21話 俺だからだ
~~ラルナside~~
虯の村に滞在してから5日が過ぎた。
私とリュカはここの暮らしに大分慣れ、余裕が生まれてきていた。
ヘイロンとアノクダツさんの仲は相変わらず変わらないままだけど…
「ラルナ行くぞ」
「あ、うん」
今私達は、村の手伝いでロンカの実を集めていた。
手伝うのは良いけど、やはり村の人からの視線が冷たく、正直私もイライラする。
でも、ヘイロンが言うには昔より全然マシらしい。
正直…私なら耐えられないと思う…
「ほらよばぁさん、持ってきたぜ」
ヘイロンはそう言って大量のロンカの実をインヨのおバァさんの前に置いた。
「ありがとうねぇ」
「良いよ良いよ!全然!他になんかあったら手伝うから!……ヘイロンが!」
「おい!」
「フフフ…ありがとう。でももう大丈夫よ」
「こんな量のロンカの実をどうするの?」
「薬にするのよ」
ロンカの実って、薬にもなるんだ……便利だなぁ……
「これ全部か?」
「そんなわけないでしょう?ちゃんと食用分も取っとくわ」
インヨのおバァさんはそう言って笑った。
そうだよね…これ全部薬に使ったら流石に勿体無いよね。
私は、無意識に口に溜まった唾液を飲み込んだ。
…眺めてたら食べたくなってきちゃった……
「ねぇおバァさん、ロンカの実一つもらってもいい?」
私はロンカの実を一つ拾い上げてそう言った。
「もちろんいいわ。もともと拾ってきたのはラルナちゃん達だからね」
「ありがとう!」
「じゃあバァさん、俺達はまた見張りに行ってくるからよ」
そう言ってヘイロンは私達に背中を向けてきた。
私はロンカの実を一つ持ち、リュカと共に背中に登った。
「本当にありがとうね」
「ああ…体にゃ気をつけろよ、ばぁさん」
ヘイロンはそう言ってからすぐに飛んだ。
冷たい風が体全体に当たる。
もう寒いなぁ…もうちょっと厚い服が欲しい。
というか、リュカもなんでこんなにも薄い服を持ってきたのか…
「寒そうだねラルナ」
「そう思うなら毛皮よこしなさいよ…」
「え!?ヤダよ!」
「冗談に決まってるでしょ…」
そんな会話をしながら、さらに時間が進む。
「あいつら来ないよね…」
私は、長い間に耐え切れずにそう呟いた。
「なんだ?お前は来て欲しいのか?」
「いやそう言う意味じゃないけど……逆に不安って言うか……」
「大丈夫だろ?考え過ぎだお前は」
ヘイロンはそう言ってまた見張りに集中した。
それならそれで良いけど……なんだか嫌な予感がする…
「ラルナ」
「ん?なに?」
リュカが突然後ろから私をよんだ。
「そのロンカの実、ずっと持ってるけど食べないなら…」
「ダメ」
「うー……」
「これは私が後でゆっくり食べるの!」
「なんだよ、俺にくれるんじゃねぇのかよ」
「なんでそうなるのよ!」
私はそう言ってヘイロンの頭を叩いた。
「いでっ!」
その後も何事もなく時間は過ぎていった。
空は赤くなり日が沈み始めていたのが分かった。
「そろそろ戻るぞ」
「うん」
「わかった!」
私達はアノクダツさんの巣へと戻った。
巣の中に入るとアノクダツさんが首だけを上げこっちを向いた。
「勤め感謝する。何かあったか?」
アノクダツさんは普段よりも柔らかな口調でそう言った。
それでも硬いほうだけども……
「なにも」
ヘイロンはそれに対して低い声で、短くそう答えた。
それ以降二人はなにも話さない。
巣の中に重い空気がのしかかる。
良い加減やめて欲しい。それは、簡単にすむ問題じゃない事は分かっているけど……私達がいずらい…
私はアノクダツさんを睨んだ。
「う……」
アノクダツさんも私の視線に気づいたのか、頬を掻きながらこちらをチラ見してきた。
「はぁ……」
アノクダツさん……本当に仲直りする気があるのだろうか…
そんなこんなで、今日もまた終わると…そう思ってた…
変化が起きたのは深夜…
……寝れない。
最初、虫の鳴き声と微かな寝息が、私を眠りから妨げていたと思っていた。
しかし、五日間もの間、しっかりと寝れていたという事を考えると、それは違う理由だと分かった。
やっぱり嫌な予感がする…
私がそう考え始めた時だった。
大きな爆発音と共に、岩が崩れる音が遠くから聞こえてきた。
「なに!?」
それを聞いて起きたのか、それとも最初から起きていたのか、リュカとヘイロン、アノクダツさんは体を起こして外を見た。
「おいおい……深夜に襲撃とかやめろよな」
「でも良く考えたら一番襲ってきそうな時間帯だよね……」
「確かに…」
「話は後だ、急いで外に出るぞ」
アノクダツさんはそう言って巣から出て行った。
私達もそれに続いた。
外に出ると、一気に体が冷えた。
「う…寒い…」
「毛皮はあげないよ?」
「わかってるわよ! それより…」
「ああ、らしい姿は見えねぇな」
「でも確かに音は聞こえたよね?」
「他の動物の仕業だったりとか?」
「どちらにせよしばらくは眠れんな」
アノクダツさんはそう言って、村の外の方に飛んで行った。
「俺達も行くぞ!」
「うん」
私達も村の外に出て見回りに向かった。
周りには全く明かりがなく、なにも見えない。
「ねぇ、こんな暗いのに見えるの?」
「俺は人と違って目が良いからな」
「僕も!」
暗闇だとなにも見えないんだよね……二人が少し羨ましい。
「ねぇ、あれじゃない?」
私が、二人の目の良さに嫉妬を感じている間に、リュカは何かを見つけ指を差した。
「かもな…行ってみるか」
ヘイロンはそう行って、リュカの指差す方向に向かった。
しばらくしてから、暗闇の中から崩れた岩山が私にも見えてきた。
ドスン…
ヘイロンはゆっくりとその岩山の近くに降りて、岩山を触った。
「明らかに誰かが意図的に崩したな」
「崩れた?というか切れてる?」
その岩山は、崩れたというよりも、鋭利な刃物で切られたようになっていたのが見てわかった。
「これ……あいつらがやったの?」
「多分そうだろう……近くにいるぞ…気をつけろ」
私はヘイロンの頭の上で周りを見渡した。
少し暗さに慣れてきたけど、それでも遠くまではまだ見えない…
「どう?」
私は二人に小さめの声できいた。
「僕は見つけれてない」
「俺もだ」
二人も少し小さめの声でそう返してきた。
二人でも見つけれないなら私が探しても意味ないよね……
私はそう思ったが一応周りを見た。
やっぱり見えない……だめだ、探すのは諦めよう。
私は敵を探すのを諦め、もう一度切られた岩山に顔を向けた。
こんな岩の崩れ方初めて見た………まるで刃物で切ったような……
こんなのくらったらひとたまりもない。
竜であるヘイロンだってもしかしたら…
その時だった。
さっきの爆発に似た音が、違う方向から聞こえてきた。
「ヘイロン!」
「わかってる!しっかりつかまれよ!」
ヘイロンはそう言って、私達を乗せて音のする方へ飛んだ。
すぐには気づかなかった。
だけど、向かっている途中私は気づいた。
この方向……もしかして虯の村?
そうか……ここに私達をおびき寄せといて村を……
私は、いつもより速いスピードで飛ぶヘイロンに必死に掴まった。
嫌な予感がする…
……それは、当たっていた。
「クソッ……」
「そんな…」
「…ッ!」
私は、村の光景を見てすぐに目を逸らした。
しかし、一瞬見てしまったその光景は、私には衝撃的過ぎたのだろう。
目をそらしても、閉じても、その光景は離れなかった。
「落ち着けラルナ」
「はぁ……はぁ……」
「前にも言ったろ…目を背けるな」
……そうだ…これは戦争…
こんな事で足を引っ張るわけにはいかない…
私はゆっくりと目を開け、村を見た。
村の周りの岩山は崩れ…所々に真っ黒な塊が見えた…
その真っ黒な塊は何か…私は予想がついてしまった…
ヘイロンは黙ったまま村へと降りる。
……肉の焦げた臭いが…
村が近づいてくる内に、私の予想は確証に変わってしまった。
「……ッ!!」
竜の…焦げた死体……
「ラルナ」
「わかってるよ…!」
私はヘイロンに迷惑を掛けないよう、早めにそう答えた。
目も耳も鼻も…全部塞ぎたかった。
夢であって欲しいと思った。
「遅かったねぇ~守護竜さん」
真上の方から声が聞こえてきた。
その声は、まるで何かを楽しみに待っていたかのような調子だった。
声質的にラジットじゃない…
「誰だ!」
ヘイロンのその声と共に、私達は一斉に顔を上に向けた。
真っ赤な翼が6枚……ラジットと同じ種族…
「僕はラクタ・パクシャ。別名は、赤い翼をも…ぐぁあ!!」
地面にぶつかる大きな音と共に、砂煙が私達に襲いかかってきた。
「うわぁッ!」
「うッ!」
「ッ!今度はなんだ!」
突然、パクシャは話している途中に呻きをあげ、地面に落下したのは見えた…でも一体だれが…
それを考える前に、それの正体はわかった。
「貴様ぁ!よくも村の者を…!絶対に許さん!!」
「…クッ……」
砂煙が止まぬうちに、大きく怒りに満ちた声が聞こえた。
「この声…」
煙が晴れたそこには、パクシャを踏みつけ抑えている、アノクダツさんの姿が見えた。
「アノクダツさん!」
「ラルナとリュカは下がるんだ!」
アノクダツさんがそう叫んだ。
「う、うん! ヘイロン」
「ああ。それから、あんまり離れすぎるな。俺の見える範囲にいろ。守りきれなくなる」
「わかった」
私とリュカはヘイロンから降りて少し離れた場所に避難した。
目の端に竜の死体が映る。
それが見えるたびに胸が苦しくなるのがわかった。
……リュカは平気なのかな…パクシャに対しては威嚇してるみたいだけど…
「……ふ~ん、竜の力ってこんなもんか」
二人の態度に微かな違和感を感じていると、アノクダツさんの下になっているパクシャが口を開いた。
「応えろ!他の者はどこへいった!」
「さぁ?」
「しっかりと応えろ!!」
アノクダツさんはそう言って、パクシャを踏みつけている足に力を入れた。
地面がパキパキと音を立てて割れ始める。
しかしパクシャは、なに一つとして顔の表情を変えない。
「知らないよ。それよりどいてくれない?」
パクシャはそう言って翼を少し羽ばたかした。
「ウグッ……」
そんなに暴れてもいないのに、アノクダツさんはうめき声を上げ、すっとパクシャから離れた。
肉の焼ける音がアノクダツさんの足から聞こえてくる…
「熱いでしょ?僕の翼は熱を操るんだ。まぁそんな事、この死体を見た時から気付いてると思うけど」
パクシャはそう言ってゆっくりと立ち上がった。
竜を焦がすほどの熱って…そんなのくらったら…
「驚いたって顔をしてるね。いや、顔を見なくてもわかるよ。こんな力、僕達しか持ってないもの」
パクシャはそう言って、私達を見下すように笑い始めた。
「まぁ…これから身をもって味わってもらう訳だけどもね…」
パクシャがそう言った瞬間に、私は勝手に、自分が黒焦げにされてしまった時の光景を想像してしまった。
「…ッ!」
足が勝手に下がり始める。
なんで逃げようとしてるの私は…
竜族の皆を助けるために来たのに…これじゃあ…
「お前は運が悪いな」
ヘイロンのその声が聞こえた瞬間、私の後ずさる足は止まった。
「……なんで?」
「決まってるだろ」
「………」
「相手が…俺だからだ!!」
その叫びとともに、ヘイロンは水の咆哮を放った。
「な!?」
その水の咆哮はパクシャに直撃し、壁まで吹き飛ばした。
「竜を、あんまりなめんなよ…!」
ご閲覧ありがとうございました。




