2話 赤い髪の少女
~~ヘイロンside~~
「ヘイロン! 聞いておるのか!」
王竜のじじいの声で、俺は目が覚めた。
どうやら、竜族の会議の途中で寝てたらしい。
「ん? あぁ、聞いてるよ」
「お主! 北を守護する黒竜としての自覚があるのか! 今、竜族は最大の危機に直面しているのだぞ」
周りから冷たい目線を感じる。
俺は仕方なく体を起こし、伸びをしてから楽な姿勢で座った。
「姿勢がわるいが……まぁいい。 もう一度話すぞ」
じじいはそう言って、俺に向かって話し始めた。
「我々にはどの種族にも屈することのない力がある。 それ故、今までは平和に暮らすことが出来ていた。 だが、ある日こんな知らせが入った……螭と蟠の村が、何者かの手によって崩壊したと」
螭と蟠……あの最弱の竜の村かよ……
竜にも色々なレベルがある。 簡単に説明すると7段階に分けることができ、数が下なほど弱いとされている。
7段階、龍。
最高位の竜で、これから話す全ての特性を備えている。
6段階、蛟。
龍の次に強いとされている竜。 何も無いところから大水を起こし、また水を意のままに操る。
5段階、虹。
蛇に翼が生えた様な姿をしている。 また強い毒を持ち、その毒を浴びた生物は大抵生き延びる事は出来ない。
4段階、應と蜃。
基本の形は竜だが、それに羽毛が生えている。 翼などは鳥のそれとほぼ同じ形をしている。 特徴として、気を吐いて海市(蜃気楼)を見せることができる。
3段階、虬。
特別な力は兼ね備えてはいない。 が、腕力や脚力などでは、蛟と同格である。
2段階、螭。
角の無い竜。 窮地になると、耳から血が吹きそうになるほどの高い音をたて、助けを呼ぶと共に逃げる。
1段階、蟠。
最下位の竜で、天にも昇れない。 最弱の竜。
以上の様に種類分けがされる。
「ケッ、所詮 螭と蟠だろ? そんな程度の奴らが殺せたって俺らは殺せないだろ」
「ヘイロン! いい加減にせんか! 強い弱いの問題ではないのだ! 仲間が殺されたのだぞ!」
「はぁ? ……仲間?」
ふざけんなよ、俺を悪魔や不幸の塊みたいな扱いしてきた奴らが仲間なもんかよ……
「……お前が受けた仕打ちは知っておる。 だが……」
俺は全てを話し終える前に、目の前の金色の鱗をつけたじじいを睨めつけた。
それを見てじじいは少し咳払いをして話を再開した。
「……話を元に戻す。 螭と蟠の村を襲った者、そしてその理由など……全てまだ分かっていない、が……村の傷跡からして敵は一匹や二匹ではないという事だけはわかった」
「じゃあどうするんだよ」
「私の予想が正しければ、その者達は儂達竜族より強大な力を持っている…」
「…………」
「……ナーガの一族の人間に……力を貸してもらう」
「はぁ? 螭や蟠も一応竜だぞ!? その竜が負けてんのに人間なんて……」
「ヘイロン、お主にはナーガの一族の者を連れてきてほしい。 多少手荒になっても良い」
「おい! 話聞いてんのかよ! じじい!」
「頼む、一大事なのだ……!」
じじいはそう言って、俺の目を睨んできた。
たく……それがものを頼むときの態度かよ……
「…………どうやって見分けりゃいいんだよ」
「特徴は、髪の毛が太陽の陽に照らされると紅く光る。それがナーガの一族じゃ」
「場所は?」
「ジャダイじゃ」
「人間の大国か……めんどくせぇなぁ」
「なんじゃ? 人さらいもお主はできんのか?」
「うるせぇな。 いけばいいんだろ?」
そう言って俺は翼を広げ、あえて周りに迷惑がかかる様に翼を羽ばたかせ、空へ飛んだ。
なんで俺が人さらいなんかを……
それに、俺達竜族が他族に手を貸してもらうってのも気にくわねぇ……
なんで、どこの村の王もなにも言わねぇんだよ。
じじいにびびってんのかよ……くそ……
俺は、そんな愚痴を心の中で呟いた。
太陽からは、ギラギラと熱が降り注いでくる。
それにしても、今日はやけに暑い。
もう秋に入りかけてるってのによ……
しかし、どう探そうか……俺の体じゃ近づいたら逃げちまうだろうし。
そもそも、今日は人が少ないような気がする。
いつもここを通る時は、嫌なほどに人間がいる筈なんだが。
真下にある人間の国……ジャダイには、両手で数えられる程の人間しかいなく、いつもの活気が無かった。
なんで今日に限ってこうなんだよ……!
くそ……!
それからも探し続けたが、暑さとなかなか見つからないというイライラで、俺は頭が一杯になってきていた。
ああッ! 何処にいるんだよ!
ムカつくッ!
そんな事を、何度も何度も頭の中で繰り返し言っていた時だった。
「いたッ!なんなんだよ!」
突然、頭に何かが当たる衝撃がして、俺はそこまで痛くないのにも関わらず、少しオーバーなリアクションをとった。
何が当たったのかを確かめるために、飛んできた方向に目をやると、そこには信じられない光景があった。
うわっ……! なんだあれ……気持ちわりぃ……
人間が、蟻の大群のように密集している、おぞましい光景だった。
「ウげっ……」
あまりの衝撃に思わず俺は声を上げてしまった。
なんであんな所に固まってんだよ……なにかあったのか?
俺は気持ち悪いのを我慢して、その密集地帯を目を細めて見た。
黒い頭が並ぶなか、一つ、赤い頭が目に入るまではそう時間はかからなかった。
あれは……絶対そうだ! ナーガだ!
俺はその周りにいる人間の事も、さっきぶつかってきた物の事も忘れて、一直線に紅く光る髪を持つ者の所まで急降下した。
やっぱりそうだ!
目の前には、驚いた顔のまま固まった、赤い髪の少女がいた。
よし! さっさと連れて行こう!
そう思い頭をかがめたとき、その近くから叫び声が聞こえてきた。
「ラルナこっちへ!! 早く!」
……母親……か?
赤い髪の少女の母親らしき者は、必死になって叫んでいる。
連れ去るのに迷ってしまった俺は一瞬止まってしまった。
そのとき、紅い髪を持つ者……ラルナが、突然俺に近づいてきた。
それに驚いた俺は、反射的にラルナを口にくわえて飛び去ってしまった。
普通にさらっちまったけど……いいのか……
脳内に、さらう瞬間の光景と、母親の顔と叫び声が何度も流れてくる……
……はぁ……くそッ……なんでこんな思いしなきゃいけねぇんだよ……
こいつを戻そうなんて考えが浮かんできたが、俺は王竜のじじいに言われた通り、こいつを……ラルナをさらった。
空中で、クチバシに傷がついた真白な鳥とすれ違った。
鳩か?
ここは結構な高さなんだが……鳩ってそんな飛べたか?
まぁいいか……
俺はそんな風に、他の事を考えてあの顔を忘れようとした。
しかし、それはどうやっても消えてくれなかった……
……ああ!くそ!なんかスッキリしねぇ!
……さっさと事を終わらせて帰らせればいいんだ……
俺は心にかかったモヤモヤを、そう言って無理やり払った。
いつの間にかギラギラとした暑さは消えて、太陽は灰色の雲に包まれていた。
俺はそのまま何も考えずに、王竜の元へと飛んで行った。
いつもより、少し早めに。
ご閲覧ありがとうございました。




