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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第八章 逍遥
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8-10


「やるではないか。あのハン・チェイアンと言う男、ソレラファミリーが雇っている用心棒の中でも、一番の腕利きだぞ」


 コトが全部片付くのを待っていたのか、ソレラファミリーの連中が全員引き揚げてから、見物していたナルバが声をかけてきた。


「へぇ。って事は、ソレラファミリーにはアイツより強いヤツは居ねぇんだ?」


「うむ。他に数人使える者もおるようだが、彼奴あやつほどではないな」


 自分の所の構成員を全部把握してないようなヤツの言葉だから信憑性に欠けるが、ソレを指摘してナルバの機嫌を損ねても無駄なので、ここは納得しておこう。

 抗争の時に、他に強そうなヤツが居なかったってだけの話かもしれないしな。


「んじゃ、アンタとアイツだったらどっちが強い?」


「さて……。四分六分、いや三分七分の条件でも確かな事は言えんな。それがしが有利でも不利でも、勝敗がどちらに転がるか分からん」


 有利でも不利でも、か。

 有利な状況なら勝てるし不利な状況なら負けると言うのなら理解できるんだが、達人の言う事は良く分からんなぁ。

 まぁ極端な状況でもなければ勝つか負けるか分からないくらいには、実力が伯仲しているのだと思っておこう。


「なるほどねぇ。つまり、アンタもアイツと同じくらいには強いんだな」


「同じ流派の中でなら兎も角、他流であれば強さを決めるのは勝負ののちに生きているか死んでいるかのみだ。

 他の者より某が強いとうたってみたところで、意味など無い」


 また禅問答のような事を。

 わざと難解な話し方をしているようでもねぇし、これがナルバの素なんだろう。人質の件もあるし、変人とまでは言わねぇが、あまり他人に受け易い人柄ではなさそうだ。


「ああ、言い方が悪かったか。アンタとアイツは同じくらいの技量があると見て良いのか?」


「技前だけで見るのなら、確かに某と彼奴にはそれほどの差は無いであろうよ」


 誇るようにでもなくナルバは言うが、本気じゃあ無いとは言え深層魔獣の素材をふんだんに使い魔獣の固有魔法をいくつも仕込んだ死肉フレッシュ人形ドールであるサンチラと良い勝負をしたハンと同等の技量を持つと言う事は、少なくとも一般的な騎士クラス、下手をすると二つ名持ちの騎士に匹敵するほどの戦闘能力を持つと言う事になる。

 もっとも、実際やりあったハンとは違って、ナルバの技量は自己申告でしかない。

 しかしナルバが現れた時にあげた雄叫びの迫力はハンの攻撃に感じた凄味に劣るモノでもなかったので、ナルバが自分を過大評価している可能性は無いと見て良いだろう。


「ところでジョンソン。貴様はこの後、どうするつもりだ?」


「あ~、そうだな。ボウズに案内してもらって、遺物を集めている物好きに会いに行こうかと思ってたんだよ」


 俺の言葉に、ナルバは少し考え込んだ。

 うん?ナニか問題でもあったのか?


「そうか。しかし、いきなり行っても先方と会えるとは限らんだろう。

 どれ、フリオよ。お前は先に言って約束を取り付けてこい。某はそのあいだ、この男と屋敷で茶でも飲んで待っておる」


 ナルバがガキに向かって声をかける。

 フリオと呼ばれたガキはナルバと俺を交互に見て、ナルバに従って良いものか判断ができないのか、立ち尽くしていた。


「おいおい、勝手に決めるなよ」


「貴様だとて、無駄足は踏みたくなかろう?

 それに屋敷に招かれたとなれば、貴様はファミリーの客人となる。好事家の所でも、いきなり押し掛けた無礼者よりは話をしやすかろうよ」


 好事家を釣るための“餌”なら用意してあるが、たしかにナルバの言う通りでもある。土産の価値を理解して貰えなきゃあ門前払いの可能性もあるので、ここは従っておいても損はないか。


「そこまで言われちゃあ断れねぇな。分かった、案内してくれ」



 ・



 アラックファミリーが本拠地にしている屋敷は港町のほぼ中央にあり、周囲の建物に比べても格段に立派だった。

 ただ、庭で複数の種族の子供達が遊んでいたり、使用人だと思われる女が表に洗濯物を干していたりと、妙に所帯じみているのが気にはなったが。


「なぁ、ナルバさんよ。あそこで遊んでいる子供達は、一体ナンなんだ?

 まさか、ファミリーで託児所をやっているって事はねぇよなぁ……」


「託児所ではないが、子供を預かっているのには違いがないな。

 あれは漁師の子供達だ。アラックは元々漁師達の元締めの家でな。他にも手広くやっている今でも、漁師達の世話を本職としておる」


「なるほど。そりゃあ、パラミオの町で一番勢力がデカくなる訳だ」


 港町だからと言って漁師が住人の大半を占めているとは限らないが、大きな地盤である事には違いがないだろう。

 そしてアラックファミリーが町を支配する地域密着型の武装組織である以上、地元住民の支持が無くては勢力を保つ事は難しい筈だ。

 見限られりゃあ、他の組織に支持が流れて弱体化するのが目に見えているからなぁ。


 などと考えていると、洗濯物を干していた女が俺とナルバに気づいて声をかけてきた。


「あら、ナルバさん。お客様ですか?」


「市場でフリオがこの男に粗相そそうをしましてな。その詫びの段取りにフリオが駆けずり回っておるあいだ、館にて待たせて頂こうかと」


 女の問いかけに、ナルバは姿勢を正して答える。

 おや?ただの使用人かと思ったんだが、ナルバのこの様子だともっと上の立場なのかもしれねぇなぁ。


「まあまあ、うちの子がご迷惑をおかけしてすいません」


 ナルバの説明を聞いた女が、俺に向き直って深く頭を下げる。

 格好は地味だが、間近で見ると思ったより美人だった。年齢は十代後半から二十歳ってところだろう。おっとりとした雰囲気ながら、柔らかい視線は俺の目を見て離れない。


「ウチの子って事は、あのボウズのご家族かな?イヤ、謝られるほどの事でもねぇさ。ちょっとぶつかられただけだよ」


 女の雰囲気につられて、ついそう言ってしまった。

 どうも、こう言うタイプの女は苦手だ。


「でも、うちの子がご迷惑をおかけした事には変わりありませんし……。

 あっ、わたしったらお客様に立ち話なんて!ナルバさん、わたしはお茶の用意をしますからお客様の事をお願いしますね」


 慌ただしくそう言って、女は屋敷の方へ走っていった。

 

「なぁ、ナルバさんよぉ。もしかして、なんだが、今の女性はアラックファミリーのお偉いさんなのか?」


 まさかとは思うが、腕の立つ剣士であるナルバにあんな口の利き方をするって事は、ファミリーでの地位が同格かそれ以上って可能性がある。

 もし地位が高かった場合、下手な対応をして後で拗れても面倒なので、今のうちに確認しておいた方が無難だろう。

 もっとも、ナルバとあの女が気安い関係と言うだけの事かもしれないがな。


「うむ。あの方がアラックファミリーの頭目であるネシア・アラック様だ」


「…………ずいぶんとまぁ、可愛らしい頭目様もあったもんだ」


 聞いておいてよかった。

 精々が上級幹部の娘くらいにしか思えなかったからなぁ。

 あの荒事とは縁もゆかりもないような女が武装組織のボスだなんて、さすがに予想がつかなかった。

 市場で仕入れた噂話では、数年前に前のボスは急死して娘が後を継いだって話だったが、それにしたってジャンル(・・・・)が違いすぎるだろう。


「見た目だけで判断するな。

 あれで先代が亡くなられた時にはみなを鼓舞して混乱を最小限に収めもしたし、いまでもファミリーの旗頭として役目を十分に担っておる」


「そうは言っても、だいぶ落ち目になってるって噂じゃねぇか?」


 ナルバが歩き出したので、俺も歩きながら話を続ける。


「ふん、それはお嬢を小娘と見て痛い目にあった商人どもが流した噂にすぎん。

 パラミオの要である漁業と水利を押さえておるのだ。他の組織に何か出来る筈もない」


「しかし、人は魚と水だけで生きてはいけんだろ」


「水利とは飲み水の事だけでは無い。周囲の畑にまく水も、アラックファミリーが管理しておる」


 漁業と飲料水に農業用水の利権までとなると、食料の大半をアラックファミリーが押さえている事になる。

 その他の税金がどうなってるかは分からないが、命綱である食料を押さえてあるのは、それほど経済や流通が発展していないこの世界では大きいだろう。


「そいつは参った。だが、商人が味方じゃないとなると、流通が弱えぇなぁ」


「痛い目にあったのは、一部の馬鹿者どもだけだ。賢い商人は馬鹿者どもの代わりにせっせと荷を運んで利を貯め込んでおるわ」


 敵なのは一部の商人だけで、ソイツラの方こそ落ち目になっている、と。


「となると、懸念はソレラファミリーだけか」


「なに、タピオ・ソレラも昔はアラックファミリーに世話になった口だ。悪ぶったところで大した事はできん」


 ふむ。外部からの侵略者ではなく、以前から町に存在していた組織の勢力が大きくなったのか。

 しかしそうなると、しがらみもあるだろうが地域との接点もある筈だから、アラックファミリーの縄張りを侵食するのも外部のヤツラよりかは楽だろう。

 楽観できるような状況とも思えないんだが、ナルバの様子を見るにかなり余裕がありそうだ。

 まぁ深くかかわる気も無いので、追及する必要も無いか。


「なんだよ。当てにならねぇ噂だなぁ」


 もちろん全てナルバの主観なので、この話が真実だと言う保障も無いんだがな。

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