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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第八章 逍遥
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8-4


 エルフの秘宝、ねぇ?

 エルフについて、俺の知っている事はそれほど多くはない。細長い耳を持った長命な種族であり、種族的な固有魔法である精霊魔法以外にも呪文魔法などの希少で強力な魔法を使いこなす魔法使いが多く、世界中にあるエルフの森に住んでいる、と言った事ぐらいだ。

 あまり森の外に出てくる事はないらしく、マラガ島に来るまでは俺も見た事はなかったし、前任者の記憶の中でもエルフの森の外でエルフに出合った事があるヤツはいなかった。

 人類学と言うか亜人類学と言うか、まぁそう言うような研究書にはいくつか記述があったものの、エルフについて詳細に書かれた本もなかったので、情報が少ないのは仕方が無いだろう。

 ただ、エルフの森に入るにはエルフの許可が必要らしいのだが、近くに住む猟師が森に入って狩りをする事を黙認したり、交易なども行われているようなので、排他的な種族と言う訳でもないらしい。

 ちなみに交易品の大半は、エルフお手製の工芸品で強力な魔力の篭もった魔法の道具のようだ。

 そんなエルフだから、強大な力を持つ秘宝を持っていてもおかしくは無いのだが……。女の(・・)様子を(・・・)見た(・・)感じ(・・)では(・・)リサの(・・・)言葉を(・・・)鵜呑みに(・・・・)するべき(・・・・)では(・・)ない(・・)んだろうなぁ。


 リサの言葉を止めようと木陰から飛び出したエルフの女は、細面の美しい顔を呆然とした間抜け面にさせてへたり込んでいた。そこに浮かんでいる表情が悲嘆でも絶望でも怒りでも無いって事は、たぶんリサの言葉が女が想像した言葉と大きく違っていたからだと見て良い。

 ならば(・・・)リサの(・・・)言う(・・)秘宝は(・・・)、秘宝(・・)どころか(・・・・)もっと(・・・)重要な(・・・)ナニカ(・・・)だと(・・)考え(・・)られる(・・・)


 リサがナニを考えて口を挟んできたかはわからねぇが、エルフにとって秘密にしなければならないナニカの存在を知っている事を臭わせておいて、今後何事も無く済むとは思えない。

 最悪エルフのお偉方が危険だと判断すれば、暗殺者の一人や二人送りつけてくる可能性だってある。

 いや、先ほどエルフの女がリサに対してフェアリー云々と言っていたって事は、エルフはフェアリーの性格を把握しているって事だろう。なら確実に危険だと判断する筈だ。なにしろ帝国の初代皇帝と契約していたフェアリーも居たようだしな。

 だとすると、ここで手を打っておかなければ、リサの思った様に状況が進む確率が高いか。


「リサ……。面倒臭ぇから、全部喋べっちまわねぇか?」


 中途半端に知ってる事を匂わせるから、疑心暗鬼の余地が生まれちまう。なら、俺達がどの程度の知識があるのかを分からせてやれば、エルフの行動の選択肢も読みやすくなるだろう。

 問題はリサの目的が読めない点だが、ソコはどうしようもないので流れに任すしかない。


「あれぇ、いいのぉ?レドちゃんの事だから、自分で調べたいかと思ったんだけど……。

 それにエルフの前でそんな事聞いたら、とっても大変な事になると思うよぉ?」


 苦々しく思いながらリサを問い詰めてやると、とても楽しそうな笑顔でリサが聞いてきた。


「調べて考証し確証を得るってのも楽しいし、オマエの言葉に踊らされてバカを見るのもイヤだから自分で調べたいのは山々だけどな。

 エルフの前でオマエの知る限りの事を聞いておかなけりゃあ、疑心暗鬼になったエルフがどう言う行動を起こすか考えたくねぇから今この場で聞くんだよ!」


「えぇ~。でもぉ……。エルフのアサシンって、かなり厄介だよ?」


「うるせぇ。どの道、今聞かなけりゃあその内に送られてくるかもしれねぇんだ。それなら聞いた上でエルフと交渉した方がまだメはある」


 疑心暗鬼になっているヤツは、コッチの言う事を全く聞かずに、自分の想像だけでモノを判断しようとするからなぁ。

 中途半端な情報だけ渡して逃げ出すと、ソコから妄想を飛躍させて最悪の判断をしてくれるかもしれない。

 例えば、まだ真実が知られていないのなら、知られる前に俺を消してしまうしかない。とかな。


「そっか、そこまで考えてるんなら教えてあげる!エルフの秘宝ってのはねぇ、世界樹の枝なの」


「……なっ!」


 呆然と自失していたエルフの女が今更ながらに声を上げるがもう遅い。リサの言葉は止まらず紡がれていった。


「エルフの森の最奥には、魔力の根源たる世界樹の枝が生えてるの。それを使えば島の一つや二つ、浮かすなんて軽い軽い♪」


 枝が、生えている?イヤ、そもそも魔力の根源たる世界樹ってのはナンだ?


「生えているのは、世界樹じゃなくて、その枝なのか?それに世界樹の枝ってのは、ソレだけで島を浮かすほどの大層なシロモノなのか?」


「そ!生えているって言ったって、地面から生えている訳じゃないもん。なんてったって世界樹なんだから、次元の壁を突き破って生えているに決まってるじゃない」


「イヤ、決まってるじゃないって言われたってよう」


「ん~もう!世界樹はねぇ、この世界よりもっと高次元に根を張ってるの!そしてその枝からこの世界に魔力を与えてくれている、ありがた~い樹なんだから!」


 リサの妄想……。って訳じゃあ無さそうだな、エルフ女の絶望的な表情を見る限り。


「……なんか、ずいぶんと話が大きくなったな」


「そぉ?ある程度魔法について研究している人なら、み~んな知ってる事よ」


 ある程度ってのは、どの程度なんだか。

 少なくともオマエに貰った前任者達の記憶の中には欠片も無かったし、マルグリットや魔法使い協会の蔵書の中にも仮説としてすら唱えられてなかった。

 つまり、最低でも人外レベルって事だよなぁ?


「まぁ、いいや。オマエが俺をどうしたいのかはわからねぇが、エルフの女が酷い顔をしてるって事は、オマエの言葉に嘘は無さそうだ」


「あはっ!アタシだって、レドちゃんがどうなるかなんてわかんないよ?でも、だから面白いんだけどね♪」


 へいへい。精々面白がって壊さねぇように気をつけて遊んでくれ。

 しかし、これで知りたかった浮遊島の秘密は知れたんだが、思った以上に厄介なシロモノのようだ。まぁ九割がた興味本位で調べてたモンだから、手に入らないとしても惜しくはないがな。


「で、エルフのねぇちゃん。アンタが秘密にしておきたかった事は粗方リサが喋っちまったようだが、俺が世界樹の枝について誰にも口外せず、エルフの森から世界樹の枝を奪わないと誓えば、俺の安全を保障してもらえないもんかねぇ?」


 この島のエルフとだけなら、少々問題を起こしても二度とこの周辺に近寄らなければ良いだけなので、大した問題では無いと思っていた。

 しかし世界樹の枝と言うのがどれほどの価値のシロモノかは分からんが、ヘタをするとエルフと言う種族そのものと敵対しかねないような危険物だとしたら、ここはできる限り下手に出て許しを請わないと後で大事になるだろう。


「…………ふっ。はっははは!しばらく姿を見る事が無かったので、フェアリーの危うさをすっかり忘れていたようだ。ああそうだ、貴様達はそう言う種族だったな」


 俺の言葉を無視して、女はリサを睨みつける。リサの性質の悪さには俺も苦い記憶があった所為か、同病相哀れむって訳でもないが怒りよりも苦笑の方が先に出た。


「あらひどい。アタシ達は楽しく生きてるだけよ?」


「結果、周囲の者達がどれほどの被害を被ろうとも、気にせず好きなように生きているから危ういと言うのだ。

 ゴブリン、貴様も全てを失いたくないのなら、気をつける事だな」


 自失からめたエルフ女のテンションは妙に高い。まるで自棄にでもなっているかのようだ。


「ありがたく、忠告を聞いておこう。事情も知らずにさっさと縁を切れとぬかさないって事は、多少は俺とリサの状況を理解してくれてるようだしなぁ」


「“契約”だろう?そう言う事であれば、今後我等エルフから貴様達に干渉する事は無い。貴様が直接エルフと敵対するような事態にでもならなければ、刺客が差し向けられる事も無いから安心するといい」


「おいおい、随分と物分りがいいじゃねぇか。さっきまでの扱いはなんだったんだ?」


 俺の問いにエルフ女は、綺麗な顔に似合わない引きつった笑みを浮かべた。どうやら地雷をふんでしまったようだ。


「ゴブリン。貴様、そのフェアリーの名を知っているか?」


「あん?俺はリサだと聞いているが……」


「それが本当の名であれば良かったのだがな。しかし、世界樹の枝を知るフェアリーがそんな名である筈がない。

 ――――我はアンスール枝族が一葉にして番人たるフリデリーケ。フェアリーよ、名を、聞かせてもらおうか」


「…………ハァ。誘う者の一灯、サングリースよ」


 溜息を一つついたあと、リサはそう名乗った。


 誘う者に、サングリースか。もちろん、どちらも今までに聞いた事がないし前任者の記憶の中にも見つからない。多分、と言うか確実に、特別な“名”なんだろう。失敗したと言わんばかりのリサの態度をを見る限り、少なくとも今の俺に聞かせるつもりがなかった程度には。


「やはりプリモルディアか。であれば、これ以上私に語る言葉は無い」


 言い捨てるように言って、フリデリーケと名乗ったエルフ女が背中を見せる。


「ちょっと待て。ナニが、どうなっている?それに誓いとやらはしなくて良いのか!?」


「必要無い!頼むから、巻き込まないでくれ」


 俺の声を無視して、フリデリーケとその後で身を隠していたエルフ達は逃げるように去っていった。


 なんなんだ、ありゃ。

 …………いや?ああ、そうか。エルフが(・・・・)逃げ出す(・・・・)くらい(・・・)リサは(・・・)ヤバイ(・・・)って事か(・・・・)

 最初からフェアリーに対して警戒はしていたようだが、リサが“プリモルディア”とやらだと分かった途端に逃げ出したって事は、それだけあのエルフ女にとってプリモルディアと呼ばれるフェアリーは係わり合いになりたくない相手だって事だろう。


「あ~あ、行っちゃった。ねぇ、この後どうする、レドちゃん?」


 リサが挑発的に聞いてきた。


「そうだな、いくつか聞きたい事がある」


「いいよ。なんでも聞いて?」


「じゃあ、とりあえず浮遊島関連の事と、エルフと世界樹の関係だけ(・・)を、教えてくれ」


 確証の得ようがない話はあまり聞きたくないが、地雷を踏んでエルフを怒らせるのもまずいので、エルフと世界樹の関係は知っておかないとまずいだろう。


「え~?世界樹の事とか、アタシの本当の名前の意味とか知りたくないのぉ?」


「知りたいと言ったら、教えてくれるのか?」


「全部は無理だけど、教えてあげられる事なら教えてあげるよ?」


「ソレが喋れる事の全てを教えてくれるって意味なら良いんだが、オマエの事だから自分の都合の良い事だけを教えてくれるんだろ?」


「モチロン♪」


 満面の笑みを浮かべるリサに殺意が湧くが、現状でもまだれる気がしないので手は出せない。


「……なら聞いた事だけ教えてくれ。その方がまだ情報の取捨選択が楽だ」


 興味が無いとは言わないが、リサの都合の良いように脚色された情報を与えられても困る。

 しかも、普通じゃ手に入らないような情報なら確証の取りようも無いのでリサの言葉を信用するしかないのに、当のリサ本人に対する信用は皆無と来た。


「もう!ほんと、レドちゃんってイジワルなんだから!でも、いいわ。教えて・あ・げ・る……」


「ちょっとまっ」


 不機嫌そうな表情から一転させて楽しげに話そうとしだしたから慌てて止めようとしたんだが、間に合わずにリサの口から言葉は紡がれる。


「エルフは枝からこの世界にもたらされる魔力を制御する為に、世界樹に作り出されたの♪」


 やられた。これで世界樹が単なる魔力発生装置じゃあないと分かっちまった。しかも知的生命体を創造できるだけの力があるって事は、被造物以上の知性を有している可能性がある。つまり、勝手に枝を切り取って、後で話ができるとは思いませんでしたって言い訳は、もうできないって事だ。

 もちろんリサの言葉が正しければって注釈がつくんだが、だからと言って信用できないヤツの言葉だから無視をしたって言い訳はさすがに通じないだろう。

 なにしろリサの言葉を信じて世界樹の枝を手に入れたようとするのに、俺にとって都合が悪いから世界樹に知性があるって可能性は信じませんでしたってのは筋が通らねぇからなぁ。


「……つまり、世界樹には意思があるって事か?」


「それは秘密!知りたかったら自分で確かめてみてね♪」


 クソッ!


「なら、それはいい。続きを話してくれ」


「ふっふ~ん。エルフはねぇ…………」


 俺の態度に気を良くしたのか、饒舌になったリサの話を大雑把に要約すると、世界中にあるエルフの森の中心にはそれぞれに世界樹の枝があり、ソレからもたらせる魔力を制御する為にエルフは存在しているらしい。

 そして何らかの理由で魔力を制御できなくなれば、魔力は周囲の環境を侵食して魔境へと変えていくようだ。


「って事はもしかして、蒼の森なんかは元々エルフの森だったりするのか?」


「大当たり~!ついでに言うとぉ、ダークエルフは世界樹の加護を得られなくなったエルフの末裔ね~」


「なるほどなぁ、そう言う風に繋がる訳か。なら、枝を奪われた場合はどうなるんだ?浮遊島に枝が使われたって言うのなら、エルフの森から奪ったんだろ?」


 世界樹の枝を失ったからと言って、エルフの森が普通の森になるとも思えないんだが……。


「枝って言っても、この世界に伸びているのはほんの先っぽだけだからね~。伐られたって百年もすれば元に戻るよ?」


「なら、帝国に枝の奪われた森は……?」


「それがね~、帝国のコ達って面白い事を考えたんだよねぇ。エルフの森を焼き払って枝を奪ったあと、枝の生えてた場所にセーギョソーチってのを置いて、高次元から流れ込む魔力を利用してイロンナモノを造る工場を作ったの」


 穏当な手段で枝を手に入れたとは思わなかったが、エルフの森を焼き払ったって言うのが本当なら、帝国のヤツラがエルフに憎まれるのも当然だわなぁ。

 しかもその跡地に物資工場を作ったとなれば、工場が残っている限り恨みが晴れる事は無いだろう。まぁ、俺としては残っていた方が嬉しいんだがな。


「そりゃまた、徹底して利用したもんだな。しかし、帝国が滅んで何百年も経ってるんなら、制御装置ってのもまともに稼動はしてねぇんだろ?」


「どうだろ?。帝国がなくなった後にイロイロ(・・・・)あって、結局工場は完全封鎖されたからよく知らないのよね~」


 イロイロの部分も気になるが、封鎖されているだけなら、現在も稼働している可能性はあるのか。


「完全封鎖ねぇ。その工場の場所は分かるか?」


「知ってるよ。大陸中央のアチコチにあって、今は封印都市って呼ばれてるの」


 封印都市!


「ほう、ほう。なんとも、楽しそうな名前じゃあねぇか」


「たまに無謀な探索者のコ達が中に入り込んでるらしいけど、都市の中は魔力が暴走してるから蒼の森の奥地以上に危険な場所になってるかもねぇ♪」


「完全封鎖されてるんじゃねぇのか?」


「良く知らないけど、何百年も経ってるから封鎖に綻びでもできたんじゃない?」


 そう言う事もあるか。


「気が向いたら、行って見るのも悪くはなさそうだなぁ」


 ソコなら、世界樹の枝を手に入れても誰からも文句はでなさそうだしな。



 ・



「…………巻き込むなと言った筈だが、貴様等は一体何をしにきたのだ?」


 次の日にもう一度図書館に向かうと、フレデリーケが入り口の前で通せんぼをしてくれた。


「いやぁ、リサに話を聞いただけじゃあナニを仕組まれるか分かったもんじゃあないからなぁ。

 話のウラを取りに来た。ついでに調べたい事もあるんで、禁書庫の本を読んだり、エルフの古老に話を聞いたりする許可をもらえるかい?」


「好きにしろ!」


 俺の要求に対しフレデリーケは、歯軋りをしつつ渋いツラでそう言った。



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