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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第八章 逍遥
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8-9

 さて、走ってくるのは簡単な防具と剣や槍で武装した人間が三十人ほど。

 皆殺しにするだけならたぶん、それほど難しくはないだろう。一般的な兵士レベルなら切裂き兎(リパーラビット)の小剣すら防ぐ事はできない筈だし、ヴァジュラを使えば騎士クラスでも一発で消し炭になると思う。

 ただ、そこまでやってしまうとアラックファミリーの連中にまで警戒される可能性が高いので、二度と手を出したくなる程度に痛めつけて、逃げ帰ってもらうのが理想だな。


「やいやいやい!ヒューゴの兄貴をやったのてめぇか?」


 集団の先頭を走っていた男が声を張り上げる。

 後ろに偉そうなのが何人かいるので、たぶん集団のリーダーと言う訳ではなく、使いっぱしりか血の気の多いだけの下っ端と言ったところだろう。


「ソレがコイツラの中のダレかの事を言ってるんなら、ヤッたのは確かに俺だなぁ」


「てめぇ、余所者だな?ファミリーの者に手を出して、生きてこの島から出られると思ってるのか!」


 わざと暢気に言ってやると、男は目の色を変えて食って掛かってきた。


 うんうん。良い感じに茹だってるなぁ。

 その調子で、しっかりと頭に血を上らせてくれよ。


「殴られたから、蹴り返しただけだぜ?

 たしかに俺は今日この島に来たばっかりのヨソモンでこの島の流儀には疎いが、殴ってきたヤツを逆にノシちまうのは、そんなに悪い事か?

 まさか、殴られたら殴られっぱなしでいろとは、言わねぇよなぁ?」


「うるせぇ!ファミリーに入れねぇような雑魚は、黙って殴られてりゃあいいんだよぉ!」


 男の言いたい事も分からなくはないんだが、大人しく従ってやる義理も無いんだよなぁ。


「なるほど、それがオマエラのルールか。残念だが、俺には従えそうにねぇな。

 だから、俺も俺のルールを通させてもらうよ」


 一気に距離を詰めて、先頭で怒鳴っていた男の顔面に拳を叩き込む。


「グハッ!?」


 十分に加減してあるので男の頭は吹き飛ぶ事もなく、鼻が潰れて前歯が全損しただけで、白目をむいて意識を失ってしまった。

 ……大丈夫だ。痙攣してるって事は、まだ死んじゃあいない。


「礼儀には礼儀を、暴力には暴力を。

 先に手を出してきたチンピラの増援だって言うんなら、オマエラを叩き潰しても問題はねぇよなぁ?」


「てめぇ、よくもテッドを!

 おい!やっちまえぇぇ!!!」


 男達の一人が命じると、他のヤツラが襲い掛かってきた。

 俺はそれを一人一人ノシていく。

 今回は、死肉フレッシュ人形ドールであるサンチラに元々から備わっている自動戦闘能力ではなく、俺のプログラミングした戦闘動作を使った簡易戦闘モードで戦ってみた。

 前世でやったゲームの動きを手本にしたんだが、キャラクター視点の3D格闘ゲームみたいで中々楽しい。

 幸い男達の中にそれほど戦闘技術が高いヤツは居ないお陰で、バックステップやサイドステップを織り交ぜながら攻撃してやれば、面白いように技が決まって相手が吹っ飛んでいく。

 サンチラの出力は制限してあるし、技も見た目優先で威力は気にしていないので、打ち所が悪くなければ死にはしないだろう。


「その動きは……!

 此奴こやつの相手は儂がする。主等ぬしらは仲間を連れて退け!」


 半数ほど動けなくしたところで、後ろの方で腕を組んで見ていた虎の獣人が声を上げた。

 簡素な服にサンダル履きで、武器も防具を身に着けていないのに、やけに威圧感のある獣人だった。


「でもよう、ハンさん……」


「主等が何人居ようとも、その男の敵では無いわ。

 それよりも、怪我人の中にはすぐに治療をせねば危険な者もる。はよう治療師に見せんと死ぬかもしれんぞ?」


「……分かった。後は任せる」


 そう言って、男達は倒れている仲間を担いで引き上げていく。

 残ったのは、ハンと呼ばれた虎の獣人だけだ。


「まずは、彼奴等あやつらが退くのを許してくれた事に感謝する」


 ハンはそう言いながら、体の前で右の拳を左手で包むようにした。


 ……前世で見た古い映画で、そんな恰好で挨拶をする拳法家が居たが、まさか、なぁ。


「下手に追おうもんなら、アンタが攻撃してきただろう?」


「貴様が何もせずに見逃した事は変わらん」


 気を取り直す為に軽口を叩いてみたが、ハンはむっつりと返してきた。ノリの悪いヤツだ。


「頑固だねぇ。まぁ、感謝してくれるって言うんなら素直に受け取っておくよ」


「うむ。では、心おきなく戦うとしよう。

 ――我は天地百八拳の内、地虎門が一派、虎炎拳の拳士、ハン・チェイアン!」


 ハンがいきなり名乗りを上げて、地に伏す虎のような低い構えで動きを止める。

 俺もつられて半身に構えるが、ハンは微動だにする事無く、隙の無い構えのままナニカを待っていた。


「…………何をしておる。貴様も拳士であるのなら、師から作法を学んでおるのだろう?さっさと名乗りを上げぬか」


「……………………え?」


 俺とハンの間に、微妙な空気が流れた。


 ああ、コイツは俺が拳士とやらだと勘違いしたのか。

 だとすると、格ゲーを真似した俺の動きを見て、勘違いした可能性が高そうだな。


「アンタ、ナニか勘違いをしているようだな。

 この技は誰かから習った訳じゃあなく、昔この技を使って戦っている男を見て、格好良かったから自分で工夫して再現しただけだ。

 だから俺は拳士じゃないし、師匠も居ない」


 俺の言葉を聞いたハンは怪訝そうな表情で眉根を寄せる。しかし表情以外は微動だにさせず、俺が奇襲でもしようものならすぐさま反撃が飛び出す事が予想できるほどの緊張感を発していた。

 いかなる時にも油断せず、たとえ頭が別の事を考えていても体が勝手に反応する、か。こう言うのを達人って言うのかねぇ。


「ぬう……、まさか見ただけであれほどの技を?

 いや、しかし、此奴こやつの言う通りであれば、技の見た目の割に功夫クンフーが未熟すぎるのも納得できる……」


「うるせぇ!

 どうせ死人が出ないような遊びでしか使わない技なんだから、これで十分なんだよ」


「負け惜しみか?技盗人わざぬすっとが」


「アン?アンタも、こう(・・)なりたいのか?」


 このままだと微妙な空気のままグダグダになりそうだったので、ハンの挑発に乗ったふりをして、足元に転がっていた剣を蹴り上げて手刀を振るう。

 指先に仕込んだ切裂き兎(リパーラビット)の骨に魔力を流した手刀は、期待通りの切れ味を見せて剣を真っ二つに両断した。


「魔法か」


「コレだけじゃあないが、人相手ならコレで十分だろ」


「当たればな」


「当てる方法もあるんだよ!」


「ふんっ、ならば相手にとって不足は無い。

 ――いざ、参る!」


「おう!」


 っと威勢よく応じてみたものの、状況はあまりよくなかった。

 そもそも、近接戦闘が得意な相手に近接戦闘で挑むのが間違いなんだよなぁ。

 痛覚を切っている人形サンチラ越しなのでまだなんとか冷静に戦えているが、コレが俺とハンの直接戦闘だったら手玉に取られてあっという間にヤられていただろう。

 勿論そうなる事は分かっているので、本当にヤルとなれば勝てるように戦うんだけどな。


 ――映画に出てきた仕草と、名乗りにあった“天地百八拳”だの“虎炎拳”だのに加えて、俺がサンチラにプログラミングした格ゲーの動きに勘違いした事なんかから予想した通り、ハンの攻撃方法は中国拳法を思わせる格闘術だった。

 ただ、師匠がどうとか言っていた事からハン自身が前世の記憶を持っている訳ではなく、中国拳法についての記憶を持った前世持ちが技術を広めたと考えた方が自然だろう。

 中国拳法にはあまり詳しくないので虎拳がどういう拳法なのかは知らないが、ハンの攻撃方法は主に爪による引っ掻きと鞭のようにしなやかな蹴りだ。

 特に魔力のこもった爪の攻撃は凶悪で、引っ掻きと言うとかわいらしいが、地面に深さ数十センチの傷跡を残す切れ味を見せた。

 さらに切裂き兎(リパーラビット)の『斬衝波ブレードソニック』を放っても、音の刃を爪で引き裂き「ハッハァー!我が虎爪の前に魔法など無力!」などとのたまわれてしまった。

 そして攻撃力以上に恐ろしいのが大柄な体格なのに柔軟で体重を感じさせない軽やかな体さばきで、『瞬間加速アクセレーション』で距離をとってもいつの間にやら近づかれて、爪撃はなんとか避ける事ができてもそれに続く蹴りで吹き飛ばされ、危うくとどめを刺されかけると言う場面が何度もあった。

 リミッターを解除してあるので速度も筋力もコッチの方が上なのに、技量の差でソレを飛び越えて俺を追い詰めてくれるのでイヤになる。

 素手で不利なら武器を持てば良いのかと言うとそう言う訳でもなく、これだけ技量に差があれば武器の重さとかさが邪魔になって、さらに状況は悪くなるだろう。

 攻撃は外れたら止めなきゃならんから、武器の大きさと重さの分、隙も大きくなるんだよなぁ。


 しかしまぁ、不利なのは間違い無いが絶望的と言うほどでも無い。

 今の状況でも、勝つ方法はある。


とどめだ!」


 爪の攻撃を避けた俺に予想外な方向から蹴りが襲い、体勢を崩した俺に止めの一撃が放たれる。

 今までに何度となく展開された場面だが、今回は逃げずに自分からハンに向かって『瞬間加速アクセレーション』で突っ込んだ。

 逃げ続けてきた布石が効いたのか、ハンの反応が一瞬遅れ、見事にカウンターが入った。


「発っっ!」


「ナニィ?!」


 しかし『斬衝波ブレードソニック』を纏った俺の手刀はハンの腹筋を貫く事ができず、俺とハンの動きは膠着する。


「ふん、やるではないか。危うく早贄はやにえに成り損ねたわ」


「魔法の無効化、か。そりゃ、爪以外にも魔法の対策くらいしてあるよなぁ」


 魔法がこの世界の最大攻撃方法である以上、戦う事が飯のタネなヤツラなら対抗措置を持っているのは当然だ。

 もっとも危うくと言っているところを見ると、確実にではなく、無効化できる威力に限界があるとか、タイミングがシビアだとか、なんらかの制限があるのだろう。

 もちろん、ブラフの可能性もあるがな。


「まだ、やるかい?

 コレ以上は殺し合いになるが、よ」


「儂の腹に穴をあけようとしておいて、殺す気がなかっただと?」


 俺の言葉にハンは怒りを見せるが、言葉の意味(・・・・・)は理解しているのか、抵抗する気配は見せない。


「腹に穴が空いたくらいじゃ中々死なねぇよ。殺す気だったら手刀に纏わせずに、飛ばして体を両断してたさ。

 いや、そもそも殴り合いに付き合う必要だってねぇよなぁ。本気でるんならよぉ。

 それに、アンタも俺を本気で殺そうとはしてなかったんじゃあないのか?

 攻撃を避けきれずに死んだとしても構わないが、とっておきの切り札までは使う必要がない。

 そんな雰囲気を、アンタの攻撃から感じたんだがなぁ」


 攻撃がヌルかった訳じゃあないが、必ず殺すと言うような意気込みは感じられず、精々が猫が獲物を弄る程度の害意しか感じられなかった。

 イヤ害意と言うよりも、ハンの攻撃に俺がどう対処するのかを楽しんでいるような気配と言った方が正しいかもしれない。

 たぶんだがハンが名乗った時の迫力を考えると 俺が拳士とやらではなかった事で、ハンにとってこの戦いが全力を出すのに値しなくなったのだろう。


「…………ふん。

 良かろう、儂の負けだ」


 図星だったのか、ハンは明後日の方向に視線を向けたまま敗北を認めた。


 ――――ふう、なんとか死なず殺さずで事を収められたか。

 死なないのは当然として、殺せば恨みが残って後が面倒なので本当に良かった。

 まぁ先に逃げたヤツラの治療が間に合わないと死人が出るかもしれないが、そん時はそん時だな。加減はできるだけしたんだ、運が悪かったと諦めてもらうしかない。

 しかしそれなりに楽しめたが、やはりハンみたいな高度な戦闘技術を身に着けたヤツ相手だと、力押しでは勝てねぇか。

 今回は向こうが本気じゃなかった上に、布石を打って相打ち覚悟でぎりぎり、前に自動戦闘で相手をしたクロードにしたって、激昂してたから攻撃を避け続けられたが冷静に戦われたら多分すぐに動作パターンを読まれてられていただろう。

 いやそれ以前にどちらもサンチラを使った人形越しの戦闘だし、戦争で殺し合いを楽しもうって言うのなら、もう少しまじめに訓練をしておいても良いのかもしれねぇなぁ。


「んじゃ、ソレラファミリーのヤツラに伝言を頼む。

 この島には二三日しか居ねぇから、詫びを入れるんならその間に来いってな」


「強気だな」


「ここまでやったんだ、ファミリーの面目なんざ丸つぶれだろ?

 このままソレラファミリーの本拠地に乗り込んで詫びを入れさせないだけ、感謝されても良いくらいだぜ」


 まぁ、どう転んでも別に良いんだがな。

 ナニも無ければ面倒がなくて良いし、荒事になったらなったで楽しめば良いだけだ。


「わかった、伝えよう」


 俺の言葉に苦笑いしながらハンはそう言って、背を向けて去っていった。


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