって困惑を、ダイルさんにぶつけた。
「すみません、ラルナ様……話す順序が少し前後してしまいました」
ダイルさんはそう言って、これまでの経緯を短く要約して説明してくれた。
予言の事。
その予言を聞いて、反王宮側の人間……タドさんが私を探して見つけた事。
そこで私達が二手に別れる事も、予言には含まれていたらしい……
そして竜族と反王宮側とが手を組む手筈だという事。
そして最後にダイルさんは、迷いながらも、付け足すように私に言った。
私の父と母は、本当の父と母ではないと。
私は昔、ヴィシュヌに連れてこられたのだと。
「……そっか。 わかった」
当然混乱はした。 だけど、何故だろう。 その事実を以外にもあっさりと受け入れる事が出来た。
きっと、薄々気づいていたんだろう。
いつか見たあの夢。
あの記憶の中の会話に、私は参加してなかったんだ。 それどころか私はまだ、喋ることすらできなかったはずだ。
でも、だとしたら……私の声だと思ってたあの声は、いったい誰なのだろうか。
ヴィシュヌの声?
いや、違う。
あれは確実に、女の人の声だった。
……お姉ちゃん?
「ラルナ様? だ、大丈夫ですか?」
私は、ダイルさんの声に、ハッと我に帰った。
「ご、ごめん。 大丈夫。 話、戻そう」
今は、やめよう。
私はそう言いながら、先程までの思考を振り払い、ダイルさんとの会話がどこまで進んでいたかを思い出そうとした。
確か……
「竜族と一緒に先手を打とうとしたんだよね?」
「あ、は、はい。 その通りです。 味方と合流して脱出、その間に小さな小競り合いはありますが、戦争にまでは発展はしないはずです。 私達が外に脱出できた時点で竜族に護衛をしてもらい逃げる。 そういう作戦でした」
急に話を変えてしまった為か、ダイルさんの説明はどこか拙さが残っていた。
それでも十分に理解ができた。
この状況で合図が早まってしまった。
それはつまり……
「先手を、先にとられた……」
「はい。 恐らくですが」
ご閲覧ありがとうございました!
えーと……まぁ、大分時間空いてしまいましたね。
二週間に一回とはなんだったのか……
正直まだ、頻繁にあげられる状況ではないので、また時間が空くと思います。
気長にお待ちいただけるとありがたいです。
それでは、次回もよろしくお願いします!




