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恒例の挨拶回りや商会と食堂組合のヤツラとの会合なんかも一通り終わり、纏まった時間ができたので、戦利品の鑑定でもしようかと思う。
街に帰ってからアレコレとしていて後回しになっていたが、腐るモノでもないので問題は無いだろう。
まぁ、相変わらずご隠居さんとは会えないものの使用人のヤツラとは茶を飲みながら世間話したり、酒場で兵士と酒を飲みながら騒いだり、商会のヤツラを交えて食堂組合の連中と新作料理の発表会という名目の食事会で飲み食いしたりと楽しんだりもしたので、早くやろうって気にならなかったってのもあるんだがな。
……どうも、この街の連中は毒気が薄くて調子が狂うんだよなぁ。
いや、もちろん油断すれば足元を掬われかねないような緊張感はあるんだ。決して度が過ぎて人が良かったり、悪意が無かったりって訳じゃあない。
しかし実力主義と言うか実利主義と言うか、負けた事を恨みに思って仕返しをしようとか俺の成功を妬んで邪魔をしようとかってバカな考えを起こすヤツがまったく居なかったのには驚いた。
最初にアレコレと予防線を張っておいたのが功を奏したのもあるんだろうが、それでも欲の皮を突っ張らせたバカの一人や二人くらいは居てもおかしくないと覚悟はしていたし、ソレ用の対策も考えていた。
なのに蓋を開けてみれば今日まで何の障害もなく、順風満帆とは言えないまでも大過無く過ごす事ができた。
これじゃあ前世では人間嫌いだった俺も、街のヤツラと仲良くなってもおかしくねぇよなぁ?
…………いやまぁなんだ、話しを戻そう。
戦利品ってのは、言うまでも無いかもしれないがシオンを襲っていた盗賊団から奪ってきたお宝の事だ。
ヤツラは三十人にも満たない盗賊団だったて言うのに、立ち回りが良かったのか結構な量のお宝を貯め込んでいた。
なにしろそれなりの量の金貨と銀貨にドワーフ製の武具、その上少ないながらも魔法の道具に魔法の武具まであった。
たぶん、北の山脈に在ると言うドワーフの街から商品を仕入れた商人でも襲って手に入れたんだろうが、それにしても量が多い。消えても誰も騒がないような、後ろ暗い連中をメインに襲っていたのかねぇ?
まぁ過去の被害者の事なんか気にしても意味は無いか。サンチラを使って動いたお陰で、アノ一件は俺とはナンのかかわりも無いって事になってるしな。
それに被害者救済の名目で金貨銀貨の大半は置いてきたので、ナニか問題があっても盗賊団がアジトにしていた村の連中がなんとかするだろう。
その金で売られたヤツラを買い戻すもよし、捕まっていたヤツラに金を渡して開放するもよし、全て無かった事にして金を懐に入れてもナニも問題は無い。
ちなみに捕まえた盗賊共だが、監禁用の『亜空間倉庫』内で今も人体実験の被検体をしてもらっている。
軽いのだと意識を失わせた状態で栄養点滴を使用して何日生きていられるかとか、副作用の少ない薬品の人体における反応の確認など、重いのだと中毒性の高い薬物や危険な魔法の実験体など最終的に死ぬか廃人になるような実験だな。
――――さて、戦利品の鑑定に移るか。
ドワーフ製の武器は剣と槍、防具は盾と部分鎧でどれも薄っすらと魔力を纏っていて普通の鍛冶屋の作品ではないと分かる。もっとも魔法の道具や武具ほどの濃度でもないので、何らかの特殊な効果が発生している訳ではなさそうだ。
精々が気持ち切れ味が良かったり強度が高かったりする程度だろう。いや、それでも武具自体の質は良いんで、総合的な性能はヘタな魔法の武具よりも高いのかもしれないんだがな。
魔法の道具は五つ、魔法の武具は七つあったんだが、どれも大した魔力は感じられなかった。
例えば獣避けの鈴は人の耳には聞こえない周波数で獣の嫌がる音を出すだけの道具だし、魔法の火口箱は言ってみりゃ火力の強いライターみたいな物でしかなかない。
魔力自体も魔法のコンパスと同程度で、たぶん買おうと思えば一般市民でも買えなくはない値段だろう。
魔法の武具にしても元がドワーフ製らしく高品質だが、魔力自体は魔法の道具と同レベルで以前手に入れた魔法の小剣や長剣に比べれば一段落ちる。
と言った感じで大して面白いモノも無さそうに思えたんだが、一本の古びた槍の穂先が俺の目を引いた。
一見すると他の魔法の武具と同程度の魔力しか無いのに、妙に目の離せない違和感があった。
これは、アレだ。
もしかすると前にイルメラが言っていた、北の山脈でたまに見つかる場違いなまでの強力なドヴェルグ製の武器ってヤツじゃあないのか?
材質は見た事も無い金属で、金属構造も緻密で複雑に絡み合った美しいフラクタル構造をしていた。こんなモノは、普通の鍛冶の技術では作り出せないだろう。
しかし、ソレにしては魔力が少ないが……。穂先しか無い事だし、破損して魔力の大半は失われてしまったと考えれば在り得なくは無いか。
その証拠に『万能ツール』で魔力を供給してやると、僅かな抵抗もなく底無しに魔力を吸収するくせに、何の効果も現れない。この感触なら魔法の鞄ほどじゃないにしても、その八割程度の魔力は秘めていたんじゃないかと思う。
効果が現れないのは槍の魔力が完全に破壊され、魔法式どころか槍に込められた魔力自体もほとんどが失われた結果なんだろう。でなければ、強度や貫通力が高まる気配くらいはある筈だ。
つまりこの穂先は、槍の形をしていながらその実、巨大で空っぽの魔力の器でしかない訳だ。
…………ふむ、もしかして、コイツなら。
そう思って、『亜空間倉庫』から、蒼箆鹿の角を取り出す。
蒼の森に住むモノ達の頂点して幻獣たる蒼箆鹿。倒したのは分身だがその角は今も青白く輝きながら俺の魔力を寄せ付けず、『自在工房』で加工しようにもまったく歯が立たない。
しかし、この槍の穂先を触媒にすれば加工する事が可能だと何と無く分かった。
槍の穂先を角に向けて、魔力を集中する。
まるで手に馴染む使い慣れた道具の様な感覚を、槍の穂先に感じた。
いや、槍の穂先は俺に語りかけるかのように、導くかのように、魔力を受け入れて変換し蒼箆鹿の角を侵食していく。
後に残ったは薄っすらと青白く輝く槍の穂先だけ。蒼箆鹿の角はすべて魔力に変換されて槍の穂先に吸収されたようだ。
――本当かどうかは知らないが、遺伝子にも記憶は刻まれているという話がある。もしかしたらこの槍は、俺の先祖の誰かが作ったのかもしれないな。
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槍の穂先はそのままでは使いづらいので、蒼箆鹿を倒す時に魔力を無理やり注ぎ込んで発火能力を限界以上に発揮させて黒焦げのねじくれた鉄の塊となってしまった火炎十字槍を合成して、新たな槍として新生させた。
形状は二メートル弱の金属製の柄に鋭く長い穂先と、穂先の根元から前方に伸びる二本の鉤状の刃の、十文字槍と言うより密教法具である三鈷杵を無理やり槍にしたような感じになってしまった。
すべては作りながら雷といえばインドラ、インドラといえばヴァジュラだよなぁと連想した俺が悪いのだが、俺としては気に入っているので問題は無い。
ただ特徴的過ぎるので使いどころを間違えると後で困る事になりかねないので、注意は必要だがな。
で、命名『雷槍ヴァジュラ』の試し切りをする為に、夜中に街を抜け出して人里は慣れた山の中にまで飛んできたのだが………………。
ここら辺なら人目に触れる事はねぇよな?
試し切りと言っても魔力の方だから、たぶん派手な事になりそうだからなぁ。
槍の切れ味でさえ、切先の上に止まったトンボが切れるどころか、逆さにして石畳に落としたらそのままどこまでも吸い込まれるように刺さっていったから慌てて引き抜いたってレベルだしよ。
とりあえず、『風の結界』を最大限にまで広げて周囲に人の気配がない事を確認してから、ヴァジュラの魔力を開放して横薙ぎに振ってみた。
…………うわぁ。
魔力を開放した事で放電を纏ったヴァジュラは、振るわれる勢いで津波のような雷撃を周囲に散らして辺りを焼け野原に変えた。
う~む、軽く振っただけでコレかぁ。
――――それから思いつく限りの方法で試してみたが、『万能ツール』の魔力供給ありで最大の一撃を放ったら、深さ数十メートルのクレーターができた事だけを記しておく。




