17話 ヘイロンの過去
~~ヘイロンside過去~~
俺達竜族は、生まれた時から自我がある。
「アナプタ!!アナプタ!!」
「虯王様!」
周りから、そんな声が聞こえてきた。
「大丈夫…それより子供を…ヘイロンを…」
俺は緑色の竜に持ち上げられて、アナプタと言われていた死にかけの竜の側に寝かされた。
「ああ……ヘイロン…ありがとう……生まれて来てくれ…て…」
その水縹色(明るい青色)の竜は、それだけ言うと絶命したのがわかった。
「アナプタ!アナプタ!!」
「虯王様…!……くっ…!この忌々しい黒竜めが…!」
「今すぐアナプタから離れろ!!」
藍鼠色(藍みをおびた暗い鼠色のこと)の竜はそう言うと、俺を殴り飛ばした。
「なにをしておる?!この子はそなたの子供だぞ!」
「黙れインヨ!お前はアナプタの死を許せるのか!」
「それはこの子せいではなかろう!」
「こいつが生まれたからアナプタは死んだのだ!」
初めは、この会話の意味を、全く理解していなかった。
後になって、死んだ竜は俺の母で、怒っていたのは俺の親父で、かばってくれてたのはインヨのバァさん…まぁ、俺の唯一の味方の竜だって事がわかった。
「…………」
「忌々しい黒竜めが…さっさと消えてしまえ!」
「そうだ!!」
「悪魔めが!!」
外に出ればいつも蔑まれ、虐げられてきた。
「止めんか!この子はまだ子供じゃぞ!」
そんな俺を守ってくれたのは、なんの血の繋がりもない、インヨのバァさんだった。
俺はその時から疑問に思っていた。
なぜ、親父は何も言わないのだろうか。
なぜ、いつも見ているだけなのだろうか。
なぜ、会話をしてくれないのだろうか。
その理由がわかった頃から俺は…
虯の村の竜達を恨み始めた。
「同族殺しめが…早く死んでしまえ…!」
罵倒されれば…
「んだよテメェ…殺すぞ?」
そう言い返し黙らせた。
幸いにも、俺には力があった。
蛟の竜…その頃はそんな段階がある事なんて知らなかったが、この村では自分が最強だと思い込んでいた。
…………ある日の夜。
俺は親父に呼び出された。
「ヘイロン、お前最近この村の竜を襲ったようだな」
「はぁ?やってねぇよ」
「証拠を見せてみろ」
「そんなんある訳…」
「出て行け」
「……」
「この村から今すぐ出て行け!!」
「…ああ、良いぜ…出てってやるよ…!こんなクソ村!」
もちろん俺は同族を襲ったりはしていなかった。
親父も、いつも俺の様子を遠目から眺めているから、それは知っているはずだった。
それでもこう言ったのは、俺をどうしても追い出したいと思っていたからだろう。
俺は、親父の望み通りに、その日に村を出た。
ただ、時期が悪かった。
その時は真冬で動物達はみんな冬眠に入っていた。
そうなると食いもんが取れない。
だが、外の世界の事を何も学んでいない俺は、どうすれば良いかなんて当然わからなかった。
とにかく適当に飛んで…疲れて…それでも歩いて…
なんでこんな事をしてるのかわからなくなっていた。
そして、気付いたら俺は、たまたま螭の村の前にいた。
螭の見張りの竜を見つけて俺は…
やっと助かる…!
そう思ったが、現実はそう甘くなかった。
「た、頼む…!俺をここにおいてくれ…」
「蛟の竜…!」
螭の村の竜は俺を見て、急に目つきが変えた。
「来るな!これ以上近づけば、子供とて容赦はしない!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ…!俺はただ…!」
「黙れ蛟竜!力に呪われ、孤に執着した貴様らなどに協力する気はない!帰れ!」
とうじ…と言うよりも、今もだが、竜族の村と村では力の差や意見の食い違い…独自の発展の仕方を繰り返してきていたため、あまり仲は良くなかった。
当然、その頃の俺は知らない。
その時はさすがに呪った。
なぜ俺だけこんな不幸なのか…てな。
俺はまた歩き出した。
だが、腹は空き、喉はカラカラ…体力はほぼ尽きた…
もう俺は、満身創痍の状態だった。
歩き出して何ヶ月だっただろうか。
俺は、その場に倒れるように寝た。
もう良いだろ…疲れちまったよ…
…もう………死んだっていいだろ…
そう思った時、今までの記憶が鮮明に蘇ってきた。
思えば、ろくな人生じゃなかったな…
生まれてすぐに蔑まれ、村に嫌われ、親父に嫌われ、そして捨てられ…助けを求めても断られ…
俺は自分で自分の事が笑えてきた。
…フッ…さすがにこんな不幸な奴は、俺以外にいねぇだろ…
こりゃ……自慢できるな…
気づけば俺は意識を失っていた。
…ぁぃ…ぅ…
暗闇の中、聞こえてくる微かな音…
「ねぇ!君大丈夫!」
それが、人間の声だとわかった時は、目を見開いて驚いた。
「……水…を…くれ……」
俺は、動かない口を無理やり動かし、声を出した。
「水?わ、わかった!ちょっとまってて!」
目の前の少年はそう言うと、腰につけている竹水筒を取り俺の口に注いできた。
口の中が少しだけ潤うのがわかったが、当然それでは足りなかった。
「ちょっとまってて!近くに池があるから汲んでくる!」
少年はそう言うと、何度も水を汲んでは飲ませてを朝から夜になるまで繰り返してくれた。
おかげで俺も回復して、その日の内に動けるまでに回復した。
「良かったぁ…」
「……なんで俺を助けたんだ?」
「そりゃあ、倒れてたら誰だって助けるよ」
「……ありがとう」
俺はその日、恐らく生まれて初めて自分の意思でお礼を言った。
それからだったか、俺とその少年は一緒に行動をすることにしたんだ。
「そう言えば、君の名前は?」
「俺か?」
「君しかいないでしょうに」
少年は笑い混じりにそう言った。
「まぁ、そうだよな。俺は、ヘイロンだ。お前は?」
「僕は、クリシュナ。よろしく」
「ああ、よろしく」
こいつと過ごした数年間は、俺にとって本当に忘れられない思い出だ。
あんな事なければ…今だって俺はこいつと一緒にいたと思う。
俺達の森の暮らしは安定したものになっていた。
冬の間は、クリシュナの知識に頼り木の実を食べた。
狩りになれば俺がでて狩った。
森に緑が戻り、日差しが暖かくなってきた頃のことだった。
「そろそろ春になるな…」
「そうだね。久しぶりに狩りに行く?」
「そうするか。俺も肉が食いたくて仕方ねぇし」
そうして俺達は、久しぶりに狩りに出る事にした。
しかし、待っていたのは、冬眠を終えた動物ではなかった。
な、なんであいつらが…!
森の影から姿を現したのは、竜族だった。
しかも、それは虯の竜…
名前も声もわからなかったが、一目見て俺はわかった。
昔、何度も俺を罵倒してきた奴らの顔だ…
いつか恨みを晴らすために、顔は覚えていた。
忘れたくても忘れられない程、頭に焼きついていた。
「あ!あれってヘイロンの仲間じゃない?」
「おい!ちょっとまて!」
クリシュナは俺の制止の声を聞き流し、その竜の元に走って行った。
その時、自分の見ている世界がゆっくり動いてるように見えた。
自分の体が、動かしたくても、思うように動かなかった。
「はぁッ…!!ニクゥ!!」
その竜の叫びと共に世界の時間が元に戻る。
そして…目の前で、惨劇が起こる。
「ニクゥッ!!」
虯の村の竜はクリシュナに頭から噛み付いた。
バキ!ゴキィ!
あたりに響く骨を砕く音を最後に、俺の記憶はそこだけ途切れてる。
今でも何をしていたのかは覚えていない。
けど、その後の辺りの様子を見れば、俺が何をしていたのかは容易に理解できた。
「あああああああッ…!」
悲しいとか寂しいとか、そんな感情より、怒りや憎しみの方が強かった。
とにかく、あいつらを殺したくて殺したくて仕方がなかった。
そんな叫びを聞きつけたのか、俺はその時、王竜のじじいに保護された。
〜〜ヘイロンside〜〜
「まぁ、こんな所だな」
あたりに重い空気が広がる。
こんな話すりゃ、こうなるわな……
「ヘイロンは……今も恨んでるの?」
「リュ、リュカ!」
「ご、ごめん…」
「別に気使わなくても良い。つか、変に使われても困る」
「わかった…」
さらに空気が重くなるのがわかる。
なんでこうなるか…いや、わかってたけども……
「……はぁ…」
「な、なんかごめん……昔のこと聞いちゃって……」
このまんまだと、どんどん空気が重くなるな…
「謝るなんてやめろよな。気持ち悪い」
「き…気持ち悪いってなによ!」
「そのまんまだろ」
「はぁ?!人が心配してやってるっていうのに!」
「誰が心配しろと?」
「あんたねぇ!」
「ちょっと!ラルナ!暴れないで!」
そうそう、こんな感じがお前にはお似合いだ。
俺はそう心の中で呟いて笑った。
ありがとうな……心配してくれて。
ご閲覧ありがとうございました。




