49話 奪われた者の激情
〜〜ヘイロンside〜〜
だが、それだけならラルナを王宮に戻せば解決する問題だ。
……ラルナが王宮に戻った今、まだこうして敵対している理由は、ラルナが殺されるかもしれない状況になっているからだろう。
……
「この組織の最初の目的はそれだった。 だが、ヒマナがラルナを処分せねばならないかもしれないと言った時、私は組織を完璧に国と割け、反王宮側を集める事を覚悟した」
やっぱりそうか……
「……」
そう語ったラルの瞳の中には、悲しみの色が浅く隠れていた。
……これもそれも、全部……
「……全部、お前達のせいだ」
ラルの話が終わった所で、フォルディナが静かに怒りの混じった声を放つ。
「お前達がラルナ王女様を攫ったりしたからだ……!」
「……」
そう……俺があの時、攫ったりしなければこうはならなかった。
……国は荒れる事はなく、ラルナが危険な目に合うこともなかった。
「全部お前達のせいだッ!!」
静かに放たれていた怒りは、怒号へと変わる。
「返せよッ! いつもの日常をッ! 平和だった国をッ!! お前が奪ったもの全部ッ!! 返せよッ!!!」
「フォルッ!」
目を血走らせながら叫ぶフォルディナに、カミラが制止をかける。
それでもフォルディナは、親の仇を目の前にしたかのような形相になりながら、怒りを吐き続ける。
「黙ってねぇで何か言えよッ!! クソ野郎ッ!!」
「……」
そうだ……俺が……
…………
俺は、一歩前にでて頭を地面にピタリとつける。
「……ラルナは……俺が攫った」
「ッ!」
「悪いのは竜族じゃない。 俺だ……だから、俺の事は好きにしてくれていい。 全部終わったら……殺してくれても構わない」
「……」
「でも……」
…………
「でも今は、ラルナを救う事を手伝わせてくれ……頼む」
「……ッ!!」
「……」
…………
最後に付け足した言葉は、あらかじめ考えていた言葉じゃない。
……今、あの場で勝手にでた、ただの我儘だった。
…………
……俺は、自分自身を嫌悪する。
心の隅のどこかに、きっとあるだろうこの感情に、気づいてしまった。
こうやって謝れば……自分の命を掛ければ……それで良いだろう。 そう思ってる自分がいる。
そんな事はないとわかっているのに……
そんなはずはないとわかっているのに……
それでそいつの人生が、元に戻る訳でもないのに……
俺は……
「……」
俺は、なんで一粒の涙すら流せてないんだ……
「なんで……なんでそんな風に謝るんだよッ……!」
「……」
「ふざけんなよ……! ずるいだろ……! なんで……なんで……」
「……」
「クソッ!!」
有り余る、放ち損ねた激情が込められたであろう最後の一言は、この部屋の中にこだました。
〜〜ラルナside〜〜
部屋の窓を開け、外を眺める。
空を見れば、薄く伸ばされた白い雲が、青空と太陽を隠そうとしていた。
食事を済ませた後、私はまたダイルさんに言われた言葉の事を考えていた。
……今は、自分を信じてください。
ダイルさんはそう言ってた。
そもそも、なんでダイルさんは自分を信じてくれなんて言ったんだろう。
それがわからない。
……一回、少し整理しよう。
空を眺めるのをやめ、視線を下に下げると、雲が作った影が、地面を薄暗くしていた。
最初に私は、覚悟って言葉が気にかかってダイルさんに聞いた。
(ラルナ王女。 覚悟ができたら、私に声をお掛けください……嬢王陛下がこの国の現状をお話したいと、おっしゃっております)
そしたらダイルさんは、今は自分を信じろと言った……
(不安になるかもしれませんが……今は、ただ自分を信じてください)
やっぱりおかしい……
あの場で言うのであれば、ダイルさんを信じるんじゃなくて、お母さんを……嬢王陛下を信じてください。 と、言うべきな気がする……
飽くまで国の現状を話してくれるのはお母さん。
ダイルさんはただ私に付き添うだけだ。
だったら……
(不安になるかもしれませんが……今は、ただ嬢王陛下のお言葉を信じてください)
……うん。
こっちならしっくりくる。
言葉だけで見れば小さな違い。
ただ、言葉の選択を間違えたように思えるかもしれない。
だけどこの場合、嬢王陛下を信じるのとダイルさんを信じるのでは、意味が大きく違ってくる。
こんな大きなミスを、あの硬い思考をしているダイルさんがするだろうか?
暗くなっていた地面が、太陽の光に照らされ、色を取り戻してくる。
……しないと思う。
…………
でも、じゃあなんでなの?
なんでダイルさんは、自分を信じてくださいなんて言ったんだろう……
…………
私はまたしばらく考えたが、頭のなかには何も浮かんでこなかった。
これ以上はダメだ……わからない。
そもそも、私はそんなに頭がいいわけじゃないし……
…………
こんな時、ヘイロンなら……
頭の中で言いかけて、私はやめた。
「……はぁ……」
……兎にも角にも、今は話を聞かなきゃ。
それじゃないと前に進めない。
ご閲覧ありがとうございました!
やっとラルナのターンですね。
時間軸が若干ズレてる感じがしますが、そこはおいおい調整すると思います。
では、次回もよろしくお願い致します!




