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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第八章 逍遥
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8-2


 追い剥ぎどもの死体を片付けた後、近くの港町に向かった。

 港町の規模はかなり大きく、港には帆船も停留しているので、周辺一帯では最も栄えている町だと思われる。

 ウェルド王国は大陸中央と東方中部を分けるセレスト海に面していて、東方中部地方の内海であるスマルト海やトゥアレグ海への玄関口としての役目もあるお陰で物流の盛んな国だと旅行記には書いてあったから、この町も寄港地としてその恩恵を受けているのかもしれない。


 門番に追い剥ぎ共の首を換金してもらい、その金で通行料を払い街の中に入ると、市場には様々な食材が並んでいて、屋台では手軽の食べられる食い物が何種類も売られていた。

 果物や屋台の食い物を色々と買い込み、広場で聞き耳を立てながら味見をする。もちろんサンチラの姿なので、傍目には単に座っているようにしか見えないだろうがな。


 で、買い込んだ食い物はと言えば、『亜空間倉庫ストレージ』内に居る俺とリサの前に広げられていた。

 肉や魚介の串焼きに野菜と焼いた肉を挟んだピタパン、ハムやチーズ、玉子や野菜を巻いたクレープもあれば、果物や蜂蜜を巻いた甘いクレープもある。

 気温が高い所為か料理の味付けはスパイシーな物がほとんどで、濃厚でこってりとした味の多いジュラルデン王国の料理を食べなれた俺の舌を心地よく刺激してくれた。


 そして、お目当てのアイスクリームだが……。

 結果から言うと、屋台で買った逆三角錐のコーンの上に盛られたバニラアイスは、俺の知っているアイスクリームとほとんど変わらないシロモノだった。

 暑い国だから、冷たい菓子が考えられてもおかしくはないし、口当たりを良くする為にミルクをかき混ぜながら冷やすってのも、突飛な発想ではないと思う。

 素手で持つには向かないアイスクリームの為に、器としても機能する添え物(コーン)を考え付くのだって不思議じゃあないだろう。

 しかし、真空断熱を利用した二重構造の保存容器だの、正式名称は知らないがアイスクリームを丸くすくう器具だのを一緒に作ったとなれば、作ったヤツも俺と同じ様に異世界の前世の記憶を持っていた可能性が濃厚になる。


 ――――しかし、一つ疑問があった。

 売っている男は代々、アイスクリームの屋台で生計を立てているらしい。それも爺さんの爺さんの代からだと言うのだから、少なくとも百年以上前から今と同じ様なカタチで売られているのだろう。

 百年、いや二百年前でもアイスクリームくらいなら在ってもおかしくは無いが、魔法瓶みたいな保冷容器の方はさすがにそんな昔には存在していない筈だ。

 となると………?


「なぁ、リサ。一つ聞きたいんだが、俺以外にも“この世界以外の前世の記憶を持ったヤツ”に心当たりはあるか?」


「なぁに、レドちゃん。いまさら?」


 俺の隣で食い物に舌鼓を打っていたリサに聞いてやると、呆れた声で返事が返ってきた。

 確かに今更ではあるが、急いで聞かなきゃならないような内容でもないから、今まで聞かなかっただけだ。別に、興味が無かった訳じゃあない。


「いや、なぁ。カステラとミズアメを広めた料理人や酒の聖人の話もあったから、俺以外にもこの世界とは別の世界の前世の記憶を持もったヤツが居るとは思ってたんだがよ。

 よく考えりゃあ、俺の前世の世界とこの世界以外にも他に文明の発達した世界が存在する可能性があるし、死んでから生まれ変わる時間が一定じゃないとしたら、俺より後に死んだヤツが俺よりも前にこの世界に産まれていてもおかしくないんだよな。

 だとすると、ヘタすりゃ今この瞬間にもこの世界のどこかでSF並みに高度な科学知識を持ったヤツが前世の記憶を取り戻してる可能性がある訳だ」


 ソレのナニがマズイって言やあ、純粋な科学力で作られたロボット兵器だのSF兵器だのなら、一度作製手順を構築してしまえば大量生産が可能な上に誰でも使えるって言うのが最悪だろう。


「うん、そうだね。

 って言うか、レドちゃんの記憶にあったキカンジュウやバクダンみたいなのを作った人なら、大昔にも居たよ?」


「マジか!?」


「マジ♪千年以上前に大きな帝国を作って、大陸の半分くらいは支配してたかな?」


 帝国、ねぇ……?

 しかし、ソイツが作ったという機関銃や爆弾はどうなった?俺の調べた限りでは、黒色火薬すら存在した形跡が無かったんだが……。


「しかし、リサ。千年以上前に機関銃や爆弾を作ったって言うのなら、なんで現在には影も形も無いんだ?少なくとも、弓や小規模な攻撃魔法なんかよりは遥かに強力な攻撃方法なんだから、廃れる理由は無いだろ」


「えっと……。帝国って戦争に負けて滅んだんだけど、滅ぶまでアッチコッチに侵略してたのね?だから、すっごく嫌われてたの。

 その帝国が戦争する時に使ってたから、キカンジュウとかバクダンは忌むべき武器だってなって、今でも魔力を源としない破壊の力は、禁忌として言い伝えられているの」


 禁忌か。

 いくら禁忌と言ったって、誰でも高い攻撃力を発揮できる火薬兵器をそんなに簡単に捨てられるとは思えないのだが……。

 イヤ、魔法でも同じ事ができるんだし、為政者としてみれば、誰でも使えてしまう火薬兵器なんかは無くなってくれた方が良いのかもな。


「あ~。だとすると、俺の作った爆弾なんかも使うのはマズイのか?」


「使い方次第だと思うけど……。でも、帝国と戦ったコ達に目をつけられたくなければ、使わない方が賢明かもね」


 帝国がいつ滅んだかは知らないが、長命な種族なら千年だって生きられるこの世界では、直接(・・)|戦った《・・・》当人・・が生きている可能性もあるのか。


「まぁ、そう言う事なら使う時には気をつけるとしよう。

 それで帝国を作ったってヤツは、どんな前世を持ってたんだ?」


「アタシが契約したんじゃないから詳しくは知らないんだけど、貧民上がりの政治家で、一つの国の支配者にまで成り上がった人みたい」


 アタシが(・・・・)契約(・・)したん(・・・)じゃない(・・・・)

 そう言やあ、リサ以外のフェアリーを見てなかったからすっかり忘れていたが、フェアリーって種族自体が退屈が大嫌いで、契約する事で他人の思考や記憶を覗き見る事ができるようになると、リサが前に言っていたなぁ。


「なぁ、リサ。オマエみたいに人の社会に紛れ込んでいるフェアリーって、どれくらい居るんだ?」


 千年前の前世持ちが政治家なら、科学力より政治力で帝国を作ったと考えて良いだろう。帝国が滅んだと言うのならその支配者が生きている訳もないし、危険性は皆無に近い。

 それよりも、リサみたいな愉快犯がアチコチで工作したり暗躍しているとしたら、そっちの方が問題だ。


「ん~……、分かんない。みんな気まぐれだし、飽きたから寝るって言ったまま何百年も顔を見てないコも居るから……」


 リサの様子は、誤魔化してるようにも見えるが本当に把握していないようにも見えた。


「じゃあ、オマエ以外には居ない可能性もある訳だ?」


「ウン。“大戦”の時には百人くらい居たけど、最近は平和だから、みんな退屈して寝ちゃってるかもね」


 その言い方だと、百人くらいしか居ないようにも聞こえるな。

 一種族として全人口が百人と言うのは滅亡寸前にしか思えないが、リサの話が本当なら千年以上は寿命がありそうだし、生態系も分からないので、気にするだけ無駄だと考えておいた方が良いだろう。

 重要なのは、世界レベルでの大イベントでも百人程度しか人の社会には干渉してこなかったって事と、リサの言葉を信じるならその大半は休眠状態になっている確率が高いって事だな。


「平和だから退屈、か。物騒な話だが、否定はできねぇなぁ」


 もちろん平和なら平和で楽しみ方はイロイロとあるんだが、ソレを楽しめるか楽しめないかは人それぞれだろう。


「でしょう?だからみんなに会いたいんなら、世界を(・・・)楽しく(・・・)すれば良いと思うんだけどな~?」


 ニッコリと笑いながら、リサが言う。


 おいおい、世界大戦をもう一度起こせってか?

 そこまで規模の大きな戦争は趣味じゃない。やはり、ぶち壊すのなら自分の手でやらねぇとなぁ。


「イヤ、会いたくねぇんだよ。オマエ一人でも持て余してるって言うのに、他のフェアリーにまで周りを引っ掻き回されたら堪ったもんじゃあねぇ」


「そうなの?ザ~ンネン!ヒルデやシグちゃんを紹介したかったのにな~」


 う~ん?この様子だと、リサが他のフェアリーの動向を知らないのは本当クサイな。

 リサの言葉を鵜呑みにするのは危険だが、他のフェアリーに会いたくないって俺の要望も言えたし、この話はここまでにしておくか。


「そんな事より、大戦ってあれか?翼人帝国がどうとかって言う?」


 マルグリットの書庫にあった本に載っていた話だが、大昔に背中に翼を生やした亜人の作った帝国が大陸中に侵略の手を伸ばして、反帝国を掲げた国々の連合に滅ぼされたらしい。

 たぶん、さっき話に出てた帝国を作ったって言う前世持ちは、その初代皇帝だろう。“大戦”と言うキーワードで思い出したが、巨大な島を空に浮かべてたり魔法一発で大都市を滅ぼしたりと眉唾モノの話ばかりだったので、作り話とまでは言わないが話を盛りまくった伝説のたぐいだと思い込んでいたんだよなぁ。


「そそ。楽しかったよ~?両方の陣営に分かれてぇ、みんなで戦争して領土を取り合ったりぃ……、コロシアイさせたり!」


 無邪気な笑顔で言ってる事は恐ろしく血生臭い。

 まぁリサらしいと言やぁ、リサらしいんだけどな。


「結局帝国が負けたんだよなぁ?」


「ウン、皇帝が裏切られて死んじゃったからね。その後、帝国は分裂して、百年も経たずに無くなっちゃった」


「…………ん?だが、中央平原のヤツラが帝国の末裔だったとかって話もなかったか?」


 聞いた話じゃ大陸中央の平原にある国々は、自分の国こそがいにしえの帝国の正当な末裔だと名乗って、周囲の国への侵略の正当性を謳っていた筈だ。

 古の帝国が翼人帝国を指しているかは分からないが、たしか何百年も戦乱が続いているらしいので、あながち見当違いと言う事も無いと思う。


「あ~、そんなコ達もいたねぇ~」


 アタリか。

 千年も前に侵略戦争を仕掛けた上に負けて滅ぼされたような国の末裔を名乗って、昔は俺の先祖が支配してたんだからオマエラの住んでいる土地は俺の物だとかのたまうなんてバカバカしいと思えるが、そんな理由でもこの世界の国際社会じゃ正当性を謳えるんだから笑えてしまう。


「でも、平原のコ達は支配されてただけで、翼人族の血はほとんど入ってないよ?」


「なんだ、平原のヤツラは属国の末裔ってだけの騙りかよ」


「ん~、騙りって言うか……。あの辺りって大戦が終わった後しばらくグッチャグッチャだったから、話が伝わってく時に勘違いしたコでもいたのかもね?」


 つまり、俺の予想は見当違いだった、と。

 中央平原のヤツラは、その昔世界の半分を支配していた帝国があり自分達はその帝国の末裔だったと昔話に聞いて勘違いしていただけで、翼人帝国の事はほとんど知らないか知っていても断片的な事だけだった可能性が高いと、リサは思う訳だ。


「ああ、昔話に尾鰭がついてって事か」


「そそ、翼人のコ達ならまだあっちこっちで細々と生き残ってるけど、帝国の末裔を名乗ってるコ達は居ないねぇ~」


「そりゃ、国が滅んだからって一種族丸々絶滅まではしねぇだろ」


「そうでもないよ?翼人狩りとかもあったし」


「マジかよ」


「ウン、楽しかったよ~」


「…………ソイツは、狩る方で?それとも狩られる方で?」


「両方!翼人のコ達の地下組織と戦ったりぃ、追われてる翼人の男のコを助けてぇ翼人のコ達の英雄にしてみたり!」


「ああ、そうかい」


「でも、そうねぇ……。帝国の影響を色濃く残してるコ達って事なら、ガナーク教国のコ達が一番かしら」


 リサが何でも無い事のように、とんでもない事を言った。


「なんで、ガナーク教国がココで出てくるんだ?」


「だって、帝国の浮遊島が白の砂漠に墜ちて、その浮遊島に住んでたコ達が作ったのがガナーク教国なんだもん。

 それにガナーク教って、もとは翼人帝国の国教だったハイラント教なのよね。ハイラント教のままだと翼人帝国との関係がバレバレだから、名前を変えたみたいよ?」


 浮遊島!

 ……いやソレよりも先に、ガナーク教国の話にケリをつけよう。


「しかし、ガナーク教国のヤツラには翼はねぇよなぁ?直接見た事がある訳じゃあねぇんだけどよ」


 聞いた限りじゃガナーク教国には人間しか居ないらしいし、なによりヤツラは人間以外を排斥していた筈だ。


「ウン、無いよ。あの翼も獣人のコ達と一緒で魔法だもん。魔法を封印すれば、見えなくなるよ」


「じゃあガナーク教国のヤツラ、自分達が獣人と同列だっていうのに、人間以外を見下してやがるのか?」


 笑わせやがる。


「ん~~。他の翼人のコ達もそうなんだけど、ガナーク教国のコ達も何世代も『光翼』の魔法を封印し続けたせいか、『光翼』の魔法自体を持たずに生まれてくるようになってるのよねぇ」


 鍛えた肉体もだらしない生活を送っていれば衰えるように、魔力の器や魔法に関する能力も使わずにいれば劣化する。

 だから何代にもわたって種族魔法を使わないようにしていたら、そのまま使えないようになってしまうのも頷けない話では無い。


「って事はナニか?『光翼』とか言う魔法を使わずにいたら退化して、自分達の事を人間だと思ってるって言うのか?

 いやまぁ、獣人にしろ翼人にしろ、特殊な魔法を種族的に使えるってだけの人間なんだから、間違っちゃあいねぇんだけどよぉ」


「それどころかぁ……。ガナーク教って、神の使いとして、天使が出てくるのね?」 

 

「あ、まさか」


「そう!自分達は天使の末裔で、たまに生まれてくる翼のある子供はその証だって思ってるの!」


「…………頭の痛てぇ話だなぁ。つまりガナークのヤツラにとっちゃあ人間以外が見下す対象って訳じゃあなく、自分達以外の全ての人種が劣等種族だって訳だ?」


「そうね。だから、和解する可能性はゼロよ」


「まぁ、それならそれでいいさ。ハナッからそう言うモンだと知ってりゃあ問題ねぇ。

 ンな事より浮遊島だぁ?

 ソレって、アレか?大型飛行船とかじゃなくて、本当に島が空の上に浮かんだりするのか?」


 いくら魔法のある世界でも、島一つを空に浮かべるのはさすがに話を盛りすぎだろうと本に書いてあっても信じていなかったんだが、実物を目にしているかもしれないリサの言葉なら耳をかたむける価値はある。


「そだよ?レドちゃんが作ってる街の、百倍くらいの広さの島が空にぷかぷか浮いてたの」


 集落の百倍となると、小さな山くらいの質量はある筈だ。そんなモノを浮かすなんて、どれだけのエネルギーが必要になるんだか。


「………………その浮遊島、どうにかして、手にはいらねぇもんかな?」


「欲しいの?」


「そりゃ、欲しいさ。自由に移動できる本拠地なんて、最高じゃねぇか。

 手に負えない災害や侵略にさらされても逃げられるし、面倒な隣国からの干渉も少ないだろ。

 それに、空に浮いてりゃ景色は絶景だろうしな」


 もっとも、他の国の上を移動する時なんかは気をつけないとマズイだろう。

 他国の領域を一時的にでも侵すのは侵略するのと同じだと言われたら、反論するのも難しいしよ。


「ん~~、帝国がなくなった時に全部墜ちた筈だから、新しく作んないと無理かな?」


「そりゃなんとももったいない話だが……。そうか、作る事ができるのか」


 もちろんそれだけのモノなら莫大な資源と労力が必要だろうが、費用対効果さえ見合えば作っても損は無いだろう。


「しかし、作るったってどんな仕掛けで島一つ浮かしてたんだ?

 さすがに現在じゃあ手に入らないような特殊な鉱石とかが必要だったらお手上げだ」


「あ、それならダイジョブ。材料なら、今でも入手可能だよ」


 ほう?つまり、リサは浮遊島を作る為に必要な材料を全て把握してるって訳だ。


「なら、後は作り方だが……」


 ソレが問題だ。

 リサから与えられた前任者の記憶を総動員しても、巨大な質量を“恒常的に浮かし”かつ“自由に移動させる”方法は思い浮かばなかった。だからこそ、マルグリットの書庫で浮遊島の記述を見ても信じなかったんだしな。

 もちろん、膨大な魔力さえあれば不可能では無いだろう。しかし、それだけの魔力を維持し続ける事は通常の手段では不可能だ。たとえ人類最高クラスの術師や国宝クラスの魔法の道具を複数用意できたとしても、魔力の回復が追いつかないだろう。

 だが、千年前には実際に小島ほどもある質量が空に浮き、何千キロも移動して敵国を攻めたと言うのだから、ナニか方法はある筈だ。

 例えば伝説にしか名前の出てこないようなエンシェントドラゴンや神話に謳われる巨神タイタンなど、存在しているかも怪しいような存在の力を借りるなんて方法だって在り得なくは無い。

いや、実際ソレぐらい荒唐無稽なシロモノでもなければ、島を浮かすなんて不可能だろう。


 となると、俺一人で一から作ると言うのはさすがに無理があるなぁ。

 

「なぁリサ。浮遊島の製法についてナニか知っている事は無いか?」


作者注・ニグレドは知りませんでしたが、魔法瓶自体は1904年にドイツで商品化されていたようです。

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