10話 ヘイロンvs鳥の化け物
~~ラルナside~~
あれから、二日後。
かすれた意識の中、大きな地鳴りが聞こえてくる。
地震…?
私は一瞬そう思ったが、目の前の黒い物体を見てそれは違うと悟った。
「ん? おこしちまったか」
目の前の黒い物体……ヘイロンは、そう言って私に声をかけてきた。
「うん、おこされた」
「すこしはこうなんか……まぁいい」
朝でヘイロンも頭が働かないのだろうか。
ヘイロンは私に言い返すのを、すぐに諦めた。
そう言えば私、野宿してたんだっけ……忘れてた。
私は頭を触って、髪の毛が跳ねてないかを確認した。
「………変だな」
へ、変!?
ヘイロンの言葉は、一瞬私に向かって言ったものだと思ったが、ヘイロンの視線が空に向かっているのを見て、それは私に向けたものではないとわかった。
「なにしてるの?」
「いや……なんかおかしいと思ってな」
私は、ヘイロンの視線の先の空を見た。
特別変化した部分があるとは思えないけど……
「なにがおかしいの?」
「ここ、朝になると鳥が魚を食いにくるんだが……」
「鳥が?」
私は、周りを見渡す。
しかし、空にも、陸にも、鳥の姿は見えない……
「いないけど……」
「ああ、だからおかしいと思ってな」
辺りは異様なほど静かで、波の音だけがうるさいほどに聞こえてくる……
最初は何も感じていなかったのに、ヘイロンのその話を聞いて、急に辺りが不気味に見えてきた。
「なんか……不気味だね……」
「俺もなんか嫌な予感がする……おい、リュカを起こせ」
「もう出るの?」
「ああ、嫌な予感がするときは早めに動いたほうがいいからな」
「うん、わかった」
私は、寝息を立てているリュカの側によって、軽くゆすった。
「リュカ! 起きて!」
「う~ん……なにぃ~」
リュカは、目を細めてあくびをしている。
「もう出るって」
「え~早いよ~……」
「おいリュカ、人間の姿になっとけよ」
「え、なんで?」
「お前……振り落とされたいのか?」
「え~大丈夫だよぉ……これでも~」
「いいからなっとけ」
「はーい」
そう言って、リュカは渋々人の姿になった。
「よし、行くぞ」
そう言って、ヘイロンは私達に背中を向けた。
私は前と同じように角を掴んで座る。
その後ろにリュカが座り、私の後ろから手を回し角を掴んでいる。
これ大丈夫かなぁ……
「よし、飛ぶぞ」
そう言ってヘイロンは、勢い良くジャンプして翼を羽ばたかせた。
「わぁ~!すっごい!!」
「ちょっと……! リュカ! あんまり激しく動かないでよ」
「落ちないから大丈夫だよ!」
リュカはそういって角から手を離し、余裕を見せる。
リュカが大丈夫でも、私が怖いからやめてほしいって言ってるんだけど……
「おかしい……」
ヘイロンが突然つぶやいた。
多分、さっき言ってた事だよね……確かに鳥はまだ見かけてないけど……と言うか凄い静か……
「鳥どころか、ほとんどの動物がみあたらねぇ……」
……さっきまではリュカと騒いでたから気づかなかったけど、鳥の飛び立つ音も、鳴き声もなにも聞こえない。
「なんでなんだろう?」
「動物が自分の縄張りから逃げたりするときは、その場所の餌がなくなったり、そこの環境より良い場所をみつけたときだ」
「……でも、おかしくない? その理屈なら、ここらにいた全ての動物がここより良い場所見つけたか、餌がなくなったってことでしょ?」
「……そうなるな」
そんなこと有り得るのだろうか?同じ日に、ここにいた全ての動物が良い場所見つける……または、餌をなくすなんてことが……
私はそう疑問に思いながらも、しばらく空の景色を眺めていた。
変化は、突然おきた。
リュカが途中で何かを見つけたのか、上を向いて指をさす。
「ねぇ……あれなに?」
「あれ?」
私はリュカの指差す方向に目を向けたが、そこには雲以外なにみえなかった。
「私には何も……」
「俺もあれは初めて見た……なんだ……?」
え、見えてないの私だけ?
「近づいてくるよ……」
「え……ちょ、ちょっとなに?! なにがあるの!」
私は、もう一度上を向く。
今度は、ハッキリと見えた。
鳥の化け物が……
鳥の化け物は、どんどん私達に近づいてきて、そのまま体当たりをしてきた。
ヘイロンの体が大きく揺れる。
「きゃぁあっ!!」
私はそう叫んで、身を小さくしてヘイロンの角をギュッと掴んだ。
さらに、その上からリュカがくっついてくるのがわかった。
「あぶねぇ!」
「びっくりした……何今の」
「わかんねぇがお前ら! いったん俺の手に移れ!」
手!? 握るの!? 私達を!
……確かにそっちの方が安全だし、ヘイロンは動きやすくなるかもしれないけど……
「あんまり力まないでよ……」
「わかってる!」
私達は落ちないようゆっくりと移動して、ヘイロンの手に移った。
「少し激しく動くが、我慢しろよ!」
「う、うん」
~~ヘイロンside~~
俺はラルナ達を手に移して、握りつぶさないように軽く握った。
さてと、どうするか。恐らく森の事もこいつの影響だろう……皆怯えて逃げたのかわからんが……しかし、あれは一体なんなんだ? まさか村を破壊されたのと関係があるのか?
目の前の鳥の化け物は、6枚の翼を持っており、両手両足の爪は、鷲の爪のように鋭く尖っている。
スピードは恐らくハヤブサ以上ってところか?
「北を守護する黒竜よ……王竜の居場所を教えろ」
「な!? お前喋れるのかよ!?」
「そこらの鳥と一緒にされてしまっては困る。 私はヴィシュヌ様に使える者……スレーン・ド・ラジットだぞ!」
ラジットと名乗る者は、そう言って誇らしげに胸をはる。
「いや、そんなドヤ顔で言われてもしらねぇし……」
「そうか、お主は無知だという事がよくわかった」
「う、うるせぇ!」
「わめくなトカゲ。 お主は私に王竜の居場所を教えればよいのだ」
こうもじじいの居場所知りたがるって事はやっぱり……
「お前が螭と蟠の村を襲ったのか?」
「私だけでわないな」
私だけでわない……という事は、こいつにも一族があるのか?
「そんな事はどうでもいい、王竜の居場所を教えろ」
「知らねぇよ」
「そんなはずはない。 守護神竜であるお前がしらんはずがなかろう」
正確には守護竜なんだが……てか、なんで俺が守護竜だってことを知ってんだ?
いや、それより……
「なぜ、じじいの居場所を知りたがる」
「もういい、話しても時間の無駄だ」
「な?!」
ラジットは、俺に向かって六つの翼を大きく羽ばたかせた。
「ぐぁ!」
「きゃぁぁぁああぁぁ!!」
「うわぁぁぁぁあぁぁ!!」
その翼が起こす突風に、俺は容易に地面に叩きつけられる。
なんて翼してやがんだあいつ……!
「クソ野郎……! いきなり攻撃しやがって!」
「まって!! ヘイロン!」
俺が空へ飛ぼうとすると、手からラルナの声が聞こえてきた。
俺は手を前に持ってきて、ラルナとリュカを見る。
「イライラするのはわかるけど! 今は逃げましょう!」
「大丈夫だ! あんなやつすぐに……」
…………
いや、ダメだ。 今こいつらを戦闘に巻き込んで死なせたりしたら……
「……ここを抜け出す策かなんかあるのか?」
「ヘイロンはあいつ……ラジットより速く飛べないの?」
「それができれば楽なんだがな……たぶん無理だ」
あの突風をおこす翼だ……恐らく俺よりも速いだろう……
「……でも同じくらいの速さは出せるんでしょ?」
「……多分な、でもいずれは追いつかれる」
俺はリュカの問いにそう答えた。
どうする……やっぱり戦うか……
俺は、もう一度ラルナとリュカを見る。
…………
「そうだ!!」
ラルナが何かを思いついたのか、大声を出した。
「ヘイロン耳かして!」
そう言われ、俺はラルナに頭を近づける。
「…………わかった……やってみよう」
俺は右手にラルナ達を入れ、左手で土を掴んだ。
「全力で行くからな。しっかりつかまれよ!」
「うん!」
「分かってる」
俺はいつもより強く地面を蹴り、空へ飛ぶ。
「私から逃げるか……良い選択肢だが……」
「うるせぇよ鳥野郎が! さっさと捕まえてみやがれ!」
「ふ……安い挑発だな……良いだろう。のってやる!」
そう言ってラジットは、六枚の翼を強く羽ばたかせ、こちらに飛んできた。
よし!きたか!
俺は追ってくるラジットを見ながら雲を目指して飛ぶ。
流石に速いな……あの雲まで、もう少し近づければ……!
「遅いな。 人間を抱えてるからなどという言い訳は聞かんぞ」
ラジットはそう言って、どんどん差を詰めてくる。
「チッ……!」
ダメだ! この距離じゃ追いつかれる!
俺は一旦そこで止まり、ラジットを迎え撃つ体勢に入った。
「逃げるのを諦めたか」
「こい!」
ラジットは、こちらへ向かってくる勢いをそのままに、蹴りを入れてくる。
俺はそれを右に回転して避け、その勢いに乗せて尾で攻撃をした。
しかし、それは腕で掴まれてしまう。
「くっ……!」
ラジットは、掴んだ尾を軸に一回転して、俺を上へ投げる。
「野郎……!」
俺は、投げ飛ばされながらも空気を大きく吸った。
投げ飛ばした俺に追撃を加えるため、ラジットはまた距離をつめてくる。
「これで終わりだ……!」
「……ッ!」
攻撃を加えようとするラジットに、俺は限界まで溜めた水の咆哮を撃ちだす。
「……ぅぐ!」
咆哮は、ラジットにとって不意を突いた物だったのか、綺麗に直撃した。
今のうちに……!
俺は、再び雲を目指して全速力で飛ぶ。
ラジットはすぐに体勢を立て直し、俺を追いかけてくる。
……流石に速すぎるだろ……!
でも、この距離なら……!
雲は、もうすぐ側までやって来ていた。
今だ……!
左手に入れてある土を、俺はラジットの顔めがけてバレないよう自然に手放した。
この距離ならよけらんねぇだろッ!
「ッ!? 目ッ!! 目がッ!! ま、まて!クソッ!!目が開けられん!」
「悪りぃな! それじゃ!」
俺はそう言い放って、雲の中に飛び込んだ。
念のため、しばらくの間スピードを落とさず飛び続けるか……
俺は、手の中にいるラルナ達の事を忘れて雲の中を飛び続ける。
5分くらいたっただろうか? 流石に疲れてきたな。
「そろそろいいか?」
俺は一度とまって、後ろを向いてラジットが来ているかを確認した。
よし。 きてないな。
危なかったが、なんとかなったな……
「へ、ヘイロン……そろそろ、やめて……うぷ……もらえるかな……吐きそう、なんだけど……」
「あ、悪い!」
そういや俺の手の中にいたんだっけな。 忘れてた。
リュカもラルナも、俺の手の中で目を回している。
「かなり飛ばしたからもうすこしでつくはずだ……絶対吐くなよ!!」
こんな所で吐かれたら俺の手が……しかも、外に出したら奴にバレるかもしんねぇ……そうなると俺が全部キャッチしなきゃいけなくなる……それだけは……
「わ、私は大丈……」
「……だす……!」
リュカはそう言って、掴んでいる俺の手に力を込めた。
「は?!!」
「ちょっ! こっちに顔向けないで! するならヘイロンの手にかけて!」
「ふざけんな!! おい! 絶対出すなよ! 飲め!」
リュカは自分の口を押さえ、苦しそうに首を横にふる。
頼む!飲んでくれ!そんな事したら俺の手が! 手が!
「もう…ダメ……!」
その瞬間、手の中に生温い感触が広がった。
それからしばらくして、俺たちはじじいの浮き島についた。
俺は、ゆっくりとじじいの島に足をつけて、ラルナとリュカを地面におろす。
「よし……ついたぞ…………」
「ごめんね……ヘイロン、ラルナ……」
「ああ……もういいよ……」
「……お風呂……」
「はぁ……ここ真っ直ぐ行けば、じじいの水浴び場があるから……」
「わかった……汚くないよね……?」
「竜はみんな綺麗好きだから大丈夫だ」
「ご、ごめん……」
ご閲覧ありがとうございました。




