7-3
「……骨折りには報いるのが当然ですから、それ相応の報酬をお約束しますよ」
シオンは引きつった笑みで、そう言った。
たぶん今、シオンは頭の中で、俺がなぜ今謝礼の約束を得ようとしているのかを、思考をフル回転させて考えている筈だ。
善意の塊のようなヒーローでも無い限り、助けてやるから報酬をよこせと交渉する事自体はおかしな話じゃあない。
しかし相手が奉仕を受けるのが当然だと思っている貴族となると、助けられておいて「助かった」の一言で済まそうとする事も珍しくはないので、完全に助ける前に「助けてやったらいくらよこす?」と交渉しようとしても不自然ではないだろう。
となると問題になってくるのは報酬の内容で、高く見積もれば際限が無いし、安く値切ろうとすれば自分の命にかかわる。
しかも俺はあえて“いくら”でも“ナニを”でもない、“御礼”と言う言葉を使ったのだから、その意図を読み解こうと必死に考えていてくれるのかもしれない。
さぁ考えて考えて考えて、考え抜いて俺の予想を超える答えを出してくれ。
失敗すればたぶん、俺にとっては楽しく、オマエにとっては困った結果が待っている筈だぜ?
「報酬、ねぇ。
アンタの命を救った事で貰えるんだから、金にしろ物にしろ名誉にしろそれなりのモノが貰えそうだが、俺はアンタ個人に御礼をしてもらいたいねぇ」
「僕に……?」
シオンの顔が訝しげに歪む。
ふむ、俺がナニを言っているのか分からないようだな。
って事は、まだシオンの中で俺はそんな事を言う人物だとは思われてない訳だ。
「なぁに、一晩俺の相手をしてくれるだけで十分さ」
しかし、次に放った俺の一言で、シオンの中の俺の評価は最低にまで落ちたようだ。
その証拠にシオンの表情は音を立てて固まり、みるみる冷たく変わっていく。
「……つまり、貴方もそこに寝ている下衆共と同じ人種だったと言う事ですか」
端正な顔を嫌悪感に歪ませて、シオンは吐き捨てるようにそう言った。
ああ、イイ表情だ。
この綺麗な顔を恥辱や快感で歪ませてやったら、とても楽しいだろうなぁ。
「否定はしない。が、アンタの選べる選択肢はそんなに多くは無いだろう?
俺を楽しませるか。
そのまま縊り殺されるか。
それとも、コイツラを起こしてやるから、改めてコイツラと交渉してみるか?
さぁ、どれを選ぶ?」
腹の中では怒りのマグマが煮えたぎってるだろうに、シオンは絶対零度の表情のまま、俺を睨みつける。
たったそれだけで、ゾクゾクするような快感で脳みそが高揚していくのが感じられた。
プライドの高いヤツを弄るってのは、本当に楽しいなぁ。
黒い肌のゴブリンだなんて分かりやすい特徴を隠す為にサンチラを操って助けたが、お陰で表情を取り繕う必要がなくて助かるよ。
「ねえねえ、レドちゃん。レドちゃんって、こんなコが好みだったの?」
本体が隠れている『亜空間倉庫』内で含み笑いを漏らす俺に、同じく隠れていたリサがそう聞いてきた。
「いや?女として好みかって言うと、ちょっと違んだよ。
ただ、男でも女でも、こう言うヤツのココロをへし折るのは、最高に楽しくてねぇ」
まぁ、こう言うヤツってのがどう言うヤツなのかは、口で説明するのは難しいんだがな。
プライドが高いってだけじゃあだめだ。
最悪の状況になっても諦めずに足掻き、そんな状況でも信念を曲げない英雄譚の主人公みたいなヤツを、歪め惑わし壊して狂わせるのは最高に楽しくて仕方がない。
「ふぅん……。面白そうなコト考えてるのね」
俺の思考を読んだのか、リサが数秒眼をつむった後にそう言った。
「ダメか?」
「いいんじゃない?ナニをするのもレドちゃんの自由だよ。
アタシはそれを見て楽しませてもらえば十分!
……でも、ちょっと意外だったかな」
「意外?」
「ウン!
レドちゃんってさ、あんまりヒトに興味を持たないようにしてるでしょ?
でも、このコには結構積極的だったから、ちょっとびっくりしちゃった」
「まぁな。
憎みゃ潰したくなるし、好意をもちゃ壊したくなる。今はそれほどでも無いが、前は関係の無いヤツラでも俺の所為で苦しんでくれりゃそれだけで楽しかったしよ。
でもま、恩人とも言える人達に出会って俺も変わって。だから他人にはなるべく興味を持たず、敵対してくるような相手以外には害意を持たないように生きてきた。
それでも、我慢ってのは体に悪いからなぁ。
助けてやる代わりに、少しばかり遊ばせてもらっても悪かぁねぇだろ?」
我慢できなくなって、生まれた集落を皆殺しにしたように、目に付く限りの世界をぶち壊したくなるよりは、よ。
全部ぶっ壊しちまうと、その後の楽しみもなくなっちまうしなぁ。
「ホントに少しだけぇ?」
リサが邪悪に笑う。
「勿論。最悪でもちょっとトラウマになるくらいで、シオンが上手く切り抜けられりゃナニもせずに開放したっていい。
まぁ、あんまりにも楽しませてくれるようだったら、保障はできないけどな」
「やっぱりぃ~!」
なんてリサと喋っている間に答えが出たのか、シオンが口を開いた。
「…………男に穢されるのは御免ですが、僕はまだ死ねません。
ですから、代わりになにか別の方法で満足していただけませんか?
金銭でしたらしばらくは遊んで暮らせるだけの額を用意しましょう。
地位なら当家の騎士か、他に仕官したい国が在るのなら推薦状を書きましょう。
女が欲しいのなら、男の扱いに長けた高級娼婦の中でも最高の者を用意させます」
選択ではなく交渉を選んだか。いい判断だ。
しかし、話し合おうってのに表情が冷たいまんまってのはいただけないなぁ。
もっと弄りたくなっちまうじゃねえか。
「代わり、ねぇ。
金には困ってないし、偉くなりゃその分面倒事もついてまわるから地位もいらねぇ。
女にしたって、アンタ以上にイイ女なんて中々いねぇからなぁ」
「ぼ、僕が良い女?!」
ほう?これだけの美人なら褒められなれているかと思ったんだが、意外にウブな反応が返ってきたな。
男勝りな格好をしているし、女として褒められる事はあまり無かったのかな?
「ああ、そうだ。
顔は言うまでもねぇが、野盗相手に追い詰められてるのにパニックを起こしてヒステリーにもならず、絶望してヤケも起こさず、冷静に相手と交渉して切り抜けようなんて、中々できる事じゃあない。
たとえ傾国の美女だろうが手練手管に長けた最高の娼妓だろうが、アンタよりも勝るなんて俺には思えないね」
しかし、俺の言葉にシオンは顔を青くする。
う~む、どんな落とし文句もイヤな相手から聞けば不快になるのは分かるんだが……。
思った以上に嫌われたかな?
「……褒め言葉をこんなに悍ましく感じたのは初めてですよ。
けっして褒めていただいてありがとうだなんていえませんが、そこまでの好意を持っていただいたお礼に一つ、本当の事を言いましょう。
――――僕は、男なんです」
はぁ?
「んじゃぁナニか?
ソノ立派なモンは作り物か?」
視線を下に向けると、蔦に縊りだされたシオンの胸が大きく自己主張していた。
さらしでも巻いていたのか、開放されたソレはかなりの大きさを誇っている。
「……僕も認めたくはないのですが違います。
ですが、たしかに一月前までは僕は男だったんですよ」
「へえ?
って事はある日突然、男だったアンタが女の姿になっちまったって?」
「こんな姿で言っても信じていただけるとは思えませんが、それが事実なんです」
まるでシオンの言葉を信じていないかのよう嘲ってやったんだが、シオンは愁いを帯びた麗人とでも題名をつけたいくらいに絵になる表情で、諦めを滲ませながら答えた。
あー……。
これは本当っぽいな。
たぶんシオンは、女になってから今日まで散々コレと似たようなやり取りをしてきたんだろう。
さすがに魔法が一般的なこの世界でも、本人の意思とは関係なく性別が変化するなんて言うのは滅多に在る話ではないからなぁ。
だが、ソレは一般的な認識だ。
「ありえない……、とは言わねぇよ。
特殊な固有魔法に長じた術者か、一服で大邸宅が買える様な魔法の秘薬でも使えば、性別を変えるくらいの事はできなくは無い」
実際、前任者の記憶の一人にして生命魔法の使い手であるヴィクトルが、魔法によって女性に変えられた男でも子供が産めるのか、なんて実験をしていた事もあったしな。
一応説明しておくがこれはヴィクトルに特殊な趣味があった訳ではなく、あくまで魔法と生物学的な探究心から実験をしたようだ。
結果として子供は正常に生まれ、ヴィクトルはその研究成果を元に人工子宮を作り、最終的にはホムンクルスまで完成させてしまった。
「分かっていただけるんですか!?」
俺の肯定が意外だったのか、シオンが目を丸くして声を上げる。
何だ、そんなガキっぽい表情もできるのか。
「ああ。性別を変える秘薬も、他人の体を変化させてしまえる術者も、噂になら聞いた事がある。
かなりレアな話だから、裏社会でも知っている人間は少ないだろうがな」
「で、でしたら、変える事ができるのなら、元に戻す事もできますよね?」
「そりゃ、魔法で変えたんなら魔法で戻す事もできるだろうよ。
しかし、ソレができるのはかなり腕の良い術者か高価な秘薬くらいだぜ?」
「お金なら、なんとしても都合をつけます!」
「いや、問題はソレをどう手に入れるかなんだよ。
少なくとも俺にはそんな伝手は無いし、禁制品レベルの秘薬や禁忌の術を心得た高位の術者を探すような方法も思い浮かばねぇなぁ」
当然の事ながら、飲んだり塗ったりしただけで人の肉体を変質させるような薬物はどこの国でだって規制されている。
魔法にしても、本人の意思とは関係なく他人の肉体を変化させるような魔法は、精神に影響を与える魔法と同じく禁忌の魔法として一般社会から忌避されていた。
「しかし、アンタは運が良い。
俺は少しばかり医療系の魔法が使えてな。アンタが俺を信じて魔力を受け入れてさえしてくれれば……、治せるかどうかは分からんがどう言う状況か診察してやるくらいはできるぜ?」
俺の言葉にシオンは逡巡を見せた。
信用はできない。しかし、この機会を逃すのも惜しい。ってところだろうか?
だがいくら考えたところで答えが出る筈もなく、蔦の絞めつけは時間と共に強くなっていく。
「………………お願いします」
顔色が目に見えて悪くなるくらいになるまで粘って、やっとシオンが答えを出した。
ずいぶん悩んだようだが、初対面の信用できない相手の魔力を受け入れるって言うのは、無法地帯で営業しているような無免許の闇医者に手術を頼む程度には危険な行為なので仕方の無い事だろう。
「そうか。じゃ、気を楽にしな」
一言おいてから『自在工房』で確認してみると、シオンの体は完全に女性のモノで男だったと言う話の片鱗も無く、一点を除いてまったくの健康体だった。
注意深く診て見ないと分からないほど巧妙に隠れていた寄生型の魔法式が、シオンの体の奥底で活動している以外は。
「なるほど、コイツが原因か」
「!」
俺の言葉でシオンの顔に喜色が宿る。
普通に調べたんではまず見つからない程度には厄介な魔法式だったので、シオンが変化をしてからの一ヶ月、他の誰が調べても分からなかったんだろう。
幸いなの事に俺には前知識もあり、前任者の記憶の中には“魔法を隠蔽する技術”の知識もあったので、今回はソレが役に立った。
「この程度なら……。うん、俺でも摘出できそうだな」
「本当ですか!?」
「絶対とは言えねぇが、たぶん大丈夫だろう」
「でしたら、すぐにでも!」
「構わねぇが、ソレより前に報酬の話の続きをしようか」
元の体が男だろうが、まぁ、今は女の体に変わりはないんだ。ヤルには支障はねぇわな。
「理解してなお、僕を抱きたいと言うんですか?」
「抱きたいねぇ。
アンタが俺の下でどんな喘ぎ声を上げるか、とても興味がある」
「少しは見直していたんですが……、やはり見境の無い変態だったんですね」
「おいおい。
いくらなんでもアンタが男の体だったらこんな事は言わねぇよ。
……ところで、だいぶ顔色が悪いようだがそろそろ限界じゃあないのか?」
「そう、思うんでしたら、助けていただけませんか?」
「まだ報酬の約束をしてもらってねぇからなぁ」
「……ですが、僕が死んでしまっては抱くも何もないでしょう?」
「そうだなぁ。
ふむ。なら、こう言うのはどうだ?
今から日が暮れるまでの半日ほど、チョットしたゲームをしてもらおうか。
アンタが勝ったらすぐに男に戻して開放してやるよ。
しかし、だ。
もしアンタが負けたら、俺の気が済むまで楽しませてもらうとしよう」
「ゲーム、ですか?」
「そうだ。コイツをつけて、半日我慢できるかどうかってゲームさ。
まぁ我慢できなかったとしても、後で男の体には戻してやるからソコは安心してくれ」
取り出したのは魔法で動く低周波治療器もどきと、振動マッサージ器各種。勿論、治療やマッサージ以外にも使えるヤツだ。
マルグリットとフェリシアで遊ぶ為に作った魔法の道具だが、試験的に着用者の魔力で動くように作ってみたので、俺でも一から自作できるくらいに魔力量が低い割には高性能だったりする。
「ひゃうっ」
試しに、腕に治療器もどきを当てて発動させてやると、シオンが驚いて悲鳴を上げた。
「少し痛いですけど、我慢できなくは無いですね。
でも、こんな事に何の意味が……」
「なぁに。アンタを抱けない代わりに、アンタが悶える姿だけでも見させてもらおうかと思ってね」
「…………変態の上に悪趣味ですか!」
「アンタを助けてやって、更にアンタが苦しんでいる問題の解決までしてやろうって言うんだ。それくらいの役得があってもいいだろ?」
「ですから!報酬が欲しければ、お金や名誉ならできる限りの物を差し上げると言っているんですよ!」
随分と頑なだが、まぁ当然ではあるわなぁ。男なら誰だって、性転換された上に男に襲われそうになれば必死に抵抗するだろう。
いや、女だって襲われれば抵抗するのは当たり前だが、元が男だとその嫌悪感と恐怖感は女の比ではない筈だ。
――――だからこそ、面白い反応が見られそうなんだがなぁ。
「ふぅむ。このまんまじゃ堂々巡りだし、一つ判断材料をくれてやろう。
――もう一度、アンタの中の魔法式を見せてもらうぜ」
「え?」
驚くシオンを無視して『自在工房』を『亜空間倉庫』の中から展開する。
そして先ほど確認した魔法式を要らない魔法の道具に上書き複写して、道具を首輪に作りかえる。
これで『性転換の首輪』の出来上がりだ。
「よぅく見てろよ?」
「……一体なにを?その首輪はどこから?」
盗賊の中から華奢で見た目の良いのを見繕って、混乱するシオンに見せ付けるように、『性転換の首輪』をはめる。
「ああ!」
変化は急速だった。
元から華奢だった盗賊の骨格は更に細くなり、その代わりに顔は丸みをおび胸は膨らんで腰が張る。
シャツを引き裂いてやるとまろび出るのはたわわな膨らみ。シオンほどではないが、それなりに大きい。
それが『性転換の首輪』を外すと、映像の逆再生のように全てが元通りになる。引き裂かれたシャツ以外は、だが。
全てを見ていたシオンの表情は、なんとも言えない希望に満ちたモノだった。
悩み苦しんだ問題の解決を目の前で見せられたんだから、当然と言えば当然だがな。
服用と着用では魔法式が上手く働かない可能性があったが、上手くいってくれて良かった。
「アンタが頷きさえすれば、男に戻れるんだぜ?
さぁ、どうする?」
「………………分かりました」
悩みに悩んだ末、シオンが決断する。
あ~あ、言っちまった。
本人の了承を得たんだから、ナニをしても許されるよなぁ?
「そうかい。
んじゃ早速」
シオンを拘束している蔦を、切裂き兎の小剣で切断して開放する。
「ありがとうございま……って、なにをするんですか!?」
自由になったシオンの体を、今度はロープで縛り上げる。
「暴れられても面倒なんでな。
大声出されても困るから、ついでにコレも咥えて貰おうか」
「!!!」
声を上げようとしたシオンの口に口枷を押し込んで固定する。シオンは頭を振って外そうとするが、そんな事で取れるほどやわな作りはしていない。
「………………!」
ほとんど身動きできない状態でも何とか逃れようともがくシオンを押さえつけ、体のアチコチに治療器もどきとマッサージ器を取り付ける。
仕上げにアイマスクで視覚を奪ってからスイッチを入れてやると、シオンは口枷を噛み締めて悲鳴を飲み込んだ。
おお、耐えるねぇ。
マルグリットとフェリシアに初めて使った時なんか、ひどく乱れたもんなんだが……。
中々の精神力のようなので、スイッチを強にしておいてやろう。
「あぎぃ!」
さて、シオンが耐えるのを見ているのも楽しいが、お楽しみはその後なので、少しだけ楽しんだら下拵えをしている間に別の用事を済ませてしまおうか。




