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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第六章 侵食
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6-13


「おおっと。……ふむ、この魔動車と言うのは中々難しいな」


 ご隠居さんの乗った魔動車バギーが、生垣に突っ込む寸前で止まる。

 この魔動車は、以前に魔法使い協会で一山いくらで譲ってもらった売れ残りの魔法の道具の中にあった“自動で回転する石臼”を動力に、その回転を車輪に伝える機構とハンドルとブレーキを車体に取り付けただけのオモチャみたいな代物ではあるが、ご隠居さんには楽しんでもらえているようだ。


「そりゃ試作品だし、動力以外を手作業で操作するんだから“魔法の乗り物”とは勝手が違うさ」


 魔動車は構造上、ハンドルを手で操作しながら動力を車輪に伝える為のクラッチを操作するペダルとブレーキペダルを足で操作しなくてはならないので、オートマ車程度には操作が難しい。


「その代わりに高速で回転するってだけの単純な魔法の道具さえあればソイツは動くんだ。魔法の乗り物の値段がいくらかは知らねぇが、少なくとも売れ残りの石臼と比べるのがバカらしいくらいには高いんじゃねぇのか?」


 俺の言葉にご隠居さんが嘆息する。


「……確かに決して安い物ではないがね。

 しかし、例えば魔法の馬車ならば一々自分で操作しなくても命ずればも目的地まで勝手に動いてくれる。対してこの魔動車は乗り手が操作しなければ前にも進まなければ止まる事もできないのだから、比べるには少々分が悪いのではないのかね?」


「いやいや、ソコが本題なんだよ。

 協会で調べたんだが本当に便利な魔法の道具は貴族でも気軽に買えないほど高く、庶民でもがんばれば買えるような魔法の道具はあれば便利だがなくても問題の無いレベルの物がほとんどだった。

 ところがこの魔法の石臼は庶民ががんばれば買える程度の値段なのに、痩せ馬一頭分くらいの働きはする。しかも、エサも食わず病にも罹らず老いて死ぬ事もなく、だ。

 まぁ、車輪なんかが壊れたら修理せにゃならんから一切金がかからん訳じゃあないがな」


 魔法の道具の値段は下は金貨数枚から上は天井知らずで、しかも在庫に無い道具を新しく作ってもらおうとすると恐ろしく高額になる。

 コレは材料集め等の必要経費や製作失敗時の事も計算しての金額なので、材料を大量に持ち込めばかなり安くなると言う話だった。


 しかし、それも人の手で作り出せるレベルの道具であればだ。

 人通りのある街中を走らせる事が可能なレベルの細やかな判断ができる魔法の乗り物となるとエルフでもなければ作れないと言う話なので、協会の人間では金額は“時価”としか言いようがないらしい。


「ふぅむ……」


「それに、少し手間をかければ車として以外にも使えるんだぜ?元々の利用法である石臼としてってのは当たり前だが、例えばこうすれば……」


 最初に魔法の鞄から取り出したのは旋盤だ。

 ソイツに魔動車バギーから外した石臼を取り付けて動かしてやれば、材料として固定してあった木材が高速で回転する。

 旋盤に備え付けてある刃物を木材に当てると勢い良く削りカスがとび、瞬く間に木製の皿が出来上がった。


 さらに各種電動工具もどきや電化製品もどきを並べ実演していくと、ご隠居さんの表情から余裕が消える。


「ニグレド君。君は思った以上に面白い男のようだね」


 以前にも見せた、刃の様に鋭く氷の様に冷たい表情で、ご隠居さんがそう言った。


「そうかい?」


 ああ、クソ!

 深層の魔獣ですら余裕で倒せるようになったて言うのに、本気になったご隠居さん相手だと腰が引けそうになるな。

 やはり長年支配者をやってきた人間の威圧感は、野生動物とはモノ(・・)が違う。

 一瞬すらも気を抜けないのは一緒だが、シンプルな殺し合いには無い、何十手もの手筋を同時に読み合うような心理戦は、経験の足らない俺には圧倒的に不利だ。


「君のような発想をする男を私は他に見た事がない。魔法使い達や錬金術師達も日夜研究に取り組みより良い成果を出そうと惜しみなく努力しているが、君は彼等とは違う視点で、彼等の研究成果に新しい価値を与えてしまった」


 そんなご隠居さんだから認めてもらえるのは嬉しいが、前世の記憶のお陰でモノを知っているから提案できただけで、俺が丸々考えた訳ではないので素直には喜べない。

 ハメて勝つのは楽しいが、ズルして褒められても後ろめたいんだよなぁ。


 でもまぁしかし、前世の記憶がなくても魔法の道具を動力源とした簡単な機械くらいなら思いついた可能性もあるので、ご隠居さんの評価を少しくらいなら受け入れられるんだがな。前世を思い出す前でも、罠や道具を改良したりしてたんだしよ。

 なんでこんな簡単な事に研究しているヤツラが気が付かないのかと不思議なんだが、なんでもかんでも魔法でやろうとするあまりに他の手段が頭から抜けていると考えれば、分からなくも無いか。


「デキの良いモノを作ろうとするのは良い事だが、ソイツラは作る事ばかりに囚われて使い方を工夫するって事を忘れてるんじゃねぇか?」


 おごそかにも聞こえるご隠居さんの言葉に軽く茶々を入れてみるが、ご隠居さんは反応する事無く言葉を続ける。


「他にもトマス商会に権利ごと(・・・・)売ったジテンシャや、飲食店組合に販売許可の申請が出されているメン料理。どちらも君の手による物だと聞いている」


 自転車の件はバサラをジェフリーの食堂に連れて行く前の話だからそれなりに時間が経っているが、麺料理をジェフリーに教えてからはまだ三日しか経っていない。

 それからジェフリーが申請を出したとなると、申請されてから一日か二日しか経っていないんじゃないか?


 ホント、俺に関して良く調べ上げているものだ。


「いや、俺が権利を売らなくたって商人達は勝手に自転車を複製するだろ。なんたって、俺のアイディアを保護してくれるような組合には所属してないんだからなぁ。

 まぁソンナ事が無くても、商売なんて面倒臭い事に手を出す気はないんだがよ」


 ご隠居さんの後ろ盾があれば、異種族ゴブリンである俺でもアイディアの権利を主張する事は可能だろう。

 しかしそんな事を繰り返していればその内にご隠居さんに取り込まれるだろうし、そうでなくてもアイディアの盗用や製品の品質に神経を使う必要がでてくるので、どちらにしても面倒くさい。


 ソレに比べれば、最終的に入ってくる金が少なくなっても権利に伴う義務から解放される分、製造販売の権利をいつも使っている商会に売ったほうが俺にとってはメリットが大きい。

 もちろん俺が製造する権利は別枠として保障されているので、俺や知り合いが使う自転車を作っても問題は無いしな。


「それに、麺料理は潰れかけた大衆食堂の店主に泣き付かれたから教えただけだぜ?

 しかもアレは元々失敗作だ。パンを作ってみようと思ったんだが膨らむのを待つのが面倒だったんでな。焼いても硬いだけで不味かったんで細長く切って茹でてみたんだが、コレが中々美味かった。

 で、ソイツを店主に教えてやっただけさ」


 もちろん大嘘だ。

 実際は、俺が麺料理を食べたいがために広めようとしている。

 税金や既得権益的に主食であるパン以外の小麦製品を広めるのは危険かとも思ったんだが、食欲には勝てなかった。


 うどんにラーメン、スパゲッティ。

 米を食う文化がこの国に無い以上、せめて美味い麺料理を食いたい。


「君以外の……、そうだね、世俗に疎い研究者が言うのならその言葉にも真実味があるんだが、残念ながら君にそう言われても私には信じられないよ」


 だろうなぁ。

 技術や知識ってのはソレだけで一財産だ。

 特に教育レベルが低い世界なら、その価値は飛躍的に高くなる。

 だからこそ技術や知識は秘匿され、保護され、時としてソレを持つ者の命を奪う事さえ前世の歴史じゃあったようだ。

 そう言う事を熟知しているはずのご隠居さんにしてみれば、俺のやっている事は馬鹿げてるのを通り越して狂気の沙汰だろう。


「どうか私に本当の事を教えてくれないか?君が何を考えて、私達人間に色々な事を教えてくれるのかを」


 さぁて、ココ(・・)が正念場だ。ココでご隠居さんを納得させられないと、重要な手札を一枚失う事になる。


「この程度の事は大した事じゃあない。アイデアがいくらあったところで、人間の国で商売するには面倒な約束事を覚えなきゃならんのだろう?」


 俺の言葉を聞いて、ご隠居さんが顔をしかめる。


 悪いね。

 ご隠居さんが望んでいる答えを言葉を尽くして説明するのは、俺のガラじゃあ無いんだよ。


「それは仕方のない事だよニグレド君。例えばパン一つとっても幾人もの人の手が掛かってるのだから、決められた量の小麦で作ったパンを決まった値段で売らねば誰かが損をする。

 小麦を安く買えば農民は貧しくなり、安く運ぼうとすれば事故が起き、混ぜ物をすればパンを買った者達から不満の声が上がるだろう。

 それを防ぐ為には法で守るしかないのだ」


 詭弁……、と言いたいところだが、あながち間違ってもないだろう。

 価格競争の末にやらかした業者のニュースは、前世でもしょっちゅう流れていたしな。


「しかし俺なら小麦を安く大量に作る方法を思いつくかもしれないし、安全に安く運ぶ方法を思いつくかもしれないし、パンの味をより美味にする混ぜ物を見つけるかもしれない。

 ――そうなったら、アンタはどうする?」


「……もしそんな事が可能ならば、跪いてでも教えを請うしかないね」


 ご隠居さんは少し考えてから、それまでの威圧感を霧散させて溜息をつきながらそう言った。


「だろ?実際にはとっ捕まった上で殺されたくなけりゃ洗いざらい全部吐き出せって事になるんだろうが、そうなりゃ今の生活はご破算だ。俺はそんなのはイヤだね。

 だから最初からアイディアをばら撒いて、人に貸しを作っておくのさ」


 パッと見では、俺がご隠居さんを言い負かしたようにも見せるだろう。

 だがこれは、俺がご隠居さんに勝ったって話じゃあない。

 あくまで俺のアイディアが人間社会にとって猛毒になり得ると言う事を、俺自身が理解していると証明したに過ぎない。

 そしてソレはご隠居さんが聞きたかった答えの筈だ。


 ご隠居さんが危惧していたのは、俺が何の考えもなくアイデアをばら撒いて社会に混乱を巻き起こす事と、欲望のままに行動して人間と敵対する事とだと思う。

 そうならない為にご隠居さんは釘を刺しただけで、言ってみれば俺はご隠居さんの掌で踊っていたに過ぎない


 だからもう一手、攻め込む必要があるんだよなぁ。


「――それに、金なんてどうとでもなるしなぁ」


「ほう。それはずいぶんと大きく出たものだね?」


 俺の態度が癇に障ったのか、ご隠居さんの言葉に怒気が混じる。


「なぁに、こうすれば簡単な事だ」


 そう言いながら指先で何もない空間を指す。


 ――『自在工房ワークショップ』発動。大気中の酸素や窒素その他を分解して再構成。

 ジャラジャラと音を立てて指先の空間から零れ落ちるのは、この国が発行している金貨だ。


「…………!」


 ご隠居さんが声もなく息を呑む。

 世界中の錬金術師や魔法使い達が血眼になって研究しても実現しなかった、本当の錬金術(・・・)を目の当たりにしてるんだから当然の反応だわな。

 いや、いくら魔法が不思議な力だといっても、こんなに簡単に元素変換ができるとは俺も思わなかったのだが。


 切欠は、土を触れただけでレンガに変えてしまえる固有魔法を発現させたゴブリンだった。

 ソイツは俺が街で買いこんだレンガを使い切って、無いのなら自分で作ればいいと奴隷達にレンガの造り方を聞いた挙句、製造工程をすっ飛ばして土をレンガに変える魔法を発現させた。

 頭が悪いにもほどがあるんだが、だからこそレンガの(・・・・)材料には(・・・・)なり得ない(・・・・・)腐葉土(・・・)からでもレンガを作り出すなんて離れ業ができたんだろう。


 始めてみた時には理解できなかったし、話を聞けば頭痛すらした。

 ゴブリンが触れるだけで土の地面がレンガ敷きに変わるんだぜ?

 驚いて聞いて見れば「なんとなくできるような気がして、長の真似をしたらできた」だとよ。

 理屈も理論もすっ飛ばして在り得ない結果を発生させるなんてまさに魔法的だが、ソイツにしてみれば土(粘土や泥)から作られたレンガを、魔法で土(腐葉土)から生み出すのはそれほど不思議な事でもなかったようだ。


 ただ、ソレを受け入れてみれば、自分が今まで『自在工房ワークショップ』の可能性を狭めていた事に気がついた。

 前世の記憶や常識、そして固定観念。

 ソレラを振り払ってみると、自分でも恐ろしいくらいに『自在工房ワークショップ』はなんでも(・・・・)できた。

 さすがに無から有を作り出したり命を生み出したりはできないが、魂が伴わないのであれば肉体ですら複製が可能だ。

 偽造防止の為の魔法による刻印以外は単純な構成の金属の塊である金貨なんて、鼻歌交じりに万単位で作れてしまう。


「俺はいくらでも金を作る事ができる。それがどう言う意味か、為政者なら良ぉく分かるよなぁ?」


 簡単にとまでは言わないが、一つの国どころか周辺国家を巻き込んで貨幣経済を破綻させる事も可能だろう。


 まぁ、経済戦争を仕掛けなくても俺一人で国の一つや二つ滅ぼす事は可能なんだけどな。

 数は力だと言うのなら、人的資源の少なさは物量で埋めればいいだけの話だ。

 実験用に小量だが商人から買った硫黄と集落の土から分離した硝石、この二つから硫酸と硝酸を作り出し、さらにソレラと他の材料で各種爆発物を製造しておいたのを『自在工房ワークショップ』によって複製した。

 本来なら簡単に作れるようなシロモノではないんだが、『自在工房ワークショップ』を使って成分抽出や変化の観測が行えたので前世のように失敗する事も無かった。


 お陰で、今ならこの街を数分で焼け野原に変える程度の火力は確保できている。

 もちろん、コレは秘密だ。“金を無尽蔵に偽造できるがやらない”ってのと、“国を滅ぼせるほどの武力を持っているがやらない”では、危険度が違いすぎるからな。


 ご隠居さんの顔が歪む。

 ソレは後悔の様でもあり怒りの様でもあり、複雑で強い感情が窺えた。


「……それで、私にどうしろと?」


 ――よし!

 交渉の余地ありと判断してくれたようだ。


「いや?特にナニかしてもらう必要はねぇよ?俺に味方する必要だって、無い。俺に力があり、ソノ力がアンタ達に向かない事が分かった上で、今までどおり付き合って貰えれば十分だ」


「名誉も、権力も、庇護すらも要らないと?」


「今までどおりの庇護が無いとこの街でまともに暮らせないから困るんだが、それ以上はいらねぇなぁ。必要なのは、何かあった時のパイプなんだからよ」


「それは、交渉役と言う事でいいのかね?」


「ああ。俺が信頼できて、俺と敵対する危険性を理解できる貴族なんて、味方になってもらうより中立でいてもらった方が遥かにありがてぇからなぁ」


「ふっ……。くくく、あははははは!」


 ご隠居さんが堪えきれないとでも言うように吹き出し、そのまま大声で笑う。


「そんなに面白いか?」


「面白いとも!やはり、君は面白い!良いだろう、君の条件を飲もう」


 何とかご隠居さんに納得してもらえたようだ。

 危険な綱渡りだったが、上手く行った事で、つい俺も笑い出しそうになる。それぐらいの達成感があった。

 しかし、笑ってしまうと台無しなので、ここは我慢をしよう。

 これで、下準備は整ったかな。

 んじゃま、この世界を楽しむとするかぁ!


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