22話 素人の戦い
~~ヘイロンside~~
パクシャは俺の水の咆哮をもろにくらい、岩壁にぶつかった。
「ヘイロン……お前、いつの間にそんな……」
「親父も下がってろ。邪魔だ」
「……ああ。わかった」
そう言うと、親父はラルナとリュカの元にまで下がっていった。
邪魔者は消えた。これで心置きなくやれるな…
「いやぁ〜ちょっとビックリしたよ。こんなに強い力を持ってるだなんて」
そう言いながら、パクシャはゆっくりと起き上がった。
「ビックリしてるようには見えねぇけどな」
「にしても君も酷い事言うねぇ……お父さんに……」
「……てめぇには関係ねぇよ」
「まぁ、そうだね」
その言葉を区切りに、パクシャは翼を動かし空に飛んだ。
「逃がすかよッ!」
それを追いかけ、俺も空に飛んだ。
くそッ! やっぱり速い…!
「馬鹿だなぁ、逃げる訳ないでしょ?」
俺が全力で追いかけていると、パクシャは空中で急停止をして、こちらに向かって大きく翼を羽ばたかせた。
その翼から出たのは目に見える、白い風。
風の斬撃!? ヤベェ! よけきれねぇ!
俺は防御の姿勢を取ってそれを受けた。
空中では踏ん張る所はなく、俺はそのまま地面に落下した。
地面が崩れる大きな音と共に背中に痛みが走る。
「……クソッ!」
「へぇ〜防御の力も中々あるみたいだね。さすが守護竜」
「きくかよ!んなもん!」
「今のは岩だって切り崩せるぐらいの力を持ってるはずなんだけどね」
「斬撃を放てるのがお前だけだと思うなよ…!」
俺は自分の腕に力を込め、パクシャに向けて大きく振った。
俺は咆哮だけが取り柄じゃねぇ。
身体のどこからだって水は出せる…!
振り出された腕からは、三日月型の水が飛んだ。
それは、空気を切り裂きパクシャの元へと一直線に飛ぶ。
「そんなことも出来るんだね」
パクシャはそう言いながら、簡単にそれを避けた。
「チッ……避けられたか」
「避けられたか? アハハハ!! 君、本当に馬鹿だね!」
「んだと!!」
「避けられるに決まってるでしょ? 戦いの基本は敵を欺くこと。そんな真正面からの攻撃なんて当たるはずないでしょ」
確かにそうだ…真正面から、それにこれだけ離れた距離からの、大きな遠距離の攻撃……
それなら……
俺は地面を蹴り、パクシャの方向へと飛んだ。
「間合いを詰めて接近戦なら勝てると考えてるの? それもダメだね」
パクシャはそう言うと、俺と一定の距離を開けながら引き始めた。
ダメだ…狙いが完全にバレてやがる…
「このッ! 逃げんじゃねぇよ!」
俺はそう言って、水の咆哮を放ち続けた。
しかし、それはパクシャに一つも当たらない。
「逃げてるんじゃないよ。間合いを取るって言うんだよ」
速さはあいつらの方が上だ……これじゃあ、いつまでたってもあたらねぇ…!
「それからもう一つ。自分の能力の使い過ぎ…」
パクシャが何かを喋ろうとした時だった。
「戦いの途中にそんなペラペラ喋っていて良いのか?」
「ッ!」
いつの間にかパクシャの後ろに回っていた親父は、パクシャを殴り地面に突き落とした。
「……悪い……やはり私もやらせてもらう」
親父はそう言うと、パクシャの落ちた場所へと降りていった。
調子乗りやがって……少しいいところ見せたからって…!
俺は、一度深呼吸をしてから親父を追いかけ下へと降りた。
「いやぁ〜今のは良かったね。良い不意打ちだったよ」
「きいていない……やはり私の力ではダメか……」
「そう言うことだ。親父はラルナとリュカを守ってろ」
「だが……」
「邪魔だって言ってんだよ。失せろ」
「……分かった」
「本当酷いこと言うねぇ、君」
「てめぇには関係ねぇっていったろ」
「うん。関係ないよ。でも一つ言っておくとけど……」
「……」
「君より、そっちのお父さんの方が戦闘の才能はあるよ」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが切れたのがわかった。
俺は一気にパクシャとの距離を縮めようと、突っ込んだ。
「ほら。こういう所がダメなんだよ」
「ダメだ! ヘイロン!」
俺がパクシャに対して爪を振り下ろそうとした瞬間だった。
俺は、親父に突き飛ばされ横に飛んだ。
「クッ……何しやが……」
起き上がり、上に乗っている親父を見て俺は絶句した。
……右腕が……無い……
「あ〜あ、君のせいでお父さん、右腕なくなっちゃった」
「ち、違う!俺は…」
「違くないよ。君が感情的になって周りが見えなくなったからこうなったんだ。それに気づいて守ったお父さんは凄いと思うよ。普通はそんなに早く動けない」
俺は、上に被さり動かなくなった親父を横に寝かしてやった。
見たところ、まだ息はあるみたいだが、この血の量…あんまり長くは放って置けない。
「脇もえぐれてるみたいだね。死ぬのは時間の問題かな」
「てめぇ!」
俺は、水の咆哮をパクシャに放った。
しかし、またそれはかわされる。
ダメだ…あたんねぇ…!
「それから、君もそろそろ立てなくなると思うよ」
「何を言っ…て……」
俺がそう反論をしようとした時だった。
視界が歪み、急に体のバランスが取れなくなった。
なんだ…これ……急に…力が抜け…
俺はそのまま地面に倒れた。
「力の使い過ぎだね。君も、もう動けない」
「力の……使い過ぎ…だと…?」
「もしかして君達知らないの? それはもう戦う資格なしって言いたくなるくらい馬鹿だね」
「……だと…!」
「あ〜あ……君さ、お父さんに邪魔だとか言ってたけど……逆なんじゃない?」
「…ぅく……」
「確かにお父さんの方より、君は力がある。ただ、頭がない。まるで赤子を相手にしてる気分だったよ」
「ぅるせぇ…!」
「感情的になれば、すぐ突っ込んでくる。赤子と何が違う?」
「黙れ…!」
「こんなんじゃ、お父さんと戦ってた方がずっと楽しかったよ」
俺が動けない事をいい事に好き勝手言いやがって!
怒りに身を任せ、俺はもう一度立ち上がろうとした。
「無理無理。それに、立ち上がった所で君に何ができるの?」
「…ぅく……」
「それ以上……ヘイロンを愚弄するな……」
この声…親父!?
俺は首を少し曲げ、親父を見た。
痛みに顔を歪め、息を切らしながらも親父は、パクシャを強く睨んでいた。
「驚いたねぇ……まだ意識があったんだね」
「ヘイロンは…私の子供だ……これ以上傷つけてみろ……私は、お前を絶対に許さない!」
…………親父……
「いいお父さんだねぇ……あんな酷い事言われたのに、こんなに君を想ってる。泣けてくるよ」
「ヘイロンに…恨まれているのは仕方がない事……それだけの事を私はしてしまった……」
「じゃあ…償いの為にこんなに優しくしてあげてるのかな? そんなの多分意味ないよ。こいつは馬鹿だからね。その優しさにすら気づかないよ」
「それでも良い……ヘイロンに恨まれようと……憎まれようと……私はそれを受け入れよう」
「…………」
「だが……ヘイロンを傷つけ、これ以上不幸に陥れようとする奴は、私が許さない!」
親父……
「ふーん……まぁいいよ」
パクシャはそう言うと、赤い翼を大きく広げ、攻撃の体制を見せた。
熱気が地面を、空気を伝わり、俺達を囲んでくる。
「じゃあね。平和ボケした竜さん達」
俺は……
全身に力を込め、俺はなんとか手をつきながらも立ち上がった。
「まだ立てるんだ」
「親父……俺は…あんたが、どれだけ悔いていようと、許す気はねぇ…」
「……」
「でも……あり」
俺が言葉を発しかけた、その時だった。
突然、瓦礫が崩れ、パクシャの真上に、一斉に落ちてきた。
瓦礫は、パクシャが叫ぶ間も与えずに、飲み込んでいく。
あぶねぇ…位置が違ったら俺らがやられてた……
でも、なんで急に……
「おーい!」
真上から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
俺は、それを確認するのと同時に叫んだ。
「ラルナ!? それにリュカ!?」
瓦礫の上には、ラルナ、そしてリュカが立っていた。
あいつらが瓦礫を落としたのか!?
というか、いつの間にあんな上に……
「二人とも大丈夫ー!?巻き込まれてないー!?」
「お前ら……いつの間……に……」
俺は、急な身体のだるさに襲われ、身を倒した。
「ヘイロン!」
二人が、瓦礫を走って降りてくる音が聞こえてくる。
「大丈夫!? ねぇ!?」
「大丈夫だ……あんま叫ぶなよ」
「良かったー……」
「それより、親父の方についてやってくれ。あのままじゃあ、死んじまうだろ……」
「うん。わかった」
ラルナはそう言ってから直ぐに、親父の所へと向かっていった。
あっけない終わり方だったな…
「やってくれたねぇ!! 君達ィ!!」
瓦礫の中から、叫ぶ声が聞こえてきた。
「な!?」
あいつ…!まだ生きてやがんのかよ…!
「絶対に許さないよぉ!!」
その声と共に、パクシャは瓦礫の中から出てきた。
羽は折れ曲がり、足も片方ない状態のまま、パクシャは怒りの形相を作っている。
「化け物かよ…こいつ…」
「簡単には殺さ……」
喋りかけのパクシャに、再び天から何かが落ちてきた。
それは、さっきの瓦礫よりも、更に大きな音を立てて地面を揺らした。
今度は何があったのか…それを考えるよりも先に、それは姿を見せた。
「大丈夫であるか?」
白銀に輝く、大きな六つの翼。
それは鳥の王を思わせるには十分な程、美しく、凛々しく目に映ってきた。
「……マジかよ……無理だぞ…こんなの」
俺はその姿に、つい声を漏らしてしまった。
「うむ?あぁ、安心してくれ。我は味方だ」
我は……味方だ……だと?
「ふざけんな…!ゴホッ!ゴホッ!」
「ヘイロン!」
俺を心配して、リュカが近づいてきた。
クソッ……喉がいてぇ……
上手く喋れねぇ…!
「詳しい話は後ほど、皆で集まった時にする。頼む、今は信じてくれ」
「んなの……信じられるかよ…!」
「無理かも知れぬが、信じてくれ」
目の前の鳥の化け物は、そう言って頭を下げた。
「ヘイロン……今は信じよう。アノクダツさんだって危険な状態だし、ヘイロンだって……」
俺は、ラルナの隣で倒れている親父を見た。
今は気を失っているようだ。
……親父。
「わかった……」
「ありがとう」
こうして、虯の村での戦いは終わった。
ご閲覧ありがとうございました。




