7-10
さて、シオンがまた女になっちまった訳だが……。どうしたモノかねぇ。
今回は納得して自分から薬を飲んだんだし、嫁ぎ先まで決まっている。これ以上ちょっかいをかけるのは、野暮ってモンだよなぁ。
あ~、コレが俺の予想したとおりの単純な権力争いだったら簡単だったんだがなぁ。
麗しき王子サマに毒を盛るってのは、下衆な貴族か悪徳大臣の役目だろうによぉ。親が将来の禍根を断つ為に、劣勢な方の息子を性転換するなんて反則だろう?お陰でシオンがピンチになったら、また助けて遊ばせてもらおうと思っていたのに台無しだ。
まぁ仕方がねぇか、世の中なんでも予想通りにはいかねぇって事だな。とりあえずは様子を見て、シオンが婚姻を嫌がる素振りでも見せたらソコに付け込ませて貰おう。
って事でイベントは不発に終わった事だし、日常に戻ろうか。
――――などと思っていたんだがその夜、予想外の事態が起きた。
ベットでマルグリットと一戦終えた後に、「あの、レドにお願いがあるんだけど……」と言われた時から嫌な予感はしていたんだが、話の続きを促すとと案の定「準備ができたから、レドの集落に連れて行ってください」と頼まれた。
まだ諦めてなかったのかと内心頭を抱えながら何の準備だ。と聞くと、「もちろん、レドのお手伝いをする準備ですよ?」と何を当たり前の事をと言わんばかりの声で返ってくる。
どうしたものかと考えながら準備の内容を聞いてみれば、どうやらマルグリットは、以前からバサラに頼んで蒼の森について色々と教えてもらっていたらしい。
森で生活する上での注意点やゴブリンやオーガ達の仕来たりを、ヘタをすると俺以上に詳しく、バサラとリサから伝授されたようだ。
……リサのヤロウは、マルグリットがバサラに教えてもらっている時にどこからともなく現れて、聞いてもいないのに詳しく教えてくれたんだそうだ。
絶対に、面白がって教えたんだろうなぁ。
後は魔法使い協会で戦闘訓練を受けたり、暇を見つけてはトレーニングして体力をつけたりと努力をしながら、数日前にバサラとリサからもう教える事は無いと言われた事で、準備ができたと判断したようだ。
努力をすれば願いが叶うなんて言うのは妄想だが、努力しても結果が得られなければ人ってのは簡単にやる気を失う。スポーツなんかを好きでやってるんじゃなく、勝つ為にやってるヤツが負け続けたり大きな大会なんかで大負けしたりするとあっさりとやめてしまうのはそう言う心理が働く為らしい。
そしてマルグリットの場合は俺に認めて貰う為に努力したのだから、ソレが認めて貰えなければ俺に失望するだろう。
すでに集落に行きたいと言う頼みを一度断っているし、今回も断ってしまうとマルグリットの俺への期待は、不満を通り越して落胆にまで落ち込みかねない。
それに集落の方も大分安定してきたのでまぁ良いだろうと考えて、次に集落に戻る時には連れて行くと約束をした。
ただ約束をした後にもう一つお願いがあると言い、その願いの内容がバサラも夜のお相手の一人にしてあげて欲しいと言うような事だったのには、さすがに面食らったがな。
以前からマルグリットとバサラの仲が妙に良いと思っていたが、裏でバサラがマルグリットに森での生き方を教える代わりに、バサラが俺に抱かれる許可を与える事になっていたようだ。
オマエはそれで良いのかとマルグリットに訊いてみれば、返ってきたのは「あんまり良くはないけど、サラを一人だけ除け者にするのも可哀相じゃないですか」との言葉だった。
イルメラに対して嫉妬していた姿はナンだったんだと言いたくなるような返事だが、裏表なく俺への好意を示し、俺の指示に従って献身的に働くバサラの姿を身近に見ていれば、邪険に扱う事も難しいだろう。
それに抱かれると言ってもバサラの目的は俺の子供を産む事で、俺の愛情を得る事では無いってところも重要な筈だ。
オーガの女にとって強い男の子供を産むのは相手の種族を問わずに名誉な事らしいので、俺に対して愛情を向けるマルグリットとは欲するモノが競合しない。
そして数少ない俺へと好意を向ける同志と言う事もあるし、なにより分け与える者としての優越感は、意識してなくてもマルグリットに快感を与えていると思う。
まぁ全て俺の勝手な推測だが、あながち間違ってもいないだろう。
とりあえず、その後は三人で楽しんだ。
マルグリットの許可さえあれば、バサラに楽しませてもらってもナンの問題も無いんだからなぁ。
・
それから数日経って、集落に戻る日になった。
今回集落に着いて来るのはマルグリットとバサラ、それにフェリシアの三人だ。
来たいと言っていたマルグリットは当然だが、他の二人を誘ったのは俺だ。バサラはマルグリットの護衛として、フェリシアはせっかくだからオマエもどうだって具合にな。
もちろん、狙いは別にある。
人間ってのは、人数が多くなれば多くなるほど行動が制限されるからだ。
マルグリットを一人で行動させるより、バサラとフェリシアを一緒に行動させた方が面倒な事にはなり難いだろう。
それに、ダークエルフの工作員であるイルメラ相手に、まだ二十にも手の届いていないマルグリット一人では、良い様に言いくるめられる可能性が高いからな。
「――――ここら辺でいいか」
「えっと、レド。どうかしたの?」
街道から外れて、街から目視できないくらいまで歩いた所で足を止めると、マルグリットが不思議そうな顔で聞いて来た。
「いや、歩いていくのも時間がかかるから、コイツを使おうと思ってな」
そう言って魔法の鞄から取り出したのは、革張りの巨大な三角形の凧。いわゆるハンググライダー、のようなモノだ。
「これは……?」
「空を飛ぶ為の道具だ。
まぁ細かく説明するより、実際に使ってみた方が早いだろ」
これで一体どうやって空を飛ぶのだろう?と、言葉には出さないものの不思議そうな顔でグライダー眺める三人に指示して体を固定させた。
真ん中にバサラ、その左右にマルグリットとフェリシアを並べて体を固定させ、両手でハンドルをしっかりと握ったのを確認してから、『風使い』で風を操りグライダーを飛ばす。
「さぁ、空の旅と洒落込もうか」
風が巻き起こり、上昇する突風となって、何も着けていない俺と三人の乗るハンググライダーは、風に運ばれる木の葉のように空に舞った。
「きゃ!」「わ、わわわ!」「うお!」
飛び立つ瞬間こそ三人とも声を上げたものの、安定飛行に入るとバサラはすぐに平静を取り戻し、マルグリットは恐怖など微塵も感じていないかのように楽しげに地上を見下ろしていた。
もっとも、フェリシアだけは真っ青な顔で固まっていたのだが。
「あ~……、フェリシア。
もしかして、高い所は苦手だったか?」
「そ、そう言う訳じゃないけど……。
ねぇ、ニグレド。これって、落ちたりしないわよね?」
「絶対に落ちないとは言わねぇが、俺がコントロールしてるから滅多な事では落ちねぇよ。
それに落ちたとしても、安全装置があるから地面に激突する事はねぇ」
……筈だ。最悪でも、『亜空間倉庫』で回収するから安全には問題は無い。
「なら、いいのよ。
そうよね、マリーも居るんだし、ニグレドがそんな危ない物にあたし達を乗せるはずないよね……」
「安心してよ、シア。もし落ちたとしても、私が魔法で何とかするから!」
「ん?魔法でって。マリー、オマエ魔法で空を飛ぶ事もできるのか?」
固有魔法でも呪文魔法でも空を飛ぶ魔法は存在するが、呪文魔法で空を飛ぶ場合はかなり難易度が高い筈だ。
「ええ!『飛行』の魔法は、扱えるようになれれば食うには困らなくなるからと、お師匠様に練習させられたんです!
制御が難しくて結局自由に飛ぶ事はできなかったんですけど、短い距離を一直線に飛んだり、ゆっくり落ちたりするくらいなら大丈夫です!」
興奮気味に言い切られたんだが、それって自分一人の時の事だよなぁ?今は他に二人も居るのに上手く飛べるんだろうか……?
まぁ無駄に不安がらせても良い事は無いので、黙っておこう。
なんだかんだ言いつつも空の旅は順調で、半日ほどで集落に到着する。
道中はトラブルもなく、最初こそ不安げだったフェリシアですら途中からは楽しんでいた。
しかし、ソレも集落を見るまでだった。
「え……。何、あれ?」




