29話 リュカの意思
〜〜ラルナside〜〜
ここは、どこなんだろう……
周りは真っ黒に染まっており何も見えない。
手足が地についていない。
浮遊している感覚だけが私にはあった。
「もう、懐かしく感じるな……」
ッ!?
突如、流れてきたこの声を聞いた瞬間、私は以前にもこの体験があった事を思い出した。
この声! 前の!
どこ! どこにいるの!
私は、必死に周りを見渡し声の主を探した。
左、右、後ろと、あらゆる方向を探したが、声の主は見つからない。
「力を……使いすぎてはならぬぞ……」
しかし、声は流れ続ける。
前と全く同じ言葉……
「うん。 わかってる。 お父さん」
ッ!?
私の声!?
でも、声が幼い……子供の頃の私?
じゃあこれは、私の記憶? でもこんな記憶……私には……
「ごめんなさい……私達は……もう、あなたにしか頼れないの……」
「大丈夫だよ。 お母さん。 私、少し楽しみでもあるから」
お母さん……?
違う、お母さんはこんな声じゃ……
それにお父さんだって……
違う……
この人達はいったい……
いったい誰なの……
「……じゃ………ね」
声は急に遠ざかり、しっかりと聞き取れないほど遠くに離れていった。
待って!
いったいあなた達は誰なの!
ねぇ!
「誰なのッ!?……!」
突然、声が出るようになったと思うと、音や感触を感じとれるようになった。
今のは……夢……?
「はぁ…………はぁ……」
妙に空気が冷たく感じられ、私は体を震わせようとしたが、それは叶わなかった。
「え……」
なにこれ! 縛られて……!
拘束されてる!?
「大丈夫かい? 酷くうなされていたみたいだけど?」
「……ッ! あんたは!」
目の前には、以前出会ったヴィシュヌと名乗る少年とラジットがいた。
「あんた! やっぱり!」
「口を慎め、女。 その気になれば、私はお前をこの場で殺せるのだぞ」
ラジットはそう言って、私に爪を立てた。
しかし、私にはそれが本気の行動には見えなかった。
……違う……
「…………嘘ね」
「……なぜ私が嘘をつく」
「あんたは……私を殺さずに捕まえた。 何らかの理由があって。 その理由を果たせないうちは、あんたは私を殺せない!」
「くッ……」
図星のようね……
…………
ていうか、今の私少しカッコよかったかも……!
意外に私って頭良い?
…………
……なんて言ってる場合じゃないか。
「プふッ……」
「……ん?」
「プふッ…ウフッアハハハ!」
なに、こいつ……
急に笑いだして……
隣にいるラジットも、不思議な物を見るような目でヴィシュヌを見ている。
「ご、ごめんごめん。 ちょっと、ラジットが面白くって」
「……う…しかたないじゃないですか……」
「……?」
「いや、だってあまりにも似合わなくて……プふクふふ……ラジットが”私”だんなんて……」
「べ、 別に良いでしょうに! 俺だって我慢してこう喋ってるんですよ!」
「だから、話し方まで変えなくても良いって言ったじゃないか?」
「ですが……」
私は、二人の会話を目を皿にして見ていた。
え、なに……こいつら、こんな感じなの……?
ううん。騙されちゃダメ。
これだって罠かもしれない。
……でも、やっぱり……
「気にしなくて良いんだよ。 ラジット。 前のままで良い」
「……わかりました」
どこからどう見ても……普通の少年にしか、見えない。
ラジットが、この少年を慕っているのも気になる……
「ヴィシュヌ……あなた何者なの……それに、なんで竜族を襲うの……?」
ヴィシュヌは、一度目を閉じてから口を開いた。
「……それを話したら、君は僕に力を貸してくれるのかな?」
ヴィシュヌは、笑みを崩さずにそういった。
「それは……」
「フフ……そうだよね。 わかってる。 でも、一応君には話しておくよ」
〜〜ヘイロンside〜〜
リュカが眠ってしばらくした後、俺達は身を整え、王竜のじじいの元に集合していた。
「皆、もう準備はできておるか?」
「俺はもう大丈夫だ」
「余も問題ない」
「私も大丈夫です。 リュカも今は眠っており、インヨが見てくれています」
「そうか……でわ、残すは奴だけじゃな」
残すは奴だけ……
じじいはあえて伏せているのか、単に名前を教え忘れているのか、はたまた名前を思い出せないのか……
その”奴”の名前を自分から言おうとはしてこない。
だけど、こんなことしてていいのか?
そいつを待つより、俺達だけで先に行った方が良いんじゃねぇのか?
そんな思いが、俺を不安にさせていた。
「王竜様……私達はこんなことをしていて良いのでしょうか……」
不安だったのは俺だけじゃなかったみたいだな……
親父も同じ気持ちだったらしい。
「……じじい、もう先に行こう」
「……」
「おい! じじい聞いてんのかよ!」
「……やっときおった」
じじいはそう言って、空から飛んできた普通の白い鳥を見た。
その鳥は俺の肩に止まると、急に光を纏い始める。
「な、なんだよこいつ」
「ヘイロン、お主も一度会っているものだ」
「俺が?」
白い鳥の纏う光が消えると気のせいか、少しその鳥がさっきより大きくなっているように見えた。
「遅れてしまって申し訳ない……王竜殿」
「!! お前ッ!」
その鳥の声を聞いて、俺はすぐにそいつがなんなのか理解した。
「あそこからここまでの距離……十分な速さじゃ。 ガルト」
「……それより王竜殿。 この状況はいったい?」
「うむ。 あれから色々あってな……簡単に説明すると、お主の所のラジットという奴がラルナを連れ去っていった。 儂らはラルナを人質に取られなにも出来んかった……」
「そうであったか……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
会話に一呼吸を置く前に、親父が言葉を飛ばした。
「そいつは……いったい……」
「そうか、アノクダツは知っておらぬのか。 ……ガルト」
ガルトはじじいの目線を受け取ると、小さく頷いた。
「我はガルト。 そなたらの敵、ガルダ族の元王である」
ガルトは俺の肩の上で、親父に向かって自己紹介をした。
「……ッ!」
それを聞き終わるとほぼ同時に、親父は身を構えた。
「安心しろアノクダツ。 ガルトは信用できる。 それに、お主も一度助けられておるだろう?」
「助けられた? ……じゃあまさか、あの時の鳥の……!」
「全く、お主も察しが悪いのう」
じじいは、ため息をつきながら親父を見た。
「す、すみません……ですが、信用できるのですか?」
「じじい、正直それは俺も同感だ」
「……」
「今は、信用するしかあるまい……」
「……」
「……」
じじいもやっぱり、完璧には信用できていないみてぇだな……
吹き付ける冷たい夜風が、体を冷やしてくる。
俺は、本能的に体を震わせるが、それでも寒さも、不安も取ることはできなかった。
「……信用がないのはわかっていた。 なら、少し我の話を聞いてくれ。 信用してもらうためにも」
〜〜インヨ、リュカside〜〜
「リュカちゃん……」
インヨは、リュカを夜風で冷やさないよう翼で包みながら一緒に寝ていた。
「今は、色々な感情が混ざってつらいかもしれないけど、リュカちゃんならきっと乗り越えられる」
「…………」
「罪悪の気持ちに、負けないで」
「……僕は負けないよ」
「ん……起きてたのね」
「うん」
「頑張ってね。 リュカちゃん」
「うん」
あの時、決めたから大丈夫。
「……」
「……おばぁさん、僕少しお腹空いちゃった」
「ホホホ、やっぱりリュカちゃんは食欲旺盛じゃのう」
「えへへ……」
「すこしまっておれ。 今持ってくるからのう」
インヨはそう言い残すと、食料を取りにその場をさった。
「…………ごめんなさい。 おばぁさん……僕は、このままじゃいられないんだ」
決めたんだ。あの夕空を見ながら。
いつまでも下を向かない。
しっかりと前を見て走るって。
「迷ってちゃなにもできない。 ラルナだって、ヘイロンだって、きっとそうする」
その言葉を最後にリュカは森の中へと走って行った。
ご閲覧ありがとうございました!
ここだけの話、このシリーズはできれば早めに終わらしたいと思っているのですが……
このペースだと、完結までに2、3年かかりそうです……
まぁ、気長にお付き合いをしていただけると幸いでございます。




