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大変お待たせいたしました(土下座)
第八章全十四話の始まりです。
言葉と言うのは不思議なモノで、例えば日本でも方言を見れば分かるとおり、直接的な交流の無い地域では同じ日本語を喋っていても通じない事さえあるくらい、変化しやすかったりする。江戸時代なら、「江戸から少し離れただけでもう言葉に差異が生じ、一里も離れたら別の言葉になっていた」なんて話も残っているくらいだ。
だから俺は、最初にマルグリット達の言葉が分かった時には驚いたし、ジュラルデン王国の言葉が通じるとしても、精々が隣の国くらいのものだろうと思っていた。
しかし、だ。
ご隠居さんから借りた旅行記で、少なくとも大陸中央とその向こう側である大陸東部のある程度の地域までは言葉が通じる可能性があると分かれば、行ってみない理由は無い。
言葉さえ通じるのなら、多少のトラブルがあっても余程馬鹿な対応さえしなければ、話し合いでなんとかなるからなぁ。
まぁ、“会話が成り立たないような相手でもない限り”ではあるが。
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五日ほど時間を作って、旅行記が書かれたと言う大陸東方中部の内海沿岸に向かう。
もちろん、この事は誰にも話してはいない。俺の記憶を自由に見る事のできるリサは仕方が無いにしても、他のヤツラにまで知らせる必要はねぇからな。
朝に集落を出て、『門』で距離を短縮しながら『風使い』を使って空を飛ぶと、夕暮れの少し前には蒼の森と天蓋山脈南峰を越えた。
天蓋山脈はその名のとおり天を支えるような高峰が乱立する山脈なんだが、それでも端の方になれば標高はそれほど高くはなく、空を飛べればなんの問題も無く越える事ができる。
もっともそれは西から越えた場合の話で、東から越えようとすると倍以上高さをかせぐ必要があるので、少し梃子摺るかもしれない。南峰の頂上から山麓を見下ろす事で分かったんだが、南峰の東側は西側に比べると角度はそれほどでもないんだが格段に平地まで距離があった。たぶん、天蓋山脈南峰の西側一帯は大陸中央部よりも標高が高いのだろう。緯度が低いわりに蒼の森やジュラルデン王国の気温が低い理由は、コレだったか。
南峰の中腹から大陸中央を見てみると、中々雄大な光景を見る事ができた。
地平線の彼方まで続く平原に、街があり城があり港があり畑があった。広大な大地と言うなら蒼の森も負けてはいないが、人の営みが広がっている大地って言うのも、変化が多くて見ていて楽しい。
仮眠を取った後、夜の闇に紛れて大陸中央平原の上空を飛ぶ。
月が三つとも出ていて結構明るいが、それでも昼間に比べれば見られる確率は格段に低いだろう。
大陸東方中部まで飛ぶのに約一晩、距離を測る方法も無いので正確なところはなんとも言えないが、それでもかなりの距離を飛んだ事は間違い無い。
少し休憩してから、サンチラの姿で人里から少し離れた細い街道を荷物を担いで歩いてやると、すぐに獲物がかかる。
どこからともなく飛んで来た矢が俺の胸に刺さり、呻きながら倒れると木陰に潜んでいた男達が手馴れた様子で俺と荷物を森の奥へ運んだ。
「――――ちっ、ガラクタばかりじゃねぇか」
木々に隠れて街道からは見えない場所まで俺を運んだ男が、荷物の中身を見てぼやく。
ふむ、やはり言葉は通じるようだな。
文字と文法が同じでも発音が違ったらマズかったんだが、幸いな事に杞憂に終わったようだ。
「そりゃ、オマエラみたいなのを釣る為のエサだからな。大事なモンは入れてねぇさ」
「な?!」
胸に矢が刺さったままで起き上がって言ってやると、男達が目を向いて驚いた。
血糊もたっぷり流したし、心臓が止まっている事も確認していたので、俺が起き上がれば驚いて当然だよなぁ。
「ぷぺっ!」
近くに居た男の頭を握りつぶしながら、男達の品定めをする。
「ふむ……、オマエで良いか。なぁおい、死にたくなかったら、この辺の事を教えてくれねぇか?」
どいつもこいつも薄汚れていてほとんど見分けもつかないので適当に目に付いた男に声をかけてやると、髭面の男はぎこちない動きで左右を見回してからおずおずと口を開いた。
「お、教えたら、見逃してくれるのか?」
「別にオマエラを殺す事が目的じゃあないからな。用がなくなりゃ、消えてくれて構わねぇよ」
「そ、そうか。な、ならなんでも聞いてくれ」
「あ、その前に。
仲間でも呼ばれると面倒なんで、隠れてるヤツラも出て来い。三つ数える間に出てこないと、死ぬぞ?」
大きな声で警告してやっても動きはなかった。ハッタリだとでも思われたかな?
「――1、2、3。
そうか、出てくる気が無いんなら、そのまま死ねよ」
感知の指輪で調べた限りでは、隠れていた人数は六人。風を操り致死性の毒薬を吸わせて全員を始末する。
「おい、そこのオマエ。アッチに二人とソッチに三人、あと向こうに一人死んでるから、俺が話を聞いてる間に集めておけ」
事態についていけずに固まっていた男達の一人に命令すると、男は引きつった顔で悲鳴を飲み込み、慌てて走り出した。
「さて、んじゃ先ず、ここはウェルド王国で間違い無いか?」
「え?ああ……。そうだ」
何事もなかったかのように聞いてやると、髭面の男は目を白黒させながら頷く。しかし死体が一つ二つと運ばれてくると次第に顔色が青くなり、ガタガタと震えだした。
胸に矢を受けて死んだように見せかけるだけなら、それほど難しくはない。
人の頭を握りつぶす怪力と言うのも、魔力で身体能力が高くなってりゃ並みの人間でも可能だろう。
だが、目視できない位置にいる相手を手も触れずに殺すってのは、逃げ場の無い恐怖を感じて当然だ。
そしてそれ以上に、そんなヤツが子供でも知っているような事を知らないってのは、言葉選び一つ間違えただけで殺されかねないような不安感を、髭面の男に与えているんだと思う。
まぁこんな小汚い男共を怖がらせてもナニも面白くは無いのだが、成り行きでこうなったのだから仕方が無い。
あ、ちなみにウェルド王国ってのは旅行記に書かれていた国で、著者であるジョナサン・ランペールがアイスクリームを食べた国でもある。“セレスト海を臨む、グリーズ半島西端の国”と言う記述を当てにして上空から探したんだが、始めて来た場所だし旅行記もどれだけ当てになるか分からなかったので、髭面の男の答でやっと一安心ができた。
「じゃあ、次はこの辺りの事を教えてもらおうか。
近くにある街の名前や街の入り方、物の買い方や宿の泊まり方なんか、イロイロな」
盗賊なんてやってる連中だから大してモノを知っている訳でもなかったが、それでも旅人なら誰でも知っているような一般知識くらいは知っていたので用は足りた。
「――――最後の質問だ。オマエラの首は、どこに持っていけば金になる?」
俺の質問に、男達が固唾を飲む。
返答次第で、兵士に突き出されるかこの場で殺されるかと考えれば、当然だろう。
もっとも、どう答えたところで結果は変わらないんだがな。
「……俺らの首なんて、なぁ?」
「兵隊に渡したって、誰の首かわからねぇから、報奨金は出ないと思う……」
息をするのも忘れていた男達はしばらくの沈黙の後、半笑いでそう言った。
「じゃ、誰の首なら金になるんだ?」
「それは……」
男達の視線が、一人だけ離れて隠れていた男の死体に集まえる。
どうやら、コイツが男達の頭だったようだ。
「なるほどなぁ。分かった、もう消えて良いぞ」
この世からな。
風を操り、隠れていた男達と同様に、毒薬で全員を殺す。
苦痛と恐怖に染まった髭面の男が「話したのに、なんでぇ……」と言わんばかりの目を俺に向けてきたから、聞こえてるかどうかは分からなかったが説明をしてやる。
「殺さない、とは言わなかっただろう?
コレを機に、オマエラが心を入れ替えて真っ当な生き方をしてくれるんなら見逃してやっても良かったんだが、口でどうこう言ったところでそんな約束が守られる保障はねぇし、オマエラが更生するのを監視するのもめんどくせぇから、手っ取り早くこの世から消えてもらったんだよ」
次話以降今章最終話まで、毎日17時に投稿となります。




