7-4
刺激が強すぎたのかシオンが気を失ってしまったので、低周波治療器とマッサージ器のスイッチを微弱にして予備の『亜空間倉庫』に放り込んだ。
『亜空間倉庫』で発生させた亜空間内は無風無音無明の上に上下感覚も無い無刺激空間だから、何の用意もなく閉じ込められるとよほど強靭な精神力でももっていなければ割りと短時間でおかしくなるようだ。
これは無刺激状態が人にとって耐え難いから起こる現象であって、亜空間そのものが人体になんらかの悪影響を起こす訳ではない。なので意識失っていたり睡眠状態であったりするか、あるいは明かり等を持ち込んでさえいれば、割と快適に過ごす事もできた。
そしてシオンの場合だが、低周波治療器とマッサージ器以外からもたらせれる一切の外的刺激を排除された状態で、微弱な刺激を与え続けられる事でシオンの意識はその刺激に意識を集中し、未経験な肉体でも敏感に刺激を味わい、快感へと昇華している筈だ。
まぁ意志の弱いヤツや快楽に堕ちた経験のあるヤツならあっと言う間に溺れちまうんだろうが、シオンのように克己心の強いヤツならしばらくは耐えてくれると思う。
で、シオンの下拵えをしている間にナニをするのかと言えば、盗賊共の後始末だったりする。
せっかく殺しても他の連中に迷惑がかかるどころか喜ばれるようなヤツラが捕獲できたんだから、残りのヤツラも確保しておきたいよなぁ。
眠らせた盗賊共をたたき起こしてアジトの場所を聞いてみたところ、盗賊団のアジトはそれほど遠くない場所にある事が分かった。
どうやって吐かせようかと楽しみにしていたのに、盗賊共ときたらシオンが捕まっていたハンギングツリーを一発殴ってへし折ってやっただけでぺらぺらと喋りやがったし、嘘でもついてくれていればソイツをオモチャにできたって言うのに、『風使い』で盗賊共ごと移動した場所には盗賊共と同じ様な姿をしたヤツラの居る小さな村が存在していた。
前菜代わりに楽しもうと思っていたのに肩透かしを食らったような気分だが、素直に言う事を聞いている相手をオモチャにするのも良い趣味ではないので、もう一度眠らせて『亜空間倉庫』の中に放り込む。
さて、その小さな村なのだが、よく調べてみると盗賊の他にも普通の農民らしき姿もあったので、どうやら普通の農村が盗賊の集団に占領されているようだった。
面倒な後始末を押し付ける相手がいたのは、朗報だと言って良いだろう。
という事で、風を操り盗賊共を睡眠薬で眠らせ、攫われてきた被害者は村の住人達に任せて、盗賊共の身柄と貯めこまれたお宝の中から欲しい物だけ頂いて、農村を後にする。
言葉にするとコレだけだが、実際には盗賊共の別働隊が居ないかとか確認したり、村の住民達に後始末の指示をしたりとか、ゴタゴタやっていたのでそれなりに時間はかかっていた。
・
「……フゥ……フゥ……フゥ……」
暗闇の中を、熱の篭もった吐息の音だけが響いている。
魔法のランプに明かりを灯すと、漆黒の空間にシオンの姿が浮かんだ。
失神するほどの強い刺激を与えられた後に、他に意識を逸らす事もできない状態で何時間も微弱な刺激しか与えられ続けた所為か、アイマスクと口枷で隠されても端整だと分かる顔を、切なげに歪ませていた。
「お疲れさん。耐え切ったようだな」
そう声をかけながら、アイマスクと口枷を解いてやる。
「……やっと、終わりですか。
でしたら、早くこの責め具を外して、縄を解いて自由にしてください」
シオンの声には力が無い。こんなマネをした俺を罵倒もせずに開放をせがむって事は、怒る気力もない程に憔悴しているのだろう。
「それなんだがなぁ。
コレが終わっちまったら、アンタは男に戻っちまうんだぜ。
本当に、そんな状態で終わらせちまっていいのか?」
「どう言う、意味ですか?」
「女の得られる快感は、男の何倍も大きいって話だ。
ソレを味わい尽くさずに男に戻っちまっても、惜しくはないのかって話だよ」
「僕を馬鹿にしてるんですか!」
「バカにはしてないが、アンタのその有様を見たら、普通は欲求不満なんじゃないかと疑うと思うがねぇ?」
俺の言葉にシオンは身じろぎして少しでも俺の視線から逃れようとするが、身動きできないように縛られた体ではどうしようもなく、イロイロと酷い状態になっている体を俺に晒すしかなかった。
「これは……」
「なぁ。ここには俺とアンタしか居ないんだ。片意地を張らずに素直になれよ。
失神するまで責められた後は、ずうっと焦らされてお預けを食らわせられたんだ。
切ないよなぁ。物足りないんだろう?
男に戻る前に燻っているソイツを、思う存分味わってみたいと思わねぇか?」
「思いま、せん」
そんな険しい顔で言われても、信じられないけどな。
我慢してるのがバレバレだぜ?
「本当に、そうかぁ?」
一瞬だけ、全てのスイッチを強に。
「ヒッ!あ、貴方は、どうあっても、僕を、嬲り者にしないと、気が、すまないみたい、ですね」
「でも、最高に気持ちよかっただろう?」
「そんな、事は!」
「無いって?
ふぅむ、強情だねぇ……。
あ、もしかしてアンタ。快楽に身を任せるのが罪悪だとか、考えてたりするのか?」
「当たり、前で、しょう。
そんな、堕落した生き方、許される、筈が無い!」
やっぱりか。それじゃあ快楽を受け入れるのも難しいよなぁ。
――なら、もう一押しと行こうか。
「おいおいシオンさんよぉ。
生き物ってのは生きる為に必要な事が気持ち良く、それ以外を不快に感じるようにできてるんだぜ?」
「下らない、暴論ですね」
ああ暴論だ。しかし、真実でもある。
「そうでもねぇさ。
考えてもみろよ?栄養のあるモノは美味く、疲れた時に体を休めれば心地よく、そして子供を作る為の行為は快感を伴う。
他人から押し付けられれば苦痛に感じる鍛錬や退屈なだけの勉学だって、己が必要だと思えば面白く楽しめるもんだ。
禁欲こそが美徳?
バカを言っちゃあいけない。生きる為に欲望を抑える事が必要な場面があるだけで、欲望を抑えた生活こそが美徳だなんて言うのは本末転倒なだけだよ」
もちろん、例外もあるけどな。
特に俺みたいな傍迷惑な欲望を持つヤツは、まともな社会で生きようとすれば、色々と我慢をするしかない。
「ふっ、はははっ!
襤褸がでましたね!
結局、貴方は我慢のできない獣なだけじゃないですか!」
息も絶え絶えで言葉を紡いでいたシオンが、鬼の首でも取ったかのように吼える。
ソレで論破したつもりか?
残念だがシオン、ソレじゃあ墓穴歩掘っただけなんだなぁ。
「我慢、ねぇ。
知ってるかい、シオン?
我慢に我慢を重ねて、さらに我慢をすると、限界を超えて壊れちまうんだぜ?丁度、今のアンタみたいになぁ」
「――え?」
「疑問に思わなかったか?
強烈な刺激を受けたとは言え、失神するまでは痛みしか感じなかっただろう?
しかし微弱な刺激を我慢しているうちに、気持ちよくなっていった筈だ。
それは、なぜだと思う?
あんな事をされたら快感を感じるのは当たり前だって?
確かに体の防衛本能が勝手に快感を感じる事もあるだろう。だが碌に経験の無い体を刺激したって、本来なら痛みかむず痒さを感じる程度で中々快感にまでは至らない。
ところが、だ。
強い痛みや不快感を我慢し続けていると、精神の磨耗を防ぐ為に体が勝手に痛み止めを生み出すんだよ。
で、その痛み止めってヤツは麻薬みたいなモンでな、かなり気持ち良くなれるのさ」
まくし立ててやると、シオンの表情がどんどんと絶望に染まっていく。
疲労と異常な状況の所為で判断力が低下しているからか、こんな一方的な言葉でも否定しきる事ができないようだ。
「そんな、馬鹿な話……」
「信じられねぇのは無理もねぇんだがなぁ。
さっきも言ったとおり、俺は医療系の魔法が使えて、医者の真似事をした事もある。
だから、生き物の体についても色々と研究したんだよ。
で、結論から言えば、生き物ってのは苦痛を感じると頭ん中で痛み止めを生み出す事が分かった訳だ。
手足を骨まで切られたり腹の傷から内蔵を見せてるような兵士が時には普段以上に戦って見せたり、修行者が無茶な苦行をできたりするのもその効果だ。
そして人が限界以上にナニカを我慢をすると、苦痛を受けた時と同じ様に、人の体は自分を守る為にその痛み止めを生み出すんだよ」
多少事実とは違うが、重要なのはシオンに俺の言葉を信じさせる事なので、ソレは問題じゃあない。
なぁシオン。
どんなに信じがたい話だろうが、一ヶ月の間判明しなかったオマエの女性化の原因を特定した俺の言葉だ、低下した判断力じゃ全否定する事は難しいよなぁ?
「だが一番重要なのは、アンタが自分で生み出した麻薬に酔って、器具から受けた刺激を気持ちいいと思っちまったって事だな。
快感を快感として受け入れなければ、ソレはタダの刺激でしかない。
なのに、アンタは今、器具から与えられている刺激を気持ち良いと感じているんだよなぁ?
なぁ、どんな気持ちだ?男の心を持ちながら女の体で快感を味わうのは。
脳みそが蕩けるほど倒錯的で、絶望するほど背徳的なんじゃねぇか?
ソレがまた、気持ち良いんだろう?」
思い当たる節があるのか、シオンの顔が羞恥にに染まっていく。
可哀想になぁ、シオン。
アンタが本当に気持ち良くなりたくないんだったら、刺激を不快だと意識し続けなければならなかったんだよ。
そうすれば男に戻った時に不能になる可能性があるが、少なくとも女として快感を感じるような状況にはならなかった筈だ。
なのに、アンタは思考停止して刺激を我慢していただけだったんだろう?
それじゃあ体は自己防衛の為に刺激を快感として受け入れるしかない。
でなけりゃ無感覚状態で正気を保つのは難しいからなぁ。
もっともヘタな我慢の仕方をすりゃあ、もっとややこしい事になっていたのかもしれねぇけどな。
例えば、快感を感じながらも否定すれば多重人格化したり、ソコまでいかなくても快楽依存症になったりする可能性もある。
他にも性癖をこじらせて異常なモノに性欲を感じるようになったり、異常な状況でしか興奮できなくなったり、ナンて事もありえた。
何事も、無理な我慢をすれば、どこかが破綻するようにできているモノだからなぁ。
「快楽が罪悪?
違うなぁ。
禁忌を犯す事が快感なんだよ。
だから、欲望を抑える事こそ正しいなんて言い出すのさ。
なぁ、シオン。
もう一度、自分の心の声に耳を傾けてみろよ。
男でありながら女の快楽に身を焼かれたり、貴族であるアンタが身分も分からぬ得体の知れない男に嬲り者にされるなんてのは、在ってはならない事だよなぁ?
だからこそ、ソイツは快感を味わう上での最高のスパイスになってるんじゃねぇのか?」
「違う!僕は……」
声に力は無く、シオンの顔は今にも泣き出しそうだ。
良い感じに心の箍が緩んでいるようだな。
後少しってところか。
「ナニが違うんだ?
俺の言葉か?それともアンタが感じている快感か?
随分と強情を張るもんだが……。
そうだな。そこまで言うんなら、アンタの正直な気持ちを俺が分からせてやるよ」
そう言いつつ、器具のスイッチをシオンの目の前で操作する振りをしてやると、シオンは怯えた目で体を縮こまらせる。
「やめて、ください。
これいじょう、されたら……」
「どうなるって?
素直に言えば、やめるかも知れねぇぜ?」
「…………おかしく、なる」
「ほうら、やっぱり気持ち良いんだろう?
でもな、我慢する必要なんか無いんだよ。
もっと自分を曝け出して、思うがままに快感を貪っても良いんだ」
そう言いつつ、スイッチのメモリを出鱈目に動かす。
「やめてやめてやめて!」
「はははっ!
気持ち良いんだろう?
一言欲しいと言えば、もっと気持ち良くしてやるぜ?」
「そんな!ぼくは!」
「まぁだ強情を張るのか。
なら、頷くだけでいい。
ほんの少しだけ、顎を引いてみろよ」
俺の誘惑に、シオンは崩壊寸前の顔で耐える。
しかし、それも時間の問題だろう。
――――――そして暫らくして、シオンはゆっくりと頷いた。




