38話 非情の言葉
〜〜ラルナside〜〜
「人の物を勝手に漁るなんて、随分と厚かましい事をしてくれるんだね」
いつの間にか地下から上がってきていたタドが、私にそう言った。
その声を聞いたヘイロンとシャカラは、また私の服の中に身を隠す。
「ご、ごめん」
「……まぁ、その本はただの拾いもんだからね。 別に勝手に持ってってくれても構わないけど、薬品に触ったら容赦しないからね……」
タドは、そう言いながら棚に置いてある瓶を取り、地下に戻る。
……ふぅ……
「それから!」
地下に戻りかけたタドが、階段から顔を出してきた。
「な、なに?」
私はそれに驚きながらも返事を返す。
「あんた、他にも不思議な生き物連れてるみたいだけど、その子達は怪我はないんだろうね?!」
「……気づいてたの?」
「そりゃあんだけ大きな会話をしてりゃわかるわよ。 で、どうなの」
「……大丈夫」
「なら良いわ」
タドは私から確認を取ると、今度こそ地下へ降りていく。
それがわかると、ヘイロンとシャカラは襟から顔を出してきた。
「バレてたな……」
「う、うん……」
「当然だろう」
大声を出していた私達に向かって、シャカラは呆れたような声でそう言った。
自分ではだいぶ声を押さえてた方だと思ったんだけど……
私は、さっき手に取った本をもう一度見る。
「その本がどうかしたのか?」
そう言ったヘイロンは、襟から出て私の肩の上に登った。
シャカラも、同じく肩の上にいる。
「別に大した事じゃないよ。 私もこの本持ってたなぁって思っただけ」
私は、その本を机の上に置いて、その場に座った。
「どうした?」
座り込んだ私を気にして、ヘイロンが顔を覗き込んでくる。
「大丈夫、ちょっと疲れただけ」
「そうか……」
「リュカ、大丈夫かな……」
「……大丈夫に決まってる」
ヘイロンは静かに、それでいて強くそう呟く。
「あの子、リュカって言うんだね」
タドの声が階段の下から聞こえてきた。
ちょっとしてから、タドは階段からゆっくりと登ってくる。
「さっき話してたのは、その両肩のトカゲ?」
「トカゲじゃねぇ!」
タドの言葉に、ヘイロンが言い返す。
「へぇ……喋るトカゲねぇ……珍しい動物だね」
「だからトカゲじゃ……」
「リュカは……!」
私はヘイロンの言葉を無視し、立ち上がってタドに聞き迫った。
「リュカは……大丈夫なの……」
「…………」
タドは、私を一度見てから、視線を外す。
「……ギリギリだったよ。 大きな外傷が二つ……そこからくる発熱が、あの子を弱らせてたみたいだね」
「……」
「本来、体の発熱ってのは、傷から入ってきた細菌を排除するための防衛反応だけど、それが強すぎれば当然毒にもなる……」
「リュカ……」
「……あんたがあの子の飼い主かい? だったら一つ言っとく」
「……?」
タドは私に視線を戻し、明らかに嫌悪が現れた目で睨む。
「あんた、治ったらもうあの子とは離れな」
「…………え?」
「それから、その両肩にいるトカゲともね」
「……な、なんで……!」
「嫌いなんだよ……ろくに世話も躾も出来ないで、こうやって怪我をさせて……それでも可愛いから好きだからって、自分の感情を押し付け、無理やり動物を自分の愛玩具にしてる人間が……あたしは大っ嫌いなんだよ」
「……ッ! ……」
川の流れを岩でせき止められたかのように、私は開いた口から声を出す事が出来なかった。
それも当然だ……その通りなんだから……
リュカの事を愛玩具だからとか、躾だとか世話だとかって言うのは違う……でも、怪我をさせてしまったのは……私のせいだ。
「わかったら、あの子が目覚めるまでの間、別れの言葉でも考えて用意しとくんだね」
タドはそう言うと、また地下に戻っていく。
私はただ立ち尽くし、その姿を見ていることしか出来なかった。
日は傾き、外は夕暮れに染まる。
いつの間にか私は、その場で膝を抱え込み座り込んでいた。
両肩にいたヘイロンとシャカラも、今は地面に降りている。
……やっぱり私は、足手まといなんだ。
タドに言われた言葉を思い出し、私は思った。
頑張っても、努力しても、特別な力があっても……私は人間。 竜じゃない。
私は、以前交わした王竜のお爺さんとの会話を思い出す。
(……共に、竜族を守って欲しい)
(必ず、力になるよ)
力になってなんかないじゃない……
私は自分の唇を強く噛んで、今にも漏れそうな声を押さえる。
…………
「ヘイロン」
不意に、シャカラが声を出した。
私はそれに反応して、少し頭を上げる。
「なにを躊躇っているのだ。 いつまでお前は、口を開けては閉めを繰り返している」
「ぅ……」
「迷っていても仕方がなかろう。 話さねば決断することすらできないのだぞ」
「……」
いったい何の話しを……
「…………」
ヘイロンは、しばらく黙ったままでいた。
それに痺れを切らしたのか、シャカラが口を開く。
「そんなに話すのが辛いのであれば、私からラルナに……」
「まてッ!」
「……?」
「俺が、言う」
ヘイロンはそう言うと、私の方へと顔を向けてきた。
「なに、ヘイロン。 何か私に言うことでもあるの?」
私は、出来るだけいつもの調子でそう応える。
…………
ヘイロンは、また少し間を開けると、ゆっくりと口を開いた。
「ラルナ。 お前はもう帰れ」
一瞬私は、なにを言われているのかわからなかった。
いや、そもそも誰と会話してるのかもわからなかった。
それほどにヘイロンの声は、表情は、何時もと違うように感じた。
しばらくたってから、その言葉の意味を理解できた。
……やっぱり……そう、思ってたんだ。
…………
私は、そう理解していながらも、思ってもいない言葉を口にする。
「冗談でしょ?」
笑い混じりに言ったこの言葉は、きっと現実から目を逸らしたいが故に漏れた言葉なんだろう。
しかしそれは、次の言葉で跡形もなく砕かれた。
「冗談なんか言ってねぇよ」
私は立ち上がり、ヘイロンを睨む。
冗談なんかじゃない事は、わかってる……
わかってるのに、私はまだ……
「じゃあ、なんであの時に言ってくれなかったの……」
「あの時?」
「私がお爺さんの話を聞いて、突然倒れた時よ……!」
大きめに放った私の声を聞き、ヘイロンは少しの間止まった。
……それは、本当に少しだった。
「…………あの時は、お前の話を聞いて情が移ってたのかもな」
「……」
「でも悪いが、今はなんとも思っちゃいねぇ」
「……」
「ハッキリ言ってやる。 俺はお前……」
「……ッ!」
私はその言葉を聞く前に、走って扉から出た。
そして、訳もわからず森の中を走り続けた。
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