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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第七章 放埓
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7-18


 シオンの結婚式から数日が過ぎた。

 式の翌日に新郎が血相を変えて飛び出し、その晩に新婦の他にもう一人女を連れてを戻ってきた事件はしばらく噂になっていたが、それでもその後のクロードとシオンの仲睦まじい様子のお陰で醜聞にはならず、民衆からは人も羨む新婚夫婦として温かく見守られているようだ。

 余計な事をした俺が言うのもなんだが、今ではこれで良かったんだと思う。

 サンチラに隠れてやれば、後で厄介な事になっても逃げられると思ってシオンにちょっかいをかけたが、深く考えずに面倒事に首を突っ込んだら見事にグダグダになってくれた。

 予想は全て外れ、良かれと思った事は空回りし、衝動のままにシオンに手を出したり、意地になってシオンを堕とそうとしてみたりと、自分の浅はかさを思い知らされるような記憶しかない。

 このザマでは、仮にシオンが俺についてきてくれたとしても、そのうち愛想をつかされていた事だろう。

 まぁ、サンチラを全面改装したし、俺も態々名のる気も無いので、シオンとはこれっきり二度と会う事も無い。今回の事を反省して、今後は軽々しく面倒事に首を突っ込むのは慎むとしよう。



 ・



「よう、ご隠居さん。借りていた旅行記、返しに来たぜ。

 あと、コイツはお土産だ。旅行記に書かれてた“アイスクリーム”ってヤツを再現してみた」


 以前に借りた本を返すついでにたまにはご隠居さんに挨拶をしようと、ご隠居さんのスケジュールに合わせて屋敷の方に顔を出した。


「ほう、それは楽しみだ。

 その旅行記はね。南のガナーク教国が今のようになる前に、遥か東方、蒼の森もその先にある天蓋山脈南峰をも越えた、大陸中原のさらに東に在ると言う国から来たと言う商人から手に入れた物なんだ。

 彼の話は中々面白く、奇想天外な冒険譚にはわくわくとさせて貰ったんだが、信憑性となると少し怪しくてね。その旅行記に書かれている内容も大半は眉唾物だと思っていたんだよ」


 ふむ?『風使い(コントロールウインド)』と義歯に仕込んだ『瞬間加速アクセレーション』を使って超高高度からこの大陸の形だけは確認した事があるんだが、蒼の森だけでも数千キロはあるのに、中原のそのまた向こうの国となるとその倍以上は離れている事になる。

 そして、その間には蒼の森や北にある天蓋山脈から南に伸びて大陸中央と西方を分けている天蓋山脈南峰があり、中原とご隠居さんが呼んでいた大陸中央はジュラルデン王国と同じような規模の国がごろごろと在るらしい。

 なのに、旅行記に(・・・・)書かれていた(・・・・・・)文字は(・・・)ジュラルデン(・・・・・・)王国の(・・・)モノと(・・・)一緒だった(・・・・・)|。

 それだけの距離と障害物に阻まれた国同士の文字と文法が、全く同じだなんて事がありえるのだろうか?

 たとえ同じ文明から分かれたとしても、ほとんど交流の無い国同士の言葉は時間が経つにつれて差異が出てくる筈だ。前世の話だが、大陸の奥地じゃ一つ山を隔てれば隣村ですら会話が困難になるくらい、言葉に違いがあったなんて話もあるくらいだしな。


 …………いや、この世界には人より長寿な種族も居るし、ソイツラが言葉を広めて定期的に修正しているとすれば、ありえない話じゃないのか?


「どうか、したのかな?」


「ああいや、どうりで見た事も聞いた事も無いような生き物や食い物が載ってる訳だ。俺も読ませて貰いながら不思議に思ってたんで、疑問が解消して納得してたところだよ」


 これも、嘘じゃあない。

 ジュラルデン王国は山に囲まれていて、海まではかなりの距離がある。だがあの旅行記には海の生き物や海産物の料理も載っていたから、海に接している西の方の国で書かれた旅行記なのだろう、と勝手に察しをつけていた。

 しかし実際は遥か遠くの国の旅行記だったので、驚いたのもまた事実ではある。


「それよりも、アイスクリームを食べてみてくれ。溶けちまうと台無しになっちまうんでな」


「溶ける?なるほど、それならすぐに食べるとしよう」


 氷を入れた二重容器の中からカップに入ったアイスクリームを取り出して、テーブルの上に置く。

 と、どこからともなく現れた執事がカップを恭しく受け取り、これまたいつの間にやら東屋の外に用意されていたワゴンの上で、素早く皿に盛ってスプーンを添える。そしてカップに残ったアイスクリームを一口食べて、俺の知る限りどんな時も絶やす事のなかった微笑を驚きに変えた。


「マルグリット達にも好評だったんで不味くはないと思うが、執事の爺さんの口にも合ったようだな」


「ブライアン。珍しいな、お前がそんなふうになるなんて」


 ご隠居さんがニヤリと笑いながら執事の爺さんを揶揄する。調子に乗ったご隠居さんが執事の爺さんにやり込められるのを何度か見た事があるので、もしかしたらその仕返しなんだろうか?


「……失礼しました、旦那様。ニグレド様、大変結構な御味でした」


 咳払い一つして主に謝り、その後俺に向かって深々と頭を下げて、執事の爺さんはアイスクリームをご隠居さんの元に運ぶ。


「これは、中々美味だね。なにより口の中で溶けていく食感が素晴らしい……」


「再現には苦労したんだぜ?旅行記には熱帯夜の涼風にも勝る氷精の恵みだの、磨き上げたアイボリーの如き光沢だの、人生最高の喜びを思わせる甘さだの、薄絹のような舌触りだの、食べた感想ばかりで具体的な製作手順は一切書かれて無いし、材料も砂糖とミルクとしか書いてなかったから、上手く空気を含ませながら凍らせられるようになるまで何度失敗した事か」


 俺も、実物を知ってなければ作れなかっただろうなぁ。

 と言っても、旅行記に載っているアイスクリームが、俺の知っているアイスクリームと同じモノかどうかは分からない。なにしろこの世界のアイスクリームを、俺はまだ見た事が無いんだからよ。

 もしかしたらこの世界のヤツが似たような菓子を思いついて、“アイスクリーム”って名前をつけた可能性だってあるしなぁ。


「はっはっは、そうだろうとも。

 私もその旅行記を手に入れた当初は、書かれていた料理や道具を再現できないかと躍起になってね。結局再現できない物が多かったかったから、内容にいかがわしさを感じてしまっていたんだよ。

 しかし、このアイスクリームが再現できた以上は他の物も真実である可能性は在る。一度、研究所の皆に相談しなくてはならないな……」


 あ~あ、ご隠居さんが張り切ってら。

 余計な事しちまったかな?まぁ暇を持て余すよりかは良いか。



 

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