16話 鳳凰族と飛虎族
~~ヘイロンside~~
まぶた越しに光が透けて見える。
もう朝になったのか? なんだか早く感じるな。
俺はゆっくりと目を開き、寝たままの姿勢で前を見た。
目を開けば、俺の腕と、その腕に背を掛けて寝ているラルナが見えた。
まだ寝てんのか?
……このまま動くと、また足音で起こされたとか言うしな……俺ももう少し寝るか。
「ん…」
「と、思ったけど起きちまったみたいだな」
「ん……なにが……?」
ラルナは、目を擦りながら掠れた声でそう言った。
「なんでもねぇよ」
「ふーん……じゃあ、おやすみ……」
「いや!おきろよ!」
「うーん……わかったよもぉ」
「なんで俺が悪いみたいになってんだよ……」
「だってそうじゃん」
「ふざけんなっ!」
ラルナは渋々俺の腕から離れる。
「今更だけどゴツゴツしてて寝にくい……」
「人の腕借りといて文句しか言わねぇのかコノヤロー……礼ぐらいいったらどうだ」
「…………あ…がとぅ……」
「ああ? 聞こえねぇなぁ?」
「もう朝からうるさいなぁ!あんたの耳が悪いんでしょ!」
ラルナはそう言って俺の腕に蹴りをいれた。
「いでっ!お前……!」
「ざまぁみろ!」
ラルナはそう言って舌を出す。
クソ野郎……痛かねぇがその態度が全くもってきにくわねぇ……
「ねぇ、それよりリュカとお爺さんは?」
「ああ? ……そういやいねぇな」
周りには樹々が立ち並んでいるだけで、俺たち以外他には誰も居ない。
「池に行って水浴びでもしてんじゃねぇのか?」
「ふーん……」
そう言って、ラルナは池のある方角に目を向けた。
「…………」
「…………」
黙ったまま、ラルナが俺の方をチラチラと見てくる。
なんだよこいつ。 池に行きたいなら行きゃいいじゃねぇかよ………ったく、一人じゃ行けねってか?
「おい」
俺は、立ち上がりながらラルナに声をかけた。
「な、なに?」
「いくぞ、怖がりが」
「は、はぁ? なんで私が怖がりなのよ!」
「怖くて一人で池にすら行けねぇ奴が、怖がり以外の何だってんだよ」
「臆病」
「同じじゃねぇか」
「うるさい!」
「いでっ!」
そう言うと、ラルナはまた俺の足に蹴りを入れてきた。
「なんどもなんども蹴りやがって覚えとけよお前!」
ラルナは、その俺の言葉をそっぽを向いて無視する。
そんなこんながあって、俺達は池に行く事にした。
ここから池まではそこまで遠くないから歩きで行ける……だからあいつも俺の上に乗る必要はないはず……なのに……
「なにやってんの? お前」
「ん? 頭に乗ってる」
「みりゃわかるわ! 歩きで行けんだから歩けよ!」
「良いじゃん。それに、竜の歩幅と人の歩幅を一緒にしないでくれる?」
ぐ……確かに……だからと言って……ぁぁああああ!もういい!めんどくさい!
俺はそう心の中で叫んで、考えることを止めた。
「しっかり掴まっとけよ! 甘えん坊姫が!」
「フフッ……なんとでも言うといいわ!」
結局俺は、ラルナを頭に乗せたまま池を目指した。
ドスンドスンと、自分の足音だけが周りに響く。
周りに小動物やら何やらがいないからだろうか? 無駄に響いていてなんだか少し恥ずかしい。
「お~い!」
俺が自分の足音を聞きながら歩いていると、奥の方から恐らくリュカの声だろうものが聞こえてきた。
「リュカじゃない?」
「ああ、そうだな」
「やっぱりヘイロンとラルナだ!」
「リュカ、じじいを見なかったか?」
「おじさんならもう少しでくると思うよ!それより……」
「ん?」
「僕も乗せてよ! 頭!」
ああ……ラルナを見て自分も乗りたくなったってやつか。
こいつは本当になんと言うか……ラルナの弟みたいだ。
……まぁ、乗らせんけどな。
「ダメだ」
俺はそう言ってリュカを止めた。
「え~! なんでよぉ」
「また吐かれたら嫌だからな」
「そ、それはヘイロンがあんな持ち方するからでしょう! 乗るだけなら大丈夫だから! ね!」
「お前が大丈夫でも、俺がお前を乗せるのが怖くてしょうがないんだよ」
「うー……」
リュカは子犬のような目をして、俺を上目遣いで見つめてくる。
「そんな目をしてもダメな物はダメだ!」
「いいではないかヘイロン」
先ほどリュカがきた方向から、声が聞こえてきた。
喋り方からしてじじいだろう。
「そんな事言うけどな、ゲロかけられたこっちの身にもなってくれよじじい。 あんたも嫌だろ?」
「うむ、嫌である。 しかし、本人はもうしないと言っておるんじゃぞ?」
「そうだよヘイロン! 乗らしてあげなよ!」
元はと言えばテメェが乗ったのが始まりだろうが!
俺はそう叫びたかった……が、結局……
「エヘヘ~」
リュカはラルナの隣で、頭に乗れた嬉しさ声に漏らす。
「えへへ~、じゃねぇよ」
「よかったのうリュカ」
「うん!」
じじい……覚えとけよ……
俺は頭にラルナとリュカを乗せて、じじいと共に来た道を帰る事にした。
なんのためにここまで来たのか……おとなしく待ってりゃよかった……
俺はそう思いながら歩を進める。
結局、俺達は元の寝床に戻ってきた。
リュカを頭に乗せていた俺は、また吐かれないよう極力揺らさないよう慎重に、なおかつ早く歩くという神経を使った歩き方をしたため、少しの距離だったはずなのに、かなりの疲労感を溜めることになった。
「はぁ……着いたぞ、降りろ」
「お疲れヘイロン」
「ありがとう!」
二人はそう言って軽い足取りで俺の頭から降りていく。
「では、朝ご飯にでもするかの」
王竜のじじいはそう言って、昨日の残りのロンカの実を後ろから取ってきた。
「わーい! これ好きなんだよね!」
「私も!」
二人はそう言ってロンカの実を自分の方に何個か寄せて、むしゃぶりつき始める。
正直俺は飽きてしまった……ロンカの実はうまいにはうまいんだが……あんまり沢山食うと飽きるんだよなぁ……
はぁ……肉がくいてぇなぁ……
俺は心の中でそう思いながら、ロンカの実をいくつか口に放り込んだ。
シャキシャキと、噛めば噛むほど甘みが口に広がる。
本来なら美味しく感じるのだろうが、今はその甘味がいつまでも粘り着いてきて不快感しか感じない……
「あ、そういえばさぁ」
ラルナが何かを思い出したのか、突然喋り始めた。
「ここって空でしょ? あいつらに見つからないの?」
「あいつらってラジットやヴィシュヌやガルトマーンのこと?」
「うん……て言うかリュカ、なんでガルトマーンのこと知ってんの? 昨日寝てたじゃん」
「朝、儂が教えたんじゃよ。その他もろもろ含めての。 しらんままだと不便だと思ってな」
「良く教えれたね……」
「なぜじゃ?」
「いやべつに……」
俺もラルナと同じ事を今思った。
リュカに良くあんなゴチャゴチャした話を伝えれたなと……でもまぁ、精神年齢が低いだけで、頭の良さとかでは俺達と同じだもんな……多分。
「で……話戻すけど、こんなデカイ島が空に浮かんでたら、普通見つからない?」
「それは大丈夫じゃ」
「え、なんでよ」
「おい、ラルナ。 前に俺が竜のランクと能力についていわなかったか?」
「言ったけどそれが?」
おいおい……まぁ、一回口で説明しただけだしな、仕方ないか。
「儂は蜃気楼を作り出す事が出来るんじゃよ」
「うん、それは知ってる。 龍は全ての竜の能力を使いこなせるんでしょ?」
「まぁ、実は言うと少し違う場合もあるのだが……それは今はいいだろう。儂が蜃気楼を作り出す事が出来るのを知っているのであれば、もうわかるじゃろう?」
「え、まさか……」
「そう、そのまさかだよ。 じじいはこの島全体を海市で囲み蜃気楼をみせてるんだ」
「そんな事できるの?!」
ラルナは驚いた表情を見せた。
「ま、まぁの。 そんな風に言われると少し恥ずかしいのう」
「龍って凄いんだね! ヘイロンは……」
「ほ、ほっとけ!」
「まぁ、蛟でも十分凄いけどね」
ラルナがそう言ってフォローを入れたつもりなんだろうが、なんだか傷つく……
「そうじゃのう……ヘイロンは守護竜……ランクは蛟じゃが、龍と力はほぼ同じくらいと言ってもいいじゃろう」
「守護竜? そう言えばラジットも言ってたけど、その守護竜ってなに?」
「あ、僕もそれずっと思ってた」
「なんじゃヘイロン、説明しておらぬのか?」
「ああ」
実は言うと、竜のランクについての事を話すついでに、話そうと思っていたのだが……やっぱり自分から言うと、自慢みたいになってしまうのが嫌で結局話さなかった。
「まぁ、儂が説明しよう。 守護竜とは、簡単に言えば儂の護衛じゃ」
「護衛? ならヘイロン以外にも何人かいるって事?」
「二人は竜ではないがな……ヘイロンを合わせて4人いる」
「え、竜じゃないの?」
「うむ、儂達竜族には他の2つの種族と手を組んでいてな……朱雀率いる鳳凰族……白虎率いる飛虎族……その族の長が守護獣としてヘイロン達と共に儂を守ってくれておるのじゃ」
「へぇ朱雀に白虎か~、かっこいい名前だね!」
俺もあいつらに初めて会った時はそうおもったなぁ……
まぁ、内面は全然イケメンじゃないがな……
俺は、白虎や朱雀の事を思い出し苦笑いをした。
あいつら元気かなぁ……
俺はそう思いながら、ロンカの実をもう一度口に何個か放り込む。
「しかし、どうするかのう……」
「なにがだ?」
「奴らが儂達を探すのをやめれば、恐らくまた何処かの村を襲うつもりじゃ」
「え? なんで?」
「一回目がそうだったからじゃ……奴らは螭と蟠の村を襲った後、儂が出てきていないかを確かめるために空を徘徊しはじめたのだろう。 その結果、お主達を見つけた。しかし、お主達を見逃してしまった奴らは狙いがバレた為に、もう儂が外に出ないと考える。そうなると、どうなるかわかるか?」
俺だったら……
「長が出てくるまで、他の村を襲うな」
「その通りじゃ」
「それヤバイじゃん! どうするの」
「うむ……ヘイロン。 お主達には虯の村に行ってもらいたい」
「…………」
虯の村……あんまり行きたかねぇな……良い思い出がねぇ……
「ヘイロン、お主には少々辛いかも知れぬが耐えてくれるか?」
「……ああ」
「すまぬな……」
「少々辛いってどういうこと……?」
俺と王竜のじじいの話にラルナが食いついて来た。
はぁ……まぁ、いつか話さなきゃいけないとは思ってたから良いか。
こんな早くなるとは思ってなかったけどな……
「話が長くなる、後で話してやるよ」
「……わかった」
ラルナは少しを間を空けてから頷く。
俺は、それを見てからじじいの方へと向き直り、話を再開した。
「俺が虯の村に行くのは良いが、他の村はどうするんだ?」
蛟の村は大丈夫かも知れんが、さすがに應と蜃の村、それから虹の村はほっとけないだろう……
「應と蜃の村は白虎にたのむ……虹の村は朱雀に護衛をしてもらう」
「そうか……」
「え? まってよ」
リュカが慌てたように言った。
「それじゃあ蛟の村がガラ空きだし、おじさんも誰かが守って置かないと……」
「儂は大丈夫じゃよ……それに蛟の村も恐らく大丈夫であろう……奴らは強いからの」
「でも……」
「安心しろ、リュカ」
俺はリュカが何かを言うのを遮った。
「俺と同じような奴らがゴロゴロいるんだ……もし襲われても大丈夫だ」
「うむ、ヘイロンの言う通りじゃ」
じじいがそう言ったが、リュカはまだ少し不安そうな顔をしている。
リュカは以外に心配性なんだな。
「ねぇヘイロン。 いつ襲ってくるかわからないんだったら、早めに行った方が良いんじゃない?」
「うむ、ラルナの言う通りじゃな。 虯の村は少し遠いしのう」
確かにそうだな……またリュカを頭に乗せるのか……
しかたねぇ……
俺は、リュカとラルナが乗りやすいよう少ししゃがんだ。
「ヘイロン……飛んでる間にさっきの教えてよ」
「わかってるよ……」
俺はラルナとリュカの重さが感じられたら、じじいの方を向いた。
「頼むぞ、ヘイロン。 できたらじゃが、生け捕りにしてほしい」
「ああ、わかった」
「しかし無理はするなよ」
「ヤバイと思ったら殺るから大丈夫だ」
「それから……アノクダツは謝っておったよ。 お前に、申し訳ないとな……」
「…………」
俺はその言葉を無視し、翼を羽ばたかせ飛んだ。
「んなの知るかよ……」
俺は、去り際にそう一言呟く。
…………
本当に久しぶりに行くな……あそこには。
「はぁ……」
自然とため息が漏れる。
「ねぇ……なんで辛いことになるの?」
「あ、それ僕もきになった」
「まぁ、そう慌てるな。 ゆっくり話してやるからよ」
俺はそう言ってから大きく息を吸い、はいた。
別に緊張してるわけじゃねぇが……やっぱり話したいとは思わねぇな……自分の過去ってのは。
俺はそう思いながら、重たい口を開く。
「俺は、もともとは虯の村の竜だったんだ……」
「え!?」
ラルナは、俺の頭の上で驚き叫んだ。
いちいちこんな反応されると話が進まねぇな……
「驚くのは最後にしろ。あとで質問は聞いてやる」
俺は二人にそう念をおして、もう一度喋り始めた。
「まぁ、稀にあるんだ……虯の子供が蛟だったり虹だったりすることがよ……そういう子供を産む母親は大抵は死んじまう……案の定俺の親もそうだった」
俺は、その時の記憶を胸が締め付けられるのを我慢して、思い出す。
ご閲覧ありがとうございました。




