19話 私なら許さない
~~ラルナside~~
「そんなにかしこまらなくて良い」
アノクダツさんは、私が足を組み直したのを見て、そう答えた。
「あ、うん…」
「楽な姿勢を取ってくれ。今から話すのは、ただの私の我儘だ…」
そう言うと、アノクダツさんは憂顔になった。
「ヘイロンとの事……私は、自分で自分の事をゴミ屑だと理解している…」
「…………」
私は、それを否定しようとは思わなかった。
正直その通りだと思ってる。
「妻をなくして…怒りに身を任せ…妻の残したあいつを突き放して…」
アノクダツさんが語るのと同時に、ヘイロンの過去の話が頭に映像として流れてきた。
生まれた時から味方は少なくて…唯一の味方も親ではなく、血の繋がりのない他人…
「そんな事をしておいて……私は今…あいつとの仲を直したいなんて事を考えてしまっている…」
それを聞いた瞬間、全身に鳥肌が経った。
多分それは、感動によるものではなく、軽蔑からくるものだとわかった。
「ふざけないで…」
「わかっている…」
「わかってない!!ヘイロンがどれだけ苦しい生活を送ってたと思ってるの!」
私はいつの間にか立ち上がり叫んでいた。
「…………」
「一度経験して見ると良いよ…親から、村の皆から見放されて、侮蔑をされる日々を…!」
「……本当に…すまないと思っている」
「…………」
私は、荒くなった息を整えないまま、その場に座った。
「……ごめん…」
「いや…いい……当然の反応だ…」
仲直りをしたい…そんなのふざけてる…
勝手に突き放しといて、また勝手に相手の気持ちを考えずに引き戻そうとする…
そんなの、どっちも良い気持ちになるわけない…!
「……どうしたら…良いのだろうか…」
「…………」
「仲を戻せるなら…私はなんでもする気でいる…」
「その考え方…やめた方がいいよ……」
アノクダツさんは、それを聞いて目を大きく開いた。
「……どういう事だ…?」
「それじゃあ…貴方が楽になろうとしているだけのように聞こえる…」
アノクダツさんは、核心を突かれたような顔をした。
「私が思うに、貴方はただ自分が楽になりたいだけだと思う」
「……そうなのかも…しれない…」
アノクダツさんはそう言って、小さく深呼吸をした。
「悪いけど、私はもっと貴方に苦しんで欲しい」
「…………」
二人の呼吸音だけが巣の中に響く。
「……………まず、ヘイロンに許してもらう事が先なんじゃないの…?」
かすかに顔が歪むのが見えた。
「……私は…もう…どうすれば良いかわからない…」
「…………」
「妻を失って、あいつが出て行ってから、苦しくて、苦しくて…なぜあんな事してしまったのかと…後悔をして…」
「…………」
「一人になって…あいつの大切さがわかった…」
「…………」
「なぜ…もっと早くに…!」
最後は、自分への怒りが言葉に出ていた様に見えた。
聞くに堪えない…
こんなのヘイロンに聞かせたくないとも思ったし…
私もこんなの聞きたくなかった。
どっちも苦しいんだろうけど…加害者は明らかにアノクダツさんだ…
アノクダツさんだけじゃない…この村の竜全て…
「なんで私にこんな事を…?」
「…………すまない…正直…聞いて貰えるなら誰でも良かった」
誰でも良かった…
やっぱり自分が楽になりたいだけだ…
「なら、本人に話したら?」
「それは…」
「それができなきゃ仲直りなんて絶対無理だよ…きっと…」
「…………」
「……どんなに言い訳を並べたって…どんなに謝罪をされたって………私なら許さないけどね」
「…………」
「許されなくてもいい……そんぐらいの気持ちでいた方が良いと思う」
私はそう言って、その場から離れようと思った。
「…………ありがとう…話を聞いてくれて」
私はそう言われ、驚いて振り返った。
「なんでお礼を?」
棘のある言葉ばかり飛ばしてたつもりだったのだけれど…
「良い……助言を貰えた」
アノクダツさんはそう言って、私を真っ直ぐ見据えた。
「……私も応援してるよ」
私はそう言って今度こそ、外に出た。
外に出ると、既に空は暗くなっており、星が見えかけていた。
音を立てずに風が吹いてくる。
その夜風が、熱くなっていた体を冷ましてくれる。
「あ!ラルナ!」
すぐ左の方から私の名前を叫ぶリュカの声が聞こえてきた。
あ、二人ともこんな近くに居たんだ。
……聞こえてないよね?
「中でなにしてたの?」
「え?あぁうん。少し話してた」
「ふ~ん…そうなんだ」
良かった…リュカには聞こえてないみたい。
ヘイロンは…
「なんの話をしてたんだ?」
聞こえてないみたいだね。
「ひ・み・つ!」
私はウインクも一緒に入れてそう言った。
「うわっ!体ゾクッとした!きもちわるッ!」
「はぁ!?あんた目おかしいんじゃない!?」
「俺の目はおかしくねぇ。おかしいのはお前の頭だ」
ヘイロンは私に指を指して言った。
「馬鹿なのはあんたでしょ!」
「その言葉そのまんま返してやるよ」
「二人とも仲良いね!」
「リュカは黙ってて!!」
私はそう言ってリュカに八つ当たりをした。
「うぅ…」
はぁ…なんかいっきに疲れた。
でも、この二人といると、やっぱり楽しい。
「あ!そうだ!」
リュカが不意にそう言った。
「あの蜃気楼の事教えてよ!」
ああ…そういえば、この村にはいる前のあれ…
聞こうと思ってたんだ…
リュカの言葉を聞き、私は今その事を思い出した。
「ああぁ……蜃気楼のこと言ってなかったけな。まぁ、簡単に言えば、どの村にも鷹と蜃、一匹ずついるんだよ…人や動物に見つからないためにな」
ああぁ……なるほど。
でも、見つけても手出せない人の方が多いんじゃないかな。怖くて…
私はヘイロンを見てそう思った。
「さーてと、そろそろ眠くなってきたな」
ヘイロンは伸びをしながらそう言った。
「ねぇ、そういえばどこで寝るの?」
「んなの、ここしかねぇだろ」
そう言ってヘイロンはアノクダツさんの巣を見た。
「え…気まずいんだけど…」
「仕方ねぇだろ。俺だって我慢してんだ」
「うん…」
「じゃ、俺先寝てっからな」
「あ!ちょっとまってよ!後から一人で入るのは流石に無理だから!」
そうして、この村での1日が終わった。
巣の中では、相変わらず重い空気のままだったけど、どことなく、私はスッキリしていた。
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