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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第七章 放埓
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7-13


 明けて次の日、昼前になってようやくマルグリット達とイルメラが起きてきた。


「遅かったじゃねぇか、ナニをやってたんだ?」


「えぇ~と……。内緒です」


 どことなく疲れの見えるフェリシア達とは違い、ただ一人つやつやと肌を輝かせているマルグリットに聞いてやると、マルグリットは視線をあさっての方向に向けて言いよどんだ。

 おおよそ想像はつくが、嫌な想像しか思いつかないので追及するのは止めておこう。

 少なくとも、危惧していた最悪の(・・・)事態にはならなかったみたいだしな。


「ふむ?

 まぁそれは良いとして、今日はどうする?」

 

「そうですね……、集落の中を見てみたいです。

 あ、でもその前に、少しお腹がすいたので…………」


「ああ、なら少し早いが昼食にするか?」


「はい!じゃ、準備をしてきますね!」


「台所の使い方は分かるのか?」


「昨日、食事の片付けを手伝っている時にアシュリーさんに教えてもらったので大丈夫です!」


 厨房に向かうマルグリットを、フェリシアが「あたしも手伝うよ」と言って追いかけ、バサラもそれに続く。

 そして、広間には俺とイルメラだけが残った。


「で、大丈夫なのか?」


 バサラの背中が扉の奥に消えたのを見計らって、イルメラに声をかける。


「…………あまり、大丈夫とは、言えませんわね」


 イルメラはそう言って、椅子に座り崩れ落ちるかのようにテーブルに突っ伏した。


「なんなんですか、あの娘達。途中までは和気藹々と話していただけなのに、いつの間にかあんな(・・・)事になるなんて!

 しかも、あの道具(・・)も!あんな、あんな、あんな…………。あぁ、もう!そりゃわたくしだって体を使って男を篭絡するような女ですもの、いまさら女同士でどうこうとは言いませんけれど、あんな道具を使って辱められるのなんて思ってもみませんでしたわ………………!」


 耳まで真っ赤にしながら、イルメラはブツブツと呟く。

 イルメラとの話し合いに失敗して暴走される可能性も考えたが、とりあえずマルグリットは上手くやったようだな。

 

「まぁナニがあったかまでは聞かねぇが、仲良くヤれたようでなによりだ」


「本当に、そう思ってらっしゃいますの?」


「ああ。マリーが暴走して、オマエと殺し合いにでもなってたら、目も当てられなかったからなぁ」 


「わたくしは、そこまで愚かではありませんわ」


「だが、俺と人間を引き離すには悪くない手だろう?」


「その変わり、ニグレド様にわたくしどもダークエルフが憎まれては元も子もありませんもの」


 屈辱の報復よりも仕事が優先か、勤勉な事だねぇ。

 しかしイルメラがそう言う判断を下すって事は、俺にとっても少しは安心できる材料だな。


「――ところでニグレド様。彼女達が昨晩使っていた道具(・・)は、ニグレド様がお作りになられたのですか?」


「ん?ああ、アレか。バサラの義肢に使った技術を応用して作ったんだが、中々面白い仕掛けだろう?

 着脱自由な上に着用者に感覚を伝え、さらに回転振動変形自動抽送まで行う優れもんだ。人間共の貴族が使うオモチャにだって負けてないと思うぜ」


「ええ、そうですわね!あんな物(・・・・)にそんな多機能を盛り込むような馬鹿な真似をする職人が、他に居る筈がありませんわ!!!」


 ちょっとした冗談のつもりで自慢してやったら、イルメラは目を三角にして部屋を出て行ってしまった。

 報復を諦めてくれたようなんで、これくらいなら軽く受け流すか冗談に乗ってくれるかとも思ったんだが……。

 いや、タイミングが悪かったか。昨日散々弄ばれたばかりでは、さすがに感情的になっても当然だよなぁ。



 ・



 マルグリット達が集落に居たのは三日間だけだったが、広さこそ広大でも大半が畑で人口百人にも満たない集落では見るモノも大してある訳でもなく、帰り支度をするマルグリット達に物足りないような様子は無かった。

 で、滞在中にマルグリット達がナニをやっていたかというと、奴隷達やゴブリン達に集落の事を聞いて回って、自分達にナニが出来るかと言う事を話し合っていたようだ。

 専門外のマルグリット達にできる事は少ないと思うのだが、話し合いには奴隷達やイルメラも参加していたので最悪でもそれほど酷い事態にはならないと思う。

 まぁ最終的には俺もこの集落とは距離を置く予定なので、壊滅するような事態にならなければ多少の事は問題無いだろう。


 帰り道、空を飛んで向かったのはトーラスの街ではなく、始めてトーラスに向かった時に寄った狩人村だった。

 随分とご無沙汰だったので忘れられているかとも思ったんだが、離れた場所で降りてから歩いて近づいていくと門番には驚かれながらも槍を向けられる事はなく、マルグリットが居たのでオーガであるバサラも村の中に入る事ができた。


「――――よくもまぁ、のうのうとわしの前に顔を出せたもんじゃのう」


「そう言うなよローウェル村長。今日はきちんと土産も持ってきたんだしよ」


 まずは挨拶を、と思って村長の家に向かい、ローウェル村長と会う事はできたんだが、会った早々村長の口から出たのは苦々しさに満ちた言葉だった。

 まぁ中層の魔獣を捕獲してくると言っておいて、半年以上も放置しておいたんだから仕方がない事だろう。

 いやそれとも前回訪れた時に、鞄の中に暴狼レイジウルフを捕獲しておきながらソレを隠して交渉した所為だろうか?

 どちらにしても、ローウェル村長にしてみれば騙されたようなものなので、腹を立てるのも当然だろう。


「土産、じゃと?」


 すぐさま部屋を出て二度と顔を出すなと言わんばかりだった村長の顔に、少しだけ興味の色が浮いた。


「ご待望の、アレさ」


「もしや、中層の魔獣か!?」


「ご名答」


「ふ、ふん。それにしても随分と待たせたもんじゃな」


 机から乗り出さんばかりだったのに、すぐに冷静を取り戻したか。さすがにあっさりと誘いに乗ってはくれないようだ。

 だったら、少し揺さぶらせておらおうか。


「俺の方も色々と忙しかったんでな。それに、一度に何匹も流通させたら価値が下がるだろ?」


「余計なお世話じゃ!」


「って事で、暴狼レイジウルフを入れておける檻を三つ(・・)用意してくれねぇか?」


 激高しかけていた村長の顔が、緊張に染まる。


 暴狼レイジウルフが一匹だけでも十分詫びとして成立するのに、俺が三つ檻を用意しろと言ってきた。なら余分な暴狼レイジウルフ二匹がナニを意味するのか、俺と以前取引をした事のある村長だから、容易に察する事ができたのだろう。


「……何が望みじゃ?」


「察しがいいねぇ。今度ウチの集落のゴブリンがこの村に取引に来るんで、ソイツの為に通行手形を発行してやってくれ」


「つまり、今後はそのゴブリンと取引をしろと言う事かの?」


「ああ、そう言う事だ」


「お前さんの事もあるからゴブリン如きとはいまさら言わんが、物の道理くらいはわきまえておるんじゃろうな?」


 村長の心配はもっともだが、さすがにその保障はしかねるな。

 モノの道理とは言うものの、ソレは人間から見た道理でしかない。

 だから、妖魔の分際でとか蔑まれたりしたら、集落のヤツラが暴走しない保障なんて俺にできる訳がないだろう。


「さぁて、教育はしてやったが何事も完璧って事はありえねぇ。ナニカの拍子に暴れださないとは言えねぇなぁ」


「それでは困る」


 そして、村長がそう言うのも当然の事だろう。

 村の責任者として、いつ暴れだすかも予想できないような危険物を村に入れるなんて選択はできる筈もない。


「じゃあ、暴狼レイジウルフは一匹で良いのかい?」


「…………お前さんが監督するなら、他のゴブリンが村に入る事を認めよう」


「他のゴブリン達だけで村に入るのは、無理か?」


「有名無実化しとるとは言え、本来ならゴブリンを見つけたら討伐する命令がでとるんじゃ。あまり無理を言うでない」


 そんな命令が出てたのか。マルグリットを助けたとは言え、よくもまぁ俺を村の中に入れたもんだ。


「ほう?その割には俺が街の中に入れたり、他のゴブリン達にしたって人間に狩られたりって話は聞いた事がねぇけどなぁ?」


「お前さんの場合は人間を助けた実績があったでな。それに他のゴブリンにしても、あまり刺激をして狩人が森に入れなくなるような事態になっては困るしの。

 まあ、しばらく何事もなければお前さんの申し出を考えんでもないわい」


 それくらいが落としどころとしては妥当なところだろう。

 俺としても、ほぼ予想通りに話が纏まったので満足できる結果だしな。


「なるほどねぇ。

 んじゃ、とりあえずはしばらくの間、俺が引率する事で手を打つとするか」



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