11話 昔話を信じて……
~~ラルナside~~
「……ヘイロン……まだ…?」
「もう少しだ……我慢しろ……」
我慢しろなんて言われたって無理がある。
私は足に、もろにリュカの嘔吐物をくらったんだ……今すぐにでも洗い流したい。 そして殴りたい。
「本当にごめん……」
いつの間にか狼の姿になっているリュカが、俯き気味にそういった。
まぁ、本人もここまで反省しているし、許してあげよう。元を言えば、ヘイロンがもっと慎重に私達を扱ってくれれば良かったわけだし。
私はそう思い、ヘイロンを睨む。
その視線に気づいてるのか、気づいていないのかはわからないが、ヘイロンは、全く視線を合わしてくれない。
「み、見えたぞ」
ヘイロンがそう言って、私は視線を前に戻した。
「綺麗……」
「すごい……」
私とリュカは、目の前の光景をみて思わずそう言ってしまった。
目の前には、幅の広い大きな滝が流れでており、池が出来ている。
その池は、王竜のお爺さんの金色の鱗によって所々輝いているためか、神々しさを感じられた。
こんな所で汚物を流して、怒られないだろうか?
私はそう思ったが、洗い流したい欲求に負けて足を、池につけた。
気持ちいい……自分が浄化されていくみたい……
そんな感覚に酔いしれていると、左から水に飛び込む音が聞こえてきた。音の大きさからしてリュカだろう。
リュカにはしっかりと体を流してほしい。
ただでさい臭いのに……今はそれに嘔吐物の匂いが混ざって最悪の状態だ。
……腐った魚よりも臭いと思う。
右の方では、ヘイロンが手を池につけていた。
「ラルナ。 俺はこの後すぐじじいのとこに行くから、リュカのこと頼んだぞ」
「うん、わかった。しっかり洗っとく」
「まぁ……なんだ、あんまりせめてやるなよ」
「え?」
「いや、お前さっきまで凄い不機嫌そうな顔してたからよ……」
確かに不機嫌ではあったけど……そんなに怖かったかなぁ?
「じゃ、俺はいってくるからな」
「あ、うん」
ヘイロンは自分の手を池から出して、そのまま右の方へと進んでいった。
「うわーい!アハハ!」
水飛沫をたて、リュカが一人で騒いでいる。
あの調子なら勝手に汚れも取れるだろうな……
それより、気になるのはさっきの奴。
名前は確か……スレーン・ド・ラジットだっけ?
あいつ、ヴィシュヌに使えるものとか言ってたけど……
私の脳裏に、ヴィシュヌと名乗った男の顔がよぎった。
彼のことだよね……たぶん……
でも、あの時肩に乗せてた白い鳥はガルトマーンって名前だったはず……それに、姿形も全く違った。
「ラルナ?」
「え! あ…なに?」
急にリュカに話しかけられため、私はビックリして水を蹴り上げてしまった。
「……まだ怒ってる?」
やっぱりリュカも怖かったのか……そんなに私怖い顔してたかなぁ?
多分、考え事するとそうなっちゃうんだろうな……
「違うよ、確かにあれは怒れたけど……今は少し考え事してただけ」
「そっかぁ、よかったぁ~」
それだけ言うと、またリュカは水遊びに戻った。
そんなに怖いかなぁ……
と言うか、ヘイロンの力を見て何にも思わなかったのに、なんで私の顔を見て怖がってるのよ、あいつ。
リュカは、そんな事は気にせず水で遊んでいる。
はぁ……
まぁ、とりあえずヴィシュヌの事は報告しといた方が良いよね。
私は、ヘイロンが進んでいった方向に目をやった。
リュカに乗せてもらえれば追いつくかな。
まぁ、追いつかなくてもリュカに匂い辿ってもらえれば良いんだけど……
今思えば、ヘイロンにちゃんと伝えとけば良かった。
これじゃあ二度手間だよ。
~~ヘイロンside~~
俺は池でラルナ達と別れて、じじいの寝床にやって来た。
「やっぱりここにいたのか」
俺は、伏せて寝ているじじいにそう言って話しかけた。
「……お主達であったか」
「なんだよ、来てたの知ってたんなら迎えてくれてもよかったじゃねーか」
「儂は臭いのが苦手なんじゃ」
なるほど……あの異臭で俺達がここに来たのがわかったのか……
「……それで、なにがあったのじゃ? ここに来たという事は、何かあったのだろう?」
「まぁ色々とな……何から話せばいいか……」
俺は目を閉じてから、頭の中で喋る事を整理をした。
まずは、あの鳥達のことを話すか。
「ここに来る途中、変な鳥に襲われた」
「変な鳥?」
「六枚の翼と鷹のような鋭い爪に、俺達以上の速さで飛ぶ……簡単に言っちまえば、鳥の化け物だな」
「…………名は聞いたか?」
「ああ。 確か、スレーン・ド・ラジットとかって言ってたな」
「スレーン・ド・ラジット?」
「なんか知ってんのか?」
「いや、もしかしたらと思ったが……やはり違うようだ」
「それと、ヴィシュヌに使えるとかも言ってたな」
「それも知らんな……」
「なんだよ、知らねぇことばっかじゃねぇか」
「知らぬ物は仕方なかろう…」
じじいでも知らないとなると、他に聞いても無駄だろう……
「他にはないのか?」
「多分だが……奴らには一族がある。 そして、恐らく螭と蟠の村を襲ったのはその一族だ」
「まぁ、そうじゃろうな。お主を襲ったのじゃから」
「いや、目的は俺というよりもあんただな」
「儂じゃと?」
「やつは俺にしつこくじじいの居場所を聞いてきた。それに、俺が守護竜だって事も知っていた」
「そうか……」
じじいは、少し俯いて険しい顔になる。
ああ見えてもじじいは責任感が強い。
もし、自分を殺すことが敵の目的だったとしたら、じじいは喜んで自分の身を差し出してしまうだろう……
「変な事考えんなよ……」
「……わかっておる。だが、覚悟はもう決めておる」
「…………」
念は押したが、恐らくそうなったらいう事は聞かないだろう。
「まだ相手の本当の目的はわかってねぇ……」
「うむ……」
少し間を空けてから、じじいは口を開いた。
「……敵は一族を持つといったな」
「恐らくだがな」
「ならまずいな……お主が逃げるほどの相手が一族単位でいるとなると……」
「べ、別に逃げたわけじゃねぇ!!……ただ、あいつらを守りながらの戦いは避けたかっただけだ……それより、まだ聞きたい事がある」
「む、なんじゃ?」
「ラルナの能力の事だ」
もともと、その事を聞くために戻ろうと思っていたのだが……すっかり忘れていた。
「あいつの能力。 どうやって使えるようにしたらいいんだ?」
王竜のじじいは少しの間考えてから、口を開いた。
「……すまぬ……それも知らぬのだ」
「は!? じゃあどうすんだよ!」
俺は声を荒げ、じじいを責める。
「……むぅ……」
「だいたい! なんでじじいはあいつが力を持ってるって事知ってたんだよ!」
「……言い伝えじゃ……」
「言い伝えだと?」
じじいは、言い伝えなんかを信じてあいつを騙したのか?
あいつを……引き離したのか?
ラルナを連れ去ろうとした時のラルナの母の顔が、頭に映る。
……ふざけんなよ……
「ナーガの一族は、古くから我ら竜族と繋がりがある」
「繋がり?」
そんな話、聞いた事がない……それ以前にナーガという一族すら、ついこの前までは知らなかった。
「恐らく、この話を知っているのは儂ぐらいであろう」
「…………」
「儂がまだ幼き頃……まだ父と母に甘えていた時に聞いた昔話じゃ」
昔に聞いた昔話って……どんだけ前の話になるんだよ……
王竜は目を閉じて語り始めた。
「昔、天舞う蛇は神と戦争をしていた。とても醜く、くだらない理由でのう。
そんな天舞う蛇の一族には、戦争を嫌う紅髪の女性がいた。その女性は優しく、その蛇よりも強かったが、戦嫌いの性格から、戦には出ていなかった。
戦争は止まらず。 蛇は死に、村は滅びていく……
ある日、その戦争で愛する者を奪われた紅髪の女性は、天舞う蛇の王と、ある契りを交わしとうとう戦争に出る事を決意した。
そして、紅髪の女性は、戦場に雨を降らし雷を操り、見事、神を打ち取った。
天舞う蛇の王は、紅髪の女性との契りを守り、ナーガとの縁を切った。
ナーガを失った蛇は、その日以来争い嫌う平和を望む竜になった……
後に紅髪の女性は、新たなる土地を築き、人間の大国を作った……」
そこまで言うと王竜はゆっくりと目を開けた。
天舞う蛇……恐らく俺達竜族のことだろう。
紅髪の女性……
俺は拳を握り目を閉じた。
自分の脳裏にラルナの顔が浮かんでくる。
「紅髪の女性って、ナーガの一族のことか?」
「恐らくじゃが」
「じゃあ大国ってのは」
「ジャダイの事じゃろう……」
恐らくってなんなんだよ……何も知らねぇのにあいつを俺にさらわせたのか?
しかも、あんな嘘までつきやがって……!
「その話本当なのか?」
「…………」
王竜は、黙ったまま下を向く。
「確信がねぇのに……あいつに嘘をついてまで争いに巻き込もうとしてんのか?」
「……知っておったのか」
「当たり前だろ! 激しい旱魃で海が茹で上がってたら、海に住んでる俺はすぐ気付く!……ここ何百年もそんな旱魃おきちゃいねぇよ……!」
「…………」
黙ったまんまかよ……
「あいつはまだ子供だぞ! 家族もいる! 俺達とは違うんだ!」
俺は自分の高ぶった気持ちを抑える事なく、じじいに吐き散らした。
「何もしらねぇ子供を騙して、俺たちの争いに巻き込むなんて間違ってるだろ!」
普段ならこんなに熱くなる事なんてなかった……
俺がこうなったのは、多分あの顔を見ちまったからだ……
いつまでたっても忘れないであろう、あの顔を……
初めてだ……ここまでじじいに怒りを覚えたのわ……
あいつにはまだ親がいる……じじいはそれを無理に引き剥がしてまで……
「…………」
「おい……なんか言えよ……」
「…………」
「言えっつってんだよ!!」
それでもじじいは、黙ったままなにも言わないでいる。
「俺は、こんなの最初はすぐ終わるとおもってた……けど……」
俺はラジットのことを思い出す。
あいつは多分まだ本気を出しちゃいねぇ……
「敵は強い……悔しいけどな……」
「……わかっておる……だから言ったであろう……覚悟は決めてあると……」
「………………」
「ラルナは悪魔で切り札じゃ……儂達だけ……いや、儂だけで収まる問題であれば、またラルナをもとの環境に戻す……」
「………………」
俺はなんて言い返せばいいのかわからなくなり、ただただ、じじいを睨んだ。
「すまぬ……お前には辛い役目をやらせてしまった……お前が辛いのなら、他に……」
「いい……俺がつく……俺がさらったんだ……俺がつかなきゃだめだろ……」
「……そうか……」
しばらく静寂が続いた……
俺はその間、何も考えることができなかった。
とにかくこの場を離れたかった。
「ラルナ達が池で待ってる……」
「わ、私達ならもういるよ!」
「?!」
ご閲覧ありがとうございました。




