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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第七章 放埓
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7-2


 今までに得た情報と俺の見てきた状況を分析すると、この世界の治安状態はかなり悪いと言っていいだろう。


 都市部では官憲よりもヤクザ者とのツテの方が犯罪抑止には役に立っているし、小さなコミュニティである農村では犯罪こそ滅多に無いものの、盗賊等による被害は少なくない。

 そして、街や村の外となればほぼ無法地帯と言ってよかった。

 なにしろ行方不明になったとしても、盗賊に攫われたんだか獣に襲われたんだか分からないんだからなぁ。

 もちろん騎士や兵士達が盗賊を狩ってはいるが、盗賊達も捕まれば縛り首なオブジェとして晒されるか、犯罪奴隷として死ぬまで酷使されるので、そう簡単には捕まってくれない。

 もっともそうやって人目に付かないように逃げ隠れしなければいけないせいで、盗賊なんかやっている連中は獣や蒼の森からはみでた魔獣に襲われる事も多いらしいのだが。


 で、なんでこんな話をしているかと言うと……。


 白馬に乗った身奇麗な少年が、薄汚れた男達に襲われているのが上空から見えたからだったりする。

 すでに国境を越えてかなり北へ飛んでいるので、少年はジェラルデン王国の人間ではなさそうだ。

 たぶんジュラルデン王国の北に広がっているウェンティ平原を支配する小国家郡の内の一国の、貴族の子供かなんかだと思う。

 見捨てる必要も無いので助けてやってもいいんだが、助けるにしてもぎりぎりの所で助けた方が恩は高く売れるだろう。


 ――――なので、とりあえずは様子を見るか。



 ・



 白馬に乗った少年は、一見しただけでも金がかかってるのが分かる服装の割には微妙にサイズが合ってないように見えるのが少し不思議だが、それ以外の点ではまさに白馬の貴公子と言わんばかりの風情ふぜいがあった。

 藍色の服に白いマントと長剣を佩き、後ろからなので顔は見えないが短めの藍色の髪を美しく風になびかせイヌ科の獣を思わせる三角形の大きな耳もピンと立てている。

 ――うん、この少年、獣人のようだ。

 小国家郡の大半は獣人国家らしいので、獣人が貴族をしている国があっても不思議ではない。

 コレがジュラルデン王国なら兵士や市民ならともかく、支配者層には獣人や亜人は居ない。まぁ人間の国なんだから当然と言えば当然だがな。

 血脈を重んじるような封建社会じゃあ、異人種ってのは毛嫌いされるもんだしなぁ。

 あ、ちなみに獣人のスペックだが、感覚はまさに獣並み、身体能力はその身に宿した獣の相によって得手不得手があるが押しなべて人間よりは高く、半面精神面では衝動的で欲望に弱い者が多いようで街中でもよくトラブルを起こしていた。

 あと、獣人は全て産まれながらにして種族的な固有魔法である『祖霊降身』を身につけているが、何らかの理由でこの魔法が使えないようになると獣相も消えるらしい。コレのお陰で獣人を獣交じりや獣憑きとは呼んでも、亜人や人外として扱う事は無いようだ


 対して、薄汚れた男達。

 ろくに洗濯もされてないようなボロボロの服に壊れかけた鎧といった出で立ちは典型的な野盗の格好だが、七人全員が馬を乗りこなして少年に遅れる事無く追いかけながら、矢を射掛けて少年の逃走ルートを巧みに潰しているところを見ると、かなり人狩りに馴れた盗賊だと考えて良いだろう。


「――リサ、どう見る?」


「ん~、馬の差で王子様(・・・)が逃げ切れそうだけど、追っ手の方も森の中で走らせるのに慣れてるみたいだから……。

 あっ!」


 先ほどまでは少年の乗る馬をかすめるように放たれていた矢が、リサが予想を言い終える前にとうとう当たった。

 それまで速度で引き離していた少年の馬は次第に失速し、しばらくは持ちこたえたものの足をもつれさせて倒れ、投げ出された少年は覚悟を決めたのか近くにあった大木に駆け寄って、ソレを背に剣を抜き放つ。


「お前達、僕にこんなマネをして、ただで済むと思っているのか?」


 少年の声に焦りは無い。

 声の高さからすると変声期前ようだが、その年齢にしてはずいぶんと肝が据わっているようにみえる。


「タダで済まそう何て思っちゃいねぇなぁ。坊ちゃんには稼がせてもらわねぇとよう」


 男達の一人がニヤニヤと笑いながらそう言うと、他の男達も下品な笑い声を上げた。


「つまり、金か。

 良いだろう。これを持って行ってレクルプス王家と交渉するがいい」


 少年が服のボタンを一つちぎって男達に投げる。

 遠目には分からなかったが、たぶん紋章かなんかが刻印されているんだろう。


 しかし、レクルプス王家ねぇ?

 たしか、小国家郡の一つにレクルプス王国なんてのが在った筈だが……。もしかしたら、この少年はそこの王族かナニカかな?


「そう言うのは俺達の仕事じゃあねえんでな。身売り先の話がしたけりゃ、上の連中とやってくれ」


 上の連中ねぇ。

 って事は、コイツラはこれで全員じゃあなさそうだな。


「勿体無い話だな。それでは大した金も手に入らないだろう?

 お前達が自分で直接交渉すれば、慎ましく暮らせば一生働く事無く暮らせるだけの金が手に入るかも知れないぞ?」


「ハッ!で、失敗すれば縛り首ってか?

 おい、てめえら。どんな仕事にも領分って物があって、それさえ守ってりゃ上手く行くんだ。取っ捕まりたくなけりゃ大人しく俺の言う事をきいてろ!」

 

 少年の誘いで男達に動揺が走るが、それも先ほどから喋っている男の一喝ですぐに納まった。

 どうやら、コイツがリーダーのようだな。


「残念だが、世の中ってのは坊ちゃんの思う通りには行かなくってねぇ。大人しく捕まっていただけりゃあ、こちとらも手荒なマネをしなくても済むんですがね?」


 薄汚れた男達を怒鳴り散らしたリーダー格の男は、嫌らしく笑いながら少年に向き直ると、猫撫で声でそう言った。

 ずいぶんと下手にでるな。男達の数は七人、よっぽど力に差が無い限り男達が負ける事は無いと思うんだが……。

 商品(・・)に傷がつくのを嫌っているのか、仲間に被害がでるのを嫌っているのか、それとも他に理由があるのか?


「世の中が思うとおりにならないと言うお前の言葉には同意するが、物事には妥協点と言う物も在る筈だろう?

 僕としても敵対する貴族に売られては堪らないのでね。お前達が本当に金が欲しいだけの賊であるのなら、シオン・レクルプスの名にかけて身代金を払う事を誓うから取引に応じてくれないか?」


 シオンと名乗った少年の申し出はかなり下手に出たものだったが、盗賊たちはニヤニヤするばかりで取り合おうとしない。


「お貴族様のお名前にどれだけの価値があるか、あっしら下々のもんには分かりませんなぁ」


 どうも妙だ。ここは森の中とは言え、命知らずの狩人以外は近づきもしない蒼の森とは違って、森を出て一時間も歩けば城塞都市があるような普通の森だ。

 もしシオンの異変に、シオンの家族か家来が気づいて探し出せば、形勢は一気に逆転するかもしれない。シオンが何とか話を引き延ばそうとしているのもその為だろう。

 当然、人攫いをするような盗賊連中がそんな事に気がつかない筈が無い。

 だとすると……。

 なんて思いながらシオンと男達のやり取りを聞いていると、シオンの背にしている大木が不自然に蠢いている事に気がついた。


「…………それに、ご託を並べたってもうおせぇんだよ」


 嘲笑を含んだ男の言葉が終わるや否や、シオンの頭上から無数の蔦が降ってきて、シオンの全身を絡めとる。


「な?!」


 男達が力ずくでシオンを捕まえようとしなかった理由は、コレか。


 シオンが後ろから襲われる事を警戒して背中を預けていたのは、恐らく“ハンギングツリー”。蒼の森の中層なら割とよく生えている魔力によって変質した木で、近づいてきた獲物を蔦で絞め殺して死骸を養分とする危険な植物だ。

 しかし、蒼の森でも外層になれば滅多に生えていないようなシロモノなんだが、蒼の森からそれほど離れてはいないとは言え、なんで外の森で生えているんだ?

 ……鳥が種でも運んだか、それともまさか盗賊共が育てたって落ちだったりするのかな?


「くっ!この!」


 中層に生えているような植物だけあって、ハンギングツリーの蔦は強靭だ。剣で斬ろうにも、不安定な姿勢で子供が切りつけたぐらいでは切断できない。

 ただ首に蔦がかかってないとは言え、いまだに少年が死んでないところを見ると、本来生えている地域とは違い魔力の薄い外の森で育った所為か力は弱そうだ。


「中々反応しねぇから冷や冷やしたぜぇ。せっかくの上玉に傷でもつけたら値が下がっちまうからなぁ」


 リーダー格の男が笑いながら少年に近づく。


「さぁ貴族のお坊ちゃん。剣を捨ててもらいやしょうかねぇ?」


「身動きが取れなくなったからと言って、僕が簡単に諦めると思うなよっ!」


 さすがに余裕がなくなってきたのか、シオンの声に焦りが見える。それでもこの絶望的な状況で泣きも喚きもしないってのは大した自制心だ。

 獣人の中でも、支配者層は強く自分を律する事が求められるって話は本当だったようだな。


 少し、見捨てるのが惜しくなってきたなぁ。

 男を嬲る趣味はあんまりないが、助ける代わりに少しばかり言葉遊びに付き合ってもらってもいいかもしれないと思う程度には、シオンと言う少年に興味がわいてきた。


「おいおい坊ちゃん。そんなに強い力で絞められてねぇから安心してるかもしれねぇが、そいつは獲物が死ぬまで力を緩めねぇからあんまり我慢してると死んじまうぜ?」


 突きつけられた剣を胸元で押し返すようにしながら、リーダー格の男はさらに詰め寄る。


 コイツ、シオンに自分が殺せない事を確信しているようだな。

 まぁこの状況じゃあその判断は間違いじゃあないだろう。

 シオンが男を殺せば、どう足掻いたって生きて開放される目は無い。それなら屈辱を甘んじて受け入れ、乾坤一擲を狙った方がまだ状況が好転する可能性はある。

 これでシオンが自暴自棄になる程度のタマならまた話が違ってきたんだろうが、理性的な判断を選べるだけの頭と胆力を示してしまっている以上、男も安心して追い詰める事ができるんだろう。


「ん?もしかして……」


 手が届くほどに近づいた男がナニカに気がついたような声をあげ、シオンが反応する間もなく剣をシオンの胸元に走らせる。

 剣はシオンの服を引き裂きながらも血の一滴も見せない。速度と言い精度と言い、結構良い腕をしているようだ。


「み、見るなぁぁぁ!」


 ん?


 空気を屈折させてシオンの胸元を拡大すると、ソコには立派なふくらみが二つあった。


「なるほどなぁ。こりゃあ捕まりたくないわけだ」


 シオンがパニックになって振り回す剣を男が飛び退いてかわすと、男の影になって見えなかったシオンの胸元が他の男達にも丸見えになる。

 ギラギラとした男達の視線に怯え、唯一動く剣を持つ右手で胸をかき抱くシオンに、リーダー格の男はそう言った。


 そうか、女だったのか。

 そりゃ、捕まる訳にはいかんわなぁ。

 男の格好をしているが良く見りゃかなりの美形だ。まだ幼さは残るものの、切れ長の目と鼻筋の通った顔には凛とした美しさがあって、どっちかって言うと男より女受けしそうではあるが。

 しかし美少女である事には変わりがないので、野盗共が金以外の欲望を抱いてもおかしくはないだろう。


 だが、ソイツをオマエラなんかにくれてやるのは勿体ねぇなぁ。『亜空間倉庫ストレージ』から死肉フレッシュ人形ドールのサンチラを取り出し、『魂の緒(アンビリカルコード)』を起動させる。そして本体の方は『亜空間倉庫ストレージ』に退避。『魂の緒(アンビリカルコード)』のお陰で、空間が断絶していてもサンチラを操るには支障はない。

 さぁてコレで準備はオーケーだ。厄介事になっても、ニグレドに目が向く事は無いだろう。


「ヘッヘッヘ。

 こいつはとんだ失礼をしたなぁお嬢さん」


「……失礼だと思うのなら、解放してくれると嬉しいね」


「そいつは聞けねえ相談だなぁ。

 だが、そうだな。俺達の相手(・・)をしてくれたら、逃がしてやってもいいぜ?」


「相手と言うと、ダンスでも踊ればいいのかな?」


「おいおい、ガキじゃねぇんだ。わかんだろ?

 俺達全員を満足させてくれたら、消えてやるって言ってんだよ。

 なぁに、上の連中に引き渡す前に手をだしゃ俺達だって命が危ねえんだ。だから、終わったらきちんと解放してやるって……」


「――そこまでにしとけよ、人攫い共」


 シオンが縛り付けられている大木の後ろから現れたサンチラに、シオンと男達の視線が集まる。


「なんだ、てめぇは?」


「ただの、通りすがりの旅人さぁ。

 事の次第は見させてもらったが……。この女の事が気に入ったんでな、オマエラは大人しく寝てろ」


「ボケが!馬鹿言ってんじゃね……ぇ?…………」


 男達は色めき立つが、すぐに全員意識を失って倒れた。風を操って盗賊共に吸わせた、粉末の睡眠薬の効果だ。


「よう、お嬢さん。危ない所だったな」


 まるで何事も無かったかのように挨拶をするサンチラに、呆気にとられたシオンが固まる。

 しかしすぐに再起動して、猜疑の目を俺に向けた。


「……助けてくれた事には感謝する。しかし、貴方は一体何者だ?それに、この者達に何をした?」


 ヒロインのピンチを助けたヒーローを相手に、感激ではなく疑いの目を向ける、か。

 やはり良いなぁ。

 助かった事を疑いもなく喜ぶバカでもなければ、助けられた事に感激した振り(・・)をして自由を得ようをするほどスレてもいない。

 状況の変化に追いついていないとは言え、まだ危機を脱していないのに俺への疑いを表に出してしまうってのは、素直で実に俺好みだ。


「俺は……。そうだな、ギリアンとでも呼んでくれ。アンタとコイツラの追いかけっこをたまたま見た、ただの通りすがりだ。

 で、コイツラを眠らせた方法だが……、ソイツは秘密にしておこう。手品のタネをばらしちゃあ、商売上がったりだからな」


「そう、ですか。――ところで、そろそろ蔦からも開放していただけませんか?」


 不信感が消えたようには見えないが、それでも一応納得できたのか、シオンは自分の現状を思い出したようだ。


「いいぜ。でも、その前に一つ聞かせてくれ。

 アンタを助けたら、アンタは俺にどんな御礼をしてくれる?」




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