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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第八章 逍遥
93/100

8-7


 ダークエルフとの話し合いは順調に進み、双方が納得のいく合意を得た。

 ……と、思う。少なくとも俺の要望に対する承諾は得られたし、その代価としてダークエルフから頼まれた事も俺の想定を超えなかったので、俺の方に不満は無い。

 もっともダークエルフ達が腹ん中でナニを企んでいるか分からねぇから、油断はできないんだがな。


 とにかくまぁ、一段落ついたので時間を作ってまた出かける事にした。

 今度は南だ。

 しかしガナーク教国をヘタに刺激すると予定が台無しになる可能性もあるので、白の砂漠を越えた更に南方に向かう。


 トーラスから南に飛び、いくつもの山を越えると、眼下に砂漠が広がった。

 高空から眺めて見ても果てしなく続く砂の大地は雄大で、雲一つ無い青空とのコントラストは変化が無いにもかかわらず見ていて飽きる事が無い。高度を下げれば砂漠の生き物なんかも見る事ができるかもしれないが、今回は今の高度でも十分に楽しめているし、襲われる可能性もあるのでソレは次の機会に回しても構わないだろう。

 過酷な砂漠に生きる生き物達は、この世界に満ちる魔力のおかげで過激な進化をしているらしいしなぁ。興味を惹かれるが、藪蛇に時間を取られて予定が狂うのも困る。


 ちなみに白の砂漠の由来だが、べつに砂の色が白いからそんな名前がついている訳ではない。砂漠のアチコチに点在する塩湖が白の砂漠の名前の元のようだ。

 ついでに言うと、白の砂漠は東の砂砂漠をガナーク教国が、西の岩石砂漠を亜人の国々が支配している。そして塩湖から採れる塩はジェラルデン王国に輸出され、亜人の国々の重要な収入源となっているらしい。


 途中で涼めそうな岩山を見つけては、適度に休憩を取りつつ砂漠を縦断する。空を飛んでいるおかげで気温の高さはそれほど気にならないが、湿度が限りなく低い所為で脱水症状を起こしかねないからだ。

 

 幸いな事に休憩中に襲われる事も無く、旅は順調に続く。

 砂漠の果てに待っていたのは東西に続く山脈だった。実はこの山脈は白の砂漠をほぼぐるりと囲っていて、一部は天蓋山脈にもつながっていた。結果、他の地域への砂漠化は広がらずにすんでいるが、反面砂漠へ雲が入り込むのも邪魔をしているようなので、砂漠に雨が降る事はほとんどないようだ。

 ただ地下深くには水脈も流れているらしく、塩混じりのオアシスや深く掘った井戸のおかげで砂漠の住人は生をつないでいると、マルグリットの書斎にあった本には書いてあった。


 山脈で夜を過ごし、夜明けとともに山を越える。二つの月に照らされて影絵のよう輪郭しか分からなかった山々が日の光を受けて全貌を現すのは、心が震えるほど美しい。

 山脈の裾野は緑に包まれていて、それは海まで続いていた。

 熱帯雨林の森は海水でも構わず生い茂り、いくつもの島を飲み込んでいるようだ。

 この大陸西部地方の南にある海をカルヴァス海と言い、無数にある島々は纏めてアグリンガム群島と呼ばれていた。

 そして、このアグリンガム群島が今回の目的地となる。



 ・



 身隠しの外套で姿を消しながら、群島の南端でも比較的賑わっている島の一つに降り立つ。

 今回はこの地域の事情もある程度調べてあるので様子見の必要はないが、ナニかあった時の保険としてサンチラの姿で、島にある港町の繁華街にもぐりこんだ。


 丸太の防壁に囲まれた町並みは、木造の高床式住居が立ち並び、様々な人種の住人達が賑わしていた。

 通りを歩いていれば、向こうからは青い肌のリザードマン(直立したイグアナのような亜人)とギルマン(海棲人。獣人のように種族魔法によって、海で生活する能力を得ているらしい)が肩を並べて歩いてくる。

 がやがやと騒がしさに目を向ければ、黒褐色のゴブリン(肌の色以外は、森のゴブリンと大して変わらない)が集団で荷物を運んでいた。

 羽音に空を見上げると派手な衣装を着たハーピー(鳥の翼と足を持つ亜人)が飛んでいるのが見え、妙な気配を感じて後ろを振り返れば成人男性の腹辺りまでしか背丈の無いパック(小人族の一種。別名悪戯小人)が俺の荷物に手を伸ばしているのが見えた。

 捕まえようとしたパックに逃げられて、舌打ちを一つしてから歩き出すと、今度はノーム(小人族の一種。別名賢小人)と遊戯盤を挟んで座る、滅多に森の外に出る事が無い筈のエルフが目に入る。その周囲で見物しているのは、様々な人種の人間達とぱっと見じゃあ何種類いるか分からないほどの多様な獣人達だった。

 アグリンガム群島は周囲を難所に囲まれているのと地理的にうま味の無い事から他の国々からの干渉も少なく、犯罪者や逃亡者など行き場を失ったヤツラが行き着く場所としても有名なだけあって、本当に様々な人種が住んでいるようだ。


 ――――市場をぶらついて、目的のモノ(・・・・・)を探す。 

 大昔の大戦時、無数の浮遊島が作られ、墜されたらしい。墜落して地面に大穴を開けたモノもあれば、かろうじて不時着したモノもあったようだ。

 そして、同盟側に奪われた浮遊島と帝国側の浮遊島が空中戦を繰り広げたカルヴァス海の海底には、いまだに墜ちた浮遊島の残骸が大量に眠っていると言う記録がアンスールマラガの大図書館には残されていた。

 今回ココに来た目的は、潮の関係で稀にアグリンガム群島の島々に流れ着くと言う浮遊島の残骸を見つける事だ。

 砂漠の砂の中からを在るかどうかも分からない砂金を見つけるような当てにならない話だが、カルヴァス海沖は海中の魔力が桁外れに濃く、魔海とも別称されるような危険地帯となり果てていて、サルページは不可能に近いようなので今は(・・)仕方がない。


 海産物や日用品以外にも、単なる石ころにしか見えない鉱石や壊れた道具のようなモノまで、本当に買うヤツがいるのかと聞きたくなるようなモノも売られていたが、残念ながら浮遊島の遺物らしきモノは見つけられなかった。

 大昔には壊れた飛空艇の一部なんかも漂着したと言うから、少しだけ期待したんだがなぁ。

 さすがに何百年も経てば、流れ出てくるようなモノは粗方出尽くしちまうか。


 仕方がないので遺物を集めていそうな好事家の情報や、遺物が他の島に流れ着いていないかと言った話を市場で聞いていると、遠くから聞こえてきた怒声と共に、腰のあたりに衝撃が来た。


「このクソガキがぁ、待ちやがれ!」


 怒鳴っていたのは人間の男だった。どう見ても堅気には見えない人相で、ありていに言えばチンピラにしか見えない。

 そして怒鳴られていたのは、三角の耳を頭に生やした子供ガキだ。俺の腰に感じた衝撃の正体でもある。


「へっへーんだ、捕まえられるもんなら捕まえてみろってんだ!……ぅわ?!」


 そのまま俺の脇を駆け抜けていこうとしたガキの首根っこを捕まえて、吊り上げてやる。

 ガキのバカにしくさった態度と、チンピラの声と表情に滲む悪意から見て、ガキとチンピラの関係はかなり険悪なようだ。

 面倒事になる危険性を考えればかかわるべきじゃあないんだが、上手くすればなんらかのコネが手に入るかもしれないので、少しばかり手を出してみる事にした。


「ボウズ。人にぶつかっておいて、詫びの一つもねぇのか?」


「お、おい!はなせよ!」


 あまり生きが良すぎると、交渉にならねぇな。

 ちょっと、素直になってもらう事にしよう。


「グエッ……。ゴメン!ぶつかったのは謝るからはなしてくれ!!」


 ふぅん、聞く耳(・・・)()持って(・・・)いる(・・)んだなぁ。

 なら交渉相手としては、悪くない。


「おう、ニイちゃん。よくやった!」


 そうこうしているうちに、チンピラが駆け寄ってきた。

 既に(・・)ガキを(・・・)捕まえた(・・・・)気でいるのか(・・・・・・)、その顔は嗜虐心に歪んでいる。


「クソガキがぁ。シマを荒らした落とし前は、きっちりつけてもらうからなぁ?」


 いまだに俺の手で吊り上げられているガキを、チンピラは舐るようにめ付ける。

 対してガキの方はと言えば、吊られたまんまだというのにそれを気にした風も無くチンピラをあざ笑っていた。


「ヘン!この町は昔っからアラックファミリーのニワだぜ。ぽっと出のタピオなんか、目じゃねぇやい」


 アグリンガム群島に統一国家は無く、島や町単位で自治体が存在している。と言えば聞こえは良いが、実際には大小数多くの武装組織が支配する半無法地帯に過ぎないらしい。

 そしてリオドラ島最大の町であるこのパラミオにも複数の組織が存在していて、どうやらこの二人は別々の組織の構成員のようだ。

 市場で仕入れた情報によると、アラックファミリーは以前は最大勢力であったものの最近は落ち目で、タピオと言うのは多分、アラックファミリーの衰退と比例するように勢力を広げているソレラファミリーのボスであるタピオ・ソレラの事だろう。


「落ち目のアラックが、ウチのボスを、どうするってぇ?」


 自分のファミリーのボスをぽっと出呼ばわりされた所為か、チンピラの雰囲気が変わった。

 こう言う(・・・・)組織(・・)において、ボスの名前が組織の看板なのは、前世の世界でもこの世界でも一緒の事だ。ソレを馬鹿にされれば、キレるのも当然だわなぁ。


 チンピラの手が、ガキに迫る。

 しかし、その手がガキに届く事はなかった。俺が邪魔したからだ。


「あ゛ぁ?テメエ、なんのつもりだ?」


「まだ、俺とこのガキとの話が終わっちゃいねぇんだ。口ならともかく、手を出されちゃあ困るなぁ」


 俺の言葉を聞いたチンピラは、表情を変える事もなく、いきなり殴りかかってきた。

 チンピラの拳は意外と素早く、俺の防御をすり抜けるように顔面を打ち抜く。殴らせたのは態とだが、まったく防御ができないとは思わなかった。

 (サンチラ)の体が大きく揺れて、数歩後ずさる。

 倒れるほどじゃあないが、日常生活用のリミッターをかけているとは言え魔獣の素材を使った特製の死肉フレッシュ人形ドールであるサンチラの体をよろめかせる事ができるなんて、予想以上の威力だ。

 見た目はチンピラだが、思ったよりヤルようだな。


「痛えなぁ――」


 言葉を続けるよりも先に、チンピラの追撃が来る。

 相手が油断しているうちに奇襲して、倒れるまで手を止めないってのは良い手だが、相手をよく見てから手を出した方がよかったなぁ。


 以前にも言ったかもしれないが、俺は前世で格闘技や武道を本格的に習った事は無い。精々が学校の授業と、小説や漫画、ネットやゲームなんかで得た知識を自己解釈で練習した程度だ。

 だから即興で技の組み立てやコンボなんてできないし、それどころか本当に技術として成立しているかも怪しい。

 それでも殴り合いレベルであれば、実戦で十分通用する威力はあった。


 力を抜いて膝を上げ、その勢いのまま脚を延ばして、骨盤から押し込みながら足の親指の付け根で相手を弾く様に放つ前蹴りは、カウンターで入ってチンピラを一撃で悶絶させた。


「あー……。いきなり殴りかかってきたソッチが悪いんだぜ?

 まぁ加減はしたから死んじゃあいねえだろ。コッチの話が終わったら運んでやる(・・・・・)から、それまで寝てろ。

 で、ボウズ。砂浜や、カルヴァス近海で獲れた魚の腹ん中からたまに見つかるって言う遺物の事を、なんか知らねぇか?」


「……大昔に沈んだ、島だか船だかの残骸なら、集めている人を何人か知ってる。

 けど、そんな事よりあんた、この島の人じゃねえよな?」


 俺の質問に、ガキは神妙な顔で、そう答えた。


 あー、もしかして俺、やらかしちまったかな?


「ああ、今日この島に着いたばかりだ」


「なら知らないのも無理はないんだけど、ファミリーに入ってない奴がファミリーの一員を傷つけるのはまずいんだ。

 ほらっ、うしろ!」 


 ついさっきまでこの騒ぎを傍観していた見物客の一人が、ナイフを腰だめに体当たりをするように突っ込んできたので、当たる寸前に肩を入れて体重を乗せるストレートとジャブの合いの子ようなパンチで沈める。

 俺の戦闘技術は、我流でしかない上に俺に才能とやらがないのか、まともな殴り合いには極端に弱い。だから殴り合いになる前に、できるだけ一撃で相手を倒せるように工夫してある。予備動作を極力排し、漫画でよくある無拍子打ちやら発勁やらを参考として……。

 まぁ、なんだ。

 男だったら、格闘技とかにあこがれる時期があるもんだろ?前世の黒歴史じゃあないが、この世界にゃあ金を払ったくらいで部外者に戦闘技術を教えてくれるような親切なヤツも居ないので、活用できるものは活用するに限る。


「なんだ、コイツラは?」


 ナイフ男に続いて、さらに二人襲い掛かってきたのを叩きのめしたあと、ガキに聞く。


「ソレラファミリーの下っ端だよ。町のほとんどの住人はどこかのファミリーに属しているから、ファミリーの誰かがやられたらすぐに報復することになってんだ」


「あー、なるほどなぁ。どっかの組織に入ってりゃあ組織の名前に守ってもらえる可能性もあるが、入ってなけりゃあ遠慮なく即報復って事か」


 つまり、強い組織に属していればやりたい放題、弱い組織のヤツラは泣き寝入りっと。

 もちろん単純な力関係だけで成り立っている訳でもないだろうからそこまで単純じゃあねぇと思うが、それでも組織の勢力が大きければ大きいほど幅も効かせ易くなるんだろうなぁ。


「んで、さっきの話の続きだが、ぶつかった詫びに遺物を集めているヤツの紹介しろ。ソレでチャラにしてやる」


「あんた、ことの大きさをわかってるか?へたしたら、寝る間もなく襲われ続けることになるんだぞ」


「なぁに、話しゃあ解る(・・・・・・)さ」


 その為に、後でチンピラを運んでやるんだしなぁ。


 俺の言葉に、ガキがナンとも言えない表情をする。

 しかし、こんな所で長々と話をしていたのが悪かったのか、騒ぎはそのまま収まらなかった。


「貴様!その手を放せぇ!!!」


 道の先から、リザードマンが大声で叫びながら走って来る。

 ガキをつかんでいる手を放せと言う事は、今度はガキが属しているアラックファミリーの構成員がご登場のようだな。


「シャァァァァアアアアアアア!」


 剣を抜いて上段に構えたリザードマンが、雄叫びを上げながら突っ込んでくる。

 本来なら力の抜けるような擦過音だというのに、リザードマンの雄叫びは背筋が寒くなるような迫力に満ちていて、“待て!”と叫ぶ気力さえくじかれてしまった。


「放せと言うんなら、放すがね。

 ――ちゃんと受け止めろよ?」


 それでも大人しく切られてやる訳にもいかないので、リザードマンの言うとおりにガキを放す。

 リザードマンに向かって、全力で勢いをつけて。


「なに!?」


 放物線を描く事もなくすっ飛んでいくガキを避ける事も出来ずに、ガキとリザードマンは衝突した。


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