3話 王竜との約束、そして海へ
~~ラルナside~~
頬に雫が落ちた感覚がして、私は目を覚ました。
ここは……私は食べられたんじゃ……
私は上半身を起こし、ゆっくりと周りを見回した。
周りには、何年間生きてきたのだろうかと思う程の大きさの樹々が、私を囲むように並んでいる。
その樹の葉が何重にも重なり、太陽の光を遮っている。
「起きましたかな?」
後ろの方から声が聞こえてきた。
その声は、身体に響く程大きな声であったが、不思議と耳が痛くなったりなどはしなかった。
むしろ、鳥のさえずりを聞いているような心地になれた。
私は、その声の主が気になり後ろを向く。
しかし、後ろに居たのは人でも、ましてや鳥でもなかった。
え……
私はそれを見た瞬間、思考が止まった。
そこに居たのは、金色に輝く鱗を持つ巨大な竜であった。
その隣には、黒い鱗の竜が伏せて寝ている。
「あまり驚かないんですじゃな。 まぁ、それは良いですが」
金色の竜は私に、如何にも使い慣れていないだろう敬語で話しかけてきた。
「い、いや……十分驚いてるんだけど……その……私に何の用なんですか?」
私は、今考えられる精一杯の敬語を使って、その竜に話しかけた。
「うむ。 竜姫の力をお借りしたいと思い、来てもらったと……いえ、連れ去らさせてもらいました」
竜姫……私が竜姫? 確かにジャダイでは姫ではあったけど……それに力? なんのこと?
「私が竜姫? と言うか竜姫ってなに? それに、力を貸して欲しいって私に普通の竜以上の力なんて無いわよ」
私は浮かんできた、全ての疑問をその金色の竜にぶつけた。
「やはり、自分の力をご存知では無いのですな」
「自分の力?」
「うむ。 天候を操る力ですじゃ」
天候を操る力……? ああ……分かった……多分この竜達……
「金色の竜さん。 恐らく人違いをしていますよ。 私はそんな事できないし、それを思わせるような出来事も生きていて一度もありませんでした」
「本当にそうですか?」
私は少し俯き、身の回りの事を思い返した。
そんな事、私の周りにはなかったはず……
あったら話題になって……
話題……? あれ……私が生きてた中で、なにか話題になる事ってあった……?
……知らないんだ……私は外の出来事を。
ずっと甘やかされていたから……何も知らないんだ、外の苦労を……
「……わからない、私はずっと甘やかされて生きてたから……外の出来事を知らない……」
私は……こんな状態で民への誓いを……
「姫は、怒ったことはありますかな?」
私が落ち込んでいると、金色の竜はそう言って質問を投げかけてきた。
…………
私がまだ、5歳くらいの時だっただろうか? ……一度だけ、お母さんに自分がヒヨコの時から育てていた鶏を逃がされてしまった事があった。
懐かしいなぁ……
あの時は、本当に怒りに怒った。
お母さんも、私の怒りに対して怒っていたけど、それきり私が父に甘えていたら、何日かして急に謝ってきたのを覚えてる……
「一度だけ、あります」
「その時の外の様子は知っておりますかな?」
「その頃は、確か王宮の中で遊んでたから……外の事は知らないと思う……」
「恐らく、その時だと思いますじゃ。 力の暴走は、怒りが鍵である時が多い。
急に太陽の光が強くなり、冬にもかかわらず山では火事がおき、海では大量の魚の茹で上がった屍体が浮かぶなどの災害が起きたんですじゃ。
それは幾日か続き、激しい旱魃をもたらしましたんですじゃ」
「激しい旱魃……魚の屍体……」
私は、金色の竜に言われた事件を口に出しながら思い出そうとしたが、なにも覚えていなかった。
……外でそんな事があったなんて……全く知らなかった……
そんな国を滅ぼしかけた私を、国民は信じて王にしようとして………
「そんな暗い顔を見せんでください……儂も辛くなってしまう」
「うん……」
「……そこでお願いがあるんですじゃ」
私は金色の竜から、竜族の事情を説明された。
「螭と蟠……この二つの竜族の村が、ある者に崩壊させられてしまったのじゃ……」
「…………」
「敵の狙いも、その敵自体も、なにもまだわかっていないのじゃが……おそらくその敵は儂達竜族よりも遥かに強い……」
「……私に……何を?」
「竜達と共に敵を撃退、もしくは和解をして欲しいのじゃ」
「げ、撃退!? 私に!?」
「うむ……但し、竜姫の力はあくまで最終手段……できれば、その最終手段を使う前に、力を使えるようになって欲しいのですじゃ」
でも……本当に私にそんな事ができるのだろうか……
その力が本当に私にあったとしても、そんな簡単に使いこなせるようになるのだろうか……
「お願いじゃ! そなたの国も、我々が永遠に守るよう約束する! その力もなんとかしてコントロールできるよう協力しますじゃ!」
国の事を守ってくれる……それに力の事も……
私もジャダイの王女。できることなら……
それに……これであの王宮から出られるなら……
「わかった…… 出来る限りの事は協力する」
最後の言葉に負けて、私はそのお願いを聞く事にした。
「ありがとう」
「それと……その……」
「うむ? なんじゃ?」
「姫と呼ぶのはやめて欲しいの……その……友達みたいな感じの方が私はやりやすいんだけど……」
私はそれを言った後、少し恥ずかしくなり、背を丸めた。
「うむ。わかったのじゃ。 ラルナ」
「え? どうして私の名前を……」
「ヘイロンが教えてくれたのじゃよ」
そういって、金色の竜は黒い鱗の竜を指差した
ヘイロンって言うんだ……
「儂の名は王竜じゃ。よろしく頼む」
「私は、ジャダイの王族。ナーガ・ラルナ、こちらこそよろしく!」
私達はお互いに挨拶を交わした。
これで……友達になれたのかな?
初めての友達……
嬉しさに、自然に口の端が上がる。
……友達。
「話は終わったのか? じじい」
私がそんな事を考えていると、隣で寝ていたヘイロンが、首をあげてこちらを見てきた。
王竜のお爺さんからは、一目で優しいというイメージが伝わってきたけど、ヘイロンからは……なんと言うか、変なものを感じる……恐怖じゃないんだけど、お前をいつでも殺せるんだぞ?っていう……強者の余裕と言えば良いのかな? そんなものを感じる。
「何を言うかお主は。ずっと起きていたではないか」
「チッ……気付いてたのかよ……まぁいいや」
ヘイロンはそう言うと、ゆっくりとこちらを見てきた。 その瞬間、私はビクッと体を震わせた。
「そんなにビビるなよ……ったく……お前、本当に良いのかよ。 俺たちに協力するって事は、しばらくは家に帰れないんだぞ?……親に会えなくなっても良いのか?」
私をバカにしようとしているのではなく、本気で心配をしてくれているのが声のトーンからわかった。
でも、それは正直いらない心配だ。
「それは大丈夫。 正直私、あそこには帰りたくないから」
「フッ……反抗期ってやつか」
ヘイロンは少し笑ってそう言った。
「う、うるさいわね!何も知らないくせに!」
恥ずかしくなった私は、つい、そう返してしまった。
しまったと一瞬おもったが、ヘイロンの返しは意外なものだった。
「ああ、しらねぇよ。でも、親ってのはお前が思っている以上にお前の事を愛してるんだぜ?それを一応知っておくんだな……」
「……」
意外な返しに私はヘイロンを、見たまま止まってしまった。
「な、なんだよ……なんか、そんなに見られたら恥ずかしいだろ……こっち見るなよ……」
ヘイロンはクビを横に曲げて、私から目をそらした。
「プフッ……」
その行動が可愛くて、私は笑いを吹き出してしまった。
「わ、笑うな!」
「ワハハハハ!お主達は仲が良いなぁ……そうじゃ!ヘイロン、ラルナ、お主達一緒に暮らしたらどうじゃ?」
絶対嫌だ!!……と言いたいけれど、竜の事を何も知らない上に寝る場所も無い……それに、自分の力の事もあるし、ヘイロンと暮らすのは実際良い案かもしれない。
「はぁ!? いい加減にしろよこの糞じじいが! なんでこんな甘えん坊姫と暮らさないといけねぇんだよ!」
甘えん坊姫という言葉を聞いて、自分中の何かがキレる音がした。
「誰が甘えん坊姫よ! この炭だらけトカゲが!」
「す、炭だらけトカゲだとぉ!!」
「大体! 我儘言って甘えてるのはあんたのほうでしょ!」
「うっ……ち、ちげーよ! 俺はお前が嫌だと思ったから言ったんだ!」
「別にぃ〜私はいいけどね!」
「お前が良いなら俺だって良かったさ!」
「ワハハハハ!やはり仲が良いのう」
「「良くない!!」」
私とヘイロンは、不本意にも声をそろえてそう言った。
決っして相性が良いというわけではない!断じて違う!
「わかった、わかった。 二人共良いのだろう?」
「仕方なくな!」
「わかっておる。 もう言うでない」
「……ほら」
ヘイロンが私に背中を見せてしゃがんだ。
「え、なに?」
「なにじゃねぇよ! 背中乗れつってんだ! それともまた喰われたいのか?!」
「う、うるさいわね! わかってるわよ!」
そう言って、私は尻尾から背中によじ登った。
「背中にすわってしっかり掴まってろよ」
「お、落とさないでよ……」
「なんだお前、怖いのか?」
ヘイロンが小馬鹿にしたようにそう言った。
「うるさい!」
私はそれに腹を立て、頭を叩いた。
「いでぇ!!」
「バーカ!」
私はそういった後、静かに自分の手を握った。
……叩いた自分の手が痛かったことは、ヘイロンにバレないよう我慢しよう……
「はぁ……んじゃあ、帰るから」
「うむ、頼んだぞ」
これから空を飛ぶんだ……
ヘイロンは上を向くと、翼を広げ一度深くしゃがんだあと、翼の羽ばたきと共に勢い良くジャンプした。
上からくる風の重さに、私はうめき声をあげそうになる。
そして、木の葉を通り抜け外に出た瞬間、私は目を疑った。
「な、なに……これ……?」
「ん? あぁ、そうか。 お前らから見たらこの風景はあり得ないものなんだっけな。これは、んん……まぁ、簡単に言えば空島だ」
「そ、空島ぁ!?」
私は、本の中でしか知らないその存在に感動を覚え、さっきまでいた島に目が釘付けになった。
「お前……俺たちに会った時よりも感動してるな……なんと言うか……島に負けたと思うと……」
「いや、十分驚いてたけど……ヘイロンなんか怖かったからさ…………その顔どうにかなんないの?」
「アホかお前わ! あと、結構俺気にしてるからほじくんな」
それは意外だった。 ヘイロンは全てを力や恐怖でねじ伏せる感じだと思ってたけど……見た目とは結構違っていい竜? 人? なのかな。
「で、どこにヘイロンの家はあるの?」
「海の中だ」
ここまできたらもう驚かないけど……
「それ、どうやって私暮らすわけ?」
「知らん」
「知らん。 じゃないよ!」
「あぁ! もう! うるさい! 耳元で叫ぶな! 浜辺で野宿でもすりゃいいだろ!」
無理!っていいたい……言いたいけど今言ったらまた、甘えん坊姫が! とか……言われてしまう……どうかえそうか……
「はぁ、お前……本当俺の思い通りになんねぇな」
「…………」
「俺もそこら辺で一緒に寝てやるから……それで我慢しろ」
「…………」
「なんか言う事あるんじゃたないのか?」
「別に……頼んでないし……」
「あっそう。 じゃあいいよ俺帰るから」
「ごめんなさいお願いします」
「フッ……それでいいんだよそれで」
……ありがたいけどクソ腹立つこいつ……
なんだかんだ言っているうちに、ヘイロンの住む家……の近くの浜辺についた。
その頃には日も沈み、少し肌寒くなっていた。
「よしついたぞ。 降りろ」
ヘイロンは、私に降りやすいよう伏せをして頭を地面につけた。
「初めて見た……」
「はぁ?!」
「な、なんでもない」
私はそういった後、もう一度目の前の風景に目をやった。
…………
……これが海……絵なんかとは比べものにならないくらい大きくて綺麗。
大きく息を吸うと、塩の匂いが鼻をくすぐってくる……
「おい、早く降りろよ」
「あ、ごめん」
私はヘイロンの頭から降りると、また海を眺めた。
「初めて見るのか? 海」
「え? う、うん……まぁ」
海を見るのが初めてなんて恥ずかしいからあんまり言いたくなかった。
でもそれは事実……仕方がない……
「別に恥ずかしむ事じゃねーだろ」
「え?」
「何かを知る事は恥ずかしいことじゃねぇって言ってんだよ……恥ずかしいのは、知ろうともせずその場の知識だけで決めつける事だ」
「……」
海に沈んだ太陽は、未だに空を淡く照らす。
その淡い光に照らされたヘイロンの顔は、どこか悲しげに見えた。
「今日はとりあえず寝るぞ。 お前も疲れたろ」
「え……うん、まぁ」
「明日は即席の巣……まぁ、お前達でいう家を作る。お前の力についてはそれからだ」
ヘイロンって意外に計画性があるんだ……なんだかんだ言って、私よりもしっかりしてるのかも……
ヘイロンは、その場で丸くなり自分の腕を枕にして寝た。 私はそのヘイロンの腕を背に、座って眠りについた。
ご閲覧ありがとうございました。




