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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第八章 逍遥
98/100

8-12

 今話の大半は作者の趣味と独断と偏見でできております。(大汗)


「――――ニグレド、なにやってるの?」


 アグリンガム群島から戻って数日が経ち、たまっていた用件を片づけた後でマルグリットの屋敷の一室で体を動かしていたところ、部屋に入ってきたフェリシアが声をかけてきた。


「見て分からねぇのか?」


「分かんないから聞いたんじゃん。

 棒っきれ持ったままじっとしたりゆっくり動いたりして……、もしかして、なんかの儀式でもしてたの?」


「儀式てオマエ……。剣術の訓練に決まってるだろ」


「部屋ん中で?」


「街中でゴブリンが棒を振り回してたら、すぐに兵士が飛んできそうだからなぁ」


「あはは!さっきのを見て、ニグレドが暴れてるなんて思うような人なんていないから大丈夫だって!」


「素振りだってするんだよ。こんな感じにな!」


 っと、勢いよく棒を振り下ろす。

 剣とは違って刃の無い丸い棒は鋭い風切り音を立てないが、それでも間延びした音を立てる事無く思った通りの軌跡を描いて、棒は空を切った。


「へぇ?結構、さまになってるじゃない。

 じゃあさ、さっきの変な踊りはなんだったの?」


「踊りじゃねぇ。体の動きをチェックしてたんだよ」


「チェック?」


「例えばだな、こんな風に大きく振れば隙だらけだろ?かと言って、こんな感じに小さく振ったら力が乗らない。だから力を十分乗せたまま、極力小さな動きで剣を振れるように、動作の調整をしてたんだよ」


 参考にしたのは剣術漫画だが、ぶっちゃけ刃物なんてモノは当てて押すか引くかすれば切れるんだから、あとは素早く隙なく必要な所に剣を当てて切ってやれば大丈夫な筈だ。


「へぇぇぇ~。剣術って、そんな事もするんだ」


「まぁ俺のは我流だけどな」


「我流って事は、それを全部ニグレドが考えたの!?」


「ナニをそんなに驚いてんだよ」


「だって、ねぇ?

 あんたが物知りなのは知ってるけど、剣術なんて騎士や兵隊の中でも隊長とかやってる人たちがやってるもんだもん。誰かから教わったって言うんならともかく、森に棲んでるゴブリンのあんたが考えたって言うのは…………」


 言葉を濁して、フェリシアは曖昧に笑う。

 その態度に腹が立たない事もねぇが、そこいらの子供ガキが棒っきれ振り回して剣術だとのたまってりゃあ、俺だって生暖かい目で見るだろうから怒るに怒れない。


「まぁ剣術と言ったって、俺の考えた理屈通りに剣を振ってるだけだしな。

 騎士や兵士のやってる剣術と同じかどうかは、俺も知らねぇ」


 肩をすくめて言った俺の言葉に、フェリシアは不思議そうな顔をする。


「剣術に、理屈なんてあんの?」


 ソコに食いつくのかよ。


「そりゃ、オマエ……」


 ……技術には理屈がつきもんだろ。と、繋げようと思ったんだが、俺はこの国(ジュラルデン王国)の剣術をほとんど知らない。精々が兵士の詰め所に寄った時に、訓練しているのを見た事があるくらいだ。


「もしかして、無いのか?」


 前世の時代には廃れた筈だが、体を壊しかねないような猛特訓をすれば強くなれる、と言うような脳筋信仰がスポーツの世界でまかり通っていた時期もあったようなので、この国の剣術が只々(ただただ)素振りをしたり木剣で殴り合うと言うような訓練方法だったとしても、あり得ないと言う事は無いのかもしれない。


「あたしも大した事は知らないんだけどさ。

 むかし……、身を守るためにって少しだけ教えてもらったのは、おんなじ動きを何十回も繰り返すだけの練習だったよ?」


 誰に教えてもらったんだ?と、聞こうと思ったんだが、嫌な記憶を思い出そうとでもするかのようなフェリシアの様子を見てやめておいた。言いたくないような話を、わざわざ聞かなきゃならんような事でもないからな。


「同じ動きを繰り返すだけ?」


「うん。こんな感じに、なにも考えずに繰り返せって」


 そう言って、フェリシアは動きながらパンチやキックを繰り出す。その動きは武道の型と言うよりはシャドウボクシングに近く、俺でも動きの意味が理解しやすかった。


「あ~……、多分こう言う事だろう」


 と言いながら、持っていた棒をフェリシアに突きつける。


「あっぶないなぁ!いきなり何をするのさ!?」


 加減はしたものの当たれば痛いじゃすまされない程度には勢いの乗った棒の先端を、フェリシアは危なげなく僅かな動きで避けた。


「バランスを崩さずに避けられたよな。

 普通だったら避けられないか、避けられたとしても少しはバランスを崩すんだよ」


「それがなんなのさ?」


「いやだから、練習した動きの中に攻撃を避ける動きもあっただろ?

 ソレを何度も何度も体に染みつくまで練習したおかげで、とっさに動いてもその動きができたって事だ。

 後は……。そうだな、生き物は基本的に一度に一つの動作しかできねぇから、オマエがやったみたいな複数の動きをいっぺんにやるような複雑な動作が咄嗟にできるようになるために、ソレを一つの動作として体に覚え込ませたんだと思う」


 俺の言葉に納得ができないのか、フェリシアは眉間に皺を寄せて考え込む。


「…………あたしが練習した事の意味は分かったけど、じゃあ、あんたの理屈の方はどうなのよ?」


 しばらく考えても答えが出なかったらしく、言葉とは裏腹にすっきりとしていない顔でフェリシアは話を俺に振ってきた。

 フェリシアがナニに(・・・)納得できないのかは分からないが、俺の話を聞きたいと言うのなら語ってやろう。考えた事を話すのは、嫌いじゃないからな。


「ふむ、そうだな。聞く気があるなら話してやるが、長いぞ?」


「いいよ?今日は予定もないし、しっかり聞かせてもらおうじゃない」



 ・



「んじゃ、まず、基礎の基礎からいこうか。フェリシア、腕ってのはどうやって曲がるか知ってるか?」


「……馬鹿にしてんの?」


「馬鹿になんかしてねぇよ。でも、分かんねぇだろ?」


「そんなの、腕に力を入れるだけじゃん」


「いや、ソレじゃあ分かってるとは言えねぇんだ。まず、コイツを見てみろ」


 魔法の鞄から出したのは、ノエルの授業でも使っている人体模型の腕だ。皮膚が無いので、骨と筋肉の関係が良く分かるようになっている。


「人の腕ってのは骨と骨とが関節でつながっていて、筋肉に引っ張られて動くようにできている。

 で、筋肉は通常弛緩していて、神経に刺激されると緊張して縮む事で力を発揮する訳だ」


「えぇっと……、それがどうしたの?」


 模型を操作しながら説明してやっても、フェリシアはナニを当たり前の事を言っているんだと言わんばかりの顔で不思議そうに聞いてきた。

 いやまぁ当たり前は当たり前なんだが、その当たり前の事をきちんと理解できていないと思うから、説明してやってるんだよなぁ。


「つまりだな。

 なんの負荷もかかっていない状態で力が入っているって事は、腕を曲げる筋肉と伸ばす筋肉の両方に無駄に力が入ってるって事だ。

 んで、ハナッから力が入ってりゃあその分筋肉が疲れちまうんだよ。

 それに弓だって、大きく引きゃあ引くほど遠くまで矢が飛ばせるだろ?ソレと同じで筋肉も緩んでりゃあ緩んでるほど、縮んだ時に発揮する力は大きい筈だ。

 だから素早く動くにしても強い力を出すにしても、体からできるだけ力を抜く事が重要だって俺は思うんだよ。

 いっそ、必要最低限の力以外は入ってねぇ方が良いくらいにな」


 緊張状態が続いた後の筋肉の硬直とか、伸筋と屈筋の収縮バランスとか、細かい事を言いだせば限が無いので、大雑把に説明をする。

 細かい説明は、必要があったらその時にしてやればいいさ。


「あ、そう言う事ね」


 納得したフェリシアが軽く体を動かす。


 って、今ので理解できたのか?

 まぁなんとなくでも脱力の意味が分かったんなら、話した甲斐はあるんだが……。


「あれ?ニグレド、全然早く動けないんだけど?」


 だろうなぁ。

 聞いたり見たりしただけで簡単にできるようになるヤツは、ほんの一握りの天才だけだ。


「聞いたからって簡単にできるかよ。

 オマエだって体を動かす時に、どの筋肉とどの筋肉から力を抜いて、どの筋肉とどの筋肉をどれくらい縮めて、どの関節をどれくらい伸ばしてどの関節を何度くらい曲げる、なんて考えて動かしてないだろ?

 オマエがどう言う風に動きたいかをイメージして、ソレを脳の運動を司る部分が計算して体に命令を送っている筈だ。

 だから、オマエが(・・・・)力を抜いて(・・・・・)動きたい(・・・・)思っても(・・・・)脳が(・・)その意味を(・・・・・)理解(・・)できなければ(・・・・・・)計算(・・)しようがない(・・・・・・)んだよ(・・・)

 脱力状態で体を動かしたいなら、そうだな――」


 俺の説明を理解できずに混乱しているフェリシアに近づいて、その体に指を這わす。毎晩のようにマルグリットに開発されている体は敏感で、急所を責めてやればすぐに達した。


「…………ハァ……ハァ……ハァ…………。い、いきなり、なにすんのさ……」


「アソビでやった訳じゃあねぇよ。

 今なら体に力が入らねぇだろ?その状態で立ってみろ」


「あ、ああ。そう言う事ね……。

 うう、体が重い~」


「体が重く感じるだろ?ソイツは実際に重くなった訳じゃあなく、体に力が入らないから重く感じているだけだ。

 まずはその脱力状態を体に覚えこませてから、早く動けるように練習してみるんだな。慣れたら、多少は今より速く動けるようになるだろ」


 ヘトヘトになるまで運動させてやっても良かったんだが、時間がかかるから今回は手軽な方法でやらせてもらった


「む~。ニグレドにも何度も見られてるから、今更だけどさ。せめて説明くらいしてくれても良かったんじゃない?」


「説明しても信じなかったと思うんだが……、まぁ次からは気をつけよう。

 で、次だがフェリシア。人が体を動かす上で筋肉以外にも使っている力があるんだが、なんだと思う?」


「えぇっと……。魔力とか?」


「おいおい、魔力が無くったって動けるヤツは動けるだろ。

 答えはな、重さの力だよ」


「重さぁ?」


「そう重さだ。今のオマエなら、力が抜けてて体の重さが良く実感できるだろ。

 ――そうだな。試しに、部屋の端から端までゆっくり大股で歩いてみろよ」


「え?なんで?」


「理屈が知りたいんだろ?それともフェリシア、オマエ歩く時ってどうやって歩いてるか分かってるのか?」

 

「またそれ!?もうっ!どうせ馬鹿にされるんなら、最初から分かんないって言ってあげるわよ!」


「素直でよろしい。じゃ、やってみな」


「……分かったわよぉ」


 言葉ほど表情は素直ではなく、不満げな顔でフェリシアは歩き出した。

 足を上げ、前に伸ばし、着地する。左右の足で交互にその三動作を大きく繰り返すフェリシアのベルトを、足が着地する寸前に後ろから引っ張ってやる。


「おわっ!とっとっと。

 今度はなに?!あたしを転ばせたいの?」


 気をつけると言った直後だが、先に説明すると効果が薄いので仕方がない。


「腰を抑えてるから、転びゃあしねぇって。

 そんな事より、歩く時に足を前に出して着地させるまでの間、オマエは自分がどうなってたか分かるか?」


「……普通に歩いてただけだよ?」


「そう。普通にいつも通り、転びながら(・・・・・)歩いてただけだよな」


「はぁ?!」


「そもそも四つ足と違って、二本足の生き物はバランスを崩さずに動ける距離はかなり少ねぇ。まともな体勢のまま片足でバランスを崩さず動ける範囲は、足の幅一つか二つってところだろう。

 じゃあ人は普段どうやって歩いているかと言うと、転びながら歩いてるんだよ」


「えっと、ごめん。なに言ってるか分かんない。転んだら歩けないよね?」


「言い方が悪かったか。

 ここで言う転ぶってのはな、バランスを崩すって意味だ。

 モノには重さの中心――、重心ってモノがあって、ソレは生き物でもかわらない。

 静止しているモノの接地面が一点ならその上に重心はあるし、二点なら点と点を結んだ線上のどこかに必ず重心はある。

 そして接地面が三点以上なら最も外側の点を結んだ面の範囲内に重心があって、人が片足で立った場合は軸足の接地面上のどこかに重心が存在する。

 で、重心が接地面の外側に出ちまうとバランスが崩れて転がるんだが、二本足の生き物は致命的にバランスが崩れる前に、足を地面に着く事で転倒する事無く歩き続けるって訳だ」


「ごめん、やっぱり良く分かんない」


 おっと、段々テンションが上がって喋りすぎるようになってきたか。

 いくら喋るのが楽しいからって、一方的にフェリシアの理解できない事を喋っていては意味が無い。

 少し、冷静にならないとな。


「…………だろうな。

 要は脚の筋肉を利用して歩いている訳じゃあなく、体の重さを利用して歩いているって理解させたかったんだが……。

 なら、この動きを見たら、なんかつかめねぇか?」


 直立状態から、倒れこむように体を前に倒し、倒れる寸前で足を出して転倒するのを防ぐ。


「歩くのを、大げさにやるとこう(・・)なる。

 まだ分からねぇなら、自分でもやってみろ」


「う、うん……」


 困惑しながらも、フェリシアは俺の真似をしてぎこちなく歩く。

 最初は一歩一歩、しかし次第に滑らかになって、最後には普通に歩いていった。


「あ、そっか。そう言う事ねぇ」


「分かってもらえたようだな。

 そんな感じに、歩く事一つとっても人は自分の重さを利用して歩いている訳だ。

 で、この体や武器の重さを理解して、動いたり攻撃すれば良いってだけの話なんだが、コレを口で説明するのが難しいんだよなぁ」


「そんだけ?それって、軽い武器より重い武器の方が強いし、パンチやキックに体重が乗ってないと威力が低いって事だよね?」


「それも間違いじゃねぇが、ソレだけじゃあ理屈とまでは言わねぇだろ。

 重要なのは重心とバランスでな?この二つを理解して貰う為にも歩いてもらったんだが……。

 まぁ理解できるかどうかは置いておいて、もう少し付き合えよ」


「良いけどさぁ……」


「じゃ、話の続きだが――。

 フェリシア、掌を上に向けて両手を出してくれ」


「う?うん。これで良い?」


「ああ。で、コレを持ってくれ」


 用意しておいた石と、石の同じお重さの水が容量の半分だけ入った水袋を、フェリシアの左右の掌の上に置く。


「フェリシア、どっちが持ちやすい?」


「そりゃ、石だよ」


「そうだな。グニャグニャで重心の定まっていない水袋より、硬く重心の定まっている石の方が持ちやすいのは当然だ。

 次はコレを見てくれ」


 斜めにした板の上に、ボールを二つ置く。一つは歪で、もう一つは丸い。


「どっちが方が良く転がると思う?」


「真ん丸な方でしょ」


「そうだ。歪な方は真っ直ぐ転がらず、丸い方は無駄なく転がってすぐに下まで行く」


 言いながらボールから手を離せば、説明した通りに歪なボールは跳ねながら明後日の方向に転がり、丸いボールは直進して板から落ちた後も床を壁まで転がっていった。


「で、お次はコイツだ」


 板の上にもう一つボールを転がす。ボールは丸いが重心がボールの中心からずれているので板の上を真っ直ぐには転がらず、尺取虫のような動きで規則的に床まで転がった。


「あはっ、変な動き」


「とまぁ、形が丸くても重心がずれていると、こんな風におかしな動きでしか転がらない。

 ――さて、なんで石と水の入った革袋を持たせたりボールなんか転がしたかって言やぁ、重心の重要性をオマエに理解してもらう為だ。

 フェリシア、オマエさっき軽い武器より重い武器の方が強いって言ったな?しかしいくら重くても、重さのバランスが悪けりゃあ威力は発揮できないんだよ。

 極端な話、頭より柄尻の方が重い斧なんか、使い物にならねぇからなぁ。

 そして重さのバランスが悪いって事は、重心の位置が悪いって事だ。

 体の重心も同じ事で、水の入った革袋のように重心の位置が定まっていないヤツは動くたんびにふらつくし、歪なボールや重心のずれているボールのように重心の位置の悪いヤツは歩くのですら遅い。

 理想は重心を完全にコントロールできるようになる事だが、ソコまでできなくても、脱力と重心ってモノを理解するだけでコレくらいの事はできるようになる」


 と言って、前世でアレコレ練習した結果なぜかできるようになった突きをやって見せる。

 まとは演出効果も兼ねて、鉄のフライパンにした。いつでも料理ができるように、予備として魔法の鞄に入れていたものだ。

 フライパンを放り投げ、落ちてくるタイミングを計って動き出す。

 始動は、左足を踏ん張る事無く上げた右足。結果前に倒れる体の姿勢を保ちつつ滑る様に前進させ、発生した落下エネルギーにさらに左足を捻じって生じさせた推進力を足して、落ちてくるフライパンの遥か向こう側を打ち抜くように右手を出す。

 そして右の拳がフライパンに触れる寸前、それまでに発生させたエネルギーと着地した右足から発生した反発力を、更に全身を絞るように使って加速させる。


「ひゃっ!」


 鉄板を貫く快音に、フェリシアが短い悲鳴を上げた。

 前世じゃあ何枚か重ねて二つ折りにした新聞紙が貫けた程度だったが、焼の入っていない新品のフライパンとは言え鉄の板を拳で貫く事ができたのは、魔力によって強化された肉体と身体能力のお陰だろう。

 まぁもっとも、集中しないと使えない技なので実戦では使いようが無いんだけどな。


「コツは、脱力状態から瞬時に必要な筋肉だけ(・・・・・・・)に力を入れて、体の動いた結果発生した重さの力を全て拳に集中させて、フライパンの重心にぶつける事だ。

 曲げるべき関節は曲げ、伸ばすべき関節は伸ばし、反対側の筋肉に余分な力を一切入れない。

 体の重心の延長線上で拳を当てらなければ力は拡散するし、フライパンの重心を僅かにでも外せば力は逃げる。

 他にも効率の良い力の出し方とかもあるが、基礎の基礎はやっぱり脱力と重心なんだよな」


「…………ねぇ、ニグレド」


 俺の一発芸に目を丸くしていたフェリシアが、かすれるような声でつぶやいた。


「あン?」


「また、教えてくれないかな?」


「またって、今日みたいなのか?」


「ううん。それだけじゃなくって、ニグレドのやってる戦い方の訓練全部」


なんでだ?(・・・・・)


だってさ(・・・・)弱いのって(・・・・・)怖い(・・)じゃない(・・・・)?」


 そう言うフェリシアの顔には、悔恨を噛み締めるかのような酷く追い詰められた表情が浮かんでいた。


 頭の奥底で、チリチリとナニカが疼く。

 弱ければ、奪われても、虐げられても、文句は言えない。ソレは前世でも今世でも思い知らされた。

 最強の力も絶対の権力も面倒なだけだ。

 だが、ああ、しかし、奪われず虐げられず見下されたりさげずまれたりしない程度の力と立場は、誰だって欲しいよなぁ。


「……ああ、怖えなぁ。

 そう言う事なら教えてやるよ。ただ、誰かに習った訳じゃあねぇし、誰かに教える為に考えた訳でもねぇから、体系立てては教えてやれねぇ。

 俺が教えてやれるのは、いくつかのコツだけだ。あとは自分で工夫してくれ」


「うん、分かった」




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