8-11
アラックファミリーの屋敷で茶を飲みながら待っていると、しばらくしてフリオが戻ってきた。
フリオの話では、数人の好事家に当たってみたが明日の午後からなら会えると言うのが一人、それ以外では数日中に会えるほど暇なヤツは居なかったようだ。
この結果にフリオは恐縮していたが、好事家なんてモノは気難しいヤツが多いんだ。ファミリーの構成員のツテがあるからと言って、如何わしい山師もどきにあっさりと会ってくれるとは思えない。一人いただけでも上出来だろう。
ただ、アラックファミリーの名前を出しても一件しか約束を取り付けられなかったのが悔しかったのか、フリオは大いに憤っていたが。
その後、泊る当てもないのならと主であるネシアの勧めで、次の日の昼までアラックファミリーの屋敷で世話になる事になった。
いや、最初は町で宿でも取ろうとしたんだが「そんな事はおっしゃらないで、ぜひ泊って行ってください。ファミリーの揉め事に巻き込んでしまったお詫びです」なんて言われると断りづらく、強引と言う訳でもないのに逆らい難いネシアの雰囲気に流されて、世話になる事を承諾してしまった。
まだ日が暮れるまで時間もあったので、もう一度街に出て世話役として命じられたフリオに観光案内してもらいながら、買い食いしたり町の住人から話を聞いたりとして過ごす。
監視役と言う意味もあったんだろうが、やはり地元民に案内された店の料理は美味く、漁師や狩人の口も軽かった。
狩人の話では、残念な事にこの島では魔獣が出没する事は滅多に無いらしく、現れたとしても島の狩人が総出で狩るので大事になる前に解決するようだ。
もっとも、魔法は使えなくてもそれなりに魔力の強い動物はそこそこ生まれるているみたいなので、魔獣が出没しないからと言って安全だと言う訳でもないらしい。
漁師によると海の方は海の方で魔法を使うような魚はいないみたいだが、バカでかい魚やタコに船が襲われるなんて話は当たり前の事のようだ。
まぁ、カルヴァス海の西には竜の樹界なんて呼ばれている大型爬虫類の魔獣や亜竜の棲む地域があるらしいので、魔法式や素材を集めたくなったらそっちに行けば良いだろう。
翌日の昼過ぎ、好事家の屋敷に向かった。
富裕層の住む地域らしく周囲の屋敷も金がかかっているのが分かったが、フリオに案内された屋敷は品の良い金のかけ方をした趣味の良い屋敷だった。
紹介された好事家の名はマルコ・ティアホ。どこかの国の貴族の流れをくむとかなんとか聞かされたが、要するに没落貴族の末裔で趣味人と言ったところだろう。
ただ、先祖の遺産を食いつぶすだけの愚か者と言う訳でもなく、フリオの話では町の良き相談役としてなにかと頼りにされているようだ。
しかしこの男、最初は人当たりの良い初老の紳士と言った感じだったが、手土産として封印都市で手に入れた自動人形の一部を進呈してやったら、目の色が変わった。そして俺が「ソイツは俺が大陸中央の封印都市に潜り込んで手に入れてきたモノだ」と言えば、自動人形の一部を手に入れた経緯を事細かに聞こうとして、質問攻めにしてくれた。
海底に沈んだ浮遊島からの漂流物を集めているような好事家なら、当然の反応だろう。俺も予想はしていたので、慌てる事無く事前に用意しておいたストーリを語って聞かせてやる。
俺の話に満足したマルコに、今度はコレクションを見せてもらいながら話を聞いた。
好事家なんてモノは自慢したがりばかりだから、俺が語るに足る相手だと分かれば聞きたい事は全て語ってくれた。
一般に知られていないカルヴァス海の話なんかも聞けたが、一番重要な情報は遺物の取引される“秘密の会合”の存在だろう。
そこでは、一獲千金を夢見た命知らずがカルヴァス海で引き揚げたお宝も取引されていると言う話だった。
やはり、表に出回ってる程度の噂じゃあ本当のところは分からないか。
もっとも三度成功したヤツの話はマルコも聞いた事がないと言うので、噂の方もあながち間違ってはいないのだろう。
儲け話を触れ回るようなバカが上手くやれるほど、安全な作業ではないって訳だ。
だから失敗したヤツラだけが浮き彫りになって、挑戦したヤツラは誰も帰ってこないと言う噂になったんだと思う。
まぁ次の会合がいつ開かれるかマルコには分からないと言うのが残念な話だが、引き上げに成功した例があるってだけでも収穫なので、手土産を渡した価値はあったかな。
一応、良かったら次の会合で俺の話もしてくれとマルコに言っておいたので、上手くすれば次の次かその次くらいの会合に参加する事が可能かもしれない。
要件は済んだが挨拶も無しに街を去るのも気が引けたので一度アラックファミリーの屋敷に戻ると、ソレラファミリーの連中からワビをしたいから夕方に波止場まで来てほしいとの伝言があった。
まず間違いなく、罠だろう。
だが、どんな罠を使ってくれるのか興味があるので、招待には応じようと思う。
・
「――フリオ、もしかしてアレがソレラファミリーの住処か?」
伝言で指示された波止場の番地にまで足を運んでみたんだが、そこには人影は無かった。
空はだいぶ茜色に染まっていて、時間指定の夕方には遅くも早くもない筈だ。
仕方が無いので辺りを見回すと、来るまでの会話にあったとおりの派手な船が目についたので、フリオに聞いてみた。
「そうさ。あの船がソレラファミリーの根城、“栄光の階号”だよ」
栄光への階段とは、いかにも楽天的なバクチ打ちがつけそうな名前だなぁ。
「栄光の階号、ねぇ。
なんともオメデタイ名前だが、乗ってるヤツラの頭の中も同じだったら面倒くせぇな」
「ははっ!あいつら馬鹿ばっかだからねー!」
俺の軽口にフリオが乗って笑い声を立てる。
すると周囲に人影は無かった筈なのに、どこからともなく怒鳴り声が聞こえてきた。
「だぁれが馬鹿だぁー!」
「うひ!?」
予想外の返事にフリオが声を上げて飛び上がる。
キョロキョロとフリオは見回すが、やはり周囲には人影は無い。
「どこを見てる。上だ、上!」
声の主は船の上に居た。日に焼けた肌に筋肉質、三十は超えてそうだが顔も精悍で中々美形な男だった。
ただボロボロの服にジャラジャラと装飾品を飾り立てているのは、あまり良い趣味だとは思えない。蒸し暑い南国の島なので露出が高いのは仕方が無いにしても、男臭いオッサンの半裸なんて見ていて楽しいモノではないだろう。
「お、お前は、なりあがりのタピオ!」
「うるせぇ!誰が成り上がりだ!手前はたしか、マッシュんところのフリオだったよな。とすると……」
「よう!詫びを入れてくれるって言うから来たんだが、ずいぶんと高い所から話をしてくれるじゃねぇか」
半裸の男、改めタピオの視線が俺の方に向いたので、会話の主導権をとるために先制して俺の方から声をかける。
見下ろされたまま話をされるのも、気持ちの良いもんじゃあねぇしな。
「おお、あんたがジョンソンか。
ハンから話は聞いてるぜ。ずいぶんと舐めた真似をしてくれたようだな」
言外に不快だと言っているのに、ソレを無視するのか。良いだろう。喧嘩を売るって言うんなら、買ってやろうじゃねぇか。
「おいおい。俺はやられたから、やり返しただけだ。メンツが潰れたのは、アンタラが弱いせいだろう?」
「クッ!ずいぶんと、調子に乗ってくれるじゃねぇか。ハンと良い勝負ができた事は褒めてやるが、大きな面をしたいんなら本気になったハンを倒してからにするんだな!
しかしまぁ、ヒューゴの不始末の詫びはしねぇとなぁ」
遠目にも頭の血管がブチ切れそうになっているのが分かるくらいに鼻息の荒いタピオが合図をすると、船から人が一人入る事ができるくらいの大きさの木箱が降りてきた。
「詫びの品だ。受け取ってくれや」
地面に降ろされると木箱が勝手に開き、中から人間サイズの人形が現れる。
整った顔に性的特徴の無い体。その人形は、封印都市で何度も戦った事のある自動人形と良く似ていた。
「海の底に沈んでいるお宝に興味があると聞いたんで、浜に流れ着いた人形を用意させてもらった。
お人形遊びを、存分に楽しんでくれ」
人形は、箱から出てくると戦闘態勢をとる。
暗い愉悦を隠そうともしないタピオを信じるのなら、やはりこの人形は浮遊島の遺物なのだろう。
千年も海の底に沈んでいたのに、人形は滑らかに動いている。
封印都市の人形よりも剣呑な雰囲気を出してるところを見ると、経年劣化が無いどころか沈んだ浮遊島の魔力を吸収して強化されているようだな。
「ほう、自動人形か。
封印都市で何体か倒したが、コイツはソレより歯ごたえがありそうだな。
――タピオ・ソレラ。詫びは受け取ってやるから感謝しろ」
「ほざけ!ヌアダ島を一夜にして壊滅させた人形相手に、いつまで余裕ぶってられるか見せてもらおうか!」
さて、封印都市で出てきた自動人形より、どれくらい性能が良いかな?高性能だったら、できるだけ壊さずに手に入れたいんだが……。
まずは人形が動く前に、全力でぶちかます。これで壊れる程度なら、素材取りの残骸になっても問題は無い。
俺のタックルを受けた自動人形は吹っ飛び、激しい音を立てて港の倉庫にぶち当たった。
間髪入れず追撃。……のつもりだったんだが、俺はその場を飛びのいた。自動人形の反撃を避ける為だ。
サンチラの全力のタックルは、鎧熊の『鎧甲』で体表を硬化させ、暴狼の『瞬間加速』で加速し、接触時に恐狼の『質量制御』で質量を増大する事で、上手く当たれば魔力の籠った岩でできた巨大ゴーレムさえも一撃で粉砕する事ができる。
ソレをもろに受けたと言うのに、自動人形は何事もなかったかのように立ち上がり、瓦礫をはねのけて反撃をしてきた。
少なくとも、作業用の自動人形程度じゃあねぇか。
受け身を取って反撃までしてきたところを見ると、戦闘用で、しかも強化されているときた。
コイツは是非とも、無傷で手に入れたいもんだ。
自動人形の攻撃は、速く、鋭い。
しかし、所詮人形でしかないので攻撃にはパターンがあった。だから倒す事自体はそれほど難しくは無いが、無傷でとなると一気に難易度が上がる。
「ほれほれ、さっきまでの勢いはどうした!?
受け取ってくれるんじゃなかったのか?
逃げ回ってないで、お人形の相手をしてやれよ!」
外野がうるせえな。と船の上を見れば、いつの間にやらタピオだけではなく、何人もの観客が船の縁に身を預けてヤジを飛ばしていた。
…………鬱陶しい。もう、壊れたってかまわねぇか。
「せっかくのプレゼントなんで、壊さねぇようにと思ったんだがなぁ。
面倒臭くなってきたから、いい加減ケリをつけるとするよ」
大声でそう宣言しながら、自動人形を押さえつける。
そしてサンチラをオートモードにして、こっそりと亜空間から右手を出し、首狩り兎の縛斬糸で自動人形の手足を関節ごとにバラバラにした。
首狩り兎の縛斬糸の切れ味なら切断面もきれいだから、後で修復する時も楽だろう
「馬鹿な!騎士が五人は居た島を壊滅させた戦闘人形の筈だぞ?!」
顔を真っ赤にしてタピオが喚いているが、ソレぐらいじゃあ腹が収まらねぇなぁ。
「おぅい、タピオさんよぉ。たいそうな贈り物の礼を、させてもらおうかぁ」
そう言いながら、栄光の階号にサンチラの左手を向ける。
サンチラの手には牙猪の牙が骨に加工して仕込んであり、両手とも同じ機能では芸が無いと言う事で、左右の手で違う細工が施してあった。
右手は拳に破壊エネルギーを纏わせる事により、打撃力の大幅な強化を図っている。
そして左手は、牙猪の固有魔法である『砕牙』の破壊エネルギーを射出する事が可能で、疑似的な光線兵器とも言えるデキになっていた。
「なぁにぃぃぃー!?」
自動人形を破壊され、形勢が不利だとみて逃げ出そうとしていた栄光の階号のどてっぱらに、サンチラの左手から発射された光弾が突き刺さり激しい爆発を起こす。
船の上では大混乱が起こっているらしく、パニックになった船員が海に飛び込んだりもしていて、見ていて楽しい。
本当ならコイツをタピオにぶち込んでやっても良かったんだが、伝言を受け取った時に「タピオ兄さんのファミリーが潰れると他の島の人達が煩くなるので、ガツンと一発お仕置きをするくらいで許してあげてくれませんか?」とネシアに言われたのでやめておいた。
一宿一飯の恩義って訳でもないんだが、次に遊びに来た時にこの島が他のファミリーに乗っ取られていて、折角得たコネが無駄になっていてもイヤだしな。




