40話 友達
〜〜ヘイロンside〜〜
時は現在に戻る。
「……じじいも言ってただろ。 あいつらを本当に思うならどうするべきか……」
俺は、シャカラの問いにそう答え、続けて口を開く。
「ラルナもリュカも、もう巻き込む訳にはいかねぇんだ……俺達の都合で、怪我をさせたくねぇし、悲しませたくもねぇ……」
「……」
「泣かせる話だねぇ」
俺の話を盗み聞きしていたのか、タドがそう言いながら階段から上がってきた。
「盗み聞きばっかしやがって……あんたも、大分小汚いことしてくれるんだな」
「勘違いしないでおくれよ。 私はしたくて盗み聞きをしてるんじゃない。 たまたま耳に入ってきただけ」
「よく言うぜ」
「でも良いのかしら? 竜さん」
竜さん……?
俺は今のタドの発言に不審を感じ、考える前にそれを問う。
「お前……今竜って……俺達の本当の姿を知ってるのか?」
タドは、その俺の質問にすぐに答えた。
「あたりまえさ。 黒竜にさらわれた王女様が、黒いトカゲと一緒に出てきたら疑わない訳がないだろう? おまけにそのトカゲは喋るときた」
……こいつ、やっぱりラルナの事を知ってたのか。
「随分慕われてないのだな、あいつは」
タドの言葉を聞き、シャカラがそう言う。
確かに……王女だと知っていたら、普通はあんな事を言わない。
「慕われてない訳じゃないさ。 むしろ、国からは気持ち悪いくらいに愛されてる。 あたしも、その一人だった」
「ならばなぜだ」
「さっきも言っただろう? あたしは嫌いなんだよ、ああいう人間が」
詳しくは言ってないが、多分リュカの事だろう。
だったらこいつは、大きな勘違いをしている。
「あんたいくつか勘違いしてる」
「……?」
「最初に、リュカは普通の狼じゃない。 人狼だ」
「人狼? また珍しい……」
「それにラルナは、俺達の事を愛玩動物だなんて思っちゃいねぇ。 俺達の事を人間と同じように考え、そして……友だと思ってる」
「……」
「リュカも俺も同じだ。 あいつを愛玩動物だなんて思っちゃいねぇ。 友だと考えてる」
「友達をあんな大怪我させるかね?」
「……あれは、あいつのせいじゃない」
「……」
「俺のせいだ」
「なるほどね……」
タドはそう言うと、何かを理解したかのように顔を緩めた。
「あんた達が本当の友達同士だってことは理解したよ。 最初の事は謝る。 でも、それだったら尚更良いのかい?」
……良いのか。 そんな事今更言われても困るぜ。 もう言っちまったんだ。 取り返しなんてつかない。
それとも、こいつはまた違う事を言ってるのか?
「さっきも言ってたが、どう言う事だ?」
俺の問いを聞き、タドは緩めた顔を引き締めた。
「最近……そうだね、王女が竜にさらわれてからかな。 王女の母……ナーガ・ヒマナが、ある男と手を組んだんだ」
ある男……?
「彼は、自分で自分の事を未来の人間だと語っていた」
〜〜ラルナside〜〜
私は、暗闇の中を夢中に走り続けた。
何も考えられなかったし、考えたくもなかった。
ただ、行き場のない悔しさにも似た悲しみを、私は誤魔化したかった。
私は、どこに向かっているのだろう。
なにを、目指しているのだろう。
「……ッ!」
不意に小石に足を取られ、私は豪快に地面に転ぶ。
膝と肘に、痺れるような痛みが走る。
でも、そんな事今は気にならなかった。
……もう戻れないのかな……
足が止まった途端に、そんな言葉が浮かんできた。
「戻りたいよ……やり直したいよ……」
小声で呟き、私は震える手で地面の土を握る。
「人と言う生き物は、結局そう言う生き物なんだよ」
「……」
突然聞こえてきた声に、私はあまり大きな反応は取らなかった。
その声は、ここ最近にも聞いた事のある声だった。
「……ヴィシュヌ」
「もう、あまり驚かなくなったね」
私はその言葉を聞いてから、ゆっくりと立ち上がりヴィシュヌを見た。
ヴィシュヌは、優しく微笑みながら私に語りかける。
「人は皆、後悔や自責の念をどこかに抱えながら生きているものなんだ。 だから僕はここにいるし、君もここにいる」
「……なにが言いたいの」
「なにが言いたいのかは、僕に協力して国に戻るなら教えてあげるよ」
「ふざけないで! なんで私があんたの……」
「嫌ならここにずっといればいい」
「……」
「僕と同じように、なにも出来ずに愛する者を失う悲しみを、一人味わってればいい」
……一人……
「何を言ってるの、私は一人なんかじゃない」
「無理をしなくていい。 君がどう言う経緯でここにいるのかは全部知ってる」
「どう言う経緯って……」
「竜族に邪険に扱われたんだろう?」
「ッ! 違うッ!!」
私は、ヴィシュヌにかけられた言葉から身を守るように強く否定する。
「私は自分から竜族から離れたのよ!」
「……」
「私はもう……あそこに居ても意味がないから……」
そう……私は自分で離れた。
それが、竜族にできる最大の協力だから……
「……」
「……」
しばらく沈黙が続くなか、ヴィシュヌは息を漏らすように言葉を吐く。
「……ようするに、君は竜族にとって邪魔になったんだろう?」
静かに吐かれたその言葉に、私は胸をえぐられるような痛みに襲われた。
「竜族なんてそんなものさ。 生き物を、まるで物のように扱い、邪魔か邪魔じゃないかで判断して殺す」
「……」
ヴィシュヌは、地面に落ちている枯れ葉を一枚拾い、私に見せる。
「君は、地面に落ちている枯れ葉を踏む事に胸を痛めたりはしないだろう? それは当然のこと……生き物ではないんだからね。
それと同じさ。 竜族は、自分以外の生き物を、生き物とは見ていないんだ」
そう言うと、ヴィシュヌは拾った枯れ葉から手を離す。
枯れ葉は風に揺れ、まるでヴィシュヌから逃げるかのように飛ばされていく。
そんな事はない……それは絶対に違う。
確かに私は今、竜族にとって邪魔なのかもしれない……
それでも、今まで一緒にいた間の時間は、ヴィシュヌの言う、冷たい心の持ち主じゃなかった。
一緒に馬鹿やって、笑って……悲しんだりした時もある。
私を心配して、声をかけてくれた事もある。
それは嘘なんかじゃなくて、しっかりとした事実として、私の記憶に残ってる。
それがそうなのかはわからないけど、私は確かに感じたんだ。
これが、友達なんだって。
ご閲覧ありがとうございます!
そろそろ連投出来なくなるかも……




