7-5
「……ん。……此処は?」
「よう。目が覚めたかい?」
「僕は、一体……。
…………………………………………。
…………………………。
………………。
……うぅ」
昨日までの事を思い出したのか、シオンが頭を抱えて顔を伏せる。
「大丈夫か?」
「……貴様がそれを言うんですか?」
心配して声をかけてやったと言うのに、シオンは恨めしげな表情で質問を返した。
たっぷりと楽しませてもらったのでシオンがそう言うのももっともだが、慣れてきたらシオンもノってきてとても乱れてくれたので、俺だけを責めるのは筋違いだと思う。
「まぁ落ち着けよ。
それより、自分の体を良く見てみたらどうだ?」
「あ……。
ああ、戻ってる」
喜びを噛み締めてでもいるかのように、震えながら自分の体を抱きしめるシオン。その体には昨日まで存在していた豊満の胸やくびれた腰は無くなり、代わりにしなやかな筋肉に包まれた男の体に変化していた。非常にもったいなかったが、約束だから仕方が無いだろう。
ただ、元から華奢な美形だったみたいで、このまま女装させても少々ゴツイ美少女で通りそうではあったがな。
「約束どおり、男の体には戻してやったぜ?」
「……礼は、言いませんよ」
せっかく戻してやったと言うのに、シオンの返事は拗ねたように素っ気無い。
なんとも甲斐のない反応だが、しかしイオンの尻尾は機嫌良さそうに激しく動いているし、口元はニヤケそうになるのを必死に我慢しているようでもあり、とても微笑ましい。
――――ああ、もっと弄りたくなっちまうなぁ。
「なんだ、“ありがとう”の一言も無しか」
「あんな事をしておいて、言葉の一つでも貰えると思う方がどうかしてると思いますけどね!」
「おいおい。約束どおり、アンタが降参するまでは手を出さなかっただろう?」
「よくも抜け抜けと。
耐え切ったと言った後に、あんな事をしておいて……」
「ああ、アレか。
アレは、俺が様子を見に行くまで、狂わず耐え切ったってだけの話だ。ゲームが終わるまで耐え切ったって話じゃあないんだよなぁ」
悪戯っぽく笑って言ってやると、シオンは顔を引きつらせた。
「でしたら、もしあのまま僕が拒否し続けていれば……?」
「俺は手を出さなかったよ」
もっとも、亜空間の中では外の時間なんか分かりようが無いので、俺の気が済むまでシオンで遊ばせてもらうつもりだったがな。
「そんなぁ……」
力の抜けた顔で、シオンが呆然と呟く。
男の顔でも中々可愛い表情をするじゃねえか。
女の姿で散々楽しませてもらった所為か、男に戻しても、悪く無い気がしてきたな。
男色のケは無かったつもりだが……。
まぁ、これだけ美人なら気にする事でもねぇか。性転換の首輪もあるし、次の機会には、またイロイロと楽しませてもらおう。
「最後に一つ、聞いて良いか?」
「……なんでしょう?」
俺の問いにナニカを察したのか、不貞腐れていたシオンが鋭い目で俺を見た。
「アンタに毒を盛った相手に見当はつくか?」
「もう二度と会う事も無い貴方に、そんな事を教えても無意味でしょう?」
「それも、そうだな」
ふうん?見当はついているのか。
まぁシオンが言いたく無いのなら、無理に聞く必要も無い。シオンの口から聞けなくても、調べる方法はあるしな。
「じゃ、俺は行くぜ。
あ、それとアンタの馬は、治療してそこに繋いでおいたからな」
「あ……」
シオンが何か言いたげだったが、それを無視して俺は『風使い』で風に乗って空に消える。
後は、シオンの馬に仕込んだ新開発の『直通回線』付きの『精神感染』が上手くやってくれるだろう。
・
丸二日かけてシオンで遊んで、その後意識を失ったシオンが起きるまで一日近くかかったので、予定よりも一日以上遅れてトーラスの街に到着した。
もっとも到着の日時が決まっていた訳ではないので、特に問題は無いんだがな。
トーラスの街は相変わらず賑やかで活気がある。
あちこちで聞いた話を総合すると、ジュラルデン王国東部の要所であり人外魔境の危険地帯であると同時に貴重な素材の宝庫である蒼の森への玄関口でもあるトーラスの街は、蒼の森と南の白の砂漠に挟まれた僅かな緑地を通って大陸中央と交易をする無鉄砲な行商人や、蒼の森で一攫千金を狙う命知らずの連中が集う拠点となっているようだ。
住民は人間が主だが、職人や労働者には亜人や獣人等も多く、下層民が集まるような酒場だと逆に人間の方が少ないくらいだった。
そう言う街だから治安の方はあまり良いとは言えないが、しかしそのお陰で俺みたいな被差別種族でもそれなりに上手くやれている。
最近では帽子無しで出歩いても見咎められる事は無く、マルグリットと一緒に歩いていてもイヤな視線を向けられる事も無くなった。
スラムではすっかり黒い治療師として名を馳せているし、飲食店組合に教えた料理は街のあちこちで好評を得ている。
もちろん、色々とテコ入れしたノエルが世話になっている食堂も順調に客足を伸ばしていた。
飲食店組合に教えた料理は手軽で安くてそこそこ美味いってヤツから手間がかかり材料の値が張る代わりに味は絶品なモノまで幅広いが、やはり圧力鍋で出汁をとった獣骨うどんほどには費用対効果が良くない。
食堂の主であるジェフリーの腕は飛びぬけて良いとは言えないが、それでも他の店と同じ値段で大盛りの料理が出てくれば、体力勝負の職人達はジェフリーの店を選ぶだろう。
そうなると当然、他の店も圧力鍋を欲しがったんだが、飲食店組合の集まりでデモンストレーションに鍋を爆発させてみたら二度とそんな事を言うヤツは居なくなった。
その代わりに今度はジェフリーの店を危険視する意見も出てきたが、店の厨房を俺が強化したので最悪でもジェフリー一人の被害で済むと保障したら判断は保留となった。
顔色を変えたジェフリーが俺に詰め寄ってきたので「使用方法を守っていれば大丈夫だ」と説き伏せる、なんて場面もあったがソレは余談だな。
まぁそんな感じに料理を広めたり、フェルトペンや洗濯バサミなんかのアイデアを自転車の権利を売ったトマス商会を通じて広めたりした結果、一部の人間には美味と便利な道具の発明家としても知られていたりもする。
そして裏社会のヤツラには媚薬や勃起不全治療薬の他に精力剤や不妊薬なんかも卸し、さらに出回っている麻薬の効果的な使用方法なんかも伝授してやったので、裏社会では悦楽の薬師なんて二つ名で呼ばれていた。
――――しかし、物足らねぇんだよなぁ。
いくら他人から認められようと、あの人達の居ないこの世界では今一色あせて感じる。
今回はお楽しみもあったお陰で気分は晴々としているが、ソレもしばらくすれば物足りない日常が戻ってきてしまうだろう。
マルグリットを可愛がったりフェリシアやイルメラをからかうのも楽しいが、それでもやはり心の奥底に虚しさがあった。
いっそ蒼箆鹿の本体に喧嘩を売ってくるか?
――いや、クスリでハイになってる時ならともかく、素面でそんな無茶をする気にはならないな。
なら、俺の方でも火種をばら撒いて戦争を早めてみるか?
――そんな事をしてもしバレたら、高額の賞金首として指名手配されるだろう。
だったら、遠くの国で暴れまわってみるとか?
――どこにどんな相手がいるのかも分からない状況で無差別に暴れれば、どんなしっぺ返しが来るか分かったもんじゃあない。
藪を突いてナニが出るかを楽しむような遊びをするには、まだまだ力が足りゃしないんだよなぁ。
…………やっぱり、現状維持で流れに任せて楽しむしかないのかねぇ?




