12話 戻る事への恐怖
~~ラルナside~~
「リュカ! もう水浴びはいいでしょ! おいで!」
「うん! わかった!」
そういってリュカは池から上がり、ブルブルと体を震わして毛に着いた水をはらった。
「ヘイロンとこいこ!」
「うん!」
リュカは頷くと、私に背を見せた。
「池にはいったおかげで、だいぶ綺麗になったね」
「そう?」
灰色に淀んでいたリュカの毛は、今は白銀に照り輝いている。
こんなに綺麗だったんだ……リュカの毛……
「ねぇ、早く乗ってよ」
毛並みに見とれていると、待ちくたびれたのか、リュカが急かしてきた。
「ゴメンゴメン、今乗るよ」
そう言って私は、リュカの背中に乗る。
リュカは私が背中に乗ったのを確認すると、そのまま走り出した。
トタットタッと言うリズムの良い足音が、何故か心地良く聞こえてくる。
「たぶんそんな離れてないよ。 匂いが近い」
そう言うとリュカは、少しスピードを上げた。
足音が早くなり、風をきる音も聞こえてきた。
私はその音に耳を傾けながら、ヘイロンのもとにむかう。
「……紅……女……」
この声……
「ちょっと止まって。リュカ」
私は、恐らく王竜のおじいさんの声だろうものが聞こえ、リュカに止まるよう小声で呼びかけた。
「え……!う、うん。でも、もうすぐそこだよ?」
「いいから……!」
「……わかった」
リュカは腑に落ちないようだったが、私の言うことを聞きその場に止まった。
……何を話してるんだろう?
私達はもう少し近づいて、大きな樹の裏に隠れた。
「確信がねぇのに……あいつに嘘をついてまで争いに巻き込もうとしてんのか?」
あいつに嘘? あいつって……私の事?
「……知っておったのか」
「当たり前だろ!激しい旱魃で海が茹で上がってたら、海に住んでる俺はすぐ気付く!……ここ何百年もそんな旱魃おきちゃいねぇよ……!」
こ、この話って……私が最初に聞かされた……
嘘って、どういうこと……
王竜のおじいさんとヘイロンの会話が頭に響き、一瞬目眩に襲われる。
私は頭を強く押さえて、目眩を抑えようとした。
……王竜のお爺さんは、私を騙して……じゃあ私には、天候を操る力なんて無いの……?
じゃあ……私は何のために……
「あいつはまだ子供だぞ! 家族もいる! 俺達とは違うんだ! 何もしらねぇ子供を騙して、俺たちの争いに巻き込むなんて間違ってる!」
私はその言葉を聞き、複雑な気持ちになる。
ヘイロンが心配してくれているのは嬉しい……けど……
胸を打つ鼓動が速くなるのを感じる。
「敵は強い……悔しいけどな」
「……わかっておる。だから行ったであろう……覚悟は決めてあると……」
か、覚悟……?
「ラルナは悪魔で切り札じゃ……儂達だけ……いや、儂だけで収まる問題であればまた、ラルナをもとの環境に戻す……」
戻る……
その言葉を聞いた瞬間、私は強い恐怖のようなものを感じた。
また……あんな息のしずらい場所に戻るの……
……いやだ!
そんなの絶対……!
「……はぁ……はぁ……」
「大丈夫?」
リュカが、俯いていた私の顔を覗き込んでそう言った。
私はリュカにそう言われ、我に返る。
全身から、一気に冷や汗がでてきた気がした。
「だ、大丈夫だよ」
そう言って、私はリュカの頭を撫でる。
「手……震えてるよ……?」
「ただの武者震いよ」
私は無理に笑顔を作ってそう言ったが、その声すらも、自分でわかるほどに震えていた。
「すまぬ……お前にラルナをさらわせてしまって……お前が辛いなら、他につかせよう……」
「いい……俺がつく……俺がさらったんだ……俺がつかなきゃだめだろ……」
「……そうか……」
………………
「ラルナ……」
また、リュカが私の顔を覗き込んできた。
私はもう一度リュカの頭を撫でた。
「大丈夫だよ、リュカ……」
「うん……」
そうだ、大丈夫だよ。
もし帰れっていわれても、私が帰りたくないことを言えば、きっとここに残してくれる……
私に、天候の力がなくても……きっと……
突如、王竜のおじいさんの言葉が頭に流れてくる。
覚悟は決めてある……か……
私の覚悟……
「ラルナ達が池で待ってる……」
ヘイロンがそう言った瞬間に、私は意を決して二人の前に出た。
「わ、私達ならもういるよ!」
「!?」
「ラルナ! お前!」
「聞いておったのか!?」
私は、呼吸を整えてから大きめの声で喋った。
「私だって! 覚悟決めてある!」
びっくりするほど声は震えていたが、私は構わずに続けた。
「何にも役に立たないかもしれないけど……邪魔だって思うかもしれないけど……頑張るから……精一杯頑張るから!」
途端に、声の震えが止まった気がした。
「私を、ここにいさせて。 ……私はまだ、ここに居たい」
その言葉を放った瞬間、急に体に気怠さが襲いかかってきた。
でも、今はそんな事気にならなかった。
わからなかった……ただ悲しかった。
また戻るのも嫌だったけど……それ以上に、必要とされないのが嫌だった……
突然足に力が入らなくなり、私は膝から崩れる。
それと同時に、視界がどんどん狭くなっていくのがわかった。
自分の事なのにわからない……
王竜のおじいさんとヘイロンの会話を聞いて、異常に辛くなった。
ただ私は、離れたくないと思った……
ヘイロン達と……
そこまで思考が行き着くと、目の前が真っ暗になった。
薄れゆく意識の中、皆が私の名前を叫んでるのが聞こえた。
私は、その声に反応をしようとするも、声が出ず、体も全く動かなくなってしまった。
ーーもう、懐かしく感じるな…ーー
完全に落ちたはずの私の意識の中、誰かの声が聞こえてきた。
……誰……?
ーー力を……使い過ぎてはならぬぞ……ーー
え……ちょっとまって……
声はでず、体も固まったように動かなくなった……
そして私の意識は、さらに深い暗闇の海へと沈んでいってしまった。
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